Aug. 12 〜 Aug. 18 2019
リセッション対策にダイヤのジュエリーよりゴールドを買うべき これだけの理由
今週のアメリカでは火曜日にアメリカ国債の2年ものと10年ものの利回りの逆転したことを受けて、
水曜にダウ工業平均株価が2019年で最大の下げ幅となる800ポイントの下落。
加えて中国政府に対する香港の抗議活動による空港閉鎖、カシミールを巡って核兵器使用の可能性まで示唆するインドとパキスタン情勢の悪化、
アルゼンチン通貨のインフレ等、世界各国が抱える深刻な問題の先行き不透明感から、
「世界的なリセッション突入はもはや秒読み段階」という声が数多く聞かれた一方で、メインストリーム・メディアは一般大衆の危機感を煽らないようにするためか、
「引き続きアメリカ経済は堅調」という正反対の報道をしていた状況。
とは言っても アメリカでどんどん増えているのが倒産申請で、2019年に入ってからの倒産による失業者数は7月の時点で4万9000人。
これは前回のリセッション、2009年を上回るペース。また全米の小売店が今年に入ってから発表した閉店の店舗数は既に8000軒を超えており、
金曜にはプラスサイズ・アパレル・チェーン、アヴェニューがビジネス閉鎖に伴い、全米の222店舗のクローズを発表したばかり。
その一方で、木曜にはGEこと ジェネラル・エレクトリック社が 約400億ドルもの負債隠しをしているという
ホイッスルブローワーによる178ページに渡るレポートを受けて、その株価が15%も下落。
金曜には9%戻しているけれど、そのリカバリーにはGEのCEO、ラリー・カルプが自らの資金200万ドルを投じて買い取った25万2200株が含まれているとのこと。
GE側はレポート内容を否定して 経営の健全ぶりをアピールしたものの、前例ではホイッスルブローワーに経営の問題を暴かれた企業の余命は
4〜6ヵ月と言われるだけに、今後のGEの企業動向が見守られているのだった。
経済の専門家の間で、リセッションの懸念が高まっている理由の1つは このところゴールドの価格が大きく上昇していること。
左上は過去3ヵ月のゴールドの値動きであるけれど、ゴールドと言えば財産を保有するのには適していても
儲けるには不向きと言われるほど 価格変動が控えめな投資対象。
そのゴールドが唯一大幅な上昇を見せるのがリセッションや経済破綻が起こった際で、
3月5週目のこのコーナーで書いた通り、
既に過去 2年ほどの間にスウェーデンやハンガリー等、これまでゴールドに興味を示さなかった国の中央銀行が ロシアやインド、
中国らと共にせっせとゴールドを 備蓄していた様子は経済界では周知の事実。
でも各国の中央銀行が行うような大口取引は、OTC(オーバー・ザ・カウンター)で行われるため
その買い漁りぶりが市場価格に反映されることが無かったのが実情。
昨今のゴールド価格の上昇は、一般の投資家がそれまで株式や債券に投じていた資金をゴールドに投入し始めたこと、
すなわちリセッションに備え始めたバロメータと言われるのだった。
その割にNYダウ平均が未だに2万5000ドル台を付けているのは、機関投資家がミューチュアルファンド、ETF、401K等で
主要株を買い支えているためで、もしリセッションに見舞われて株価が暴落した場合には、その損失に一般国民の投資やリタイアメント資金があてがわれるのは当然のシナリオ。
ゴールドの価格上昇がスタートしてからは、インターネット上にゴールドの投資アドバイスが溢れているけれど、
ゴールド投資の基本と言えるのはまず、巨大な延べ棒などよりもコインやプレートなど、小さいフォームで購入すること。
巨大な延べ棒は大金持ちが財産保有の目的で持ち続ける以外は、重たい上に 買い手が限られるので、
大手業者から割高の買い取り手数料を請求されたり、その売却益に50%課税されるような法律が出来ればせっかくの投資も水の泡。
またゴールドは世界各国で没収の歴史があるけれど、大きな塊ほどその対象になり易いのだった。
そんな没収に備えてゴールドへの投資の5〜10%はジュエリーで持つことが奨励されているけれど、今後どんどんキャッシュレスが進む世の中では
ゴールド・ジュエリーを身に着けることは 非常事態が起こった際に身を守る手段。
