Jan. 27 〜 Feb. 2 2020

”Beauty is Toxic and Carcinogenic”
ドキュメンタリー『トキシック・ビューティー』が警告する、
ビューティーケミカルによる発がん性、不妊症、流産、etc...



今週のアメリカもトランプ大統領の弾劾裁判と、コロナウィルスのニュースに最も報道時間が割かれていたけれど、 弾劾裁判は来週水曜日に共和党が多数を占める上院で無罪評決が可決される見込み。
コロナウィルスは、アメリカでは2月2日、日曜の時点で8人の感染が認められているけれど、症状が出る前の潜伏期間にも 保菌者が感染を広めるリスクが認められたことから、 中国からアメリカに帰国した旅行者、および今週 中国武漢市から政府チャーター便で引き揚げてきたアメリカ人約200人は、 当初の72時間と発表された強制隔離期間が2週間に伸ばされたのが金曜のこと。 同じ金曜にはアメリカン航空、デルタ航空が中国行きの全便をキャンセルしているけれど、 それを待たずしてアップル、グーグル等、中国にオフィスを持つ大手企業は軒並み社員の出張を見合わせる発表をしていたのだった。 加えてアメリカ政府、オーストラリア政府は共に中国からの旅行者、中国に滞在した旅行者の入国拒否を発表。
WHOが全世界に警告するアウトブレイクになった状況を受けて、金曜のNYダウは2019年8月以来の600ポイント以上の下げを見せており、 「コロナウィルスがトリガーになってリセッションに突入する」という見方も大きく高まっているのだった。




さて、今週 アマゾンとアップルTVで公開されたのがフィリス・エリス監督のドキュメンタリー 『トキシック・ビューティー』。 これはそのタイトルからも分かる通りビューティー・プロダクトに含まれる有害なケミカルに警鐘を鳴らすドキュメンタリー。
そのオープニング・シーンでは、ベテラン・メークアップ・アーティストで 自らオーガニック・コスメのブランド、 RMSビューティーを立ち上げた ローズ・マリー・スウィフト (写真上左)が 「誰もが知る大手スキンケア・ブランドのケミストがミーティングの際に言っていたのが ”化粧品業界は女性の細胞を破壊している” ということ。私が呆れて ”何故何も言わないの?” と 尋ねると、”言えない” という返事が返ってきた」 と語る様子。ドキュメンタリーの中盤では、ローズ・マリー・スウィフトがメークアップ・アーティストとして多忙を極めていた時代に 皮膚の異常や体調不良が起こり、医師に検査を依頼したところ「ビューティー業界で働いているの?化粧品やヘアの仕事をしている人には 同じ症状が多いから…」と言われて愕然とした様子も語られているのだった。

『トキシック・ビューティー』製作に当たっては3年に渡るリサーチと捜査が行われ、化粧品業界が如何に政府の規制から野放しの状態であるか、 過去に多くの政治家が規制に乗り出そうとしては 大手化粧品会社のロビー活動でそれが潰されてきた様子が描かれているけれど、 ストーリーの中核になっているのはジョンソン&ジョンソンのベイビー・パウダーを長年使用して卵巣がんを患った女性達。
ジョンソン&ジョンソン側は否定するもののの、近年になってベイビー・パウダーの原料であるタルクにアスベストが含まれていること、 それを子供の頃からシャワーや入浴の度に脇の下や股間に使用する習慣を続けて卵巣がんになった女性達が、 ジョンソン&ジョンソン社を相手取って「その発がん性を知りながら危険を警告せず、偽りの安全性を謳い続けてきた」として 訴訟を起こしているのは周知の事実。その中にはベイビー・パウダーを仕事を通じて吸引し続けた結果、 アスベストが原因で起こる肺がん、中皮腫を患った男性も含まれているのだった。

多数の訴訟を抱えながらもジョンソン&ジョンソンがベイビー・パウダーを生産、販売し続けられるのは、840億ドル市場と言われる コスメティック&パーソナル・ケア業界に対して、政府が僅か2ページにも満たない規制しか設けていないため。 ドキュメンタリーの中では、オーガニック・プロダクトを自ら生産し始めた男性が「野菜に吹きかける農薬の散布量は政府によって規制されているのに、 人間の肌に使用するスキンケアに含まれるケミカルの毒素に全く規制が無いのは馬鹿げている」と語る様子が フィーチャーされていたけれど、 『トキシック・ビューティー』ではビューティー業界を取り仕切る男性CEOとエグゼクティブ達が、 プロダクトを使用する女性の安全性を全く顧みない金儲け主義に徹してきた様子に対しても痛烈な批判と抗議が展開されているのだった。




