Apr. 20 〜 Apr. 26 2020
NYC ロックダウン・ライフ 5 & マネー
今週土曜日の時点で、アメリカのコロナウィルス感染者は約93万人、死者数は5万3,422人と伝えられるけれど、
それよりもメディアと人々の関心が集まっていた数字は失業者数。今週も新たに420万人が失業保険を申請した結果、
過去5週間の米国失業者総数は2,650万人に達しているのだった。
さらに今週には1月に1バレル当たり65ドルだった原油価格が 月曜に史上初めてマイナスになる事態も起こっているけれど、
小売り業界では既に会社更生法申請を示唆していた高級百貨店、ニーマン・マーカスが倒産準備に入り、従業員1万4000人のファーロフ(給与支払い停止)を発表。
バナナ・リパブリックを傘下に収めるギャップも 既に殆どの店舗従業員をファーロフし、
4月から北米店舗のレント 1億1500万ドルを滞納していることが伝えられる中、
今週に入ってから「来年一杯経営を続けるだけの資金が無い」経営難を明らかにしているのだった。
その一方で 政府が中小企業救済のために支給するはずだったペイロール・プロテクション・プログラムが
上場企業やアイヴィーリーグの大学などに利用されたことへの世論反発が高まったことから、
今週には何社もの企業がその払い戻しを表明。
金曜には中小企業救済のための更なる支援金法案にトランプ大統領がサインしたけれど、
銀行側は 既に前回の申請が山積しているとして 新たな申請を受け付けないところが少なくない状況。
加えて大手銀行がペイロール・プロテクション・プログラムのコミッションとして10億ドル以上を着服していることが明らかになっており、
救済金が本来の目的の用途に使われない状況は引き続いているのだった。
アメリカでコロナウィルス感染拡大が広がってからというもの、全米の銀行への預金総額は1兆ドル増えているとのことで、
その理由の1つは人々がこの時期にキャッシュの必要性を感じて株式、ゴールド、ビットコイン等を売却したため。
そんな現在のアメリカでは国民の50%以上が「食糧不足を危惧している」とアンケートで答える通り、食材価格が上昇中。
特に卵は3月初旬に比べて約80%の価格アップが伝えられるほど。
なので庶民はインフレーションを感じつつあるものの、アメリカの富裕層、それもハンプトンズやマイアミ、マーサス・ヴィンヤード等で優雅な自主隔離生活を送っている
メガリッチにとっては現在はデフレの世の中。
2週間前のこのコラムでレストランが生き残りのために 高額ワインをクライアントに安価で直売している様子を書いたけれど、
超高額のジュエリーも現在メガ・リッチが値切って買い漁っているアイテムの筆頭。
そもそも数百万円を超えるような高額ジュエリーは値段があってないようなもの。
たとえゴールド価格が上がっていても、売る側にキャッシュが必要な時には価格が大きく下がるのは不動産同様で、
それがゼロ金利のローンで購入できるのが現在。
不動産と言えば 今週には2年連続でフォーブス誌が「史上最年少のセルフメイド・ビリオネア」と報じたカイリー・ジェナー(22歳)が
4500万ドルで売りに出されていたカリフォルニアの大邸宅を約20%ディスカウントに当たる3650万ドルで購入したことが伝えられたばかり。
また今週にはビル&メリンダ・ゲイツもサンディエゴ・エリア最大の物件の1つを4300万ドルで購入。
アマゾンのジェフ・ベゾスもマンハッタンのフラットアイアン地区に昨年購入したアパートに隣接した物件を つい最近1600万ドルで購入しているのだった。
現在は不動産が高い値段で売れない時期とあって 市場の物件数は50%前後減っている状況。
それでも売りに出されているのは過去2年ほどの不動産スランプで既に価格が下がっていて オーナーがキャッシュを必要としている物件、もしくは
新築物件。
どちらも買い手市場とゼロ金利をフル活用するメガリッチが購入に至る結果、ハンプトンズの4500万ドルの邸宅(写真上右)や
マンハッタンのスーパー・ラグジュアリー・コンド(写真上左)が売れてしまうのがこのご時世。
そんな多額の取引に利用されているのがビットコインで、コロナウィルスのシャットダウンを前後して
聞かれるようになったのが多額のビットコイン・トランスファーのニュース。
今週にもテイラー・スウィフトの総資産に当たる3億6000万ドル分のビットコイン・トランスファーが行われているけれど、
額が大きければ大きいほどビットコインが利用されるのは 複雑な手続きが必要無く、銀行経由より遥かに早いのに加えて
フィーの安さ。日本円にして387億円相当のトランスファーに掛かった手数料は僅か67セントだったことが報じられるのだった。
ハンプトンズに避難したメガリッチの馬鹿げたお金の使い方として報じられているのは、コロナウィルスの出張検査に1人当たり1000ドルを支払っていること。
5人ファミリーに出張した医師は玄関口で行う簡単な検査で5000ドルが稼げることになるけれど、医師を迎えるにあたって住人が着用していると言われるのが
病院で不足しているハズマット・スーツをさらにアップグレードした宇宙飛行士のようなプロテクション・スーツ。
