May 3 ~ May 9 2026

The MET Gala Mess
今年のMETガラが露呈した、アメリカ社会の著しい歪み


 今週アメリカでは遂にレギュラー・ガソリンの全米平均額が1ガロン当たり4.5ドルを超え、上昇率は50%以上。カリフォルニア州では6ドルを超える高額ぶり。 さすがのトランプ氏もこのままでは中間選挙までにガソリン価格を戻すのは不可能と焦り始めたことが報じられたのだった。
 一方、世界的に危惧され始めたのが大西洋を航行中のクルーズ船「MVホンディウス」で発生したハンタウイルス感染。 今週末の時点で感染者5人中3人が死亡。アメリカ国内では、MVホンディウス号に乗船し、ウイルス感染発生前に5人が帰国していたことが発覚し、 テキサス州で2人、カリフォルニア州、アリゾナ州、ヴァージニア州で各1名が経過観察中で、体調不良者との接触はなかったとのこと。
 しかしアメリカは ワールドカップで世界中から大会関係者と旅行者が入国する上に、 現在の疾病予防センターは保健福祉長官のロバート・F・ケネディJrが感染症スペシャリストを大量解雇したことから骨抜き状態。 アメリカは今年1月にWHO(世界保健機関)を正式に離脱していることもあり、 コロナウィルス、麻疹を含めて感染症を恐れる声が高まっているところ。 ちなみに米国内では2000年に絶滅宣言をした麻疹の2026年度の感染者数が4月末の時点で1814件。うち92%がワクチンを打っておらず、 2025年の症例数2200件を軽く上回るペースで増え続けているのだった。



過去に無い規模の抗議活動に見舞われた今年のMETガラ


 5月4日月曜に行われたのがファッション界のスーパーボウル、”METガラ”。これはメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの寄附金集めのために1948年から行われてきたNY社交界のイベント。 それが1人10万ドルのチケット価格、大袈裟かつで悪趣味なコスチュームを着用したセレブリティやスポーツ選手、インフルエンサーが話題性を競い合うファッション・サーカスに変貌し始めたのは、1994年からヴォーグ編集長、アナ・ウィンターが共同チェアマンを務めるようになってからのこと。
 METガラは過去にも様々な物議を醸してきたけれど、今回、大規模なボイコット運動が起こったのは アマゾン創業者でビリオネアのジェフ・ベゾス&ローレン・サンチェス・ベゾス夫妻が今年の共同チェアを務めることが2月に発表されたため。 昨年ヴェニスで、デザイナー・ワードローブを披露しながら5000万ドルを投じた挙式を行い、ヴェニスに入港できない巨大サイズの5億ドルのスーパー・ヨットを見せつけたベゾス夫妻は、近年では主要ファッション・ウィークの最前列席の常連。サステイナブルなアパレル素材やデザイナー育成にも資金を提供し、 「ファッショナブルに着飾る姿が痛々しい」と言われながらも昨年にはMETガラにカップルとして初登場。 同ガラ史上最高額の3100万ドルの寄付集めに貢献。今回も共同チェアを務めるために1000万ドルを支払ったと言われるのだった。
 しかしそれを嫌ってか、ゼンダイアやモデルのベラ・ハディドといった常連ゲストが欠席。「プラダを着た悪魔2」の公開に合わせて共同チェアの依頼を受けた女優のメリル・ストリープもそれを断ったとの噂。 さらにゾーラン・マムダニNY市長も歴代市長の慣例を破って出席辞退を表明したのだった。

 NY市内でも大々的な抗議活動が行われ、中心的役割を担っていたのが「エブリワン・ヘイツ・イーロン」と名乗る反ビリオネア活動グループ。 彼らはMETガラを「アマゾン・プライム・ガラ」、「ベゾス・ボール」と呼び、地下鉄車両やバス停にボイコットのポスターを貼り、 「仕事中、トイレに行くことも許されず、水のペットボトルで用を足すしかなかった」と語るアマゾン従業員の訴えを反映して、メトロポリタン美術館内に 偽尿を入れたペットボトルを300本設置することで多大なパブリシティを獲得。 ガラ前夜には エンパイア・ステート・ビル、クライスラー・ビル、そしてベゾス夫妻のペントハウスがあるビルを含む 高層ビルの外壁に ボイコット・メッセージを投影していたのだった。
 しかし毎年400人以上のゲストが参加するMETガラがNY市に多額の経済効果をもたらすのは否定できない事実。 ガラ自体が高額イベントである上に、前夜祭、アフター・パーティー、ゲストを運ぶリムジン、 ゲストが滞在するホテル、ヘア&メーク、取材陣、そしてデザイナー達も支払う費用に見合うかは別として確実に受けられるのがパブリシティの恩恵。
とは言っても、METガラのお陰でアフター・パーティーが行われるレストランの従業員の時給がアップすることは無く、デザイナー・クローズの縫製者の月収がアップすることも無い訳で、 恩恵を享受するのは常に社会上層部の一握りなのだった。



