Dec. 2 〜 Dec. 8 2019

”The Real Problem of Fast Fashion”
ヴォーグ編集長、アナ・ウィンターが「買うな」と警告した
ファスト・ファッションの環境以外の問題点



今週のアメリカでは民主党が一方的に進め、ホワイトハウス&共和党が無視を決め込むトランプ大統領の弾劾のニュースに加えて、 ハワイのパール・ハーバー、フロリダのペンサコラの米軍基地でそれぞれ起こった銃撃事件が大きく報じられていたけれど、過去10年間に米軍基地で起こった銃撃事件の数は19。 2019年に入って週に1回ペースで起こる学校での銃撃事件よりは遥かに少ないとは言え、今週3日間に2回起こった事件は軍関係者にショックを与えていたのだった。
その一方で水曜にはロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーが点灯され、いよいよ本格的なホリデー・シーズンがスタートしているけれど、 今週月曜、サイバー・マンデーのオンライン・ショッピングの売り上げは ブラック・フライデーの74億ドルを上回る90億ドルで新記録を樹立。 しかし発送業者がオーバーキャパシティになっているのに加えて、サンクスギヴィング直後から20州が見舞われた複数のウィンター・ストームのせいで、 万難を排してホリデイ・ショッピング・シーズンを迎えたアマゾンでさえ商品送付が遅れている状況。 そのためFedEx、UPS、USPS(米国郵便局)はいずれもクリスマス必着の荷物のデッドラインを例年より早めているのだった。




今年のホリデイ・シーズンにアメリカ人がショッピングに費やすと見込まれるのは史上最高の1兆1000億ドル。 ホリデイ・シーズンにはアメリカ人の年間ショッピングの25%が集中しており、 そのショッピングの51%は以前から買おうと思っていた特定の品物をセール価格で購入するケース。 「こういう物が欲しい」という購入カテゴリーが決まっていて、セール品の中から気に入ったものを選ぶケースが30%、衝動買いは意外に少なく19%。 ショッピングをするストアは日頃から利用しているウェブサイトやストアが殆ど。 友人や家族等へのプレゼントに関しては引き続きギフトカード(商品券)が人気No.1。次いでアパレル&アクセサリー、書籍、 電子機器&関連アクセサリー、ホーム・デコレーション&ファーニチャーというのがトップ5になっているのだった。

そんなホリデイ商戦開始と同時にヴォーグ誌編集長、アナ・ウィンターがメディアを通じてショッパーに呼び掛けたのが「ファスト・ファッションを買わずに 上質な衣類を選んで長く着用するべき」というメッセージ。 インスタント・トレンドを追いかける使い捨て感覚の衣類が「ファスト・ファッション」と呼ばれて久しいけれど、 5年ほど前から指摘されてきたのがファスト・ファッションのビジネスによってアパレルが環境を害する業界の第二位にランクされているというデータ。
でも実際にはこれはフェイク・ニュースで 燃料、鉄鋼、航空、化学薬品、農耕業などファッションよりも 遥かに環境を害する業界が幾つもあるのが正確なデータ。 しかしながらエレン・マカーサー・ファンデーションの2017年の資料によれば、世界中で生産されるアパレルの87%が焼却処分、もしくはランドフィル(埋め立て)に使われるだけの無駄になっており、 アパレル&フットウェア業界が世界中の二酸化炭素産出量の10%を担っていること、テキスタイル業界が世界で生産される有害な化学物質の 20〜25%を使用しているのは紛れもない事実。
それにフォーカスした報道やドキュメンタリー・フィルムの製作が行われた結果、環境を害する悪役のレッテルを張られたのが H&M、ZARA、トップショップ、ファッション・ノヴァといったファスト・ファッションのトップブランド。 例えば通常のアパレルが1年を5〜8シーズンに区切って商品を企画・生産しているのに対して、H&Mはダイナミック・アソートメントと呼ばれるシステムで 年間52シーズン、すなわち1週間が1シーズン。商品入荷は週4回ペース。 ZARAを傘下に収めるインディテックス社にしても 同様のダイナミック・アソートメントを実践し、2018年だけで16億アイテムの衣類を生産。 同社オーナーCEO、アマンシオ・オルテガは個人資産700億ドルで世界第7位の富豪となっているのだった。




ファスト・ファッションのダイナミック・アソートメントがアメリカの消費者にどんな影響をもたらしたかと言えば、 ファッションのADHD(注意欠陥多動性障害)症状。 1980年代には年間に12枚しか衣類を購入しなかった平均的なアメリカ人が現在購入する数は68枚。 そのうちの半分は3回以下しか着用しないとのこと。
そんなファッションADHD症状は悪化する一方で、今年会社更生法を申請したフォーエヴァー21は利益を追求するあまり、 トレンド・キャッチアップがスローになったために業績が悪化したと指摘されるのだった。 現在売り上げを大きく伸ばしている”Missguided / ミスガイディド”は毎週100アイテムの新商品を加える一方で、 ”BooHoo / ブーフー”は毎日100アイテムの新商品をウェブサイトにアップするという驚異的なスピード。 今やこれらのアパレルのせいでH&Mさえもが不良在庫を抱えて業績を落としていることが伝えられるほどなのだった。

そんな状態なのでマリエ・コンドーが「スパークをもたらさないものは捨てる」と呼び掛ける以前から、平均的なアメリカ人が1年間に処分していた衣類は約36キロ分。 NYにあるサルベーション・アーミーの1店舗に3日間に持ち込まれる古着の量は18トンで、 その殆どは再販や寄付をされることなく処分されるのが通常。つい最近日本からやってきた友人が「ニューヨークのホームレスは着ているものがまとも過ぎてホームレスに見えない」と 語っていたけれど、今のアメリカ社会はホームレスが寄付されても拒むような安物を大量に買っては捨てているのだった。

