Dec. 30, 2019 〜 Jan. 5 2020
混迷の幕開けを迎えた2020年の
アメリカのニューイヤー・レゾルーション(決意)は?
通常年末になると、その年を振り返る特集で放映時間を潰すほどニュース・ネタが無くなるのが報道の世界であるけれど、
2019年末はそんな編集ビデオを放映している時間がないほどに 相次ぐ小型飛行機事故、
教会やシナゴーグを舞台にしたヘイト・クライム、インドの新たな移民法をめぐるデモ、
フランスの新たな年金制度をめぐるデモ、引き続き状況が悪化する香港の民主化デモ等、
国内外のニュースの報道に忙しかったのがアメリカのメディア。
中でもニュー・サウス・ウェールズを中心にオーストラリアの200箇所以上で起こっている山火事のニュースは逃げ惑うカンガルーや、火傷したコアラの姿を見て
心を痛める人々が多かったけれど、過去3年続いた干ばつの影響も手伝ってその被害はまだまだ広がる見込み。
現時点で焼死が伝えられる動物の数は2万頭以上のコアラを含む5億匹。
これを受けて シドニーで新年と共に打ち上げられる花火を中止し、
その費用を山火事の被災者に寄付する署名がオンライン上で集まったものの、
オーストラリアのスコット・モリソン首相は「今こそ楽観的なオーストラリアを世界に示すべき」と花火を決行。
そのため今年のシドニーのニューイヤー花火を複雑な思いで眺めた人々はオーストラリア国内だけでなく世界中に多かったと言われ、
新年早々火災の被災地を視察で訪れたモリソン首相に対しては 現地の住民から罵倒の声が聞かれていたのだった。
でも2020年の第一週目が終わってみれば、その報道はトランプ大統領の独断で行われたアメリカ軍の攻撃で
イランの最高司令官であり、国民のカリスマ的英雄、Qasem Soleimani / カセム・ソレイマーニーが殺害されたニュースで持ち切り。
ソレイマーニーはブッシュ、オバマ政権が共に暗殺のチャンスがあっても、あえてそれを決行しなかったと言われるほど
イラン国民の感情と深く結びついた存在。それだけにアメリカに対する報復は時間の問題で、
既にアメリカ国内に潜伏すると言われるテロリストを危惧して ニューヨークは金曜日から厳重警戒体制。
経済市場ではユーロに対してスイス・フランが、ドルに対して円が上昇し、今後は原油価格のさらなる高騰が見込まれるけれど、
今回の攻撃によって既に中東において対アメリカで歩調を合わせつつあったロシア、イラン、中国の協調体制が
今後さらに強まることが最も懸念されているのだった。
さてアメリカでは年明けと共にニューイヤー・レゾルーション、すなわち”新年の決意”が話題になるのが毎年のこと。
そのニューイヤー・レゾルーションの定番と言えば「体重を落とす」、「健康的な食事をする」、「タバコを止める」、「エクササイズをする」といった
健康関連であるけれど 2008年の前回のリセッション以降、多くのアメリカ人のレゾルーションに加わったのが「借金を返す」
「貯金をする」という金銭面の決意で、過去2年ほどの間には「Find Better Job (もっと良い仕事を見つける)」という決意もリストされるようになっているのだった。
振り返れば2010年代はアメリカでリセッションが起こらなかった珍しいデケード(10年間)。そのため次のリセッションの規模を恐れる経済専門家は多く、
それまでに学費ローン、自動車ローン、住宅ローンを少しでも減らしておくことが奨励されるのだった。
その一方で近年「タバコを止める」より増えているのが「アルコールを飲まない、消費量を減らす」というレゾルーション。
というのもアメリカにおける喫煙者数は既に過去50年で最低レベル。
それよりアメリカ人が止める、もしくは減らすことに真剣に取り組んでいるのがアルコールで、
ホリデイシーズン後に肝臓を休めるための ”ドライ・ジャニュアリー” を2020年に行う人の数はアメリカだけでなく、
欧米諸国で過去最多になる見込み。
私も2019年6月から家ではワインを飲まない”ドライ@ホーム” を実践して体重を2.5キロ落としたことをフェイバリットのコラムでご報告したけれど、
ドライ・ジャニュアリーを行う人々の中には「年明けと共に取り組むダイエットに弾みをつけるために飲まない」という人も多いのだった。
それ以外にここ2〜3年で増えているレゾルーションが、身体の健康だけでなく
メンタル・ヘルスを心掛けるということ。以前にも「ストレス対策をする」、「メディテーションをする」という形で
精神面の健康を挙げる傾向はあったけれど、近年ではそれら全般を ”メンタル・ヘルス” と捉え、
その対策として「睡眠をしっかりとる」、「友達や家族との時間を持つ」、「ヨガやメディテーションをする」といったことを
心掛ける人々が増えているとのこと。
加えて「世の中で起こっているクレージーな出来事に感情移入をし過ぎない」というのもそんなメンタル・ヘルス対策に含まれているのだった。
アメリカ人が世の中で起こっている出来事を知る情報ソースは今やニュースよりもソーシャル・メディアになってきているけれど、
2020年に多くのアメリカ人がニューイヤー・レゾルーションに挙ているのが「ソーシャル・メディア・デトックス」。
そのためにスクリーン・タイムを減らす人々も居れば、ソーシャル・メディア・アカウントを減らす人々も居るようだけれど、
「ツイート、リツイートを控える」と特定のソーシャル・メディアに限ってデトックスを試みる例も少なくないのだった。
その反動でか、2020年に意外に多いのが「本を読む」というレゾルーションをリストに加えるアメリカ人。
またそれまでソーシャル・メディアで自分が出掛けた旅先のスナップや、出掛けたレストランの料理などをポストしていた人々が
