Nov 30 ~ Dec 6 2025

Gold Rush @ White House
ホワイトハウスのゴールドラッシュ、トランプ氏の金の成る木とは?


サンクスギヴィングの週末が明けた今週のアメリカで、最も報道時間が割かれていたのは9月2日にアメリカ軍がヴェネズエラ国籍のドラッグ輸送中と主張するボートをカリブ海で撃沈した際、 1度目の爆撃で生き残った2人の生存者に対して、ジュネーブ協約に違反する2度目の攻撃を行って死亡させる戦争犯罪を犯した疑いに関するニュース。 アメリカはこの日以来、20隻以上のボートを爆撃し、80人以上の乗員の命を奪っているものの、ボートが本当に麻薬を運んでいた証拠の提示は一切無く、 一連の攻撃自体が違法だという反発が議会で高まる中、今週トランプ氏は各航空会社にヴェネズエラ上空の飛行禁止を通達。 マドゥーロ大統領に「辞任しない限り、本土の空爆、及び地上戦に突入する」と脅しをかけたけれど、本来なら議会承認無しで、 大統領の独断では始められない戦争をトランプ氏が始めようとしているのは、ドラッグを口実に「国家緊急事態における大統領権限」が行使できるため。
しかしそんな最中にトランプ氏が恩赦を与え、今週釈放されたのが米国に400トンのコカインを流通した罪で服役していたホンデュラスの元大統領、 フアン・オルランド・エルナンデス。大統領就任前から麻薬組織と深く関わっていたエルナンデスは、米国のDEA(麻薬取締局)の捜査に協力すると見せかけて、裏では麻薬組織と連携。 2024年にNY連邦地裁が有罪判決を下し、45年の禁固刑が言い渡されていたのだった。
ちなみに第一期トランプ政権下の4年間でトランプ氏が与えた恩赦は200件。第二期政権では僅か10ヵ月で恩赦は2000件を超えており、 「金持ちの悪党ほど現政権の恩恵を受ける」と言われる一因になっているのだった。



関税率を動かす24Kゴールド・ギフト


今週アメリカ政府は、ウクライナVS.ロシア停戦協定のために特使スティーブ・ウィットコフとトランプ氏の娘婿、ジャレッド・クシュナーをロシアに派遣したけれど、 2人とも政権にはポジションが無く、本業は不動産開発。外交は素人というのが いかにもトランプ政権らしい人選。 メディアで「プーチンびいき」を公言しているウィットコフは、ロシア政府関係者に「トランプ大統領と良い条件で取引をするには、とにかくおだてること」といったアドバイスを行っていたことが 問題視されていたのだった。
とは言ってもトランプ氏からの優遇を勝ち取るには、おだてよりも有効であると認識されているのが億ドル単位のビジネス・オファーとゴールド。 ゴールドとは言っても、トランプ氏にアピールするのは日本政府がトランプ氏来日の際に贈ったゴルフ・ボールのような類ではなく、 もっとシリアスなゴールドの塊。
先月トランプ氏は大統領執務室と閣僚会議室を悪趣味なまでのゴールドの装飾品とアクセントでリデコレートした様子をメディアに公開したけれど、 トランプ氏へのゴールドの貢ぎ物のトレンド・セッターになったのはアップルCEO、ティム・クック。 アップルは米国内での半導体製造に1000億ドルの投資を行うこと等を約束し、トランプ関税の一時的な免除を確保したけれど、 その特別免除獲得のためにトランプ氏に贈呈したのがアップル社のカスタムメイドのスカルプチャー。 スカルプチャー自体はクリスタル製ディスクであったけれど、目玉はそれを支える約400グラムの24Kゴールド製のベース。
ここから学んだスイスの財界リーダー達は、11月初旬にトランプ関税の見直し交渉のためにホワイトハウスを訪れた際、ロレックスのCEOがトランプ氏のためにカスタムメイドされたゴールドの置時計を、 大手金精錬会社のCEOがトランプ氏の第45代、47代大統領にちなんだ45と47の数字が刻まれた24Kの金塊1キロを贈呈。この2つのギフトだけで総額は13万ドル(約2015万円)。 その直後、スイスからの輸入関税は39%から15%に改定されたのだった。
アメリカの法律では大統領が受け取れるギフトには上限価格が設定されているとは言え、トランプ氏は任期終了後に建設される「自分のプレジデンシャル・ライブラリーに展示する」という大義名分をかざして 高額ギフトを次々と受け取っており、カタールからの贈られた4億ドルのボーイング747-8機も 1億ドルを掛けてエアフォース・ワンにコンバートした後は トランプ氏のプレジデンシャル・ライブラリーに寄贈されるとのこと。 加えてプレジデンシャル・ライブラリー建設のために寄せられる寄附金も上限が無く、その使途や余剰金については報告の義務さえ無いことから、 歴代大統領もある程度はこれを利用して私腹を肥やしてきたのは事実。 しかしトランプ氏ほど それをえげつなくやってのける大統領は過去に例を見ないのだった。



