今週のアメリカのメインストリート・メディア、SNSは言うまでも無くイラン戦争のニュースで占められていたけれど、
トランプ氏が否定しながらも、各方面で憶測されるのは 程なくアメリカ軍が武器不足に直面すること。
イランのミサイルが1発2万ドルのコストで1カ月で100発生産出来るのに対して、アメリカのTHAAD迎撃ミサイルは1カ月で約7発の生産がせいぜい。コストは1発当たり1280万ドルで、イランのミサイルの640倍。
開戦2日目にはクウェートでのフレンドリー・ファイヤー(友軍誤射)で米軍のF-15E戦闘機3機が撃墜され、それだけで約3億ドルの損害。
攻撃開始前に湾岸へ兵士、艦船、航空機を輸送する費用は推定で6億3000万ドル。配備された空母2隻の1日当たりのコストは1300万ドル。
個別攻撃に使用された1250機の”カミカゼ・ドローン”は1機当たり3万5000ドル。大規模標的用のドローンは1機当たり数百万ドル。
B-2爆撃機は1時間当たりの飛行コストが13~15万ドル、トマホーク・ミサイルは1発200万ドル。
アメリカ軍は攻撃開始から100時間で38億ドルを費やしており、総費用は期間に応じて400億ドル~950億ドルと見積もられるけれど、これはあくまで軍事費。
貿易面やエネルギー市場混乱などの経済損失は700億~2100億ドルと予測され、実際に開戦から1週間でアメリカの原油価格は35%アップ。
トランプ氏は「ホルムズ海峡を通過する石油タンカーを米軍がプロテクトして、原油供給量を保つ」とコメントしたけれど、それが現実的でないと悟ったのか、ウクライナ戦争の経済制裁として
禁止してきたロシアからの原油輸入を再開すると発表。そのロシアはイランを支援しており、沈黙を守っていた中国もイラン側につくとの噂が流れ始めたのが週末。
そしてこれら全てがアメリカが抱える39兆ドルの負債を更に膨らませることは確実視されているのだった。
日本を含むアジア人はイスラエル、中東問題に疎いと言われるけれど、歴史書で学べるボリュームを遥かに超える状況を
近代史にフォーカスしてごく簡単に説明すると、現在に至る問題の発端は1951年に民主的に選ばれたイランのモサデク政権下で、それまで約50年に渡って英国にコントロールされてきた石油採掘権の国有化が決議されたこと。
それに激怒した当時のウィンストン・チャーチル英国首相が、米国大統領、アイゼンハワーと共に目論んだのがモサデク政権打倒で、1953年8月19日、
CIAに雇われた多数のギャング団がテヘランで国王支持の暴動を起こしたことで、モサデク首相は拘束。その後の裁判で反逆罪の有罪判決を受けたモサデクに代わって、
イランを統治したのはシャー(イラン国王の称号)、モハンマド・レザー・パフラヴィ(写真上左から2番目)。 親欧米君主として絶対権力を手に入れたシャーは、1979年のイラン革命で打倒されるまでの26年間に渡って独裁政権を維持。その間、イランで著しく強まったのがアメリカの影響力。イスラエルとも良好な関係を保っていたシャーがイラン革命により亡命を強いられた理由は、
西側寄りの近代化を進めるプロセスで、聖職者層を含む多くの人々を疎外し、反発を招いたため。
中でも後にイラン最高指導者となるホメイニ師は、政府批判者として台頭。
その後1977年から始まった反政府デモは、1978年末までに革命として広範な蜂起へと発展し、1979年1月16日、シャーはイランを離れてアメリカに亡命。
替わってテヘラン市民数百万人の大歓迎を受けてイランに帰国したのが亡命中だったホメイニ師。
そして1979年3月の国民投票で98%の賛成を得てイラン・イスラム共和国への移行が成立。
同年12月にホメイニ師がの最高指導者に就任したけれど、その直前の11月、米国に逃れたシャーが再び力をつけることを恐れた勢力が起こしたのが イラン・アメリカ大使館人質事件。
その混乱の中、6人の大使館員がカナダのSF映画撮影隊を装って脱出した実話は、2012年公開のベン・アフレック主演・監督作品「アルゴ」でスリリングに描かれ、同年度のアカデミー賞作品賞を受賞しているのだった。
ちなみにイラン革命は歴史的に非常に特殊な革命という位置づけ。理由は革命感情を引き起こす要素となる 戦争での敗北、金融危機、農民反乱、不満を抱く軍関係者といったものが不在で、
石油輸出で比較的繁栄していた状況で起こった革命であったため。前述のように革命の原動力は 腐敗した独裁政権がイランの国益や文化的アイデンティティを犠牲にした西側寄りの政策を
続けたことで招いた国民の反発。その結果、革命後には反欧米の ”イスラム共和国” が誕生したのだった。
革命後のイランは、イスラム教シーア派の政治的台頭を掲げるホメイニ師の教義を他のイスラム国家に広めながら、アラブ圏でのイランの優位性を確立する一方、対立するイスラム系スンニ派の弱体化に動き、同時に明確に打ち出したのが ホメイニ師が「不当な国家」、「西側帝国主義の前線基地」と位置付けるイスラエルへの敵対姿勢。
