July 6 〜 July 12 2020
レント滞納、強制立ち退きが失業問題より深刻になる日
今週の日本の大雨の様子はアメリカの一部のニュースでも報じられていたけれど、アメリカのイーストコーストもトロピカル・ストーム"Fay / フェイ" の影響で連日見舞われたのが暴風雨と雷。
アメリカでは毎年ハリケーンやトロピカル・ストームが発生するとアルファベット順に名前を付けるけれど、今年は7月上旬の段階で"F"の名前の6番目のストームに見舞われており、これは観測史上最短のスピード。
そんな中 アメリカの42州で引き続き増え続けているのがコロナウィルスの感染者数。
今週には全米の1日の感染者数が6万人を超えた日もあり、特に感染が深刻なフロリダ州マイアミではテストを受けた3人に1人が陽性という極めて高い感染率。
ニューヨークは先週までテストを受けた人々の1%が陽性であったけれど、それが今週に入って1.5%に増えただけで、死者、入院患者数は確実に減少。
アメリカではロックダウン解除を急いだ州のぶり返しが深刻なだけに、本来ならばニューヨークで7月6日月曜にスタートしていたはずのレストランでのインドア・ダイニングの再開はまだまだ先になる気配。
ニューヨークは失業者の60%以上が飲食業界の休業に伴って解雇された人々で、この遅れが
既に大打撃を受けているレストラン業界にさらなる打撃をもたらすと見込まれるのだった。
ジョブレス、テンポラリーからパーマネントへ
今週木曜に発表されたアメリカの新たな失業者数は130万人で、15週間連続で100万人を上回っているけれど、
失業手当を受け取っている総数は以前より少ない1800万人。しかし以前は一時解雇者の失業保険申請が多かったのに対して、
現在はパーマネントな失業者が増えてきているのは憂慮される点。
また今週月曜には 中小企業を救済するためのPPP(ペイメント・プロテクション・プラン)で政府からの総額5000億円ドルの助成金を受け取った企業のラインナップが公開されていたけれど、
そのラインナップはデビッド・ベッカムがプレジテントを務めるメジャーリーグ・サッカーチーム"マイアミ・インター"、先週大統領選挙出馬を宣言したカニエ・ウエストのブラン"イージー"
サラダバーのチェーン"チョップト"、メンバー制クラブのソーホーハウス、政府関係者の家族が経営する会社等、中小とは言えない規模。そうしたお金に困らない企業がいずれも億円単位の助成金を受け取っていたにも関わらず、
本当に助成金が必用な小規模なレストランは100万円程度の申請を却下されているのがその実態。
中でも人々が眉を吊り上げたのは、カソリック教会が受け取った合計35億ドルの助成金。カソリック教会と言えばジェフリー・エプスティーンよりも長きに渡って青少年性的虐待を行ってきた神父を野放しにしただけでなく、
その罪を覆い隠してきた存在。PPPで受け取った多額の金額がそんな野放しの性的虐待者の給与になっていることに不満と憤りを覚える人々は多かったのだった。
その一方で今週木曜にはPPPとは別に政府から50億ドルのベイルアウト金を受け取ったユナイテッド航空が10月以降に3万6000人の従業員解雇を発表。
何故10月以降かと言えば 10月まで雇用をキープすればベイルアウト金返済の必要が無いためで、その条件はPPPも同様。
そのため10月以降にレイオフ、それも一時解雇ではなく パーマネントなレイオフの嵐が訪れると予測する声は多いのだった。
ホームレンター、貧困のシナリオ
でも現在のアメリカで失業者数よりも危惧され始めたのがレントを支払っていない人々の数。
アメリカでは2019年の時点で36.6%の世帯、約430万人がホームレンターと言われるけれど、
過去数年の"好況"と言われた時代に給与をはるかに上回る勢いで上昇したのが家賃。
2018年の段階で月収の半額以上を家賃に充てているレンターは4人に1人で、ホームレンターの
約50%が「1000ドル以下の貯金しかない」と回答する貧困者。
人種では圧倒的に黒人層、ヒスパニック層がそれに該当するのだった。
そんな中、オンライン不動産レンタルの "アパートメント・リスト"が行った最新のアンケート調査によれば、全米の32%のレンターが
7月のレントの全額、もしくは一部を滞納しているとのこと。
特に家賃が支払えないのは30歳以下の若い層で、滞納者の約40%を占めているという。
