今週のアメリカは水曜に、セックス・トラフィッカー、ジェフリー・エプスティーンが送付した2万ページのEメールが公開され、
トランプ氏自身と少女達の関り、エプスティーンがトランプ氏の弱みを握っていた様子、そしてトランプ政権下で命の危険を感じ始めた様子などが
明らかになり、トランプ政権はパニック状態。トランプ氏がSNSに19時間も投稿をしないという極めて珍しい事態が起こっていたのだった。
その一方で、エプスティーンの共犯者で現在服役中のギレーン・マックスウェルは、7月の司法省とのインタビューでトランプ氏に有利な証言をした後、
セックストラフィッカーとしてはアメリカ史上初めて、ヨガやクラフトのクラスがある ”囚人キャンプ”の異名を取る ミニマム・セキュリティの刑務所に移されたけれど、
今週内部告発者が明らかにしたのが、マックスウェルが新しい刑務所で差し入れられた食事を味わい、面会者が持ち込んだコンピューターでインターネットにアクセスし、
時間外にプライベートでジムを利用し、スタッフからコンシアージュのようなサービスを受けながら、
サポート・ドッグとして訓練されている仔犬と遊ぶ時間も持てるという至れり尽くせりの待遇で暮らす様子。
20年の服役刑を言い渡された彼女は、既にトランプ氏に減刑、もしくは恩赦を求める手続きに入ったとのことで、議会では
何故彼女が異例の特別待遇を受けているかについて捜査を求める声が高まっていたのだった。
先週は、ゾーラン・マムダニ市長誕生で大いに盛り上がったNYであるけれど、今週新たに話題になったのが 来年2026年の中間選挙で、
引退する民主党議員に代わって、ジョン・F・ケネディ大統領の孫で、元日本大使キャロライン・ケネディの息子、ジャック・シュロスバーグ(32歳)が
NY12区から下院議員選挙に出馬するニュース。 彼のフルネームは John Bouvier Kennedy Schlossberg / ジョン・ブーヴィエ・ケネディ・シュロスバーグで、
日頃遣っているジャックはジョンの愛称、ブーヴィエはジャクリーヌ・ケネディの生家。デザイナー兼アーティストの父親、エドウィン・シュロスバーグはウクライナ出身のアシュケナージ系正統派ユダヤ教徒。
そのユダヤ系ラストネームを名乗りながらも、彼自身は母親同様カトリック教徒として育てられたとのこと。
選挙区であるマンハッタンのアッパー・イーストサイドで育った彼は、名門イエール大学で日本史を専攻。2022年にハーバード大学ロー・スクールとハーバード・ビジネス・スクールの共同法務博士課程と経営学修士課程を卒業。2023年2月にNY州司法試験に合格するというエリート・コースを歩む傍ら、母親が日本大使を務めた2015年には東京に滞在。
短期間ながら楽天に入社し、その後サントリーにも勤務。2016年にアメリカに戻ってからは国務省海洋局・国際環境科学局のアシスタントとして勤務。
2018年には、TVドラマ「ブルーブラッド」にカメオ出演した経験もあるのだった。
そんな彼は、2011年からタイム誌、ワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・マガジン、NYタイムズ紙、ヴォーグ誌等に寄稿する政治ライターとして活動。
イエール大学時代にはスタンドアップ・コメディをしていたというユニークな側面も持ち、さすがにケネディ家の一員とあって
普通なら32歳の若さでは築けないコネクションの広さと深さを持つ存在。
彼が政治に興味を持ったのは2008年にオバマ氏の大統領選挙のボランティアを務めた時で、
当時ヒラリー・クリントンを推すと思われていたケネディ家が、一早くオバマ氏への支持表明をしたのは民主党支持者に大きなサプライズとして受け取られたのだった。
NYは伝統的に民主党支持者が80%以上を占めるブルーステーツ。そのためシュロスバーグの当選は既に確実と見られているけれど、
民主党支持者、及びリベラル派が望んでいるのは、彼がマムダニ(34歳、写真上右から2番目)や、”AOC”ことアレクザンドリア・オカジオ・コルテス(36歳、写真上一番右)に代表される
民主党若手勢力に加わり、私利私欲にまみれた現在の金権政治や歪んだ資本主義から脱却し、民主主義の新しい方向性を示してくれることなのだった。
トランプ大統領が第一期政権中から躍起になって来たのが、自分のレガシーをアメリカの歴史に刻むこと。
