May 10 ~ May 17 2026

AI & Data Center First
AIファーストで人間から仕事、電力、水、クリーンな大気が奪われる日


 今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのはトランプ氏の訪中と、ハンタウィルス感染が発生したクルーズ船からアメリカに帰国し、 ネブラスカ州の隔離施設に収容された17人の乗客の動向。
 トランプ氏の訪中についてSNSを含むメディアが指摘したのは、 中国政府がトランプ氏到着前に 自国石油タンカーのホルムズ海峡通過をイラン政府に承諾させることで、戦争終結を米国だけの問題にしてしまったこと。 そしてトランプ氏が取り合う予定が無かった台湾問題の合意無くしては、13人もの企業トップを同行させて求めようとした 中国への貿易拡大に取り合わない姿勢を示した中国側が一枚も二枚も上手であったという事実。 今回の訪中は中国の主要原油調達元であるヴェネズエラとイランからの原油輸入が絶たれて、 中国が困窮しているであろうタイミングにわざわざ延期して行われたものの、 アメリカ側の会談成果は皆無と言われ、現地で複数回に渡りトランプ氏を中国の少年少女が迎えた様子についても、 エプスティーン・スキャンダルに当てつけた演出と言われ、シー・ジンピン主席がトランプ氏へのギフトとしてバラの種を贈ったことも、 かつては本当にバラが美しかったホワイトハウスのローズガーデンをトランプ氏がコンクリートのパティオに変貌させて批判を浴びたことに当てつける狙いとの指摘で溢れていたのだった。
 一方クルーズ船から戻った乗客達は、そのうちの1人がマイルドな症状で感染していたことが判明。しかし 人から人に感染するアンデス株による感染ではないこと。木曜にはカンサス州で新たもクルーズ乗船者と濃厚接触した3人が隔離され、 今週の時点でアメリカの隔離者数は合計41人に達しているのだった。



水と電力をAIデータ・センターに奪わた上に大気汚染


 昨今報じられているのが 全米に建設されている大規模なAIデータ・センターの影響で、人間の生活環境が軽視されているニュース。 数日前にCUBE New Yorkの巻頭ダイアログでも報じたように、ユタ州ではウォルマート2000軒分に相当するアメリカ最大のデータ・センターが建設される影響で、 ユタ州全体の消費電力の4倍に当たる9GWの電力が必要となり、現地では原子爆弾23発が毎日爆発するのに等しい熱が発生。周囲の野生生物と環境への壊滅的な ダメージが避けられない状況。
 またカリフォルニア州とネバダ州にまたがるタホ湖地域では、主要電力供給業者 NV EnergyがAIデータ・センターの電力需要に対応するため、 同エリアの5万人の住人に電力サービスを提供するリバティ・ユーティリティ社への電力供給を2027年5月で打ち切ると発表。それまでにリバティ・ユーティリティ社が別の 卸売電力供給業者を確保できなければ、住人が電気の無い生活を強いられるだけでなく、周辺観光施設が営業不能になるのは必至。 そうなる背景はネバダ州北部に建設中のAIデータ・センターにより電力需要が3倍になるためで、既に電力供給をしてきた民家より新設のAIデータ・センターが優先されているのだった。
 一方、ジョージア州フェイエットビルでは、昨年開設されたAIデータ・センターが過去15カ月間に渡ってメーターが設置されない無許可の状態で、 約2900万ガロン(1億1300万リットル)の水を料金未払いで使用していた事実が発覚。現地は昨年から干ばつによる水不足に見舞われており、 節水を呼び掛けられていた住民は、センターに大量の水を奪われたせいで著しい水圧低下を経験したとのこと。 結局、センター側は未払い料金を支払ったものの、地元当局は当然科すべき罰金を請求せず、民家の水圧低下は継続中。ここでも市民生活よりデータセンターを優遇する様子が露呈していたのだった。