徐々に「自分のプライバシーを守る」、「もっとプライベートな人間になる」というレゾルーションを掲げるようになってきているのも昨今。
メディアの専門家の中には その傾向を「20代にインフルエンサーとして収入を上げることを目指していたミレニアル世代が、
30代に入ってリアリティに目覚めてきた結果」と分析する声も聞かれるけれど、「プライベートな人間になる」というのは
実はそれより若いジェンZ (ジェネレーションZ)にアピールしているスローガン。
例えば12月に18歳になったばかりのシンガーで、ジェンZに多大な影響力を持つビリー・アイリッシュ(写真上左から2番目)は
その痛々しくも美しい楽曲とバギー・クロージングで知られるけれど、
彼女がバギー・クロージングを着用する理由として語っているのが「自分の全てを見せたくない」、「誰にでも秘密やプライバシーがあって当然」
というもの。それと共に「ソーシャル・メディア上のボディ・シェイミング(体形についてバカにしたり、批判すること)とは無縁でありたい」という意図も語っているけれど、
これは2010年代に私生活からヌードまでをソーシャル・メディアやリアリティTVで世間にさらして大儲けした一方で、ボディ・シェイミングを嫌って
フォトショップ修正した写真をポストしてきたカダーシアン・ファミリーとは正反対のコンセプト。
もちろんジェンZもソーシャル・メディアは使うけれど、この世代に最も人気のアプリ TikTokは
ダンスムーブやコメディをビデオ・ポストするもの。
「ソーシャル・メディア・デトックス」の中には、ボディ・シェイミングをはじめとするサイバー・ブリーング(いじめ)はもちろんのこと、
今年の大統領選挙までに益々増えると見込まれる政治的意図によるデマやウソのポストに
いちいち振り回されたくないという意味も含まれているのだった。
2020年に30%以上のアメリカ人がニューイヤー・レゾルーションの1つに挙げているのが環境問題に個人レベルで取り組む何らかの決意。
その中には「出来る限りオーガニックの食材を食べる」、「リユーザブル・ボトルを持ち歩いて、ボトルド・ウォーターを買わない」、
「下着と靴下は除いて、服は1年に10枚しか買わない」 もしくは「ファスト・ファッション(ZARA, H&M等)は買わない」、
「電化製品を長く使って、買い替えを遅らせる」、「ケミカル・フリーの化粧品を使う」等があるけれど、
ニューヨークでは2020年3月からスーパー等のビニール袋に対して3セントのエンバイロメンタル・プロテクション・ファンドがチャージされるとあって、
それを待たずしてマイバッグを食材店に持ち込んでショッピングをする人々が目立っているのが昨今。
今年のゴールデン・グローブ賞にしても、授賞式中にサーヴィングされるディナーが初めてヴィーガン・メニューになっただけでなく、
ウォーターボトルがプラスティックからグラスに代わり、ペーパーストローが使用されるというサステイナビリティが打ち出されているけれど、
環境問題への取り組みは個人レベルだけでなく 企業にとってもそのイメージを左右するだけに取り組みが顕著になってきているもの。
私自身も2019年は非常対策用のボトルド・ウォーターを1ダース購入しものの、それ以外はボトルド・ウォーターは1本も買っておらず、
そのポリシーは2020年も貫くつもりだけれど、これは環境だけでなく自分の健康を考えてのこと。
ボトルド・ウォーターの方が水道水よりもヘルシーと信じる人は多いものの、実際には搬送中にちょっと気温が上がっただけでも
プラスティックとそのケミカルが水に溶け込むのは周知の事実。
そもそも平均的な現代人は年間5万粒のプラスティックの破片を体内に入れている計算で、
そんな体内に混入するプラスティックの量を劇的に増やすのがボトルド・ウォーター。
プラスティックはビニール袋やストローなどのゴミだけでなく、産業廃棄物としても海水に流れ込んでいるので、
魚の身にもプラスティックとそのケミカルが含まれるのは言うまでもないこと。そのため水銀や放射能同様にそれを嫌って魚を食べない人が増えているけれど、
食べ物から摂取する量より遥かに深刻なのが 飲料水と空気中からその粒子を吸い込むことによって体内に入るプラスティックの量。
プラスティックとそのケミカルは免疫システムにダメージを与えるので感染症、がん、うつ病までのリスクを高めることが指摘されているのだった。
その一方で民主党支持者を中心に見られるニューイヤー・レゾルーションの中に「新しい大統領を選出する」というものがあるけれど、
トランプ政権がクライメート・チェンジを否定し、環境問題に取り組まないだけに、
大統領選挙の争点に環境問題を持ち込む人々は決して少なくないのが実情。
前回2016年の大統領選挙前後のアメリカでは、その支持者をめぐって家族や友人と喧嘩をしたり、口を利かなくなるケースが非常に多かったけれど、
2020年にメディアを通じて働きかけられていたのが 「Be Kind(親切にする)」と、
「自分の主張を抑えて、他人の意見を聞く」というレゾルーション。
2016年の大統領選挙以降のアメリカでは、特に政治や人種問題が話題になると自分と異なる意見を聞かずに否定したり、
相手を無知扱いするのは与野党両党の支持者に言えることで、それは悪化を辿る一方。
多くのアメリカ人にとってニューイヤー・レゾルーションの多くが ”年明けだけのスローガン” に終わるのは毎年のことだけれど、大統領選挙の年に「異なる意見を聞く」というのは
今のアメリカでは非現実的と言えるほどに不可能なレゾルーションと言えるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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