カーター氏、オバマ氏が過去に受賞したノーベル平和賞を自分も受賞し、サウスダコタの観光名所、マウント・ラッシュモアにワシントン、ジェファソン、リンカーン、ルーズベルトに続く
5人目の大統領として自分の顔を刻むこと等が目標とされていたけれど、第二期政権でトランプ氏が徹底的に実践しているのは、ジョン・F・ケネディ大統領のレガシーを消去し、自分の名前で書き換える行為。
ワシントンDCのアートの象徴、ケネディ・センターはトランプ氏が取締役を全員解雇し、自分の支持者で入れ替えることで乗っ取りを果たし、現在はセンター自体を自分の名前に、
オペラハウスをメラニア夫人の名前に替えようと動いている真最中。 ジャクリーヌ・ケネディ夫人がクリエイトしたホワイトハウスのローズ・ガーデンは美しい庭園から、
石を敷き詰めたカフェテラスにリノベ―ト。 アメリカにTVが普及し始めた1962年にジャクリーヌ夫人が自ら出演し、NG無しのワンテイクで放映された
ホワイトハウス・ツアーの舞台となったイースト・ウィングは、トランプ氏のボールルーム建設のために完全解体され、ケネディ大統領暗殺に関する捜査ファイルは、
トランプ氏の公約とは裏腹に事件は謎に包まれたまま。
そしてトランプ氏はRFKスタジアムの跡地に建設されるワシントン・コマンダーズの新スタジアムに自分の名前をつけるよう要求。
そんなケネディ潰しについてメディアに尋ねられたシュロスバーグは、「民主党はトランプ大統領とその富豪支持者による権力乱用に対抗し、民主主義を取り戻すために下院で多数派を占めることが最優先」
という現実的なビジョンを語り、「トランプ氏以上に危険視している」と語ったのが、同じケネディ家の一員で、医療経験無しで保健福祉省長官を務めるロバート・F・ケネディJr。
シュロスバーグは、RFKジュニアが世界最先端を誇る米国がん治療研究への補助金を打ち切ったこと、疾病予防センター専門職の大量解雇、そして何より科学的データを無視する姿勢が
「国民の健康を脅かす」と危惧していたけれど、一部には「RFKジュニアに米国医療と保険制度を崩壊させるのも トランプ氏によるケネディ家のレガシー潰しの一環」と見る声もあるのだった。
トランプ氏がケネディ家を敵視する理由は、チェイニー、クォモ等、親子の世襲政治家が珍しくない中、ケネディ家はJFK、RFKだけでなく、テッド・ケネディ上院議員等、
これまで10人のファミリー・メンバーが政界ポジションに就き、著名慈善事業家も抱える 米国唯一のポリティカル・ダイナスティ(政治王朝)であるため。
アンチ・ワクチンのムーブメントにしても、環境弁護士であったRFKジュニアが多額の支援金目当てに活動に加わって以来、大きく弾みがついており、
かつてほどの勢いは無いとは言え、ケネディ家は今もアメリカのロイヤル・ファミリー。それを自分のラストネームで書き換えようというのがトランプ氏。
しかし政治専門家の大半は、「トランプ氏1人が居なくなれば、現在のトランプ独裁体制は崩壊する」という見解で一致しているのだった。
今週私は、MAGA支持者が「トランプは政策じゃなくて、キャラクターだから…」と言っているのを聞いて、
アメリカが歴史的に「一緒にビールを飲んで話したくなる候補者」を大統領に選出してきたことを改めて思い出したけれど、
確かにアメリカで選挙に勝つには政治手腕よりキャラクター。
先週のNY市長選挙後に 米国で一番人気のポッドキャスト、”ジョー・ローガン・エクスペリエンス”に出演したイーロン・マスクが、ゾーラン・マムダニへの批判を言おうとして、
散々言葉に詰まった挙句、「彼にカリスマ性があるのは認めざるを得ない」と渋々答えた姿にも、人々を動かすのがキャラクターであることが現れていたように思うのだった。
果たしてたジャック・シュロスバーグにそれが備わっているかは 今後の選挙戦を通じてニューヨーカーが見極めることになるけれど、ケネディ家の名前と、容姿に現れるケネディ家のDNAが
彼にとって極めて大きなアドバンテージになることだけは確実と言えるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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