Apr 19 ~ Apr 25 2026

The World Cup Has Serious Problems
地政学的不安、高額費用、治安懸念、Etc.
FIFA ワールドカップ開催が本当に危ない!?



 今週のアメリカでは、週明けにロリー・シャベス・デレマー労働省長官が、部下との不倫や勤務中の飲酒、そして国民の税金で盛大な誕生日パーティーを行うなど多数の職権乱用疑惑により解雇され、 その翌日にSNSで公開されたのが 米軍核兵器部門のチーフ、アンドリュー・ハッグがバーで出会った見知らぬ女性に酔っ払って機密情報をペラペラ喋る様子を捉えたビデオ。 キャッシュ・パテルFBI長官も、勤務時間中の飲酒で居眠りをし、スタッフが起こしに行った様子がアトランティック誌によって報じられており、 SNS上では「トランプ政権のキャビネット(閣僚)はリカー・キャビネットなのか?」といった非難に加えて、飛び交っていたのが次は誰が解雇されるかの憶測。
 そんな中、水曜には現在ホルムズ海峡を閉鎖している米海軍のトップ、ジョン・フェランがイラン戦争を巡る見解の相違を理由に解雇され、これはランディ・ジョージ陸軍参謀総長に続く米軍最要職の解雇。 中東に派兵された米軍兵は、武器不足に加えて食糧、歯ブラシなどの生活物資も不足し、士気が下がっている様子が伝えられ、 そんな兵士に対して、ホルムズ海峡で機雷を敷設するイラン船舶乗組員の射殺命令を出したのがトランプ氏。 イランが音を上げるまでホルムズ海峡を閉鎖するという強硬姿勢にさらに拍車を掛けており、海峡閉鎖を解除するまで交渉に応じないというイラン側との平行線状態が続いているのだった。



史上最高額のワールドカップ・チケットの裏側…


 今週で6月11日から開催されるFIFAワールドカップまで50日を切ったけれど、開催日が近付くに連れて盛り上がる筈のワールドカップに深刻な危機説が報じられているのが昨今。
 2025年から トランプ政権の移民政策や関税措置を嫌って インバウンド旅行者が5.4%も減少する ”トランプ・スランプ”で低迷していたホテル業界は、 宿泊料金を大幅に上げてもオーバーブッキングになるワールドカップで業績巻き返しを狙っていたけれど、客室は埋まらないどころか、 FIFAがVIP用に抑えていた開催各地の客室を相次いでキャンセル。報道されているだけでフィラデルフィアで2000室、メキシコシティで800室、ヴァンクーバーで900室など、キャンセルは5000室以上。 その数は今後も増えることはあっても、減ることは無いと見込まれるのだった。

 2026年FIFAワールドカップは、48チーム、104試合を米国(11都市)、カナダ(2都市)、メキシコ(3都市)の計16都市で開催する史上最大規模の大会。 FIFAの試算では、開催国に124万人の外国人旅行者を誘致し、305億ドルの経済効果と18万5千の仕事を生み出すはずのドル箱イベント。
しかし現時点では完全な失敗にはならなくても、試算を大幅に下回る成果しか望めないというのが大方の意見で、その要因の1つはトランプ政権の移民政策。 トランプ政権は現時点で39カ国に対して入国停止&ビザ発給制限をしており、その中に含まれているのが コートジボワール、セネガル、50年ぶりにワールドカップに進出するハイチ、そしてイランという出場国。 さらにトランプ政権は50カ国からの旅行者にビザ保証金(期日内に帰国すれば返金される債権) 1万5000ドルと、 ビザ審査料250ドルを課す意向。 ESTA(ヴィザ免除プログラム)申請者にも過去5年間のSNS履歴提出を求めており、 入国審査で問題があれば別室送りとなり、最悪の場合ICE(移民取締局)に身柄を拘束され、収容所送りになるのは昨年中から頻発していた事態。 そのためSNS上では「アメリカにワールドカップを観戦しに行っても、辿り着くのはエクアドル(の刑務所)」といった皮肉や批判が溢れており、 実際に熱心なサッカー・ファンが多いヒスパニック系は ICEのNo.1ターゲットなのだった。
 ヨーロッパでも トランプ氏がグリーンランド侵攻をほのめかして以来、ワールドカップ・ボイコットが呼び掛けられて久しく、 インバウンド旅行者の激減を察知したFIFAは、アメリカ国内を中心にチケットを販売する戦略に転換。2月には48時間限定でアメリカ在住者を対象にした チケット追加販売が行われたほど。

