Apr. 6 〜 Apr. 12 2020
NYC ロックダウン・ライフ 3 & サバイバル
今週はアメリカのコロナウィルス感染者数が遂に50万人を超え、金曜には1日の死亡者数が世界で初めて2000人を上回ったことが伝えられていたけれど、
今週もその数字よりショッキングに伝えられたのが新たに660万人が失業保険を申請し、過去3週間で失業者数が1700万人に達したという報道。
ニューヨークは新たな感染者数が減ったと言われながらも、まだまだ死者数が1日に600〜800人で今週には死者数がスペインを抜いたことが報じられたのだった。
そんなニューヨークで問題視されているのは、1000床のベッドを擁し、ニューヨークのコロナウィルス以外の患者を一手に引き受ける予定だったアメリカ軍のホスピタル・シップ、
コンフォートが入港から10日以上が経過しても29床しかベッドが埋まっておらず、
その一方でパラメディックは心筋梗塞や心臓発作の患者について現場の措置で息を吹き返さない場合は、
病院に運ばずに その場で死亡宣告をするように指示が出されていること。
今週からコンフォートもコロナウィルス患者の受け入れをすることになったものの、その代わりにベッド数を半分の500に削減。
それでも埋まっているベッド数は4月9日時点で62床、治療を行った患者数は79人で、ガラガラの状態。
コンベンション・センターを病院にコンバートしたジェイコブ・ジャヴィッツ・センターにしても 1000床のベッドを擁するものの、埋まっているのは134床。
コンフォートもジャヴィッツ・センターも働いているメディカル・スタッフは軍隊の医療チームで、ジャヴィッツ・センターに配属された900人は
現時点ではNYのレストランから差し入れられたグルメ・フードを食べて、6人で1人の患者を診れば良い楽な仕事。
にも関わらず国防省は今後ジェイコブ・ジャヴィッツ・センターのベッド数を2500に増やし、そのバジェット無駄遣いに更なる拍車を掛ける予定なのだった。
通常の病院はと言えば 引き続きの大混雑で、メディカル・サプライとプロテクション・ギアの不足もまだまだ深刻。
しかも12時間シフトで働くスタッフは、体調を崩してもコロナウィルス感染テストを受けさせてもらえず、
今週にはブロンクス動物園のトラさえもが テストを受けて感染が伝えられたのは彼らにとっては腹立たしいニュース。
加えて医療スタッフの不満の要因になっているのは、健康のリスクを冒して激務をこなしても一向に改善されない待遇や給与。
アメリカの看護師の平均的な給与は年収390万円程度と低所得者並みで、その殆どが健康保険を支給されていない状況。
各病院にも毎日のようにレストランからのフードの差し入れが寄せられているけれど、さすがにそれらを食べ飽きた頃とあって
医療関係者がメディアに訴え始めたのが「食事の差し入れより、給与と待遇の改善に動いて欲しい」という本音。
アンケート調査によれば看護師の62%がコロナウィルスの問題が一段落したところで「現在の職場を辞める」、
もしくは「看護師を辞めたい」と考えていることが明らかになっているのだった。
さて、今週ZOOMで話したアメリカ人の友達の1人は セントラル・パーク・ウエストに位置する セレブや大企業のエグゼクティブを数多く 住人に抱えるコンドミニアムに住んでいるけれど、
彼女によればビルの住人の殆どがハンプトンズやマイアミ、マーサス・ヴィンヤード等に脱出してしまったので、ビル内に残っているのは3〜4世帯ほどの住人。
その脱出は1月末から徐々に始まっていたとのことで、そうした脱出組のせいで
富裕層が住むエリアほど食材店の売り上げが下がっていることが伝えられるのが昨今。
もう1人の友人はそんな脱出組で 「How lucky we are!」と言いながら 家族でボートでクルーズした様子や、
ウォーター・フロントの庭の芝生を子供と犬が走り回る様子を披露して 「フードバンクに車の大行列が出来ている様子をニュースで見て驚いた」と語っていたけれど、
このところ富裕層が悪気無しに言い合っているのが「How lucky we are!」、「How blessed we are!」というセンテンス。
私はこのセンテンスを耳にする度に、他人の不遇を目の当たりにすることによって自分の幸せや恵まれた状況を実感する 典型的な人間心理を感じているけれど、
これまでは大金持ちがこのセンテンスを言うオケージョンと言えば、
もっぱら 離婚訴訟が泥沼化する友人カップルの噂話をしながら 夫婦が仲良く優越感に浸っていた時。
どんなに資産が余っていても自分の経済状態について「How lucky we are!」と言うことは無かったのだった。
