Dec. 9 〜 Dec. 15 2019

”The Gift That Gives Back?”
大顰蹙CMのペロトン、
期待外れユニコーンに空売り投資家が更なる一撃



今週のアメリカではトランプ大統領弾劾プロセスがさらに進行。来週には下院全体がトランプ氏の職権乱用と、司法妨害の2つの容疑で 正式に弾劾に踏み切る投票を行う運びとなっているけれど、昨今の有権者はアテンション・スパンが短いのに加えて、 現在のホリデイ・シーズンも手伝って国民の関心が徐々に弾劾から離れているのは紛れもない状況。 最新の世論調査では51%がトランプ氏を辞任させるべきではないとの意向を示しているのだった。
また今週にはニューヨークとお隣ニュージャージー州で全米ネットで報じられる事件が起こっているけれど、 その1つはユダヤ系が多いジャージー・シティで起こったヘイトクライム。武装したアフリカ系アメリカ人男女2人と SWATが街中で1時間以上に渡って映画のシーンのような銃撃戦を展開。6人の死者を出しているのだった。 事件の中心地はユダヤ系のスーパーであったものの、射殺された容疑者2人が狙っていたのは その通りの向かいにあるユダヤ系の学校と言われているのだった。
もう1つの事件はコロンビア大学のアフィリエイト校であるバーナード・カレッジの女子学生(18歳)が、12月11日午後7時に キャンパス近くのモーニングサイド・パークでティーンエイジャー3人にに襲われ顔、首、腹部を数回刺されて死亡した事件。 その後の調べで女子学生がマリファナを購入するためにあえて治安の悪い公園に暗くなってから出かけたことが判明。 既に逮捕された容疑者の年齢は13歳、14歳で、 通行人から金品を脅し取る目的で公園に出かけ、殺害された女子学生に狙いを定めたことを自供。しかし 実際に女子学生を刺殺した容疑者は未だ逮捕されておらず、この容疑者は事件数日前にも別の女子学生を追いかけて、 暴力を振るった様子が目撃されているのだった。




さて先週からアメリカで大々的な物議を醸してきたのがスピニング・マシン、ペロトンのCM(上のビデオ)。 ペロトンは目の前のディスプレーでライブ、もしくは事前録画されたスピニング・クラスの様子をストリーミングし、 自宅に居ながらしてクラスに参加している臨場感でエクササイズが出来ることをウリにしたマシン。 11月末からYouTubeとTVで放映がスタートしたホリデイCMのタイトルは「The Gift That Gives Back」。 クリスマスにペロトンを夫にプレゼントされた妻が既にスリムな体形にも関わらず。ビデオダイアリーを録画しながら毎日のようにエクササイズをして、 1年後のクリスマスに夫婦でその成果を収めたビデオ・ダイアリーを観る様子がラストシーンのミニドラマ仕立て。
しかしながらこのCMが「男性が厳しいルックスのハードルを女性に押し付け、それに痛々しい努力で応える妻」と 受け取れることから「女性蔑視」、「時代錯誤もはなはだしい」と大バッシングを浴びたのがペロトン。 僅か2日間にその株価は9%下落し、9億2400万ドルの企業価値が失われているのだった。
ソーシャル・メディア上にはCMのパロディビデオが何本も登場してヴァイラルになっていたけれど、 そのうちの1本はエクササイズに嫌気が差した妻が1年後に離婚書類を突き付けるという結末。 それほどまでに世の中の関心が集中したことから CMの中で夫婦を演じた俳優2人にも取材が殺到。 夫を演じたカナダ人男性は本業が教員で俳優はパートタイム・ジョブ。CMのバックラッシュが教員としてのキャリアに悪影響を及ぼすことを危惧して、 「出演を断るべきだった」と後悔する一方で、エクササイズに励む妻を演じた女優については、 俳優のライアン・レイノルズが彼女に同情して自らのブランドのジン・ブランド、アヴィエーションのCM(下のビデオ)に起用。 タイトルは「The Gift That Doesn't Gives Back」で、散々メディアで叩かれた彼女が女友達とバーで憂さ晴らしにマティーニを飲んでいるという設定の広告が 今週から放映されて話題になっていたのだった。






