Reactions and Disciplinary Proceedings
オスカー暴力事件で渦中のウィル・スミス、
クリス・ロックとの以前からのしがらみ、暴力のトリガー、アカデミーの処分
Published on 4/1/2022
3月27日に行われたアカデミー賞で最大の物議を醸したと共に、人々の話題と非難が集中したのが
プレゼンターとしてステージに上がったクリス・ロックのジョークに腹を立てたウィル・スミスがステージに上がって
彼を殴ったシーン。
クリス・ロックが語ったジョークは、ウィル・スミスの妻でジェイダ・ピンケット・スミスの丸刈りカットに対して
「ジェイダ、I love you、 (君が出演する)G.I.ジェーン2が待ちきれない」というもので、リハーサル中には語られなかった完全なアドリブ。
その直後にカメラに映し出されたウィルは笑顔、ジェイダは迷惑そうな苦笑いであったものの、直ぐに立ち上がってステージ上のクリスを殴りに行ったのがウィル。
そして座席に戻った彼が「Keep my wife’s name out of your fxxking mouth.(妻の名前を出すな)」と2度叫んだのは、
放送禁止用語をカットするセンサーのために数秒の時差でライブ放映されているアメリカのABCでは音声が消されていたもの。
(以下のビデオはアンセンサード・ヴァージョンです)
その直後のバック・ステージではアカデミーのCEOとプレジデントがウィル・スミスのエージェントを別室に呼び出し、
ウィルに対しても授賞式から退席するように言い渡したとのことですが、彼は拒否。
このことは水曜にアカデミー側が明かしたことで、それまではライブ放映中の授賞式で暴力を振るったウィルをそのまま野放しにしたことで
アカデミーを批判する声が多かったのに加えて、その暴力の約45分後にウィルが主演男優賞を受賞した際に
会場内がスタンディング・オーベーションになったことに対して不快感を表明する声も聞かれていました。(この発表の翌日、3月31日にはアカデミー側は実はウィル・スミスに対して
退席を求めておらず、世間からの非難をかわすため虚偽であることが判明しています。)
受賞スピーチで、ウィル・スミスは暴力の弁明を行い、
アカデミーと他のノミネート者に対して謝罪をしたものの、クリス・ロックに対しては謝罪をせず、
逆に聞かれたのが「ヘイタ―から家族を含む愛する者を守らなければならない」と彼を攻める内容。
今年のオスカーは、授賞式の時間を短縮するためにノミネート者が着席するエリアとステージの距離を狭めて、受賞者がステージに上がる時間の短縮を図っていましたが、
客席最前列からステージまでが目と鼻の先というセッティングが完全に災いしていたのがウィル・スミスの暴力事件。
以前のように客席とステージの間にオーケストラ・ボックスがあった時代には起こり得なかったと言えるのがこのトラブルでした。
クリス・ロック、スミス夫妻へのジョークの背景にあるのは…
クリス・ロックがアカデミー賞授賞式でジェイダ・ピンケット・スミスをジョークにしたのはこれが初めてではなく、彼がオスカーのホストを務めた2016年の授賞式の
モノローグにも登場したのがジェイダ。
この年は、オスカーにマイノリティ人種が全くノミネートされていなかったことから#OscarsSoWhite のハッシュタグがトレンディングになった最初の年で、
いち早く授賞式への出席をボイコットしたのがジェイダ・ピンケット・スミス。
しかしこの時のオスカーには、彼女も夫のウィルもノミネートされておらず、ボイコットする以前にインヴィテーションが届かなかったと思しき状況。
それをジョークにしたのがクリス・ロックで、「Jada boycotting the Oscars is like me boycotting Rihanna's panties. I wasn't invited!
(ジェイダがオスカーをボイコットするのは、自分がリアーナのパンティをボイコットするようなもの。自分はお呼びじゃない。)」と語り、
加えて「ウィルがノミネートされないのがフェアじゃないというのなら、ワイルド・ワイルド・ウエストみたいな映画で2000万ドルのギャラを払われるのもフェアじゃない」と
ウィルの駄作映画の高額ギャラをからかったのがこの時。
さらに2018年には ウィル・スミスが彼の前妻で、彼の1人目の子供の母親であるシェリー・ザンピオに
"Happy Bday, @shereezampino. #BestBabyMamaEver! I Love You, Ree-Ree," というバースデー・メッセージをツイートした際、
クリス・ロックが "Wow. You have a very understanding wife,(Wow 理解のある妻が居るもんだ)" と皮肉を込めたようなツイートしていますが、
実はウィルとクリスは 1995年にウィルの出世作となったTV番組「フレッシュ・プリンス・オブ・ベルエア」で共演して以来の友人同士。
ジェイダとクリスはアニメ「マダガスカル」のヴォイス・オーバーでも共演した中で、辛辣なジョークの背景にあるのは 気ごころが知れた関係という甘え。
ですが、今回のG.I.ジェーンのジョークについては、昨今ジェイダがソーシャル・メディアを通じて彼女のアロペシア(脱毛症)についての悩みを明かしていたことを知る人々にとっては
悪質なジョーク。クリス・ロックはジェイダのアロペシアについては知らなかったとのことですが、彼女の症状は
髪の毛の柔軟剤を使い過ぎによるものと言われ、髪質を改善しようとするアフリカ系アメリカ人女性の間では全く珍しくない症状。
クリスは 黒人女性がクレージーで不健康な手段で髪の毛を改善しようとする様子を「Good Hair / グッドヘア」というコメディタッチの
ドキュメンタリー映画で描いており、それだけにクリスがジェイダの症状を知らなかったとしても
「黒人女性にとってセンシティブなヘア・ジョークを避けるべきことは心得ているべき」との指摘も黒人女性の中から聞かれています。
この騒動を受けて、現在コメディ・ツアー中のクリス・ロックのチケット価格は大高騰を見せ、
40ドルのチケットに400〜1000ドルのプレミアムがついています。
授賞式シーズンのオープン・マリッジのジョークがウィルを追い詰めていた!?
ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスと言えば、ハリウッドではオープン・マリッジで知られるカップル。すなわち浮気公認の夫婦関係。
2人にそんなレッテルが貼られるきっかけになったのは、ジェイダ・ピンケット・スミスがフェイスブック・ウォッチで2018年からホストを務める
「Red Table Talk / レッド・テーブル・トーク」でジェイダ自らが語り、後にウィルも同プログラムに出演して2人の婚姻関係について語ったため。
しかしウィル自身が「自分は決して不貞を働いたことは無い」というポジションを貫いていたのに対して、ジェイダはR&Bシンガーのオーガスト・アルシナとの
関係にオープンにし、オーガストもジェイダとの関係がウィルの公認であることを2020年に語っていたほど。
オーガストとジェイダの関係は終わりを迎えたものの、ウィルはジェイダとのオープン・マリッジについて語られるのを極めて嫌がっており、
結局のところ2人の夫婦関係は完全にジェイダが主導権を握り、ウィルが彼女のやりたいように合わせてきた状況。
そのため過去1ヵ月以上に渡る授賞式シーズンは、ウィルにとって公の場で気に入らないジョークを語られるイベントの連続。
欧米のキリスト教カルチャーにおいて、オープン・マリッジというのは決して褒められるものではないモラルに反するものとあって
ジョークにしたところで誰も同情しないもの。
そのためイギリス版のオスカー、BAFTAでもホストのレベル・ウィルソンがウィルとジェイダのオープン・マリッジをジョークにし、
オスカーでもホストの1人、レジーナ・ホールが、ハリウッドの独身男性について語っていた際に、
「ウィル・スミス、貴方は結婚しているけれど、ジェイダの許可が下りたから独身リストに入っているわよ」と語るなど、
事あるごとも聞かれていたのがオープン・マリッジ・ジョーク。
それだけでなく、各授賞式イベントのレッドカーペット上のプレスからの質問、受賞後のプレスカンファレンスでもウィルはジェイダとの25年の結婚生活について
度々尋ねられて既にウンザリしており、そもそも夫婦関係にインセキュアだったウィルが
許容範囲の限界まで来ていたと言われるのがオスカーの日。
アカデミーは授賞式翌日にウィル・スミスの暴力を批判するコメントを出し、ウィルも同じ日に謝罪のコメントを発表。
クリス・ロックに対する謝罪をしたのはその翌日のことで、同じ日にはジェイダが初めてこの問題にソーシャル・メディアで言及していますが、
それは "This is a season for healing and I'm here for it,(今は癒しの時で、私もそれに専念しています)"といった無機質なもの。
彼女自身はステージにクリスを殴りに行ったウィルについて、自分を守ろうとしたとは思っておらず、余計な事をしたことに腹を立てたと言われ、
ウィルの受賞時も喜ぶよりも彼に慎重さを求める冷めたリアクションであったと言われます。
アカデミー、ハリウッド、他のリアクション
授賞式3日後に改めてウィル・スミスについて声明を発表したアカデミーは、「本日アカデミー理事会は、アカデミーの行動基準に違反して 不適切な身体のコンタクト、
虐待的もしくは高圧的な態度を取り、アカデミーの権威を傷つけたウィル・スミスに対して懲戒処分の審査を開始しました」と発表、次回の4月18日の理事会で
投票によってその処分を決定するとしています。
オスカーのホストを務めていたエイミー・シューマー、ワンダ・サイクスはいずれもウィル・スミスの暴力シーンがトラウマになったとコメント。
2人はコメディアンとしてクリス・ロックとは個人的に親しい仲であるものの、ジョークのネタにした相手やその家族がステージに上がって
殴りに来るというのは同じコメディアンという立場で受け入れがたいもの。
同様にコメディアン兼俳優のジム・キャリーは、「自分がクリス・ロックだったら200万ドルの賠償金を請求する」とやはりウィル・スミスに対する批判を表明。
また「G.I.ジェーンの何がそんなに悪い?」という疑問の声もあり、ウィル・スミスの過剰反応は映画「G.I.ジェーン」の主演、デミ―・ムーア、その監督のリドリー・スコットに対する
侮辱という意見も聞かれていましたが、程なくウィル・スミスが数年前に頭が禿げた男性を馬鹿にするジョークを語っていたビデオが浮上。
「妻のジョークに腹を立てる資格など無い」という非難が飛び交っています。
ここまで大きな問題になっただけに、アカデミーがウィル・スミスに対して何等かの処分を下すことは確実ですが、
主演男優賞の剥奪までは行わないという意見が圧倒的。
というのも長年のセクハラで服役中のハーヴィー・ワインスティン、児童性的虐待の罪を逃れるために国外に逃亡したままのロマン・ポランスキー監督等、
刑事責任を問われる犯罪者でも アカデミーのメンバーから除名されることはあっても獲得した賞を剥奪されたことが無いため。
しかしウィル・スミスによる暴力は「オスカー史上最もアグリーなシーン」と言われ、これまでにも授賞スピーチで
口が滑ってFワードを言ってしまったケースなどもありましたが、ノミネート者が暴力を振るった後にFワードを意図的に2回も叫んだというのは前代未聞の出来事。
現時点では、ウィル・スミスがオスカー像はキープできるものの、アカデミーのメンバーから除名処分になる、もしくは
無期限でメンバー資格を停止されるという処分が有力視されています。
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