でもZOOMのグループ・チャットに参加していた3人目の友人は 2人の小学生の子供を抱えて夫がレイオフされ、自分はペイカットになったこともあって、
「How lucky we are!」はトゲがあるセンテンスに思えたようで、
後から「自分は仕事があるだけでもラッキーだと思っていたけれど、レベルの差を見せつけられてドップリ疲れた」と語っていたのだった。
ちなみにその友達は夫婦共々メディアで働いていて、夫はドラマのプロダクション関連なので 撮影がストップしたために年収約1千万円の仕事があっさり無くなってしまったとのこと。
友達はニュース・メディアの仕事で、この業界は昨年の段階で既に必要な人員減らしが大幅に行われていたことから、
インターネット・メディア、ペーパー・メディア共にレイオフよりもペイカット、それも一時的ではないパーマネントなペイカットが言い渡される傾向が顕著なのだった。
ニューヨークで仕事、もしくは収入を失った多くは レストランや宿泊施設関連の仕事、もしくは小売業に従事していた人々。
その中には 昼間はエクササイズ・インストラクターで夜はDJ、その空き時間にイベント・プランナーをしていた人、
ウェイトレスをしながらブロードウェイのオーディションを受けては脇役を務めていた女優の卵、ハーレムのアパートをエアB'n'Bで貸し出して月収4000ドルを得ていた人など様々。
こうした人々はメディアに登場しては、あっという間に生活が一変してサバイバルを強いられる状況を語っているけれど、
その多くが抱えている不安は自分の仕事が何時戻るのか、本当に戻るのかが分からないこと。
今週には経済の専門家が2021年まで高い失業率が続くこと、そして失われた仕事の40%程度しか戻らない予測を発表。
東京オリンピックも、コロナウィルスの感染が一段落しても 経済問題が深刻になる結果、「1年の延期では開催は無理」との指摘が聞かれ始めているのだった。
ニューヨークで最も厳しいサバイバルを強いられている業界と言えば、3月半ばからデリバリー&テイクアウトを除く営業を禁じられたバーを含むレストラン業界。
その途端に同業界だけで7万人の失業者を出しているけれど、当初最小限のスタッフを残してデリバリー&テイクアウトの営業を行っていたレストランも、
採算が合わないことや 従業員の通勤中の感染リスクなどを考慮してそれを取り止めるところが増えて、第二のレイオフの波を迎えているのだった。
レストランに比べると バーの方が食材を仕入れるリスクが無く、人件費の負担が遥かに少ないとあって、カクテルのデリバリーを続けるところが未だ見られる状況。
そんなレストラン業界が失業したスタッフへの手当や店のレントを支払うために行っているのはありとあらゆる手段。
多くがクラウドファンディングのウェブサイト、GoFundMeでサポートを募っているけれど、
有名店は400〜800万円の寄付が集められるのに対して、小規模な無名店は20万円前後を集めるのがやっと。
それが大手レストラン・グループになると、解雇したスタッフのためのチャリティ・ファンド設立に動いており、
アメリカではチャリティのステータスがあると、それに寄付をした側は寄付金が税金控除の対象となるので、大金持ちのクライアントほど
大金を寄付するようになるのだった。
その一方でセラーに抱えているワインを販売するレストランも多く、その場合 コミッションを取られ、キャッシュの回収に時間が掛かるワイン・オークション業者を使うよりも
ウェブサイトやニュースレターを通じて直接顧客にアプローチするケースが殆ど。
その中にはコレクターが喜んで大金を払うお宝ワインやスコッチ、ブランデー等が含まれており、ワインショップで購入すれば1本1500〜2000ドルの
ドイツのドライ・リースリング、Keller G-Max / ケラー・G-マックスが800ドルで手に入ったといったエピソードも聞かれるほど。
本来ニューヨークの法律では レストランがワインの販売をすることが禁じられているけれど、
危機的な状況が考慮されて モラルの見地からそれが違法扱いされないのが現在。
それ以外にレストランが売りに出しているのは店内に飾られていたアートや、コロナウィルスが一段落した後でシェフが
顧客宅に出張してディナー・パーティーの料理をするセッションで、ミシュラン三つ星のイレブン・マディソン・パークは、
シェフ、ダニエル・ハムの出張ディナーが オンライン・オークションで5万ドルで落札されたという。
他にも バースデーやお見舞い用のギフト・バスケットを販売したり、