 テキサス州では2025年に、データ・センターだけの水の消費量が490億ガロンに達しており、地域によって干ばつが深刻であることから 水源の枯渇リスクが懸念される状況。 AIデータ・センターは規模が大きいものになると10万から100万世帯の電力、1日に100万~500万ガロンの水を消費し、土壌の劣化を招くだけでなく、 多くのセンターはバックアップ電源として窒素酸化物を含む汚染物質を排出するディーゼル発電機を使用するため、避けられないのが大気汚染。 高性能GPU(グラフィックス処理ユニット)やハードウェアは頻繁な入れ替えが必須であることから、大量の電子廃棄物も発生するので、AIデータ・センターは地域環境を急速に破壊するモンスター。 その事実が地域住民の間に広まり、建設反対運動が起こるようになったのは数か月前からのこと。
 2025年11月時点で、アメリカ国内には世界最多の5427軒のデータ・センターが存在し、そのうち大規模なAI特化型施設は約18カ所。 アメリカは世界のデータ・センター・インフラの約45%を占め、世界のハイパースケール・データ・センターの約半分が集中。 その結果、AIデータ・センターの電力消費量は2025年末までに29.6ギガワットに達しており、センターの主要オペレーターは Microsoft/OpenAI、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、Meta、CoreWeave、Google、そしてxAI。 これらは全てトランプ政権に多額の献金をしているだけでなく、第二期政権誕生を表と裏から支えた存在。
 サステイナビリティを謳って、乳製品を使わず二酸化炭素で作るバターのメーカーに投資をしてきたビル・ゲイツが昨年、「温室効果ガス問題は、現在早急に取り組むべき問題ではなくなった」とそれまでの意見を翻す発言して物議をかもしたけれど、その本音は「AIデータ・センター建設を優先させるべき」という環境よりもAIファーストの意向の表れなのだった。



エンド・ゲームが無いAI投資の行方


 このようにAIデータ・センターは人間からまともな生活環境を奪いつつあるけれど、それ以前に人々が危惧していたのは AIが人間から仕事を奪っていくという問題。  こちらも急ピッチで進んでいて、Meta(フェイスブック親会社)はコスト削減とAI主導の効率化を図るため、2026年5月20日から全従業員の約10%に当たる8000人を解雇。 この組織再編には6千人の新規採用枠凍結も含まれており、大規模な人件費削減は 2026年度だけで1250億ドルを超えるMetaのAIインフラ投資を捻出するためのもの。
3月末から4月にかけて全世界で3万人のレイオフを発表したオラクルも、人員削減によって得られた約100億ドルのキャッシュフローをAI開発とデータ・センターに注ぎ込むとのこと。 暗号通貨取引所大手のコインベースも、AI主導の小規模チームへの再編を行うとして 従業員の14%に当たる約700人の解雇を発表。 いずれもマネージャー・クラスを排除し、少数従業員が多数のAIエージェントを管理するスリムな組織体制の構築を謳っており、 早い話が、どの企業も人間の雇用を大幅に削減し、AIを優先させているのだった。

 2026年初頭の試算によれば、AIは米国内で毎月約2万5000人の雇用喪失を招く一方で、データセンター建設等に関わる約9千の新規雇用を生み出しており、 純雇用喪失は1万6千件。しかし新規雇用はサステイナブルな仕事ではないのは明らか。 現時点で米国企業の約30%が従業員をAIツールに置き換え始めており、2025年上半期だけでAIに奪われたエンジニア職の数は7万7千件以上。ある大学の調査では既にAIに職を奪われた米国労働者は 全体の約14%。雇用喪失の影響を最も受けているZ世代は、49%が「AIによって大学進学の価値が著しく低下した」とアンケート調査で回答したけれど、 チャットGPTが世に登場した2022年11月以降、彼らが真っ先にAIを大学論文や履歴書製作に使用し始めたのは何とも皮肉な話。
 いずれにしても「人材よりAI」の現在の雇用は完全な買い手市場で、パンデミックにより進んだリモート・ワーク、ハイブリット勤務は 徐々に週5日出社に戻りつつあり、大企業でさえ産休、育児休暇といった福利厚生のカットが始まっているのだった。
更に先週には、時価総額20億ドルの顧客体験テクノロジー企業、TTECホールディングスが 約1万6千人の米国従業員に対し 「2026年第2四半期から 401(k)の企業拠出金のマッチングを一時停止する」と発表。 この停止は2026年末までと言われ、その分の浮いた費用の行先は言うまでも無くAIへの投資。 再就職が極めて難しいご時世なだけに、従業員は「失業するよりマシ」と考えて、 企業のAIファーストを受け入れざるを得ないのが現在なのだった。

 しかしこうして多くが失業、もしくは失業を恐れて 消費を控え、経済が急速に収縮する世の中で、企業はこの先AIを駆使して一体どこから、どうやって利益を上げるのかは 誰も答えられない質問。 従業員解雇でAI投資を捻出している企業が、解雇する人材が居なくなった時、 果たしてどこから投資金を捻出するのか、そして既に人間が太刀打ちできないレベルに達したAIを この先企業がコントロール出来るのか?、出来ない場合にどうなるのか?は、欲にまみれた人間経営者の頭脳では答えが出せないように思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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