Jan. 20 〜 Jan. 26 2020
女性CEO解雇スキャンダルで暴露された
グラミー賞の腐敗、セクハラ、金銭問題
今週のアメリカでは火曜日からスタートしたトランプ大統領の弾劾裁判と、中国から広まるコロナウィルスのニュースに最も報道時間が割かれていたけれど、
週末に入ってウィルスのグラウンド・ゼロである武漢市のドクターが死亡したニュースを受けて、ウィルスの感染率だけでなく 致死率の高さが危惧されるのが現在。
アメリカでは2019年10月の時点で、ジョンズ・ホプキンズ大学のヘルス・セキュリティ・センターが
その研究の一環として コンピューター上でコロナウィルスの仮想パンデミックをモデル化していたとのことで、
センター関係者は現状があまりに仮想モデルに近いことに驚いているとのこと。
もしそのモデル通りのパンデミックであった場合、向こう18ヵ月間に世界中の6500万人が命を落とすリスクがあるとのことで、
8,098人が感染し、774人が死亡した2004年のSARSを遥かに上回る感染力と被害が見込まれるのだった。
前回のSARSの際には感染が広まっても 事実を隠蔽して批判を浴びた中国政府は、
今回のコロナウィルスではそれより遥かに早い対応を見せているものの、
死者数、感染者数等を含む詳細情報については政府の発表や報道を疑問視する声が中国市民の間で聞かれいたのが今週。
アメリカでは、週末までにカリフォルニア、ワシントン、イリノイ、アリゾナ州で計5人の感染が認められ、それらは全て武漢市を訪れた旅行者であることが伝えられているのだった。
さて、私がこのコラムを書いている1月26日、日曜は第62回グラミー賞授賞式の日であるけれど、
今回の授賞式はテイラー・スウィフトを始めとする複数のアーティストがボイコットをしたことが伝えられており、
その原因となったのがグラミー賞を主宰するレコーディング・アカデミー史上初の女性CEO、デボラ・デューガン(写真上右)の辞任をめぐるスキャンダル。
事の発端はグラミー賞の10日前に、レコーディング・アカデミーが職場でのハラスメントを理由にデボラ・デューガンの休職処分を発表したこと。
女性蔑視発言が問題になって職を追われた前任者、ニール・ポートナウ(写真上左)に代わって2019年5月にCEOに就任したデューガンは、
本来ならアカデミーを建て直すはずだった存在。そのデューガンが職場で虐待的なマネージメントを行っていたことがメディアで報じられ、
加えてアカデミーのメンバーの弱みを握っていた彼女が それをネタに恐喝行為を目論んでいた疑いが浮上。
程なく解雇されているのだった。
しかしそれに反旗を翻したデューガンが、 レコーディング・アカデミーの不正、金銭面を含む組織的な腐敗、
男尊女卑、白人至上主義のカルチャーを含む内情を メディアに語ったことから、その解雇がスキャンダルに発展。
レコーディング・アカデミー側はデボラ・デューガンの言い分が事実無根であること、
「年に一度の音楽の祭典である授賞式が、自分の解任劇にスポットライトを当てたいデューガンのせいで
台無しになるのを恐れている」とコメントしたものの、多くのミュージシャン達がサポートしたのはデューガン側。
その背景にあるのはこの問題以前から彼らがグラミー賞とレコーディング・アカデミーに抱いていた不信感で、
特に前CEO、ニール・ポートナウが2018年の授賞式直後に、メディアから「女性アーティストのノミネート者が少ない」と指摘されて語った
「女性アーティストは(男性アーティストと対等に張り合うには)、もっとステップアップしなければダメだ」というコメントは、
男女双方のミュージシャン、メディア、そしてファンからも大きな批判を浴びており、この発言がそれまで
レコーディング・アカデミーで大きなパワーを誇ったニール・ポートナウを辞任に追い込んだと言われるのだった。
デボラ・デューガンがメディアに暴露したレコーディング・アカデミーの腐敗ぶり、不正行為は以下のようなもの。
- 前CEO、ニール・ポートナウによる女性アーティストに対するレイプ容疑。(ポートナウ側はアカデミーの捜査でその無実が立証されたと反論)
- 辞任したポートナウに対してアカデミーが毎年75万ドル(約8200万円)のコンサルタント料を支払うように要求。(デューガンはこれを拒んだとのこと)
- デューガン自身がアカデミーの法律顧問である弁護士、ジョエル・カッツ(写真上左)から受けたセクハラ行為。
