July 29 〜 Aug. 4 2019

”Uber Can Be Very Risky For Women ”
アメリカでUberを利用する女性が知っておくべき これだけのリスク


今週のアメリカでは火曜日と水曜日に民主党大統領候補の2回目のディベートが 前回を下回る関心の中で行われていたけれど、 今後に最も大きな影響を及ぼすニュースと見込まれたのが水曜に行われたFEDによる11年ぶりの公定歩合のカット。 2020年の大統領選挙前に景気が後退することを恐れるトランプ大統領が 再三に渡って公定歩合のカットの圧力を掛けていたのは周知の事実であるけれど、 その結果FEDが引き下げたのはトランプ氏が望んだ0.5%ではなく0.25%。 連銀議長のジェローム・パウウェルは「アメリカの経済は安定しているものの、グローバル・エコノミーのスローダウンと 中国との貿易戦争のインパクトを懸念した公定歩合のカット」と説明したけれど、その会見の最中から333ポイント値を下げたのがNYのダウ平均。 この引き下げの国民の実生活へのインパクトは、20万ドル(約2,132万円)の住宅ローンを抱えていた場合に毎月の返済が130ドル(約1万3,856円)減って、 2500ドル(約26万6,462円)のクレジット・カード・ローンのミニマム・ペイメントが50セント(約53円)安くなるという微々たるもの。 でもFEDが公定歩合を引き下げるというのは歴史的にはリセッションへの突入を意味すること。 それと同時に今週は、ドイツの30年国債の利回りがサブゼロとなり、 世界で最も信頼されるドイツ国債の全年限が初めてマイナスになる事態が起こっているのだった。




そんな景気の先行きの心配は後回しでクレジット・カードで借金をしてまで旅行をするのがアメリカ人。なのでニューヨークは 例年以上の旅行者で賑わっているけれど、 そんな中、NYにやって来た友人に驚かれたのが私がUberを使っていないこと。
実は私は先週Uberから「長くアカウントを使っていないのでクローズします。もし継続して使用する場合には…」という通達のEメールを受け取ったばかり。 Uberを使っていないことで変人扱いするのは、驚くなかれアメリカ人よりも 日本人の方が各段に多いけれど、 私の目からはアメリカに住んで人並みにニュースを見ている女性が夜間1人でUberを利用するというのは、 かなり勇気がある、もしくは自分を強運だと過信しているようにしか思えないのが実際のところ。 Uberを日頃から使う女性は ドライバーによる性的暴力の被害者になるのは 飛行機が落ちる確率と同じ程度にしか考えていないけれど、 実際には非常に多いのがUberを始めとするカーシェアリングのドライバーによる性的嫌がらせやレイプ&レイプ未遂、誘拐。 最も最近にニューヨーク・エリアで起こったのは 7月半ばにパーティーから戻ろうとしたティーンエイジャーが前科のあるドライバーに性的嫌がらせを受けた事件だけれど、 Uberのバックグラウンド・チェックは経費削減のためか過去5年しか遡っておらず、しかも全米規模では行わない かなりいい加減なもの。 またレイプや性的虐待、殺人、強盗等複数の前科があれば過去5年以上を刑務所で過ごしているので、Uberのバックグラウンド・チェックにはそもそも引っかからないけれど、 たとえドライバーが前科者でも 利用者はアプリの使用合意書にクリックしただけで、Uberのバックグラウンド調査のポリシーには異議申し立てが出来ないのは言うまでもないこと。
さらにUber側が禁止しているとは言え、バックグラウンド調査を受けていない人間が Uberのドライバー登録と車両をシェアしているケースは多く、 イギリスで ドライバーに痴漢行為をされた女性が訴えた際には、容疑者とUberのドライバーIDが一致しないため不起訴処分になっているのだった。

ニューヨークでも酔っ払った女性がマンハッタンのアパートに帰ろうとしてUberを利用し、気付いた時にはニュージャージーでドライバーにレイプされていたという事件があったけれど、 アメリカの地方都市や郊外では ドライバーに性行為を強要された上に、自力で帰れない場所に置き去りされるケースも発生しており、 2019年1月のCNNのレポートによればアメリカ国内でレポートされるUberのドライバーよる深刻な性的暴力、痴漢行為、喧嘩、事故等のトラブル件数は1週間に1200件。 これにはマイナーなトラブルはふくまれていないとのこと。 そのうち性的暴力やレイプ、痴漢行為の多くはUberが介入して示談が成立しており、その殆どのドライバーがUberアプリの使用が出来なくなるだけで 刑事責任は問われない状況。 こうした相次ぐUberドライバーの不祥事は 弁護士にとっては格好の収入源で、 インターネット上には www.ubersexualassaultlawyer.com (Uber性的暴力弁護士.com) というサイト(写真上右)が存在しているような有り様。
ドライバーの中には痴漢行為まで及ばなくても、女性利用者に淫らな質問を執拗に繰り返すケースもあり、 そうかと思えば女性3人が利用したケースでは 「これからお前たちは自分と一緒に死ぬんだ」と言ってドライバーがハイウェイで暴走。 ようやく車から逃げ出した女性のうちの1人に対して その後ストーカー行為を働くという事態が発生。 しかしドライバーは刑事責任を逃れているのだった。
加えて過去2〜3年で増えているのは、Uberのドライバーになりすまして最初から性的虐待が目的で女性を連れ去るケース。 今年の春先に被害にあった女性のケースでは 車の後部座席にチャイルド・ロックが掛かっていて、女性が自力では脱出出来なかったことがレポートされているのだった。




