今週のアメリカで物議を醸していたのは、トランプ政権がサウジアラビアのプリンス、ムハンマド・ビン・サルマンを国賓としてホワイトハウスに招き、晩餐会を含めた最上級の歓迎姿勢を見せたこと。
サルマン王子はワシントンポスト紙の記者、ジャマル・カショージ殺害を指示した容疑が取り沙汰されて以来、世界の外交シーンから遠ざかっており、
加えて9.11テロ首謀者がサウジアラビア国籍であったことから、サウジとの友好はテロ犠牲者遺族を含む国民感情を逆なでする行為。
しかしトランプ氏のファミリー・ビジネスはサウジでトランプ・タワー、トランプ・プラザ建設を含む4件の大規模事業が進行中。
娘婿のジャレッド・クシュナーもサウジ政府系ファンドと提携し、550億ドルという史上最大のレバレッジド・バイアウトでビデオゲーム・メーカーの非公開化を進めている真最中。
カタールでのトランプ・ファミリー・プロジェクトをサポートしているのもサウジアラビアの企業。
晩餐会にはクリスティアーノ・ロナウドが婚約者を連れて出席していたけれど、物議を醸すイベントとあって
多くのメディアが企業CEOの出席者全員の名前を掲載。その中にはエヌビディアCEOの ジェンスン・フアン、アップルCEOのティム・クックを始め、
ジェネラル・モータース、フォード、デル・コンピューター、シティバンク、シェブロン、ファイザーのCEOに混じって、久々にイーロン・マスクの名前が見られたのだった。
今週アメリカで最大の報道になったのは、セックス・トラフィッカー、ジェフリー・エプスティーンの捜査ファイル公開を求める法案が米国議会で可決され、
トランプ氏が署名する運びとなったニュース。司法省は署名後30日以内にファイルを公開することになるけれど、
メディアやインフルエンサーがこぞって指摘していたのは、もしトランプ氏が本当にファイル公開を望んでいたなら、
議会投票など無しに トランプ氏の指示だけで簡単にファイル公開が実現していたということ。
司法関係者の間では「捜査ファイルの少なくとも一部が闇に葬られる」という声は多く、理由はトランプ氏が今週エプスティーンに関わった民主党関係者の捜査を司法省に指示したため。
これにより司法省が「捜査関連情報」と見なすファイルは 捜査終了まで公開せずに済むので、その内容に手を加える時間は十分にあると見らているのだった。
今週には既に公開されたエプスティーンの2万ページのEメールの詳細が深く掘り下げられたけれど、人々を驚かせたのが彼の幅広いパワフルなコネクション。
その顔ぶれはトランプ政権を裏から牛耳るベンチャー・キャピタリストのピーター・ティール、クリントン政権財務長官を務めた後ハーバード学長となったラリー・サマーズ、元イスラエル首相のエフード・バラク、前トランプ政権アドバイザーのスティーブ・バノン、スピリチャル・グルのディーパック・ショプラ、クリントン大統領を弾劾裁判で追い詰めたケネス・スター、エプスティーンに移民モデルのVISA取得の手助けを求めたマジシャンのデヴィッド・ブレーン、同じくマジシャンでエプスティーン邸のレギュラー・ゲストだったデヴィッド・カパーフィールド、イヴァナ&イヴァンカ・トランプ、スティーブン・ホーキング博士、言語学者のノーム・チョムスキー、ミック・ジャガー、俳優のケヴィン・スペーシー、前述のサウジのプリンス、ムハンマド・ビン・サルマン等、これまでエプスティーン・スキャンダルであまり名前が出たことが無かった様々な分野の著名人。
今年2月に公開されたエプスティーンのコンタクト・リストにもマイケル・ジャクソン、アレック・ボールドウィン、ナオミ・キャンベル、先日NY市長選で落選したアンドリュー・クォモを含む
250人の著名人が名を連らね、マンハッタンのエプスティーン邸にはビル・ゲイツ、ローマ法王ヨハネパウロ2世、フィデル・カストロ(故キューバ首相)、リチャード・ブランソン(ヴァージン・グループ創設者兼会長)、ウッディ・アレン、イーロン・マスクらとエプスティーンが一緒に写る写真が飾られていたのは有名な話。 コニー・アイランド(ブルックリン)の中流家庭出身で大学中退者であるエプスティーンが、世界の上層部にこれだけのコネクションを築いた背景には何か裏があって当然という印象を与えていたのだった。
公開されたEメールの大部分は、2009年前後に開設されたエプスティーンのメール・アドレスによるやり取り。当時エプスティーンはセックス・トラフィッカーとして訴追されながらも、後にトランプ政権入りした