CM止まらず、ペロトンという企業自体も決して物議とは無縁ではない存在。まずオーバー・プライスと批判されるのが ペロトンのスピニング・マシンでお値段は課税前で約2200ドル。 加えて毎月ストリーミングのサブスクライブに38ドル、年間456ドルを支払い続けるのがそのシステム。
でもマシンよりオーバープライスと批判されるのが同社の株価で、 ペロトンがナスダックに上場したのは2019年9月27日のこと。 その売り出し価格は27ドル。 これはペロトンの業績の8.5倍で企業価値が査定された計算。 2018年に売り上げが100%アップしたペロトンであるものの、多くのユニコーン企業同様に 業績は大赤字で、 2018年にはそれまで5000万ドルであった負債が5倍の2億5000万ドルに膨れ上がっているのだった。
それもあって公開直後に11%下落したのがペロトンの株価。 この下げ幅は2019年にIPOを行ったユニコーン株の中では、家庭用歯科矯正キットを販売するスマイル・ダイレクト・クラブに次ぐ第二位。 それまで二位だったUberがこの不名誉なリストの三位にランクダウンしているのだった。
その一方で2019年に入ってから複数のレコード会社がペロトンを相手取って起こしているのが ストリーミングで放映されるクラスで掛かっているBGMを 無断でビジネスに使用しているという賠償請求の訴訟。 さらには余計なコメントや偽った業績を語るCEO、ジョン・フォーレイ、妻でペルトンのアパレル部門の副社長、ジル・フォーレイというカップル(写真上)が 9月にIPOを断念したユニコーン企業、WeWorkのアダム・ニューマンと妻のレベッカ・パルトロー・ニューマンを彷彿させるという声も聞かれるのだった。

そんな大バッシングを受けるペルトンに追い打ちをかけるかのようなレポートを今週発表したのが ショート・セリング(空売り投資)で知られるシトロン・リサーチ。そのレポートによれば、ペロトンの本来の企業価値はIPOの段階で査定された80億ドルではなく10億ドル。 そのヴァリューが正確に反映された場合のペロトンの株価は3ドル。 シトロン・リサーチは2020年内にはペロトンの株価が5ドルにまで下落すると予測しているのだった。




シトロン・リサーチによれば、ペロトンの2,245ドルのマシンは他社の半額以下のバイクに比べて決してクォリティが良いとは言えない製品。 他社のバイクに12ドルのガジェットを取り付けて、スマートフォンやタブレットを装着すれば、あとはペロトンのアプリを サブスクライブするだけで ペロトン同様のマシンに早変わりすることを指摘。しかもバイクを所有せずアプリだけをサブスクライブする場合、 月々のサブスクリプション費用は13ドル。毎月25ドルが節約が出来るとして、ペルトンの高額バイクの必要性を否定しているのだった。
その一方で右上の資料が示す通りペロトンの企業価値が実際のユーザー数に対して高すぎることを指摘。 同社企業価値が初期投資家をベイルアウトするためのオーバー・バリューであったとして批判しているのだった。

シトロン・リサーチは前述のようにショート・セリングを専門に行う投資企業で、空売りというと人によってはネガティブなイメージを持つけれど アメリカではショート・セラーは世直し型の投資家が多く、企業の不正やオーバーバリューを徹底的に調査してはその転落に大きく賭けるだけでなく、 時にその不正の実態を暴く役割を果たす存在。 過去にも 自らアクティビスト・インベスターを名乗るビル・アクマンがマルチ商法のハーバライフのショート・ポジションに賭ける一方で、 そのビジネスの不正を暴くプレス・カンファレンスを行ったケースなど、同様の例は幾つも存在するのだった。
いずれにしてもペロトンは、本来だったら2019年の株式市場を盛り上げていたはずのユニコーンIPOの期待外れの1つで、 頭を冷やしてみれば ストリーミング機能が付いただけの、購入者が限られた高額エクササイズ・マシンのメーカーに どうして88億ドルの企業価値があるのはかは極めて不思議な状況。
そうかと思えば今週12月11日にはサウジアラビアの国営石油会社 アラムコがサウジの証券取引所、タダウルでIPOを行い、 公開価格を10%上回るストップ高で取引を終了。2014年に株式を公開した中国のアリババが記録した 250億ドルを上回る 256億ドルを調達。この時点で株価総額が1兆8800億ドルとなり、 アップル社(1兆2000億ドル)を抜いて世界最大の上場企業となっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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