そもそもゴールドが最も財産としての威力を発揮するのは、通貨やクレジット・カードが価値や機能を失った時に
物やサービス等と交換する手段として。したがってジュエリーの場合もサイズが大き過ぎると、どうしても手に入れなければならないものと交換する際に、
支払うゴールドの量が多過ぎる、すなわち大損を強いられるケースが出てくるのだった。
そもそも世の中に最初に紙幣のコンセプトが生まれたのは、取引に必要なゴールドを ゴールドスミス(金細工師)に切り分けてもらう手間や、
取引の度にゴールドを持ち運ぶ手間やリスクを省くために ゴールドスミスにゴールドを預けて、その預かり証で取引を行うようになったこと。
要するに取引に使うゴールドは何時の時代でもサイズが小さい方が便利ということなのだった。
ラッパー達が巨大なゴールド&ダイヤモンドのジュエリーを着けているのにしても、その財産の確実な保持とその誇示を兼ねてのものであるけれど、
ジェニファー・ロペス、ドレイク、リアーナ等のセレブ御用達のダイヤモンド・ジュエラー、ジェイソン・オブ・ビバリーヒルズのオーナー、
ジェイソン・アラシェベンによれば、このところ驚くほど増えているのが、ラボでクリエイトされた人工ダイヤのジュエリーを
それと知らず大金で購入しているセレブリティ。
中にはカミラ・メンデス、レディ・ガガ、ペネロペ・クルーズのように、アフリカ諸国における天然ダイヤ発掘の強制労働に抗議して、
あえてシンセティック・ダイヤのジュエリーをオープンにつけるセレブリティも居るけれど、
そんなアフリカでのダイヤ発掘の強制労働の実態を描いた映画「ブラック・ダイヤモンド」に主演したレオナルド・ディカプリオは、
サンフランシスコのハイテク・ダイヤ・スタートアップ、”ダイヤモンド・フォンダリー” のメジャーなインヴェスターの1人。
ダイヤモンド・フォンダリーが行っているのは地球がナチュラルにダイヤモンドを形成するのと全く同じ化学と物理学を人工的に再現した生産工程。
非常に高温のリアクターの中で生み出された太陽プラズマによってダイヤモンド格子を原子ごとに構築していくのがプロセスで、
ダイヤ生成のための原子炉のテクノロジーは2014年に開発されたばかり。リアクターが1カラットのダイヤを生成する所有時間は約2週間と言われるのだった。
多くのダイヤの専門業者が ハイテク・ダイヤを ”チープ”と決めつけて馬鹿にする理由の1つが、天然石のダイヤが
その生成に数百年、サイズによっては数千年を要すると言われるためであるけれど、
科学者によれば実際には地球がダイヤモンドを形成するのに要する時間も1カラット当たり2週間程度。
それが形成後に長く土壌に埋もれていることから 「人間が勝手に思い込んできた」、もしくは「希少性を高めるためにダイヤモンド業者が
勝手に捏造した情報」と言われるのが天然ダイヤ形成の数百年という長いプロセス。
でも本当に何百年もの工程が必要である場合、ダイヤモンドがこれほどまでに世の中に流通することはないと指摘されるのだった。
このように天然石生成のプロセスをリアクターで人工的に再現して作られたダイヤは ”ラボ・グロウン・ダイヤ”とも呼ばれていて、
そのクォリティは専門家さえ見抜けないと言われるほどの精巧なもの。
昨年11月に婚約を解消したパリス・ヒルトンにしても、婚約者から贈られた20カラットのダイヤのエンゲージメントリング(写真上右)を
日常で身に着けるために2つのフェイクを製作したことが伝えられたけれど、その際に用いられたのもラボ・グロウン・ダイヤ。
今やラボ・グロウン・ダイヤの市場には、これまでダイヤモンド市場を牛耳ってきたデヴィアスまでもが参入していて、
一般消費者が想像する以上に広く普及しているのが現状で、その結果ダイヤの鑑定がこれまで以上に難しくなっているのは言うまでもないこと。
そのためアメリカのポーンショップ(質屋)では ダイヤモンドのジュエリーを持ち込んだ場合、
それに用いられているゴールドの価格でしか引き取ってもらえないのが一般的。
要するにダイヤのジュエリーを購入しても、お金に替えようとした場合にはその価値を認めてもらえないという状況になっているのだった。
