Yokoさま、
過去数年アメリカ在住です。
私は一時ヨガのインストラクターを目指していたことがあり、頻繁にヨガのクラスを取っていたので 友達もヨガ愛好家やニューエイジ系の人が多いのですが、
パンデミックに突入したのを前後して、だんだんと今まで尊敬していたヨガの先生、一緒にクラスを取っていた熱心な生徒さんの言動に気になるところが出てきました。
ふと考えると以前から「子供が自閉症になるからワクチンを打つべきじゃない」というようなことを言うアンチ・ワクチン派が多かったのですが、私には子供が居ないのであまり気にしていませんでした。
でもそれに腹を立ててクラスを辞めてしまったママさん達も居ました。
何か変だなと感じるようになったのは2020年の大統領選挙前で、Qアノンの信奉者のように「民主党議員やヒラリー・クリントが子供を虐待して、その生血を飲んでいる」と真顔で言いだして、
その証拠と称してフェイスブックの陰謀説リンクが送られてくるようになり、その他にも人工中絶に反対するデモへの参加のお誘いが来たり、
コロナウィルスのワクチンに対して「一致団結してワクチン接種を拒みましょう」みたいなスローガンがロックダウン中のZOOMのリモート・クラスで呼び掛けられて変な雰囲気になってきました。
そしてワクチン接種よりもコロナが防げるというサプリの案内等が送られて来るようになったのに嫌気が差して、暫く長年通ったクラスから距離を置くことにしました。
そのことを 以前一緒にヨガクラスに通っていて 今は日本に帰国した友達とZOOMチャットをした時に話したのですが、
日本でもスピリチャル系やヨガをやっている人の一部が、やっぱりワクチンに反対して「この人頭が変なのでは?」と思うような陰謀説を真顔で語っているそうで、
そういう人は2020年の大統領選挙の時にトランプを応援していて、1月6日の議会乱入事件も「見ていて気持ちが良かった」等と言う人が居たそうです。
友達とは 「ヨガがやりたいのに 変な思想に巻き込まれたくないよね」と話していましたが、先日カナダに住む友達まで似たようなことを言っていたので、
ヨガやニューエイジが右派保守団体なのでは?と真剣に思えてきました。
そう思ってネットを調べてみると、保守派に洗脳しようとしているようなポストがニューエイジ系に多いように思えてきて、
陰謀説を穏やかに語っているようなものも少なくありません。
私が知らないだけで ヨガとかニューエイジの世界っていうのはかなり右寄りなのでしょうか。
私はスピリチャリティというのは、自分を解き放つ自由な思考や様々なバランスを意味するものと信じてきたので、右でも左でもないリベラルなインディペンデントだと思って、
一緒にヨガや瞑想を学んでいる人も同じ考えだと思って来たのですが 少し前から違うように思えてきました。
申し遅れましたが、私はCUBEさんの長年の読者で 何年か前にYokoさんがヨガのクラスを取っていることをコラムで読んだことがあるのですが、
もし何かこのことについてご存知でしたら、教えていただけないでしょうか。
私の思い過ごしかもしれませんが、変な思想に洗脳されたくないという気持ちが邪魔をして、以前のクラスに出掛ける気になれません。
私の誤解でしたら、気持ちの切り替え方を教えて頂けたら嬉しいです。
- J -
ソーシャル・メディアが普及して、その情報が一般メディアと同じくらい影響力を持つようになってからというもの、
一般人の発信にように見えるソーシャル・メディア・ポストが 実際には世論を特定の考えや意見に誘導する手段として使われてきたのは周知の事実です。
ソーシャル・メディアを通じて人間心理をコントロールすることで、消費動向から選挙結果までを変えられることを熟知するフェイスブック、グーグルといった企業が、
どれだけ人間心理や大衆心理の分析にお金を費やしてきたか、そしてそれが実際の戦略として成果を上げてきた様子は グーグルが支持したオバマ大統領の誕生以降、
ありとあらゆる選挙やトレンド、グラスルーツと称したムーブメント等に現れています。
もちろん世の中というのは一定方向に進ませようとする勢力と その反対勢力が存在しますので、現在の「様々な形で二極化して歩み寄れない社会」というのは
それらの情報に人々が洗脳され続けた結果でもあります。
そんな洗脳合戦においては、人種、性別、年齢、住むエリア等よりもずっと詳細な人々のグルーピングが分析され、
個々のグループにどんな働きかけをするのが有効であるかの攻略法が 常に模索されています。
Jさんが挙げていらしたコロナウィルス以前の子供に対するアンチ・ワクチン・ムーブメントはその好例で、
過去20年ほどの間にアメリカで激増した 子供の自閉症の原因がワクチンである という 医学的には全く関連性が認められない アンチ・ワクチン・ムーブメントのせいで、
アメリカでは一時絶滅した麻疹が大ブレークしてしまいました。
この時に既に指摘されていたのが、都市部のリベラル派だった母親達が 自分の子供が自閉症になるのを恐れるあまり アンチ・ワクチン派になった途端に