家賃が高額なニューヨークでは、アンドリュー・クォモ州知事が3月に 家賃を滞納してもランドロード(家主)がテナントに立ち退き要求ができない措置を打ち出しており、
3月以降家賃を支払っていないレンターはなんと25%。
中にはブルックリンを中心に起こっている"#CancelRent/キャンセル・レント" のムーブメントの一環としてレントを支払わない人々も居るけれど、
立ち退きが先送りにされたところで、未払いのレントの負債額が膨らんで、時にそれにペナルティが加わるのは言うまでもないこと。
もし膨らんだ滞納レントが払えず強制立ち退き処分となれば それが記録に残ることから、その後別の物件を借りるのが極めて難しくなり、借りられても悪条件を押し付けられるのが常。
一方のランドロード(家主)たちは 7月に固定資産税の支払いを控えているけれど、未払いのレントのせいでニューヨークのビルディング・オーナーの39%が
税金の一部しか支払うことができず、全く払えないと回答するオーナーは6%となっているのだった。
ジョブレスがホームレスになるトリガー
レント未払いのテナントに対する立ち退き要求延期措置を 5月に解除したノース・キャロライナ州では、既に記録的な数のレンターが家を追い出されているけれど、
アメリカではそんな立ち退きの決断を下すのが裁判所。NYはコロナウィルスの影響で現在は裁判所が十分に機能していないものの、
一度正常化した場合に見込まれる立ち退き要求申請件数は少なくとも5万件。
コロナウィルスが全米に先駆けて拡大したニューヨークでは約73万5000人が仕事を失い、そのうちの約52万6000人が失業手当を受け取っており、
現在政府がそれに上乗せしているのが1週間600ドルの助成金。
多くの失業者は医療費や既に抱えている学費ローン、クレジットカード・ローン等の支払いに追われ、それを受け取ってやっと家賃を払っていた状況。
しかしその助成金は今月一杯までで、もし下院がそれまでに延長決議をしない場合、さらに増えるのがレントや住宅ローンが払えない人々。
前述の"アパートメント・リスト" が行ったアンケート調査によれば「立ち退き要求を恐れている」と回答したレンターは21%、ホームオーナーは17%で、
5世帯中1世帯が家を失うことを恐れているのが現在のアメリカ。
一度ホームレスになると精神面を含む健康問題を患う確率が高まるだけでなく、住所が無けれは仕事を探すのもほぼ不可能になってしまうのだった。
ニューヨークでは1930年代の大恐慌時代に ホームレスがセントラル・パークにテント村を作って生活していたけれど、
現在同様の状況になりつつあるのがダウンタウンの市庁舎前。ここには2週間ほど前から警察への予算カットを求める人々が若い層を中心に抗議活動の一環として居座わるようになり、
"アボリッシュ(廃止、打破)・パーク"という新たなネーミングが誕生。現地では食事、医療品等が無料で支給されることから、ここでテント生活をする若いホームレスが増え始めているのだった。
その一方でこのコラムで何度も書いてきたように、昨今ではWFH(Work From Home/自宅勤務)になったのをきっかけに レントと物価が高いニューヨークを脱出する人々が増えており、
郊外では割高な小規模物件を脱出組が競って購入しているのが現在。
逆にニューヨークでは6月のレンタル・アパートのヴェイカンシー(空室)レートが3.67%アップ。家賃の平均額は6.6%ダウンして、これは2011年以来の下げ幅。
過去数年の開発ブームで新しい物件がどんどん増えていることも手伝って、入居可能なレンタル物件のリストは85%も増えているのだった。
このことは市場経済が需要と供給のバランスで成り立っていることを改めて立証すると同時に、人と同じように動いていたら財産が増やせないことを意味するもの。
事実、多くの投資会社やヘッジファンドが株をキャッシュにして待ち侘びていると言われるのが商業不動産買い叩きのチャンス。
現在多数の店舗やオフィスの撤退、閉鎖が続いているだけに、その到来は時間の問題と言われるのだった。
来週は都合により1週間このコラムのお休みをいただきます。次回の更新は7月25日となります。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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