Uberのドライバーによる性的暴力の問題は今年4月に行われた同社のIPOの大きな障壁になっていたけれど、 そもそもUberという企業自体も深刻なセクシャル・ハラスメントの問題を抱えていたのはアメリカでは周知の事実。
Uber社内では女性エンジニアが出世できないだけでなく、 セクハラが横行しており、そんな劣悪な社風の実態を告発した女性エンジニア、スーザン・フラワーによるレポートは 女性蔑視カルチャーが根強いシリコンヴァレーでさえ驚かれた内容。 また2017年には当時のCEOで共同設立者のトラヴィス・カラニック(写真上左) を含む 男性エグゼクティブ5人が 韓国のエスコート・バーに出掛けて風俗遊びをし、その場に居た女性エグゼクティブ、エミール・マイケルに極めて不愉快な思いをさせたことが 大きくメディアで報じられたけれど、人事部にこれをクレームしたエミール・マイケルに対して、 カラニックは自分のガールフレンドを通じて苦情取り下げの圧力を掛けているのだった。
でもそれが裏目に出て2017年にはエミール・マイケルがUber社内の更に酷い実態を暴露する結果となり、 そのうちの1つが インドでUberドライバーにレイプされた女性への対応。それに対してUberが行ったのは 女性の医療レポートを入手して、その訴えが詐欺で 女性側に否があるように工作するという卑劣な行為。 2017年にはこれらを受けてカラニックがCEO辞任に追い込まれているのだった。
とはいっても 彼の辞任は当時IPOをもくろんでいたUberが出来るだけ高額の企業ヴァリューを獲得するための措置で、 トラヴィス・カラニックの影響力がその後もUberに絶大であったのは今年4月のUberのIPOの際に、 彼がNY証券取引所のオープニング・ベルを鳴らすUberエグゼクティブに混じって姿を見せたことでも窺い知れるもの。
Uberは2018年9月に安全対策の一環として Uberアプリに 被害者が直接警察に通報するために「パニック・ボタン」を設けることを発表。 この措置は 一見利用者に安心感を与える対策に思われるものの、Uberが公共交通機関並みに安全ならば ”パニック・ボタン” などは必要ない訳で、 このボタンは「Uberが自社サービスを通じて何等かの危険が起こり得ることを 利用者に警告する義務を果たしている」ことを世の中に示すためのもの。 「利用者を守るためのボタン」というよりも、ドライバーによる予期せぬ不祥事が起こった場合に Uberが責任回避をするための有効な 切り札以外の何物でもないのだった。




「パニック・ボタン」の設置と同時に2018年にUberが発表したのが、それまで行ってきた運転手と利用者間の訴訟における仲裁の終了。 これが意味するのは 女性がUberドライバーにレイプや性的嫌がらせの被害を受けた場合には、パニック・ボタンによって警察に通報し、 従来のレイプ事件と同様に扱われるということ。 すなわちインドの被害者女性のようにUber の弁護士パワーによって逆に責められることが無い替わりに、 これまでのようにUber が示談金を支払うことも無いということ。 早い話がUberドライバーに性的暴力を受けたとしても、利用者はよほどの理由が無い限りはUberには責任を問えないことを意味しているのだった。
私は個人的にはどうして女性が夜に酔っ払って、安全が保障された訳でもない 知らない人間の車に乗ろうとするのかが理解出来ないけれど、 私がUberを利用しないのは Uberという企業がアプリを通じて利用者のプライバシー情報を集めていたり、ドライバーに不当な低賃金を押し付けるなど、 女性蔑視のコーポレート・カルチャー以外にも不信感を抱く要因が沢山あるため。

それと同時にニューヨーカーとしてはイエロー・キャブをサポートするのが大切な義務だとも思っていて、 イエロー・キャブのドライバーのバックグラウンド調査は全米50州に渡って生涯の記録に遡る信頼できるもの。 そんな高額な調査費を要することもあり、イエロー・キャブを運転するためのメダリオンを獲得するために掛かる費用は16万ドル(約1750万円)。 しかも不祥事を起こせば直ぐに運転停止処分になるという高く、厳しいハードルが設定されているのだった。 なので過去5年間アメリカの一部の州で犯罪歴が無いだけで運転手になれるUberの方が安全だと思い込むのははなはだしい勘違い。
確かにUberの方が車体がキレイだし、アプリで車を手配して 車が来たら外に出ればよいという点で便利ではあるけれど、 「怪しく、危険が高いものほど 楽で魅力的」 というのが世の中の仕組み。 とは言っても私のような「Uberを使わない主義」というのは、少なくともアメリカ人の間では さほど マイノリティではなくなってきていて、 Uberだけでなく 「アマゾンは極力利用しない」、 「NetFlixを止めた」、「アイフォンのSiriをオフにした」、「アマゾン・エコーを破壊して捨てた」という人は 意外に増えているのが実情。
要するに消費者に出来る最も有効な抗議活動が消費であることに目覚めた人たちが、それを何等かの活動の一部ではなく、 自分レベルで実践し始めているということなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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