July 20 〜 July 26 2020
ヘロインより中毒性があるフリー・マネー!?
アメリカでは7月7日以降 毎日5万人以上のコロナウィルス感染者数を記録しており、今週には遂にその総数は400万人を突破。
州別ではカリフォルニアがニューヨークを抜いてトップとなり、金曜1日だけで1万2000人の感染者を出したフロリダが
ニューヨークを抜いて第2位に浮上するのは時間の問題。にもかかわらず未だにマスク着用を拒むアメリカ人は多く、
昨今では店内でマスク着用を迫られた来店客が 銃を持ち出して反発する事態が全米各地で起こっているのだった。
そんな中木曜に発表されたアメリカの先週の失業者数は18週間連続で100万人を超えて1400万人。
これは先週より10万人多い数字で、
シャットダウン解除後に営業を再開しても採算が取れないビジネスが再び休業に戻ったり、閉店・撤退に追い込まれるケースが増えている様子を示唆しているのだった。
フリー・マネー、2つの側面
アメリカではレント滞納者に対して 政府が定めた立ち退き禁止措置が失効したのが今週金曜。そのため翌日土曜日の段階で
1ヵ月以内の立ち退きを言い渡される世帯が出始めているけれど、今後どれだけの人々が立ち退きを迫られるかのカギを握っているのが
過去4か月間失業手当に加えて支払われてきた毎週600ドルの上乗せ金。これは3月に議会が可決した景気刺激策 ”ケア・アクト”の一環で、それが失効するのが今月末。
この上乗せ金を来年1月まで延長するべきと主張する民主党と、失業手当を給与の70%に抑えるべきと主張する共和党が真っ向から対決しているのが現在で、
今週金曜までに議会が新たな刺激策を纏めることが出来なかったことから、少なくとも一時的に支給がストップすると見込まれるのだった。
この上乗せ金は既に借金を抱えてやっと家賃を支払っていた低所得者にとっては命綱。「これがなければ家の立ち退きを迫られる」と怯える人々がいる一方で、
働かずして給与より高額、時に2倍以上の失業手当を受け取っていた労働者は
ロックダウンが解除されてからも仕事に戻るのを拒んでいる状況。
それによって大打撃を受けているのは中小企業の経営者で、ただでさえ売り上げが激減した上に、
プレキシグラス設置などのコロナウィルス対策の出費を強いられ、営業再開の体制を整えても一時解雇したスタッフが戻らないとのこと。
新たなスタッフを雇おうとしても、本来仕事を探しているはずの失業者が失業手当で潤っているので、
それを上回る給与を支払わない限り働き手が居ないのが現在。でも中小企業にそんな人件費を支払うゆとりがないのは容易に想像がつくところ。
同様の状況はニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトでも起こっていて、3月のロックダウン以降収入が無かった業者が
やっと営業を再開しても、職人が失業保険を受け取って休みたがる傾向が顕著。しかし代わりがすぐに雇える業種ではないことから、
人手不足、もしくは人件費増加に見舞われて経営難を強いられる業者が多という。
したがって毎週600ドルの上乗せ金は、貧困家庭と中小企業にとって全く反対の意味で死活問題になっているのだった。
フリーマネー連発が ドル崩壊のゲイトウェイになる日?