更に昨今問題視されているのが、リセール業者で再販されるブランド物のダイヤモンド・ジュエリーにもラボ・グロウン・ダイヤが混ざり始めたこと。
リセールの鑑定者は、カルティエやブルガリ等の一流ブランドのジュエリーが持ち込まれた場合、それが本物のブランド品であるかは細かくチェックするものの
そのジュエリーにセットされているダイヤモンドのクォリティはさほどチェックしないもの。
そのためリセール・ショップで売られるセカンドハンドのジュエリーの中に、
フェイク・ダイヤをセットし直したものが増えているようで、それを掴まされた側はまずは気付かないとのこと。
すなわちセカンドハンドを購入して「お金を節約した」と得した気分を味わっても、実はフェイク・ダイヤのジュエリーに不必要な大金を支払っているだけなのだった。
その一方で前述のレオナルド・ディカプリオがバッカーになっているダイヤモンド・フォンダリーは、「本物のダイヤを売っているような紛らわしい宣伝文句で
消費者を欺いている」として公正取引委員会に訴えられたばかりであるけれど、
ラボ・グロウン・ダイヤ自体は 見た目に本物と大差が無く、発掘における人権侵害の問題もないポリティカリー・コレクトぶりで、
しかも本物より遥かに安価であることから、セレブリティや大富豪の間でその人気とニーズが急速に高まっていることが伝えられるのだった。
ちなみにダイヤモンド・フォンダリーで生成されるダイヤの量は1ヵ月で4000カラット分。他にも同様のラボ・グロウン・ダイヤのメーカーが
複数存在することを思うと、世の中がダイヤのジュエリーだらけになっても決して不思議ではない生産ペース。
そのため ダイヤのジュエリーに投資をする意味合いは、どんどん希薄になってきているのだった。
そもそもセレブリティや大富豪は庶民が想像する以上にケチで、フェイクやリセール品の愛用は公然の秘密。
それを受けてニューヨーク5番街のバーグドルフ・グッドマンでさえもが参入を発表したのがリセール業。
調べによれば バーグドルフでショッピングをするような富裕層の顧客でも、その50%以上がリセールを利用しているそうで、
バーグドルフのリセール・サロンが取り扱うのは高級ブランドのハンドバッグ、高額ジュエリー&ウォッチのみで、アパレルは取り扱わない方針とのこと。
顧客が持ち込んだ高額品を、約20〜30分を掛けて同店の専門家が鑑定し、その間 クライアントにはシャンパンがサーヴィングされるというこのサロンは
バーグドルフの最上階にオープンする予定。
でも一流の小売店がリセールを行うということは品物の鑑定やサービスが信頼できる一方で、
品物を持ち込む側の利益が減って、買う側の価格が高くなることを意味するもの。そのため
果たしてこのビジネスがどの程度のサクセスを収めるかは微妙なところなのだった。
最後にゴールドへの投資を考える人々が最も頻繁に専門家に尋ねるのが、「果たしてゴールド価格がどこまで高騰するか」、
「ハイパー・インフレになったら、ゴールドの価値はどの程度上がるのか?」という質問。
この2つの質問の答えはリンクしていて、ゴールドの価格はハイパー・インフレで貨幣価値が下がれば 下がるほど 大きく上昇するのは言うまでもないこと。
でもゴールド自体の価値はインフレの%通りにアップする訳ではないというのが専門家の説明。
ハイパー・インフレにおいてはトイレットペーパーに5万円、マクドナルドのビッグマックに3万円といったとんでもない価格がつくけれど、
ゴールドもそれと共に価格が上昇するので、
経済がまともに機能している時と同じ金銭感覚で トイレット・ペーパーやビッグマックが購入できるのがゴールドでの支払い。
要するに手持ちの財産がハイパーインフレの影響を受けずに、そのままの経済活動が続けられるということ。
だからこそゴールドは資産保有のための投資対象と言われる訳で、ゴールドに次ぐマネタリー・メタルはシルバー。
コッパー、プラチナはインダストリアル・メタルと見なされるので、リセッションやハイパーインフレ対策には不向きと言われるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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