Dec 14 ~ Dec 20 2025

K Shape Economy Hurts America?
失業率アップ、給与伸び悩み、物価高騰で
貧しくなるアメリカで起こっていること



今週も様々な事件やニュースが伝えられたアメリカで、最も報道時間が割かれていたのは 多数のヒット映画で知られるロブ・ライナー監督夫妻が自宅で刺殺された事件。 直後に容疑者として逮捕されたのはドラッグ中毒の息子、ニック・ライナーであったけれど、メディアとSNSが大きく反応したのは トランプ氏が自らのSNSアカウントで事件に見せたリアクション。
民主党支持のリベラル派で、生前トランプ氏に厳しい意見を語っていたライナーに対して、「事件はライナーの トランプ錯乱症候群(トランプ氏が絡む全てに判断力を失って嫌悪するリアクションに対してMAGAがつけたネーミング)と他者への怒りが原因」と投稿。 死因が「政治的動機とは無関係」という当局の発表を無視し、ライナーを「正気を失った人物」とまで語ったことから、 政界はもちろん、一般国民からも寄せられたのが反発と反論。 特にSNS上では何か事件が起こる度に政治と結びつける風潮に嫌気や危機感を表明する意見が多数聞かれていたのだった。
ニック・ライナーには既に敏腕弁護士がついており、その高額弁護費用の出所はライナー夫妻の2億ドルと言われる遺産。両親に経済的に依存し続けたニックが、自立出来る収入が得られなかったことも事件の複雑な背景と言われる中、 遺族は彼が刑務所ではなく精神医療施設で治療を受けることを望んおり、そのために弁護費用を負担していることが伝えられるのだった。
ちなみにアメリカ人に最も人気が高いロブ・ライナー作品は「恋人たちの予感」かと思いきや、多くの映画ファンは 1987年公開の異色のおとぎ話コメディ「プリンセス・ブライド」を挙げているのだった。



富裕層だけ潤う ”Kシェイプ・エコノミー”


今週には政府閉鎖で遅れていた米国雇用統計が発表されたけれど、経済評論家がこぞって指摘したのがアメリカが雇用リセッションに入ったということ。 イーロン・マスクが率いたDOGEによる政府職員の大量解雇や、それに伴う政府コントラクターのレイオフ、そしてAIレイオフの影響で アメリカでは2025年4月から新しい仕事が殆ど生み出されていない計算。 DOGEは約25万人の政府職員を解雇したけれど、その約半分は未だ解雇後の手当を受け取っていることから失業者にはカウントされておらず、 それでも先月11月の失業率は4.6%で、2021年以降最高レベル。
仕事を失って半年が経過した”長期失業者”は190万人に達しており、特筆すべきは16~24歳の若い世代の失業率が10.6%と極めて高いこと。 エントリー・レベルの仕事をAIが取って替わる現在では、若い世代ほど失業する傾向が顕著。人種別では黒人層の失業率が8.3%と、他人種より高くなっているのだった。 給与額は前年比で3.5%しかアップしておらず、これはパンデミック前より低い上昇率。トランプ関税で盛り上がるはずだった国内製造業については給与額が減少しており、製造業は運搬業と並んで雇用の減少も止まらないセクター。 また個人経営企業も、2025年に連邦破産法を申請した倒産数は過去最高、前年比8%アップの2200社以上。その殆どがトランプ関税で値上がりした輸入資材や、輸入原料による経営悪化によるもの。

その一方で、今年のアメリカのホリデイ商戦は史上初めて売り上げが1兆ドルを超える見込み。 その背景にあるのは ”Kシェイプ・エコノミー”。すなわち富裕層が潤い、ミドルクラス以下の経済状態が悪化する状況。 売り上げが伸びる要因は、そんな富裕層が高額品を買い込んでいるのに加え、商品価格が値上がり、例年よりディスカウント率が低いため。 庶民の間では分割払いが急増しており、オンライン・ショッピングの分割払いによる1日の売上が、初めて10億ドルを超えたのが今年のサイバー・マンデー。 この日に限らず、2025年には低所得者層が食材や日用品の購入にも「Buy Now, Pay Later」と呼ばれる分割払いを利用。生活の困窮ぶりを感じさせていたのだった。
今週にはCPI(消費者物価指数)も発表され、インフレ率は前年比2.7%と発表されたけれど、これは消費者にとっては信じがたい数値。 牛挽肉は前年比で14%、コーヒーは15%アップというのが全米平均。それがNYになると かつて10ドルだったコーヒー豆が今では約20ドルという上昇ぶり。 さらに寒波に見舞われるこの冬は暖房費も嵩んでおり、平均世帯の光熱費は前年比で20%アップ。燃料費が下がっているのに光熱費が上がる理由は、 AI時代に対応する巨大なデータ・センター、及び電力施設建設コストの一部を消費者に負担させているためと言われるのだった。
加えて危惧されるのは オバマケア補助金制度が2025年末で失効し、2026年からの健康保険料が2~4倍に値上がること。 影響を受けるのはミドルクラス以下の2200万人で、その3分の2が共和党支持のレッドステーツの人々。その延長を求める民主党とそれに反対する共和党の対立が招いたのが10月の政府シャットダウンで、 この問題は未解決のまま年を越し、2026年1月末にも同じシナリオが見込まれるのだった。