3月に議会が可決した総額3兆ドルの”ケア・アクト”では、
ハーバード大学からヘッジファンド、カソリック教会らが 億円単位の返済義務なしのローンを受け取り、年収7万5000ドル以下の人々が1200ドルの助成金を受け取っているけれど、
それより遥かに多額の援助を受けているのが大企業。というのも連銀がケア・アクトの資金を投じて107年の歴史上初めて
コーポレート・ボンド(社債)の買い付けを行うなどの市場介入を行っているためで、それ以外の税制優遇なども含めると庶民とは比べ物にならないほど
実入りが良いのが大企業、及びそのエグゼクティブたち。
合計5000万人の失業者が出た過去4か月半の間にアメリカのビリオネアが増やした個人資産は20%。額にして5000億ドル以上。
投資額だけで30億円を超えるトップ1%も同様に資産を増やしており、
金額が増えれば増えるほど、貧富の格差が大きく開くようにデザインされているのが景気刺激策。
したがって貧困層にとって支給されないと生きていけないほど必要な刺激策は、世の中の上に行けば行くほど
労せずして財産を大きく増やすためのありがたい政策。
前述のように議会では新たな刺激策の調整中で、民主党が多数を占める下院の法案は総額3兆ドル、
共和党が多数を占める上院の法案は総額1兆ドル。
そんな大盤振る舞いを続けているので、5月初旬に25兆ドルに達したアメリカ連邦政府の債務残高は今や26.5兆ドル以上。
共和党議員の間には「パンデミックが一段落するまでに米国債務が40兆ドルに達する」という恐ろしい予測まで聞かれる有り様。
その一方で経済専門家の間で指摘されるのが 刺激策の連発によってアメリカの企業、個人が政府が投入するフリーマネーの中毒になっていくこと。
アメリカでは過去数年、交通事故や手術の後に処方された痛み止め薬を摂取するうちに依存症になり、やがては薬代が支払えなくなって 安価なヘロインに手を出し、最後にはオーバードースで死亡するというシナリオが
大きな社会問題として取り沙汰されていたけれど、今のアメリカが瀕しているのがその痛み止め薬をフリーマネーに置き換えた状況。
最初は理性的に処方されているように見受けられていても、やがては中毒症状、ひいては経済 およびドル崩壊へのゲイトウェイになって行くと指摘されるのが刺激策のフリーマネーなのだった。
政府がいくらでもお金を印刷できるなら、何故税金を払う必要があるのか?
既に借金まみれのアメリカ政府が右から左に助成金をばら撒けるのは、もちろん必要なだけお金を印刷できるためで、アメリカはコロナウィルス以降 ますますキャッシュレスが進んでいるので、
実際にお金を印刷はしていないものの、今や数字を入力するだけですぐに生み出せるのが通貨。
そのため昨今ソーシャル・メディア上で指摘されているのが、「紙幣を幾らでも印刷できるなら、何故国民が税金を支払う必要があるのか?」という疑問。
その答えは税金が国の収入源であると同時に、公定歩合やお金の印刷同様に経済をコントロールする重要な手段であるため。
2001年の9・11テロの直後に当時のブッシュ政権が、前回のリセッションの際にオバマ政権が、それぞれ景気刺激策として打ち出したのが減税措置。
何時の時代も減税は消費者の購入意欲を煽る有益なカンフル剤となっているのだった。
また政府に与えられた税金徴収のパワーは そのまま政府の国民に対するパワーに反映されており、税制は国を治めるための重要な法律の一部。
さらに税の徴収は政府が国民の経済状態を把握する手段でもあり、多くのロビー活動が税金優遇措置を獲得するために特定の企業や業界によって行われていることを思えば、
税制は それを変えることができる政治家にとってパワーの源でもあるのだった。
その一方で 第二四半期にS&P500企業が平均40%の減益を記録し、アメリカのGDPが35%減となるにも関わらず 株価にそれが反映されないことについては、
さすがの企業エグゼクティブ達もこの状態が長く続くとは思っていないようで、
3月のボトムの時点で株式を買い漁って大儲けをしたインサイダーは現在 総じて売りに転じているとのこと。
その買いと売りの比率は1:5と言われるけれど、その割には株価が下がらないのも今の市場の疑わしい部分。
新たな景気刺激策が打ち出されれば、業績やGDPとは全く無関係に株価がさらに上昇するという予測も聞かれるけれど、
コロナウィルス問題以来、素人投資家が多数市場に参入しているので、彼らから財産をむしり取るための乱気流の展開になると見る方が適切のように思うのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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