ビリオネアの悪趣味がアートとファッションに与える影響


 ベゾス夫妻が共同チェアマンを務めることに人々が猛反発したのには、政治や社会情勢も深く関わっており、 かつてはリベラル派で リベラル報道を守るためにワシントン・ポスト紙を買収したジェフ・ベゾスが、今ではそのリベラル派の声を封じるために大規模な人員削減と 編集方針の変更を打ち出し、トランプ・メディアになろうとしているのは周知の事実。またベゾスは大統領の就任式資金に100万ドルを寄付し、 メラニア夫人のドキュメンタリー制作に際しては、夫人へのライセンス料4000万ドルの支払を含む 7500万ドルを投じ、その”賄賂”と引き換えに、 アマゾンのクラウド・サービスや宇宙開発事業が多額の政府コントラクトを手に入れたのは、まさにエビで鯛を釣った状態。 更にアマゾンはICE(移民取締局)に顔認識テクノロジーを提供していることでも批判されているけれど、第二期トランプ政権誕生直前に 突如、リベラル派のデモクラシー支持から 超保守右派のオートクラシーに寝返ったのは、アップル、マイクロソフト、オープンAI等、決してベゾス&アマゾンだけではないのだった。

 今やその保守右派ビリオネアの影響力が、世界で最もLGBTQフレンドリーかつリベラルなファッション業界を METガラという業界最大イベントを通じて浸食し始めた訳で、寄附金集めに固執するあまり、それをあっさり受け入れたのがアナ・ウィンター。 彼女はオバマ大統領誕生の立役者の1人であり、過去に民主党大統領候補のみに支持を打ち出してきた大のリベラル派。第一期トランプ政権下でメラニア夫人を ファーストレディとしてヴォーグ誌カバーにフィーチャーしなかった彼女が、政治思想はさておき、あっさり屈したのがビリオネアの資金力。
しかし「金だけ出して口は出さないビリオネア」など存在しない訳で、今では歴史と権威ある機関が 少数の富豪から多額の寄付を得るために 様々な妥協を強いられているのはメディアも報じる事実。それを支払うビリオネアは、寄付した額が税金で控除されるため、痛くも痒くもないのがアメリカの税制なのだった。

 その一方で、保守・リベラルを問わず反発を招いているのが、アマゾンのような大企業による労働組合封じ込めや労働階級からの搾取。 それにより貧富の格差が広がり、かつてはデパートやブティックでアパレルを買っていた消費者が アマゾンの量販アパレルしか買えなくなる結果、 アマゾンの利益が更に拡大するのが現在の社会構造。 そしてイラン戦争によるガソリン高騰と、物価高で人々が更なる生活苦を味わう中で行われたのが、チケット1枚が庶民の年収を上回り、 有り余る富が馬鹿げたコスチュームに注ぎ込まれ、それを大々的にひけらかす METガラ。 「庶民の怒りの炎に油を注ぐようなイベント」と報じるメディアも見られたけれど、 実際には庶民の怒りが冷めた嘲笑を招いていたのが今回で、それこそがイベント関係者が最も危惧するリアクション。
 今週のメディアでは、コスチューム・インスティテュートがMETガラに依存しない独立した収入源確保に 動いていることも報じられており、もしそれが実現すれば いよいよ存在意義が問われるのが、今やファッションともアートとも無関係なインフルエンサー・イベントになりつつあるMETガラ。 今年78歳になるアナ・ウィンターが、自分の政治力拡大のために盛り立ててきたMETガラだけに、「彼女のキャリアと共に 終焉させるべき」との声はファッション業界、及び美術館関係者の間では決して少なくなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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