こうした大金持ちは一回の食材のデリバリー代が軽く100万円近くになることは珍しくないようで、シェフによる料理のデリバリーを毎食オーダーするファミリーも少なくないと言われるのだった。
貴金属や高額品に関しては 現在買い漁りをしているのは メガリッチだけではないようで、
私が頻繁に利用するデザイナー・リセールのウェブサイトでは、カルティエやパテック・フィリップなどのプレステージ・ウォッチが20分に1ユニットの割合で売れているとのこと。
そのためジュエリー、時計、高額ブランド・バッグ、特にアリゲーターやクロコダイル等の高額素材に絞って出品を催促するメールが頻繁に送られてくるのが昨今。
そうかと思えばグッチは中国市場のニーズが激減したことを受けて、次シーズンの売り上げ見込みの減少が伝えられている状況。
要するに政府が コロナウィルス助成金として何兆ドルという規模のキャッシュを金融システムに投入していることから、
キャッシュを持っていても今後貨幣価値が下がるのは明らか。そのためセカンドハンドで安くなった貴金属や財産価値のあるバッグを購入して資産価値を保とうとするのが
これらの人々。買っても値崩れするだけの最新のファッションには全く興味を示していないのだった。
もっと庶民的なレベルでは何が売れているかと言えば、ロックダウン・ライフ1でもお伝えした通り、まずは自転車。
退屈な外出自粛期間を乗り切るためのビデオ・ゲームやパズル。女性の間では着用が楽なワイヤーレス・ブラ、
ZOOMを使ったビジネス・ミーティングで着用するためのトップ。オフィスと同じ服装では不自然だし、日頃自宅で着用するトップでは
カジュアル過ぎるということで、タートル・ネックなどニュートラルなトップを購入する女性が多いのだった。
更にスリッパ、部屋履きの売り上げも伸びていて、それと言うのも「土や埃に混じってウィルスが家の中に入る」という指摘が感染拡大当初に聞かれたのに加えて、
家族全員が1日中土足で歩き回ると 床の掃除も大変。でも家で仕事をする場合はスリッパの方が楽というのが最大の理由。
加えてシルク素材のラグジュアリー系パジャマの売れ行き好調も伝えられるのだった。
またニューヨーク等 マスクの着用を義務付けられた州を中心に、マスクの売れ行きがアップしているのは言うまでもないこと。
今ではジャスティン・ビーバーなどセレブリティがチャリティのためにマスクを製作して売り出しているけれど、
アパレル・ブランドでいち早くマスクを手掛けた アリス・アンド・オリヴィアは、売り出したマスクの初回生産分があっという間に完売。
その後も数種類を販売して、いずれも販売開始と同時に完売の人気ぶり。
でもマスクを熱心に購入している人でも「自分が吐いた息をもう1回吸いこむのは気持ちが悪い」と語っており、
マスク着用を始めてから益々マスク嫌いになるアメリカ人は多いのだった。
トランプ政権では先週、コロナウィルスの感染沈静化が2週間続いた州に対して知事にシャットダウン解除の権限を与えているけれど、
その条件を満たさずして今週金曜にヘアサロン、スパ、ボーリング場、ジム、タトゥー・パーラーの営業再開、週明けからカフェやレストランの
ソーシャル・ディスタンシングを守っての営業再開を打ち出したのがジョージア州。
この措置には シャットダウン解除を求める抗議デモを後押しする発言やツイートを連発したトランプ大統領でさえも難色を示しているけれど、
ジョージア州内にはあえて営業を再開しないビジネス・オーナーも居る状況。
また再開を決めたビジネスでも 万一クラスターが発生した場合の訴訟を恐れるオーナーは多く、
全米各地でシャットダウン解除のデモが起こっていても、アンケート調査では80%近くのアメリカ国民が早すぎる解除には反対の意見。
それでもアメリカ国民がノーマルな生活に飢えているのは明らかで、今週末には季節が温かくなったのを受けて、
各地のビーチに警告を無視して 多くの人々が繰り出していたのだった。
また木曜に放映されたNFLドラフトは コミッショナー、各プレーヤー、フランチャイズのオーナー、コメンテーターが全員自宅に居ながらにしての
リモート・コーディネート放映であったものの、初日のピークタイムには1960万人という記録破りの視聴者数を獲得。
国民が如何にスポーツに飢えているかを垣間見せており、翌日金曜に公開されたオンライン・スポーツ・ギャンブルの”ドラフト・キング”の株式にしても
現在スポーツ・イベントが一切行われていないにも関わらず 10%アップで初日の取引を終えているのだった。
そんな中 球界では、ここ数年不振続きのニューヨーク・メッツを 現在婚約中のアレックス・ロドリゲスとジェニファー・ロぺスが
30億ドルで買収する噂が流れ、複数の銀行がゼロ金利を利用したローン・アレンジに動くという説も聞かれるのが現在。
コロナウィルスのロックダウン、シャットダウンで、ビジネスやお金の動きがスローダウンしていると思い込む人は多いけれど、
実際にはこの特殊な状況を利用したり、時代の変化を見越した金融・ビジネス面の動きはどんどん早くなっているのが現在なのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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