Jan. 13 〜 Jan. 19 2020
貧富の格差が生み出した選民思想!?
今、NYで増え始めたプライベート・レストラン
今週のアメリカでは遂にトランプ大統領の弾劾議決書が下院から上院に送られ、いよいよ弾劾裁判がスタートすることになった一方で、
アイオワ州の民主党予備選挙を目前に控えて、これまで同じプログレッシブ派でアライアンスの関係にあったバーニー・サンダースと
エリザベス・ウォーレンの仲が、水曜に行われたディベート後にウォーレンが握手を拒むほどに悪化。
同じ日にはアメリカと中国が貿易協定の第一フェイズで合意に達し、中国が向こう2年でアメリカから農作物、エネルギーを含む2000億ドル輸入を増やすことで
合意。しかしながら同様の合意をこれまで中国が無視し続けてきているのに加えて、既に引き上げられている中国からの3600億ドル分の輸入品に対する関税はそのまま。
それについては「第二フェイズの交渉を有利に進めるための切り札」と説明されるものの、引き続きアメリカの庶民が毎日の消費の中で税金を余分に巻き上げられることになるのだった。
木曜にはグーグルの親会社、アルファベットがアップル、マイクロソフト、アマゾンに続いて1兆ドル企業の仲間入りを果たしているけれど、
現時点でこれらにフェイスブックを加えた5社の企業規模はS&P500インデックスの19%。
2012年にはS&P500上位5社の比率は12%で、大企業の独占状態が確実に進んでいる様子を示しているのだった。
「Super Riches Get Even Richer」のシナリオに更に拍車が掛かっているのは、今やデータを必要としないほど明らかな事実であるけれど、
そんなメガ・リッチの生活全般を満たす居住区として2019年4月に第一フェイズがオープンしたのがハドソン・ヤーズ。
その中で最もラグジュアリーなコンドミニアムを含む建物が35ハドソン・ヤーズ。
ここには同プロジェクトのデヴェロッパーで、昨年トランプ大統領のためのファンドレイジングを行ったことでボイコットの対象になったビリオネア、
スティーブン・ロスも物件を所有しており、143ユニットのコンドミニアムのお値段は日本円で約5億5000万円から30億円。
そのビル内に2019年10月ににオープンしたのが メガ・リッチのためのプライベート・サパー・クラブ、”WS New York (写真上右)”。
WS New Yorkはスティーブン・ロスの不動産開発会社、リレーテッドのダイニング部門の第一人者、ケネス・ヒンメルと
ワイン・スペクテーター誌の発行人、マーヴィン・シェイクンのコラボレーション企画で、
写真上左のWS タヴァーンという一般人でも足を踏み入れられるレストランのアッパー・フロアに位置する スーパー・エクスクルーシブなメンバー制レストラン。
35ハドソン・ヤーズの住人のためのアメニティとしてデザインされている訳ではないので、
住人ならメンバーになれるという訳ではなく、まずは紹介が必要。バックグラウンド・チェックをパスした場合に支払うイニシエーション・フィーは1万5000ドル(約165万円)、
年会費が7500ドル(約83万円)。
ここでのディナーが容赦なしに贅沢で高額なのは当然のことで、
膨大なワイン・セラーのセレクションはワインス・ペクテーター誌が90ポイント以上を付けたボトルのみ。
マスター・ソムリエを2人擁し、料理はミシュラン・スター・レストランから迎えた一流ゲスト・シェフがローテーションで担当。
ファイヤー・プレース(暖炉)をフィーチャーした広々としたラウンジ・スペース、高額ワインに囲まれたダイニング・ルームなどの
インテリアは、アップスケール・ダイニング・スペースを得意とするデヴィッド・ロックウェルが あえてヒップさを抑えた
昔ながらのクラブハウスとしてデザインしているのだった。
そのコンセプトは「10歳年上のソーホーハウス」というもので、メンバーシップ・クラブとして世界数か国で展開するソーホーハウスの
よりエクスクルーシブで、より財力と社会的パワーがあるヴァージョンというのがその説明。
お金儲けが目的というよりも、スーパー・リッチが
お金に糸目をつけない友人達と最高の贅沢を楽しむためのプライベート・クラブとしてデザインされているので、
ウェブサイトでさえメンバーでなければ閲覧できないようになっているのだった。
ニューヨークではレストラン側が来店客を選ぶケースは決して珍しくなく、ラルフ・ローレンが経営するポロ・バー(写真上左)、
元レブロンCEO、ロン・パールマンが経営するフレミング・バイ・ル・ビルボケといった ビリオネアがオーナーのレストランは、
自分のリッチな友人たちに快適なダイニング空間を提供することが最優先の経営。そのためピークタイムのテーブルは
セレブやスーパー・リッチのために常にリザーブし、一般の来店客は予約が入った時点でスタッフがグーグル検索をして素性をチェックしているのは
有名な話。その情報がテーブルのポジショニングにも反映されるけれど、
そうした配慮を行うからこそ、ポロ・バーのビル内にかつて存在したラルフ・ローレン・フラッグシップストアがクローズしても、
2017年のトランプ大統領のバースデー・ディナーや、2019年のメーガン・マークルのベイビー・シャワー前日に
メーガンがセリーナ・ウィリアムス、デザイナーのミーシャ・ノヌーらと楽しんだディナーの場所として ポロ・バーが選ばれるのだった。
でもこうした選民思想をビジネスに持ち込むのはビリオネア・ビジネスマンだけでなく、
今ニューヨークで「最もハプニングなパーティー・ホスト」と言われるミレニアル世代のプロモーター、オマー・ヘルナンデスも