 そのチケットの価格も今回のワールドカップが物議を醸している原因の1つ。4月現在で決勝チケットのFIFA公式価格は、 最上階席で1万1千ドル、下層階席は2万5千ドルで、更に良い席はチケット4枚が920万ドルで売りに出されているとのこと。 グループ・ステージの試合でも話題の対戦カードのチケット価格は1000ドル以上。 そうなるのはFIFAが需要に応じて価格が上がるダイナミック・プライシングを導入した上に、再販チケットに30%のフィーを乗せているため。
 しかし世の中はAIレイオフが相次ぐ中での物価高。どんなに熱心なサッカー・ファンでも こんな高額を払ってまでスタジアム観戦をする価値があるかは疑問。 それがインバウンド観戦者になると、VISA問題をクリアし、高額な航空運賃やホテル代を支払うハードルが加わるのは言うまでもないこと。
 ちなみに昨年アメリカで開催されたワールドカップ・クラブ・トーナメントは、写真上右のように観客席は悲惨なほどガラガラ。 アメリカではベッカム、メッシを迎えたMLS(メジャーリーグ・サッカー)でさえ、メジャーと呼べるほどの人気に達していないのだった。



世界中のサッカーファンがFIFA平和賞に反発


 米国内の試合開催地周辺の大学が進めて来たのが、ワールドカップ期間中に夏休みに突入する学生の寮を インバウンド旅行者に短期賃貸物件として貸し出す計画。 しかしホテル同様、こちらも予約が埋まらないようで、強制的に部屋を提供させられ、行き場の無い学生達の不満は高まる一方。 また開催都市では、ワールドカップ期間中に自宅をエアB&Bで高額で貸し出し、その間、貸出収入でヴァケーションに出掛けようと計画する人々が 多かったけれど、こちらも現時点では当てが外れたケースが多いとのこと。
 その一方で、8試合の会場となるロサンジェルスのSoFiスタジアムでは、「ワールドカップ期間中はICEが警備に当たる」というトランプ政権の意向に2千人を超える従業員が猛反発。 今月初めに労働組合がストライキを行ったばかりで、ICEが本当に警備を担当する場合は大会中でもストライキをする意向。 テキサス州でもICEを嫌う開催地、ヒューストン市政府と トランプ派の共和党アボット州知事が対立している真最中。
 でもFIFAにとって最も打撃となったのは先週、決勝が行われるメットライフ・スタジアムが位置するニュージャージーの新州知事、ミッキー・シェリルが ワールドカップのチケット・ホルダーに対し、試合日のニュージャージー・トランジット乗車料金を 通常の約13ドルから150ドルの割増料金にして、シャトルバスも80ドルに値上げすると発表したこと。 調べによればワールドカップ観戦者に通常料金で公共交通機関を提供した場合、ニュージャージー・トランジットは4800万ドルの負債を抱えることになり、 「これを容認すれば、程なく運賃値上げという形で日頃の利用客に不利益をもたらす」というのがその説明。
 ニュージャージー州のみならず、米国の11の開催都市のワールドカップ・ホスト費用は少なく見積もってそれぞれ1億~2億ドル。 それに対して政府の支援金は総額で6億ドル程度に過ぎず、残りの出費を賄うのは各地方自治体の州税。 そのためシェリル州知事は 開催費用や様々な準備を地方自治体に押し付けて、 自分達は110億ドルの利益を優先的に確保するFIFAの運営姿勢を真っ向から批判。 そもそも今大会の開催国が決まったのはパンデミック前の2018年。以来、社会&経済情勢や人々の価値観が大きく変わったのは周知の通り。 そのため開催地側は、IOC(国際オリンピック委員会)と並んで不透明な運営が指摘されるFIFAに対し、「言いなりにはならない」という反発姿勢を露骨に見せ始めたのだった。

 そんなFIFAが世界中のサッカー・ファンから さらに嫌われる要因になったのは、トランプ氏にFIFA平和賞授与した茶番。 この賞が如何に無意味であったかは、イラン戦争を始めたトランプ氏が自ら立証したけれど、 ホルムズ海峡閉鎖によって世界が迎えようとしているのが史上最悪のオイルショック。 欧州、アジア諸国では既に石油節約が呼び掛けられ、特にEUはジェット燃料がワールドカップ開催まで持たない予測も聞かれる危機的状況。
 それでもFIFA関係者は「この大会は800億ドル以上の世界経済効果をもたらし、60億人が観戦する地球上の最大イベントになるだろう」という 強気の姿勢を保っているけれど、時を同じくして行われるのがアメリカ建国250周年のセレブレーション。
 第二期トランプ政権誕生以来、友好国からの信頼、覇権国としてのスーパーパワーを失ったアメリカだけに、 ワールドカップがどの程度盛り上がるかには、自国の建国セレブレーションの盛り上がりもかかっていると言われるのだった。

来週のこのコーナーは、都合によりお休みをいただきます。次回更新は再来週5月9日となります。 日本の皆さまはゴールデン・ウィークを楽しまれてくださいませ。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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