Nov. 25 〜 Dec. 1 2019
2019年のアメリカ最大のレストラン・トレンド、
”ゴースト・レストラン”
今週は木曜がアメリカ最大のホリデイ、サンクスギヴィング・デイであったことを受けてホリデイ&トラベル・ムード一色になっていたけれど、
全米で5,500万人と言われた旅行者の予定を大幅に狂わせたのが3つのパワフルなサイクロン。
その一方でサンクスギヴィングと言えばターキー・ディナーが定番であるけれど、毎年この時期に開設されるターキー・クッキングに関する質問ホットラインでは
1980年代にはほぼ100%が女性からの問い合わせであったのに対して 今では男性からの問い合わせが25%を超えており、
時代の流れと共に夫婦の役割が徐々にシフトしている様子を窺わせていたのだった。
その翌日金曜のブラック・フライデーのセールは、オンライン・ショッピングが1日だけで記録破りの74億ドルの売り上げを記録。
これはアメリカでは史上2番目に高い1日のオンライン売り上げとなっているのだった。
しかしながら今週にはホリデイ・シーズンのオンライン・ショッピングの55%を売り上げると言われる
アマゾン・ウェアハウスの過酷な労働の実態にフォーカスした報道がいくつものメディアで行われており、
殆どの商品が2日で届く便利さの裏側で従業員が強いられる肉体的負担や怪我が問題視されていたのもまた事実。
昨年のサンクスギヴィング・デイから翌週月曜のサイバー・マンデー(年間でオンラインショッピングの売り上げが最も高い日)までの5日間に
1億8400万個のパッケージを発送したアマゾンのウェアハウスの中には1日に100万のパッケージを出荷したところも何軒かあるほどで、
その信じられないペースを可能にしているのがコンピュータライズされたシステムとウェアハウス内を動き回るボッツ(ロボット)。
しかしボッツの導入が多いウェアハウスほど、人間の従業員がそのペースに合わせるための肉体的負担を強いられており、
「ボッツが人間の仕事を楽にする」という経営側の言い分とは全く逆のシナリオ。
またアマゾンのウェアハウスは従業員の就業中の怪我の数が他社平均の4〜6倍と見積もられ、
その怪我の内容は腰痛、捻挫から脳しんとうまで様々。アマゾンは従業員が働くスピードをモニターするシステムを導入していることから、
たとえ就業中の怪我が原因で作業が遅れてもスタッフは解雇されること。
また就業中の怪我が原因の解雇には賠償金は支払われるものの、それが治療費と回復までの生活費をカバーするほどの金額ではないことも
元従業員の証言で明らかになっているのだった。
こうした報道の影響もあって、一部にはアマゾンをボイコットする動きがアメリカで見られているほか、
フランスでもアマゾンのウェアハウスの前で抗議デモが起こっていることが伝えられているのだった。
ここ数年のホリデイ商戦は 店舗を構えるビジネスにとってはオンライン・ショッピングとの闘いになっており、
ショッピング・モールでは来店客にシャンパンやチョコレートをサーヴィングしたり、無料のマッサージを提供したり、
リーバイスの各店舗では追加料金無しでカスタム・メイド・ジーンズのオーダーを受けるなど、
セール価格以外に来店客を増やすアトラクションを設けるのが近年の傾向。この秋マンハッタンに初進出したデパート、ノードストロームにしても
店内に7つもカフェやレストランを設けて(写真上左)、そのうちの1つは来店客が買い物をしている売り場にもフードをデリバリーするサービスを行っているような状況。
「でもユニークな飲食スポットを店内に設けるのが来店客のマグネットになるかと言えば、必ずしもそうとは言えない」というのが小売り専門家の意見で、
それというもの外食産業自体が全米で苦戦を強いられているため。
事実、外食の回数がアメリカ平均よりはるかに多いニューヨーカーでさえその外食回数が減っているので、
JGメロン、ミルク・バー、ルークズ・ロブスター、ブルーリボン・ブライドチキン、ル・パン・コティディアン等、ニューヨーカーに良く知られるチェーンの
ブランチや、トレンディ・スポットとして人気を集めたボンベイ・ブレッド・バー、ソーホーのデリカテッセンといった
レストランまでがどんどん閉店、撤退していたのが2019年のニューヨーク。
なので昨年大きなパブリシティを獲得して再オープンしたプレイボーイ・クラブ(写真上中央)が僅か1年ほどで
11月に閉店を発表した段階でも誰も驚かなかったのが実際のところ。プレイボーイ・クラブは一般客もアクセスできるプレイボーイ・バーと
最低約550万円、最高約27500万円を支払ってメンバーになった人々のみがアクセスできるプレイボーイ・クラブに別れており、
オープンを待たずして初回にオファーされた150人分のメンバーシップ、金額にして約2億5000万円相当が完売したことが伝えられていたけれど
これはマンハッタンで規模が大きな高級レストランやクラブを経営するための1か月分のバジェット。
例えばトランプ・インターナショナルホテル内のジャン・ジョルジュ・ヴォングリヒテンのミシュラン・スター・レストラン、ジャン・ジョルジュ(写真上右)は、
年間に27億円を売り上げても赤字経営であることが指摘されているのだった。
要するに外食産業はニューヨークのように人々の外食回数が多い街ではレントと人件費が高すぎて採算が合わず、
