今週のアメリカで連日のようにトップで報じられたのは 米国北半分を襲ったポーラー・ヴォルテックス(極渦)による猛烈な寒波のニュース。暴風の影響でノース・ダコタ州では体感温度が摂氏マイナス42度、シカゴではマイナス29度という殺人的な寒さ。大雪や天候関連のトラブルが報じられた中、水曜には緊迫が続いていたカリブ海で、米軍がヴェネズエラ国籍の石油タンカーを拿捕。これにより両国間の緊張が更に高まり、原油価格が上昇。トランプ氏はコロンビア、来年ワールドカップを共同開催するメキシコに対しても、同様の軍事力行使の脅しをかけており、先週トランプ氏に平和賞を与えたFIFAへの批判と嘲笑が益々高まっていたのだった。
一方、今週トランプ政権が発表したのが トランプ関税の影響で経営が成り立たない農家を救済する120億ドルの支援。しかし農家がトランプ関税で被ったダメージの総額は420億ドル。
バイデン政権下で245億ドル相当の大豆をアメリカから輸入していた中国は、トランプ関税導入後から一切の輸入をストップ。大豆農家の危機的状況を受けて、
トランプ政権はエヌビディアの最先端半導体”H200”の中国への輸出禁止を解除。それと引き換えに中国が再び大豆輸入を再開したけれど、
その量はバイデン政権下の半分に当たる125億ドル相当。このところ対中姿勢を大きく緩和させているトランプ氏は「中国政府にしてやられた」との批判を受けたものの、
エヌビディアからは中国への半導体売り上げの25%をトランプ政権に支払う合意を取り付けているのだった。
世の中ではAIビリオネアが続々と誕生しているけれど、今週セルフメイド(相続等ではなく自力で)女性ビリオネアになった最年少記録を塗り替えたと報じられたのが
Kalshiの共同設立者のLuana Lopes Lara / ローナ・ロペス・ラーラ(29歳)。
史上最年少のセルフメイド女性ビリオネアは、2025年4月にデータ・ラベリング企業 ”Scale AI / スケールAI” の共同設立者 ルーシー・グオ(30歳)が
総資産13億ドルで、テイラー・スウィフトを抜いて記録を塗り替えたばかりだったけれど、遂に女性からも出たのが20代のビリオネア。
ではKalshi(カルシ)とはどんな企業かと言えば、米国商品先物取引委員会(CFTC)に登録された急成長の予測市場プラットフォーム。
政治選挙、米雇用統計、FRB金利等のイベントや発表結果の予測コントラクト(早い話が賭け)を売買するのがKalsi。
今年11月に行われたNY市長選挙も Kalshiでコントラクトが販売され、その結果 90%以上がゾーラン・マムダニ勝利に賭けていたのだった。
アメリカ国内だけで1千万以上がKalshiのアプリをダウンロードしており、主要な利用者はイベント予測好きな個人投機的トレーダー、
マクロリスクをヘッジしたい法人、ニュースや選挙・経済指標に詳しい人々。
Kalshiのビジネスは「カジノではなく株式市場のような役割」と説明されており、来店客がカジノで負ければカジノが儲かるのとは異なり、
Kalshiの利益はユーザーの勝敗とは無関係。
あくまで「賭けの対象となるコントラクトを取引する先物市場」という位置づけ。
しかしユーザーが行う行為はギャンブルに通じる部分が非常に多く、法律上の解釈はまだ曖昧。
そのためスポーツ賭博や違法賭博に当たるとの集団訴訟が起こっているのもまた事実なのだった。
しかしマムダニ勝利に多くの人々が賭けていた様子からも分かる通り、予測市場のデータは未来予測において軽視出来ないもの。
そのためグーグル・ファイナンスは11月初旬に Kalshi の予測市場データを従来の金融データと共に提示し、予測市場の情報インフラ化に動いている真最中。
メディア大手CNBCも 今月に入ってからKalshiと複数年契約を締結。2026年からCNBCの番組やウェブサイトでリアルタイム予測データを配信することになっており、
世の中のリアル・イベントに関するKalshiでの賭け動向を、メインストリーム・メディアが その行方を占う情報として発信する動きが急速に進んでいるのだった。
そんな急成長を遂げるカルシの共同設立者、ローナ・ロペス・ラーラはブラジルのボリショイ・バレエ学校でバレリーナを目指し、
高校卒業後にはオーストリアでプロのバレリーナになった経歴の持ち主。しかし数学教師の母と電気技師の父を持つ彼女は、
テクノロジーこそが自分の天職だと考えを改めて勉学に励んだ結果、ブラジル天文学オリンピックで金メダル、サンタカタリーナ数学オリンピックで銅メダルを獲得。
その後マサチューセッツ工科大学に進学した彼女は、在学中にブリッジウォーター・アソシエイツ、シタデルというアメリカの二大ベッジファンドでインターンシップを経験する
エリート・コースを歩み、2018年にMITの同級生 タレク・マンスールと共に立ち上げたのがKalshi。
フォーブス誌によれば、最新の資金調達で大手ヴェンチャーキャピタルのパラダイム、セコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツが参加した結果、
Kalshiの時価総額は110億ドルに達しており、そこから算出すると 同社株式をそれぞれ12%保有するラーラとマンスールの個人資産は13億ドル。
それを受けて、20代初の女性セルフメイド・ビリオネア誕生が報じられたのだった。
頭脳明晰なラーラとマンスールは ロビンフッドやWebullなど、若い世代が利用する証券会社とパートナーシップを結んでおり、Solanaとの統合で
暗号資産分野へも事業拡大中。 ナショナル・ホッケー・リーグやStockXなどの組織とも提携し、アグレッシブにビジネスを拡大している真最中。
しかしスポーツ関連の契約(賭け)については、複数の州が Kalshiの合法性や課税について精査していることが報じられ、
それが現時点のKalshiにとって最大の障壁であり、リスク要因。それでもヴェンチャー・キャピタリスト達がKalshiへの投資に強気なのは、
ラーラとマンスールが「克服不可能と思われる規制上の難局を乗り越えるだろう」と信じるためで、その確信の一端を担っているのが他ならぬドナルド・トランプJr.。
トランプJr.は昨年の大統領選挙の際、Kalsiで父親の勝利に大金を掛けており、それがきっかけで2025年1月にKalhsiのコンサルタントに就任。
彼に多額のコンサルタント料を支払っているとあって、ラーラとマンスールはビジネス拡大の基盤作りを ”大統領権限を使った規制緩和”が望めるポジションで進めているのだった。
昨年の大統領選挙の際には10億ドル規模の掛け金がKalshiで動いたとも言われるけれど、
Kalshiの毎週のスポーツ・ベッティングの取引額も今や10億ドル以上。
今年8月にテイラー・スウィフトがNFLプレーヤーのトラヴィス・ケルシーと婚約した際には、Kalshiで
「今年中の婚約」に 8895ドルを賭けていたユーザーが 6439ドルの賞金を手に入れているのだった。
要するにイベント予測という名の下で ありとあらゆるものをギャンブルにしてしまうのがKalshiのビジネス。
ただでさえ法規制が難しいKalshiを トランプ政権とトランプ寄りのヴェンチャー・キャピタリストがこぞってバックアップするということは、
ビジネス規模と多大なリスクが同時に膨らんでいくことを意味しているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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