実際のところビューティー・プロダクト、パーソナル・ケア・プロダクトには安全テストをクリアしていない 数千のケミカルが含まれており、近年最も問題視されてきたのが乳がんの原因として問題視されるパラベン。 今やパラベンは乳がんとは無関係の健康体の女性の乳房組織にも含まれ、その量は2004年から2012年の間に4倍に増えているとのこと。 2012年の調査では160人の女性のうちの158人の乳房組織に全5種類のパラベンのうちの最低1種類以上が含まれていたとのこと。 パラベンはボディケア、スキンケアに最も一般的に用いられる保存料であり、体内に約50年間残り続ける物質。 同様に問題視されているのがフタル酸エステルで、2002年の段階でビューティー・プロダクトの60%に含まれていた有害なケミカル。
すなわち乳がん注意予防月間にピンク色のパッケージの製品をクリエイトし、膨大な利益のうちの微々たる金額を乳がんのチャリティに 寄付をするビューティー業界こそが 近年の乳がん増加の大きな原因を担ってきたとも判断されるのだった。

以下は『トキシック・ビューティー』で警告されていたビューティー・プロダクトに含まれるケミカルとそのリスクの例。

                  
シャンプー ホルムアルデヒド、内分泌攪乱物質 アレルギー、うつ病、がん
リップスティック 鉛、コールタール 腎臓のダメージ、流産、神経のダメージ
デオドラント 内分泌攪乱物質、 ホルムアルデヒドホルモン・バランスの乱れ、不妊症、腫瘍
スキンクリーム 水銀、コールタール、内分泌攪乱物質 震え、不眠症、認知障害
ネール・プロダクト トルエン、アセトン アトピー、肺障害、流産
歯磨き粉 トリクロサン、ヒ素 細胞の異常成長、生殖器官の形態異常や胎児への障害
石 鹸 内分泌攪乱物質、コールタール、1,4-ジオキサン アレルギー、不妊症、心臓病
フレグランス 毒性物質非公開 アレルギー、不妊症、がん
スキン・ホワイトニング 水銀 皮膚病、内臓障害、がん

通常のシャンプーよりも 2 in 1, 3 in 1など コンディショニング、トリートメント効果を持つシャンプーの方が、 毒素が強いとのことで、それ以外にも『トキシック・ビューティー』の中では ケミカルを多数含む入浴剤を使用してバスタブに浸かっているリスクや ケミカルが成長期の子供達のホルモンバランスの乱れからうつ病まで、様々な弊害をもたらすことが警告されているのだった。
また近年のビューティー業界ではパラベンの存在が一般消費者に知られるようになったことから、 代わりにメチルクロロイソチアゾリノンを使用し「パラベン・フリー」をマーケティングで謳う傾向が顕著であるものの、 メチルクロロイソチアゾリノンは化学の世界ではれっきとした毒素。 こうした化学成分の入れ替えは大手のメーカーほど巧妙に行っては、消費者を欺く傾向にあるのだった。




『トキシック・ビューティー』に登場するメイン・キャラクターの1人が写真上左のボストン大学医学部のアジア人学生、MyMy / ミミ。 コスメ・フリークの彼女はヘアをブロンドに染め、毎日数えきれないほどのビューティー・プロダクトを使用しているけれど、 その彼女が『トキシック・ビューティー』の中で自らトライしていたのが、ケミカル・ボディ・バーデン(化学物質がもたらす身体の負担)のチェック。 人間の身体にはデトックス機能が備わっており、鉛を含む金属や パラベンなどは体内に残り続けるものの、一部のトキシック成分は汗や尿で排出されるシステム。
そこで彼女が行ったのが 化粧品、ソープ、歯磨き粉さえ使わずにデトックスを行った日の尿、 日頃使っているビューティー・プロダクトを全て使用した後の尿、 それらビューティー・プロダクトを ケミカルの混入が少ないクリーン・ブランドに切り替えた後の尿を採取し、 それらに含まれるケミカル検査をラボに依頼。その結果が『トキシック・ビューティー』後半で紹介されているのだった。
それによればもミミの体内のケミカルの量は通常のアメリカ人より遥かに多かったものの、 ビューティープロダクトを全く使用しなかった日は尿に含まれるケミカルの量が激減。 通常のコスメティック・ブランドからクリーン・ブランドに切り替えるだけでも、尿に含まれるフタル酸モノエチル(MEP)の量が5分の1に減っているのだった。

私にとって『トキシック・ビューティー』を観終わった時点での最大の収穫と言えたのがこの点で、 多少価格がアップしてもクリーン・ブランドに切り替えることで、体内へのケミカルの混入が激減できるのは朗報。 中にはこの結果を見て「身体から排出できるのなら多少トキシックを含んだプロダクトを使用しても大丈夫」と 極めて楽観的な見解にたどり着く人も居るけれど、実際にはケミカルの分解と排出は身体にとって大きな負担。 ただでさえ現代人の生活は、野菜に含まれる農薬、食品の防腐剤、空気中の埃に含まれるケミカル、プラスティック容器等、 ビューティー・プロダクト以外にも体内にケミカルが混入する要因が山ほどある訳で、 それらの分解や排出のための身体の負担はエイジングを早めるだけでなく、アレルギー、不妊症、流産、生まれてきた子供の自閉症、引いてはがん等、 様々な弊害をもたらすのは言うまでもないこと。
今では男性もパーソナル・ケア・プロダクトをかなり使用するようになっているけれど、 その市場の拡大ぶりと近年の精子クォリティの低下ぶりに着眼すれば、それらのプロダクトに含まれるケミカルが 男性の生殖機能にも大きな影を落としていることが窺い知れるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。


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