地方都市では来店客が少ないために利益が上がらないという状況。
ソーシャル・メディアに、「食事は美味しいけれど、自分たち以外にあと1テーブルしか埋まっていないガラガラな状態で、
居心地が悪かった」という書き込みが見られる通り、せっかく出かけてもガラガラなレストランで食事をするのを嫌がる人々は多いだけに、
特に地方都市では店側がどんなに努力をしても人々が外食を減らす傾向には歯止めをかけられないのだった。
そんな2019年のアメリカの最大のレストラン・トレンドがゴースト・レストラン、もしくはゴースト・キッチンと呼ばれるもの。
これはレストランでありながら、グラブハブ(写真上)、ウーバーイーツ、シームレス、ドア・ダッシュといったオンラインのフード・デリバリー業者を通じた
テイクアウト・フードのみで生計を立てるレストラン・ビジネス。
なのでレストランとは言いながらも店内には椅子もテーブルもなく、替わりに置いてあるのが複数のデリバリー・サービスからの注文に対応するための
複数のコンピューター。
そのうち多くはフード・デリバリー業者と提携したのがきっかけに 徐々にデリバリー専門のゴースト・レストランになっていったもので、
ある地方都市の小規模なピザ・レストランは毎月のレントを支払うのがやっと というビジネスを続けていたところ、
ある日ウーバー・イーツから「近隣の住人からチキン・ウィングの注文が多いので、チキン・ウィングをメニューに加えてほしい」というリクエストを受けたという。
そこで言う通りにしたところ 突如デリバリーのオーダーが急増したことから、ほどなく店内にあった椅子やテーブルを全て撤去。
配達は業者がやってくれるので、雇っているのはキッチン・スタッフだけで、ウェイト・スタッフはゼロ。
おかげで閉店後の掃除の手間と人件費が大きく削減されたただけでなく、売り上げと利益が大幅に伸びているのだった。
同様にフード・デリバリー・サービスに頼まれて、スシ・レストランがダンプリング(餃子)や ポケ(サシミ&サラダ丼)をメニューに加えた途端に
デリバリー・オーダーが激増したケースなどもあるけれど、
これらはデリバリー会社がモービル・オーダーを通じて如何に沢山のマーケット情報を持っているかを立証するようなエピソード。
ゴースト・レストランがアメリカの各地に急増したのは決して単なる偶然のトレンドではなく、
フード・デリバリー会社がその情報を駆使して、既存の小規模レストランを地域のニーズに応じたフードを提供するゴースト・レストランに
意図的にコンバートしていった結果と言えるもの。
見方を変えれば、これだけ情報アナリシスが行き届いた世界では
闇雲にレストランをオープンしたところで、マーケット・ニーズを把握しているビジネスには決して勝てないということを意味するのだった。
そんなゴースト・レストランのトレンドを受けて、マンハッタンの人気のサラダ・スポット、チョップトはピックアップ専門の
ストアをオープン。カストマーはオンラインでオーダーを入れてそれを自分、もしくはデリバリー会社がピックアップするというスタイル。
スターバックスも既に中国でオープンしているピックアップ専門の業態、”スターバックス・ナウ”をほどなくアメリカで展開することを発表しているのだった。
その一方で本当にゴースト化しつつあるレストランを救済するためのモービル・サービスも誕生していて、
そのうちの1つ、”Spacious / スペイシャス” はレストランのオフピークの時間帯をオフィス・シェアリング・スペースとして貸し出すサービス。
”Feastfox / フィーストフォックス”はやはりレストランのオフピークの時間帯の予約を促すために、時間帯に応じてメニューの価格に
自動的にディスカウントを加えるサービス、そして”WeGoDine / ウィ・ゴー・ダイン”は、
プライベート・ルームの予約やグループ・ダイニングをより簡単に好待遇で行えるようにするサービス。
外食をする人々が減ったことで、かつてはオンライン・レストラン予約の独占状態であったオープン・テーブル・ドットコムが、
競合サービスの登場も手伝って 利益を減らしていることが伝えられるけれど、
レストラン来店客の減少はやがてはレストラン・サプライを生産、販売する業者にも影響が出ることが見込まれる状況。
それに対してフード・デリバリーは現在前年比約6%の伸びを見せており、2023年までにはその市場規模が244億ドルにまで拡大することが見込まれるのだった。
フード・デリバリーの未来が益々明るいと言われる要因の1つは 既にアメリカで始まっているストリーミング戦争の影響。
既に多くのアメリカ家庭が複数のストリーミング・サービスをサブスクライブして、
外に出るより自宅でデリバリー・フードを食べながらコンテンツを観るのが仕事や学校を終えた時間帯の典型的な過ごし方になっているためで、
ミレニアル世代が広めた「Netflix and Chill (ネットフリックスを観てのんびりすること)」は、今や
「Streaming and Dining in」としてアメリカのナショナル・パストタイムになっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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