でもこの状況が問題視され、世間の批判を浴びたファスト・ファッション大手が数年前から取り組んでいるのが、”エシックス”、”エコ・フレンドリー”、”サステイナブル”なファッション・ライン。 とは言ってもビューティー業界や食品業界の「オール・ナチュラル」、「グリーン・フレンドリー」といった宣伝文句同様、法的な規制が無いので これらは「言ったもの勝ち」の宣伝文句。 H&Mのサステイナブル・ライン ”コンシャス”や ザラの ”ジョイン・ライフ”は全く環境問題に貢献していないのが実情。
例えばZARAはそのサステイナブル・ラインで「染色に使用する水の量を減らしている」と謳っているものの、 実際には染色に使われる水の量は商品生産に使われる水の量の僅か1%。僅か1%であれば半分に削減したところで0.5%しか水の使用量を減らしていないことになるけれど、 そんな微々たる努力とは思えない宣伝ぶりで、要するに単なるイメージ戦略に過ぎないのだった。 またH&Mは店内にリサイクル・ボックスを設置し、いかにも古着がリサイクルされているように演出しているけれど、 実際には回収された古着は焼却処分になって二酸化炭素の排出量を増やしているだけ。
他のサステイナブル・ブランドにしても400種類遣われている化学薬品の数を3つ減らしただけでサステイナビリティを謳っていたり、 水の使用を減らし、リサイクル・アイテムを活用するために有害ケミカルの使用料が増えるなど、スローガンと実態が異なるケースが決して少なくない状況。 エシックスを謳うブランドにしても、子供の労働者を使っていないだけで 大人の労働者を非人道的な環境と給与でこき使って生産を行うケースもあり、 ”エシックス”、”エコ・フレンドリー”、”サステイナブル”の実態は ファスト・ファッションを含むアパレル会社のイメージ・スローガンであるケースが殆どなのだった。




とは言っても、これだけ化学繊維が進化した世の中では今さらケミカルやオイルを使用しない天然素材100%に戻るというのは論外。 ストレッチ、アイロンフリー、通気性など、パフォーマンス・アパレルを中心に化学繊維の進化は現代人の生活を遥かに快適かつ合理的にしているもの。
問題はファスト・ファッションがその劣悪クォリティ・バージョンを使い捨てアイテムとしてミレニアル世代を中心に売りつけているせいで、 この世代がファッションという物を長く愛用するものとは考えなくなってしまったこと。だからこそ週1枚以上のハイペースでショッピングをしては、 年間に約1800ドルを やがて捨てるだけの服に費やす廃棄物マシンのような消費をしているのが現在。 なのでミレニアル世代に私が1990年代に買ったドルチェ&ガッバーナやプラダのドレスを未だに着用していると話すと、 まるで私がアンモナイトの化石でも所有しているかのように驚くけれど、それらは 近年のドルチェやプラダより遥かにセンスもカットも良いし、何より着ていて褒められるのだった。

前述のアナ・ウィンターの呼びかけ通り、本当に環境問題をシリアスに捉えるならば 実態が伴わないサステイナブル・アパレルにお金を注ぐよりも、 買った服を長く、何度も着用して、安物を買い漁らないのが一番の解決策。 もし1枚の衣類を9カ月長く着用すれば、その生産で生じたカーボン・フットプリントを30%軽減することが可能になるのだった。
たとえ自分が長く着用しなくても、ある程度上質なアパレルであれば リセール業、レンタル業の活用によって服の命を長らえる手段もある訳で、 今やアメリカ人女性の3人に1人が利用するのがリセール・ショップ。2022年まで毎年15%の売り上げの伸びが見込まれるのがリセール・セクターで これはアパレル業の5倍の伸び率。 世の中の人々が1年に1枚、新品の代わりに中古衣類を購入するだけで 5000万台分の車が排出する二酸化炭素を1年分軽減すことが出来るのだった。

一方のレンタルは未だ6%程度のアメリカ人女性しか利用していないけれど、その最大手であるレント・ザ・ランウェイ(以下RTR)は、 今週木曜にマリオット・インターナショナルとのパートナーシップで、RTRクローゼット・コンシアージュという新たなサービスをスタートしたばかり。 これはマリオット傘下のWホテルの宿泊客に4枚のアウトフィットを69ドルで貸し出すというサービス。 これがスタートしたのはアスペン、サウスビーチ、ハリウッド、ワシントンDCの4つのロケーションで、各ホテルに設置されているのがそれぞれの気候や 社交オケージョンに合わせたワードローブのストック・ルーム。 これによって旅先の写真をインスタグラムにアップしたからといって その服を破棄する必要が無いのに加えて、 チェックイン荷物無しで身軽に旅行が出来る、パッキングを含む様々な手間が省けるというメリットが望めるのだった。
私にとってRTRの唯一の問題は同社が世界最大のドライクリーナーであるという点。 ドライクリーニングは衣類の汚れが落ちない割には確実に衣類にダメージを与えて、 環境にも悪影響をもたらすので私自身は25年以上利用していないサービス。 「高額で上質な服ほど汚さない、洗わない」というのが私が母から学んだ教訓で、 その母が40年以上前にカスタムメイドしたカシミアのコートは私のクローゼットで今も現役の1枚。 もちろんドライクリーニングには一度も出したことが無いのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行


★ 書籍出版のお知らせ ★


アマゾン・ドットコムからのご注文
楽天ブックスからのご注文

当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2019.

PAGE TOP