保守派の右寄り思想に大きく傾倒したということ。そしてそれまで主張していた”自由”のコンセプトが、リベラル派の「ルールを守った社会での自由」から、
「子供のワクチン接種を拒む自由=ルールや秩序に縛られず、自分の意志通りに行動する自由」に変わって行きました。
ワクチンの効用、及びワクチンが自閉症の原因ではないデータを否定する立場を取ることにより、
あっさり「アンチ・サイエンス=保守派思考」に寝返ったことは 「子供の自閉症の原因がワクチンである」という陰謀説に聞こえない陰謀説の絶大な効果を立証するものでした。
アンチ・サイエンスの姿勢は保守派、特にキリスト教保守派にとっては極めて都合が良いだけでなく、その支持基盤を固める思考でもあります。
南部や中西部の地域では、「人間が神の創造物である」という聖書の教えに背くダーウィンの進化論を教科書から削除する動きが今も顕著ですし、
宗教的な理由から「地球は平ら」であるという説を譲らない人も沢山います。
変化を望まず、昔ながらの宗教的価値観や社会規律を押し付けたい保守右派にとって、サイエンスやデータはその思想を覆す邪魔者に過ぎません。
その替わりに保守派が重んじるのが祈りや精神、信仰のパワーであり、たとえ熱心なキリスト教徒でなくても それを信じる傾向が強いのがヨガや瞑想を行うニューエイジ系の人々です。
そのためソーシャル・メディアが人間心理の洗脳手段として利用されるようになって以来、保守系右派はニューエイジ系の人々を取り込むための
いろいろなアプローチを続けてきましたが、中でも最も大きな成果を上げたのが 子供の自閉症とワクチンを結び付けたアンチ・ワクチン・ムーブメント、そしてQアノンの陰謀説であったと言われます。
特にQアノンの陰謀説を広める際に使われたハッシュタグ、#SaveTheChilden は、子供が絡むと熱くなる親達の心理を熟知してのもので、
本当に子供達を虐待から救いたいという気持ちから 陰謀説を説くインフルエンサーをフォローするうちに 「民主党議員を中心とした世の中のVIPが児童虐待をして、その生血を飲んでいる」という
はなはだしく常識を逸脱したストーリーを信じるに至った人々は少なくありません。
どんなに共和党議員や保守派弁護士がセクハラやセックス・トラフィッキングの問題を起こしていても、保守派の支持母体であるキリスト教の牧師が
長年に渡って児童を虐待し続けたことがニュースになっても それ等には疑問や怒りを感じることなく、ソーシャル・メディアのポストの中でだけ広まっているQアノンを熱烈に信じるというのは、
政治的意図に基づいた陰謀説に洗脳されている以外の何物でもありません。
Qアノンの陰謀説では「1997年に死去したJFKジュニアが生きていて、トランプ氏に代わって大統領になる」ということになっていて、2022年に入ってから信者たちは既に3回もテキサス州の沿道で
現れるはずもないJFKジュニアを何時間も待ち侘びて、最後にはその場で口論が怒っていたことが伝えられています。
そのように現実を突きつけられても 受け入れることが出来ないのが洗脳状態なのです。
政治の世界で保守派と呼ばれるのは、宗教の信仰とその教えが基軸になったポリシーで、歴史的に宗教が世の中を収める手段として用いられてきたのは周知の事実です。
そんな保守的思想は、前述のように昔ながらの価値を重んじ、宗教的な社会規律や道徳観を重んじるため 正しい社会の在り方としてアピールする力を持っています。
ですが拡大、進化、合理性、利益追求といった資本主義概念とは相反する部分が多く、他の人種や宗教、神の教えに背くLGBTQ等に対する差別意識も強くなります。
基本的にアメリカ、及び世界における右派の政治志向と言えば 人工中絶反対、移民反対、銃規制反対、同性婚&性転換を含むLGBTQの権利や存在を否定、そして環境問題への取り組みも否定し、
男女の雇用機会や給与格差の是正にも反対、もしくは消極的なポジションです。
こうした考えはアメリカの南部や中西部の保守層の間ではまかり通るものですが、都市部に住む人々にとっては支持できるものではありません。
そもそも現代人が様々なストレスを感じて 心の拠り所を欲していても、宗教離れが著しいのは 宗教をベースにした保守的思考が現代社会にマッチしなくなったためで、
その代わりに頭角を現してきたのがヨガ、瞑想、マインドフルネス等に代表されるスピリチャルなムーブメントやトレンドです。
スピリチャル系、ニューエイジ系の人々は目に見えないものの力を信じるという キリスト教保守右派に通じる考えを持っています。
正義、慈悲、人間愛を謳うことによって、科学やデータに基づく事実のパワーや合理性に価値を見出さなくなるという点でも共通しています。
スピリチャル系、ニューエイジ系の人々にとっては目に見えない力、神秘の世界を信じるというのは 科学を超越した広義的な視点を意味しますが、
実際にはその視点は 証拠やデータ、科学的根拠を提示されても 自分が信じる思想を貫く 保守派と同じ結論に行きつくケースが多いのです。