- アカデミーがジョエル・カッツに対して支払っている法外な法律顧問料。その過剰ぶりを役員会議で指摘したデューガンは その場を立ち去るように言い渡され、彼女不在の会議で法律顧問料の更なるアップが可決されたとのこと。
- ジョエル・カッツは 彼が経営する法律事務所のクライアント、ニーマン・マーカスをグラミー賞のスポンサーにするための画策をし、デューガンに圧力をかけた。
- アカデミーの役員たちは、グラミー賞関連の不必要な業務をでっちあげては、それに対して平均10万ドル(約1100万円)のフィーを受け取っていた。
- グラミー賞のノミネーションは 役員達が自分と親しいアーティスト、 自分に利益をもたらすアーティストをノミネートするための話し合いで決定され、それ以外にTV放映のプロデューサーが 視聴率獲得に必要と見なされる楽曲やアーティストがノミネートされる仕組み。
- レコーディング・アカデミーは”ボーイズ・クラブ(男性社会)” 、もっと厳密にいえば ”白人男性至上主義団体”で、女性蔑視、セクハラ、支払い不平等など、様々な訴訟を抱えている。
- アカデミーの役員会はデューガンが握っていたアカデミーの内情が「全て事実無根である」という 書類にサインするように彼女に圧力を掛け、会計監査が入らないように その書類を会計会社に送り付ける段取りを整えていた。
- デューガンとアカデミーの間では2019年12月から彼女の辞任をめぐる交渉が弁護士を通じて行われ、 合意に達する直前にアカデミーが一方的にそれを破棄。直後に職場での ハラスメント容疑でデューガンが休職処分を受けたとのこと。
- デューガンがアカデミー内部の腐敗の証拠を握っていることから、アカデミーは彼女に 約23億円の口封じ退職金をオファー。デューガンはこれを拒んだとのこと。
上記のうちグラミー賞のノミネーションについては、1万2000人と言われるアカデミーのメンバーの投票よりも優先されるのが
役員の意見とのことで、今年のソング・オブ・ジ・イヤーにノミネートされたうちの
1曲はこのカテゴリーの投票結果では18位であったとのこと。
にも関わらず役員の主張でノミネートされており、エド・シーラン、もしくはアリアナ・グランデが
ノミネーションを逃したというのがデューガンの説明。同様のことは毎年様々な部門で起こっているとのこと。
また役員会にはミュージシャンも含まれており、そのミュージシャンは
有利にノミネーションを獲得できるようになっているのだった。
グラミー賞については、長きに渡ってそのノミネーション・プロセス、および受賞者選出について
疑問の声が聞かれており、2017年にはカニエ・ウエストが「音楽の趣味が悪い白人が選ぶからこんな受賞者になる」と
怒りのコメントをした他、過去に何度もミュージシャンによるボイコットが起こってきたイベント。
特にアフリカ系アメリカ人アーティストは、ビヨンセ、ケンドリック・ラマーなどがノミネートはされても
アルバム・オブ・ジ・イヤー、レコード・オブ・ジ・イヤーといった 売り上げに大きな影響を及ぼす賞を逃してきたのは
紛れもない事実。土曜日に行われた著名レコード・プロデューサー、クライブ・デイビス主宰の
毎年恒例のプレグラミー・パーティーでは、ショーン・ディディ・コーンが「黒人層の音楽はグラミーから決して正当な評価を受けたことがない」という
50分のスピーチを行い、会場がスタンディング・オーベーションになっていたのだった。
ミュージック・ファンであればあるほど今回のスキャンダルがきっかけで 今年に限らず、過去の受賞アルバムや受賞者についても
複雑な思いを抱くことになると思われるけれど、
映画のアカデミー賞にしても そのメンバーの多くが白人男性で、長年のメンバーは
ノミネート作品を全て観ることなく、映画会社によるロビー活動の恩恵に対して投票してきたことは過去にニューヨーク・タイムズ紙を含む複数のメディアが記事にしていたこと。
そう考えると「授賞式イベントやその栄誉にどの程度の意味があるか?」という疑問に到達するけれど、
アカデミー賞にしてもグラミー賞にしても、裕福な白人男性のリタイアメント収入源としては
極めて大きな役割を果たしていることだけは確かなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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