当時のフロリダ司法長官、アレクサンダー・アコスタとの司法取引により売春斡旋罪に大幅減刑され、フロリダの刑務所で13カ月の服役刑を終えた後、NYへのカムバックをもくろんでいた時期。ちなみに刑期中のエプスティーンは、ビジネスを理由に週6日、1日12時間の外出が許可され、「服役」とは名ばかりのもの。
2万ページのEメールは 2009年から彼が逮捕された2019年までのもので、
そこにリアルに描かれていたのは財力と権力の相関図もさることながら、その約10年間にNYとアメリカで起こった様々なパワー・シフト。
前科がついたエプスティーンがNY社交界に返り咲こうとしていた2009年は、未だ新聞・雑誌といったペーパー・メディアの影響力が絶大。同様に絶大な権力を持っていたのが大手PRエージェント。
中でも伝説のパブリシスト、ペギー・シーガル(写真上左側、下段)はNY社交界のゲートキーパーと呼ばれ、
「彼女のブラックリストに載ったら、NYでは終わった」と見なされる反面、彼女さえ味方につければ どんな著名人が主催するパーティーにも招かれ、
誰とでもコネクションが築けると言われ、その彼女と太いパイプで繋がり、頻繁にメールで交信していたのがエプスティーン。
彼女を含むNYの著名パブリシストが財界大物に声を掛けてエプスティーンのカムバックを支えた結果、服役後でもJ.P.モルガンが彼への融資を継続し、ビル・ゲイツとも新たな親交がスタートしたのだった。
エプスティーンとその交友ネットワークを追い詰めたのは2006年からスタートし、2017年に一気にグローバル・ムーブメントになった#MeToo。
これがきっかけでハーヴェイ・ワインスティーンやブレット・ラトナーといったハリウッド・プロデューサー、チャーリー・ローズやマット・ラウアーといったトップ・キャスター、FOXニュース創設者のロジャー・エール、
3大ネットワークの1つCBSのCEO レスリー・ムンヴェス、俳優のケヴィン・スペーシー、ウィン・リゾートのスティーブ・ウィン、上下院議員、名門大学教授など合計201人が、
僅か1年ほどの間にハイプレテージ・ポジションから失脚。当時パニックに陥っていた彼等が、救いを求めてコンタクトしていたのがエプスティーン。
公開されたEメールの中でエプスティーンは「#MeTooに巻き込まれた奴らがこぞって連絡してきては、この狂気はいつ終わるのかと尋ねてくる」と友人に漏らしていたのだった。
かく言うエプスティーンも、自らの長年のセックス・トラフィッキングについてのメディアの取材や捜査について、パブリシスト経由で情報を入手しては
そのカウンター・アクションに追われていたけれど、程なくエプスティーンが悟ることになったのが
もはや彼が地盤としてきたペーパー・メディアとパブリシストの時代は終わりを迎え、デジタル・メディアとSNSがどんどん力を増している状況。
その証拠に、パブリシストからウッディ・アレンとのタイアップでのイメージ戦略を勧められたエプスティーンは、アレンにはデジタル・メディアを操作する力量もコネクションも無いとして
その案を退けた様子がEメール内容から明らかになっていたのだった。
すなわち#MeTooムーブメントの盛り上がり、ペーパーメディアの衰退は、エプスティーンのパワー&影響力の衰退とシンクロ状態で
歴史を動かしたことになるけれど、パブリシストのペギー・シーガルを含め、どんな形であれエプスティーンと関わった人々の殆どは その地位を追われており、
前述のラリー・サマーズは今週、公の活動自粛を宣言してオープンAI社の取締役を辞任。今も教鞭を取っていたハーバード大学も、正式に彼の捜査に入ったことを発表。
これを受けてメディアとSNSでは、「エプスティーンと関わって、今も世界で最もパワフルなポジションを維持しているのはトランプ氏だけ」と指摘する声が聞かれているのだった。
来週はサンクスギヴィング・ウィークなので、このコラムをお休みさせて頂きます。
次回更新は12月6日になります。 アメリカにお住まいの皆さま、Happy Thanksgiving!
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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