トランプ・アカウントのからくり 


トランプ氏は10月に世界最大の暗号通貨取引所、バイナンスのCEOで、ハマスやアルカイダのためのマネーロンダリングを行っていた容疑で有罪となったチャンポン・ジャオ(写真上左)にも恩赦を与えているけれど、 バイナンスはトランプ・ファミリーが経営する暗号資産ビジネス、ワールド・リバティ・ファイナンシャル(以下WLF)に、ビジネスに不可欠のソフトウェアを無料で寄付し、何のノウハウも持たなかったWLFの ビジネス基盤を築いただけでなく、アブダビ政府関連ファンドがバイナンスに投資した20億ドルを、わざわざWLFがクリエイトしたステーブル・コイン(1コイン=1ドルの価格を保つ通貨同様のコイン)で受け取ることによって、 WLFに莫大な企業価値をもたらした存在。
トランプ・ファミリーはサウジアラビアやカタール政府との不動産開発も、ほぼ自腹を切らないパートナーシップで行っており、 カタール政府はボーイング機とトランプ・リゾート建設地の提供により、アメリカ国内に空軍基地建設を許されたほど。
ニューヨーカー誌は、トランプ氏が2017年にホワイトハウス入りして以来、トランプ・ファミリーが仲介した取引だけで34億ドルの利益を得たと報じたけれど、 第二期政権に入ってからのマネーメーキングは なりふり構わぬ勢い。 現在トランプ・オーガニゼーションは少なくとも10カ国で22以上の不動産開発事業を展開しており、 各国政府や国際的企業のトップ、及び大富豪たちがトランプ氏に取り入るために凌ぎを削っているのが現在。 そんなトランプ氏にとっての「金の成る木」と言われるのが、トランプ氏の一存でどうにでもなる関税率と前科者&犯罪者に与える恩赦なのだった。
今週にはデル・コンピューターのマイケル・デル夫妻が2025年から2028年までにアメリカで生まれた子供達に                                                            ”トランプ・アカウント”という名目で1000ドルを与え、子供が18歳になるまで投資で運用するプロジェクトを発表。 加えて年間平均所得が15万ドル以下のエリアに住む10歳以下の子供達にも 250ドルのトランプ・アカウントが与えられるとのことで、 夫妻の寄付総額は約62億ドル。全てのトランプ・アカウントは”指定金融代理人”によって管理され、S&P500などに投資されると説明されているのだった。
一見美談に見えるトランプ・アカウントであるものの、これもトランプ氏の名前を歴史に残す目的を果たしながら、デル夫妻はほぼ同額の 税額控除を受け、アカウントを持つ子供達が18年間 手が付けられない資金を遣って指定金融代理人が株価を操作出来るというWin Winの構図。 この莫大な資金の一部がWLFに投資されても不思議ではないけれど、たとえ子供が18歳になってもキャッシュ化出来るのは50%で、それが課税対象になるだけでなく、 学費を含むローン返済といった指定用途以外での引き出しが出来ないので、事実上、金融機関と政府のためのアカウント。 トランプ・アカウントは当初 ”MAGA(Money Account for Growth Advancement)アカウント”というネーミングが検討されており、今週の発表のずっと以前から計画されてきたプロジェクト。 デル夫妻は運営資金を提供しただけで、2人の発案でないことは明らか。 その最終目的は「アメリカ国民全員に、誕生と同時に自動的に投資アカウントを開かせ、そこから間接的搾取を行うこと」と指摘され、 このシステムだと善意でスタートした場合でも、最終的にはウォールストリートと政府の餌食になるシナリオなのだった。

話をヴェネズエラに戻すと、ロシアはトランプ氏がヴェネズエラ上空の飛行禁止を宣言する前から、ロシアの旅行者を含む現地滞在者の国外脱出のためのチャーター機を出しており、 アメリカが同様のチャーター機を飛ばしたのは今週金曜のこと。マドゥーロ大統領は「アメリカがヴェネズエラの石油資源を狙って戦争を仕掛けようとしている」 と反発しているけれど、もしヴェネズエラとアメリカが戦争になった場合、世界最大の石油埋蔵量を誇るヴェネズエラの原油輸出が一時ストップし、 ヴェネズエラから原油を輸入していた国々が頼らざるを得なくなるのがロシア。今週ウクライナ戦争を止めるどころか、欧州諸国への敵意も剥き出しにしていたプーチン大統領にとっては 渡りに船のシナリオ。
さらに言えばヴェネズエラはラテン・アメリカで1位、世界でも有​​数の金埋蔵量を誇り、中央銀行が保有するゴールドは約161トン。 ヴェネズエラのゴールドの86%は違法に生産され、70%は海外へ密輸、もしくはマネーロンダリングに使用されており、それを行っているのが政府と深く関わる犯罪組織や武装組織。 そのため「アメリカがヴェネズエラに攻撃を仕掛けることで得られるのは、決して石油だけではない」との憶測も聞かれているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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