2019年12月に リッチでエクスクルーシブ なメンバーを集めたプライベート・レストラン、Omar's / オマーズ と、
その階下で一般のクラブゴーワーでもアクセスが出来る La Boitre / ラ・ボアのコンプレックスをローワー・イーストサイドにオープンしたばかり。
オマー・ヘルナンデスの場合、昨年までアップタウンのレストラン、Vaucluse / ヴォクリューズの一部を間借りし、知る人ぞ知る
Omar's @ Vaucluse /オマーズ・アット・ヴォクリューズ(写真上右)を レストラン兼クラブとして経営しており、
それがセレブ・マグネットのパーティー・スポットになっていたのだった。
彼のビジネスの場合、レストランはプライベートでも クラブは一般人がアクセスできるのは、
ニューヨークのナイトシーンにおいては人種や職業、アップタウン、ダウンタウン等、様々なクラウドのミックスが
エキサイトメントをもたらすことを熟知しているためで、これは1970年代のスタジオ54の時代から
ニューヨークに脈々と生き続けるナイトライフのサクセス・フォーミュラなのだった。
ここへ来てプライベート・レストランがニューヨークで持てはやされてきた理由の1つは、
今や高額レストランに出掛けると アウト・オブ・タウナーのスペシャル・オケージョン客が多く、決して客層が良いとは言えないため。
ニューヨーカーは世界一外食回数が多いとあって、以前は高額レストランに頻繁に出掛けるニューヨーカーは多かったものの、
昨今ではそんな高額のダイニングアウトが出来るミドルクラスが激減。かつてのミドルクラスは
高額なレストランに行かないだけでなく、物価と税金が高いニューヨークからどんどん離れている状況。
ニューヨークのダイニングにおいて、マンウォッチングは料理と同じくらい大切な醍醐味なわけで、
オールドファッションにドレスアップしたアウト・オブ・タウナーを眺めて高額な食事をしたいと思うニューヨーカーは経済力とは無関係に極めて少ないのだった。
そのためリッチなニューヨーカーかインターナショナル・ジェットセッターを集めたダニング・スペースを可能にする手段として持てはやされるのがプライベート・レストランであるけれど、
昨今ではそれが超高額コンドミニアムを販売するための手段にもなってきている状況。
ジェニファー・ロぺスとアレックス・ロドリゲスが物件を購入したことでも知られる現時点で 西半球で最も高層のレジデンシャル・ビルディング、
432パーク・アベニュー(写真上右)内には、セレブ・シェフ、ショーン・ハガットがレストランをオープン予定。
もうすぐ世界最高層のレジデンシャル・ビルディングとなるセントラル・パーク・タワーの中にも3フロア構成、合計5万スクエア・フィート(4,645平方メートル)の
プライベート・レストラン&ラウンジ、”セントラル・パーク・クラブ”がオープンし、5スターのフード&サービスを提供するとのこと。
また2019年1月にヘッジファンダー、ケン・グリフィンが2億3800万ドル(262億円)で買い取ったマンハッタンの最高額のペントハウスを含む
現在建設中の220セントラル・パーク・サウス(写真上左)内には、ベテラン・フレンチ・シェフ、ジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテンが54席の小規模なレストランをオープン。
これらは住人以外にはアクセス不可能なプライベート・ダイニング・スポットで、「最低でも数億円のコンドが買える人々とその友人」という条件が客層をコントロールすることになるのだった。
とは言ってもパー・セとフレンチ・ランドリーでミシュラン三つ星を獲得するシェフ・オーナー、トーマス・ケラーが「お金儲けがしたかったらハイエンド・レストランよりも
マクドナルドのフランチャイズを経営するべき」と語る通り、高額のプライベート・レストランは利益追求には不向きなプロジェクト。
にも関わらず高額デヴェロプメントが プライベート・レストランを施設内にオープンするのは、
そうでもしなければ高額コンドが売れない時代に入っているため。2015年以降に新築された高額コンドミニアムのうち25%が売れ残っていると言われるけれど、
ビリオネア・ロウとネーミングされ世界中の大金持ちがこぞって購入することが見込まれていたセントラル・パーク・サウス、57丁目エリアの物件になるとその売れ残り率は何と40%。
そのビリオネア・ロウの先陣を切って開発されたビルディングで、マイケル・デル(デル・コンピューター創設者)が110億円のペントハウスを購入した「ワン57」は、
2019年のニューヨークで売却損失が最も大きいビルディングになっていたのだった。
ニューヨークのフード・クリティックは、コンドミニアム内のレストランには極めて否定的で、「同じビルの住人ばかりがやってくるレストランで
食事をしたいと思う大金持ちがどれだけ居るか?」と指摘。
加えて大金持ちが気分良くお金を遣うのは、それが払えない人々が見守る中で、サーバーやマネージャーに特別扱いをされるからで、
大金持ちしかいない 大金を払って当たり前の環境でもそれが楽しいかは別の話。
その場に足を踏み入れられる優越感にしても、羨ましいと感じる人々が周囲にいない限りは長続きしないものなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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