それがエスカレートすると「自分さえ正しいとさえ思っていたら 証拠やデータによる立証などに取り合う必要はない」という一方的で 決して歩み寄れない状況をもたらします。
そしてそれこそが思想を植え付けた側にとっては完璧な支配体制が整ったことを意味するのです。
それとは別にスピリチャル系、ニューエイジ系の人々は、自分の至らなさや問題を反省し、より高い次元の自分を目指して精神面を学ぼうという気持ちが強いことから、
一度彼らに対して教えを示すポジションに立った側にとっては 極めて洗脳がし易いターゲットです。
これは司教の言葉を決して疑わないキリスト教信者と全く同じ状況ですが、宗教というのは本来洗脳行為によって成り立っているもので、
その極限状態がカルト教団です。
いずれにしてもヨガ、瞑想といった現代人がストレス緩和のために行ってきたアクティビティは、もう何年も前から保守右派からは 宗教と同じように 「人々の政治志向を転換させるためのゲイトウェイ」
と見なされているのです。
スピリチャル系、ニューエイジ系の人々には 保守派のブレインウォッシュを受け入れる地盤が備わっているので、
本来人工中絶廃止やゲイ差別、人種差別に反対する人でも 「子供にワクチンを打たせたくない」というような感情的に働きかけるトリガーを生み出せば、あっさり保守派に寝返ることは
陰謀説を仕掛ける側は十分に理解しています。
そして保守系右派の方が、陰謀説やプロパガンダに長けていることは歴史だけでなく、現在のアメリカの状況が示す通りです。
それは恐らく宗教ベースの思想で人間の弱さや猜疑心、恐れ、正義感、怒り といった感情レベルのスイートスポットを理解しているためです。
ひと度 特定の思考に感情レベルでのめり込んでしまった場合、ルール、公平、合理性、理論、科学といったものが全て無力で説得力のないものになってしまうのは
人間が人間である限り避けられないと私は考えます。
さらに付け加えるならば スピリチャル系、ニューエイジ系の人々がワクチンを否定し、保守的な思想に傾倒するのは、
アンチ・ワクチンのムーブメントを先導している人々が ホリスティック・メディシンやナチュラル食材のビジネスを経営していたり、そのプロモーションでキックバックを受け取っている等、
商業的メリットのために積極的、時に高圧的な働きかけをすることが背景にあるのは否定できません。
アメリカのアンチ・ワクチン・ムーブメントのソーシャル・メディア・ポストの90%以上は 元を辿ると僅か12人のインフルエンサーによって発信されたものだそうですが、
そのうちの半分以上がホリスティック・メディシンのブランドを経営し、残りはアンチ・ワクチン・ムーブメントで恩恵を受けるビジネスから多額のフィーを受け取っており、
全員が億万長者です。
私は個人的に占いや オーラ等の目に見えない力を信じますが、スピリチャル系、ニューエイジ系のビジネスは
信じる前に疑ってかかるのが常で、それは瞑想やヨガ等の本来身体や精神のために良いと言われるものも然りです。
私は10年以上、1人のヨガ・インストラクターのクラスだけを取ってきましたが、私がそのインストラクターを好んだ理由は サンスクリット語のチャンティング等に一切時間を割かずに、
純粋にヨガと呼吸法だけを教えてくれて、その全てが意味を成していたためでした。
人間というのは グループに属そうとする本能持っています。
その結果、学ぶ目的で始めた事が自分の交友関係になり、やがては行動半径や思想まで左右するようになることは全く珍しくありません。
私は洗脳によって特定の思想にのめり込むことはカーマだと捉えていて、そのカーマがやがて本人に返ってくる様子をこれまで何度も目撃してきました。
私の分析では洗脳され易い人は、思い込みの強さや自己中心的な正義感があって、決して弱いタイプではなく むしろ頑固です。
だからこそ特定の考えに一度しがみつくと、周囲のいうことには耳を貸しません。
私が知る限りそんな人々が考えを改めて、現実を悟るきっかけになるのは 金銭的に困窮した場合で、お金というのは人間に現実や教訓を思い知らせる強力なツールです。
世の中にはお金が世の中を悪くする、お金儲けは悪い事、お金は汚い等とお金を否定的に捉える人は少なくありませんが、
お金を否定して精神世界に入ろうとすると、往々にして騙されたり、失敗するのが人生です。
私自身は、「健全な精神は健全な肉体と健全な経済活動によって実現する」という考えの持ち主で、身体を大切にしながら、投資でも仕事でも経済的に無理なく、達成感がある生活が出来れば、
ヨガや瞑想等の精神面を高める努力などしなくても 十分に心豊かに生きられると思っています。
Yoko Akiyama
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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