自宅で焼いたり、炒めたりの簡単なプロセスで出来上がるディナー・キットを販売する店も見られていたけれど、
こちらは売り上げは今一つ。
一流レストランに食材を卸していた業者はと言えば、レストランの休業を受けて 一般消費者に高級食材をデリバリーするサービスをオンラインでスタート。
こちらの方が苦戦するレストランよりも ビジネスは 遥かに好調で、
前述のイレブン・マディソン・パークに野菜や果物を卸していた ファーム・ワンは 毎週季節のアイテムをデリバリーするサブスクリプション・サービスを開始。
フレンチ・レストランのダニエルや、ユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループの傘下レストランに高給食肉を卸していた
ピッキニーニ・ブラザースは ミニマム50ドルでデリバリーを行い、その配達をハンプトンズまで広げたことで大幅に売り上げが伸びたことが伝えられるのだった。
そうかと思えばナイトクラブのプロモーターは、セレブDJを起用して 1000人までが同時にコミュニケートできるZOOM上で、
ヴァーチャル・パーティーを主宰。参加者はカバー・チャージを支払ってZOOMにアクセスし、雰囲気を害さないようにドレスコードが指定されているのがこのパーティー。
加えて他の参加者の様子を眺めることは出来ても自分のプライバシーは守れる”VIPラウンジ”も存在しており、これまでのところ300〜400人が
参加していることが伝えられるのだった。
レストランの中にはTシャツ等のグッズ販売をスタートするところもあるけれど、それより多くのレストランが行っているのがギフト・カード(商品券)の販売。
すなわち今後のディナーの先払いをして貰うことを意味するけれど、確実に営業を再開することが明らかな大手レストラン・グループ傘下でない限りは、
購入する側にとってはリスクが伴うと言われるのがギフト・カード。
現在、そんな大手レストラン・グループでさえ頭を痛めているのは、これまで支払ってきたビジネス・インターラプション・インシュランス(ビジネス中断保険)が
コロナウィルスには適用されないこと。通常これらの保険はハリケーン、洪水、火災等で物理的な被害が出た場合にのみ適用されるもので、
感染症が原因の営業停止は対象外。
傘下グループの36店舗を休業し、4000人の従業員を解雇したミシュランスター・シェフ、ジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテンは
これまで支払ってきた約27億円のビジネス・インターラプション・インシュランスが下りることを期待していたレストランターの1人。
そのジャン・ジョルジュはニューヨークのトランプ・インターナショナル・ホテル内にレストランを構えているとあって、
トランプ大統領と面識があり、彼に加えてレストラン ”ダニエル”を含む16店舗を休業し810人の従業員を解雇したダニエル・ブリュー、
トーマス・ケラー(パー・セ、フレンチ・ランドリー)、現在冷凍ピザの売り上げが伸びているウルフギャング・パックといった
トランプ氏がその名前を認識する著名シェフ達が カンファレンス・コールで 直訴したのが 保険の適用を含む
レストラン業界救済のための手立て。
トランプ氏は終始フレンドリーであったものの保険の支払いには極めて消極的で、 唯一協力的であったのは
ウィルス感染が去った後、企業の食事&エンターテイメント費用の税金控除を大幅に認めること。
「それによって全てがスピーディーに平常に戻る」というのがトランプ氏のコメントであったというけれど、
22億5000万ドルと言われるニューヨークのレストラン業界のダメージはもっとずっと深刻なもの。
中には寄付や助成金で運営ができて、労働力がボランティアで賄われるフードバンクになって生き残ろうとする店もあるほどで、
これまでは競争が激しく、レントが高いことでサバイバルを強いられてきたニューヨークのレストランが、
今では営業再開まで持ち堪えるためにサバイバルを強いられる状況になっているのだった。
日本もニューヨークほどではないとは言え、コロナウィルス感染が広がっていますので お見舞い申し上げます。
引き続き当社は自宅勤務で通常通りの営業を続けています。メールやオーダーのコメント欄で
励ましやお気遣いのメッセージを頂いておりますことに お礼申し上げます。どうもありがとうございます。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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