特に貧しくなっているのは…


水曜には、トランプ氏が国民に向けた年末のTVスピーチを行い、「バイデン政権から引き継いだ最悪の経済を、自分が立て直した」と国民にアピールしたけれど、 最新のNPRの世論調査ではトランプ氏の経済政策を支持する国民は僅か36%、国民の52%はアメリカが既にリセッションに突入しているという意見。
調査対象の10人中7人が、毎月の支出が収入と同額、もしくは収入を上回ると回答。白人の68%がこの状況に当てはまると回答したのに対し、黒人層は77%、ヒスパニック系は78%。 調査対象の4分の1は「毎月支出が収入を上回っている」と回答しており、その割合が高いのは 年収5万ドル未満の人々、大卒資格を持たない白人女性、ミレニアル世代、18歳未満の子どもを持つ人々、 人種別では黒人層とヒスパニック系で、Kシェイプ・エコノミーの下がるラインを象徴するのがこれらの人々。
そんな貧しくなるアメリカを象徴するかのように 増えて居るのが葬式泥棒。2025年のアメリカでは著名スポーツ選手やツアーに出ているミュージシャンの自宅がプロの窃盗団のターゲットになったことが報じられたけれど、 葬式泥棒は地元新聞やウェブサイトの死亡広告をチェックして、家族全員が葬儀で留守になった家を狙って盗みを働く行為。
加えて2025年には ”ポーチ・パイレーツ”(玄関前に配達された荷物を盗む行為)の被害件数が過去最多を更新。1日平均25万の配達物が盗まれているとのこと。 特に狙われるのはアマゾンの荷物で、オンライン・ショッパーの46%がポーチ・パイレーツの被害に見舞われ、そのうち32%が複数回の被害者。 82%が100ドル以上の商品を、約20%が500ドル以上の商品を盗まれているとのこと。
驚くべきは今年のサイバー・マンデーのショッパーの49%がポーチ・パイレーツの被害に遭ったというデータで、配達の10秒後には盗まれていたケースもあることから、 オンライン・ショッパーの62%が感じているのがデリバリー・アングザエティ(配達の不安)。そのためピックアップ・ポイントまで出向いて荷物を受け取る人々も急増中。 今ではドアベル・カメラを含むセキュリティ・カメラを設置する世帯は多いものの、ポーチ・パイレーツの検挙率は僅か11%で、そのこともポーチ・パイレーツが増える要因。
先週にはジョージア州で荷物を盗んだ2人のティーンエイジャーに住人が発砲する事件が起こったけれど、撃たれて怪我をした泥棒2人は無罪放免。逆に過剰防衛で訴追されたのが住人。 そもそも銃による正当防衛が認められるのは家に押し入られた場合、もしくは襲われて身を守る際で、家の外に置いてあった荷物を持って逃げるティーンエイジャーへの発砲は、銃のオープン・キャリーが許されているジョージア州でさえ 「訴追は当然」と見なされるのだった。
第二期トランプ政権下では 移民取り締まり強化のためにICE(移民取締局)職員に不当なまでの権限が与えられたけれど、彼等を装う強盗や誘拐、性的暴行も増加中。 ICEの捜査官は覆面車両で現れ、顔をマスクで隠し、IDを提示することなく身柄拘束をすることから なりすましは簡単で、移民の店員に手錠を掛けて店内の金品を盗む、 身柄拘束からの釈放と引き換えに性行為を強要する、もしくは身柄拘束を装った誘拐事件はFBIも警告を発したほど。

2025年のアメリカでは生活に困窮する人々が増えたことで、一般人によるチャリティへの小口寄付が減少傾向。 そもそもアメリカはミドルクラス以下の人々の方が熱心に寄付をする社会であったけれど、もうすぐ1兆ドル長者になると言われるイーロン・マスクや、トランプ政権に多額の寄付を行うジェフ・ベゾスは殆ど寄付をしないことで知られ、 彼等以外の大富豪の寄付は完全に税金逃れと、特定セクターへの支配権や影響力拡大のための手段になっているのが現在。 それによって超富裕層に益々パワーとお金が流れ込み、ミドルクラス以下が搾取される構造になっているのがアメリカ社会なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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