革命の翌年、1980年からはサダム・フセイン大統領率いる隣国イラクとの戦争が始まったけれど、イスラム教スンニ派が多いイラクにとって、シーア派のホメイニ師の教義拡大は脅威であり、当時イラクが目論んでいたのがイランに代わってペルシャ湾の主要国となること。長年に渡る国境紛争を背景に、サダム・フセインが革命直後の軍事力が低下したイランに仕掛けたのがイラン・イラク戦争なのだった。
この戦争には30カ国以上が支援に絡み、イラクを支援したのは英、米、仏、伊等の西側大国に加えて、アラブ諸国。イランを支援したのは中国、シリア、パキスタン、北朝鮮、そしてイランが勝利した方が都合が良いイスラエル。
中でもアメリカはアンスラックス(炭そ菌)等の生物化学兵器を含む武器提供でイラクをサポート。その支援は後に「サダム・フセインを世界の脅威にのし上げたのはアメリカ」と言われたほど。
イラン・イラク戦争は どちらも譲らぬ攻防を続けた後、1988年に停戦となったけれど、その間の1986年に発覚したのがレーガン政権時代の大スキャンダル、イラン・コントラ事件。
当時アメリカは大使館人質事件以来、イランとは国交を断絶しており、戦争ではイランの敵国、イラクを支援する中で、政府が極秘に行っていたのがイランへの武器輸出。
この取引には、別の人質事件やニカラグア情勢が絡んでおり、当時イランと直接交渉をする訳に行かないアメリカのために この裏取引を提案、仲介したのがイスラエルなのだった。
そのイスラエルがイランの天敵になった背景には、イランがガザ地区のパレスチナ人を擁護し、反シオニズム(イスラエル建国に反対する思想)を国家理念に組み込んでいること、
イランがハマス、ヒズボラといったパレスチナ武装勢力を支持していること、湾岸エリアでイランが構築したイスラム包囲網をイスラエルが恐れていたこと等、
宗教、地政学的覇権、パレスチナ問題等が複雑に絡んでおり、イランが核兵器を持つ脅威をアメリカと共に訴え続けて来たのがイスラエル。
一方、社会上層部をユダヤ系が牛耳り、親イスラエル国家の筆頭であるアメリカは、長年に渡る世界と連携した経済制裁によりイラン経済の弱体化に成功。
2015年のオバマ政権下では、米英独仏中露、EUと共に イランの核開発を制限・監視下に置く代わりに、経済制裁を解除する「イラン核合意」に至ったけれど、
トランプ第一期政権下の2018年には米国がその合意から離脱。今回のイラン攻撃の2日前まで行われていたのはその再交渉。
しかしイスラエルのネタニアフ首相は、昨年末にマーラゴを訪れた際に 2026年にイスラエルがイランに攻撃を仕掛けること、それにアメリカが同調すべきことを通達。
トランプ氏がイランの反政府活動をサポートする声明を出したのは、それを受けてのことと報じられるのだった。
イスラエル情報局、モサドが入手した情報に従い、アメリカとイスラエル軍が政府関連施設内で行われた会合に集まった政府高官48人を爆撃により一気に殺害したのは
世界中で大きく報じられた通りだけれど、その中に含まれていたと言われるのが最高指導者ハメネイ師に替わって アメリカがイラン統治を任せようとしていた候補者たち。
すなわち米軍は誰が会合に参加しているかを把握せずに攻撃したようだけれど、NYタイムズ紙によれば、トランプ氏は1月3日のヴェネズエラのマドゥーロ大統領拘束、
その後のデルシー・ロドリゲス暫定大統領就任がスムーズに進んだことで、イランも同様に状況が進むと自信を深めていたとのこと。
そのため自ら次の最高指導者選出を行うと宣言しているけれど、イランは イラクのフセイン、シリアのアサド、リビアのカダフィ、そしてヴェネズエラのマドゥーロのようなワンヘッドの独裁政権ではなく、
共和国を名乗るだけあって宗教、経済、政治が1つの組織兼企業のように運営されるインスティテュート体制。そのため最高指導者が代わったところで、
ヴェネズエラのように石油の売却利益をトランプ氏がカタールに設立したオフショア口座に振り込んでくれるはずは無く、それが認識出来ていないと言われるのがトランプ政権。
イランの最高安全保障責任者アリ・ラリジャニは今週Xに、トランプ氏が”アメリカ・ファースト”と言いながら、実は”イスラエル・ファースト”であると指摘していたけれど、
アメリカ国民にとっても今回の戦争は完全にイスラエルのためのもの。 そもそも第一期トランプ政権下の2019年からの10年間、アメリカはイスラエルに毎年38億ドル、
合計380億ドルの軍事支援金を支払うことになっており、2018年にはエルサレムにイスラエルの米国大使館を移して、事実上エルサレムがイスラエル領土であることを認めたのがアメリカ。
そして将来的にパレスチナ民を追い出したガザ地区では、トランプ氏の会社がリゾート開発をする計画で、トランプ氏がイスラエルにそこまで入れ込む理由と言われるのが
他ならぬエプスティーン疑惑でしっかり弱味を握られているため。現在服役中のエプスティーンの共犯者、ギレーン・マックスウェルの父親で、英国の新聞発行人のロバート・マックスウェルはモサドの諜報員。
エプスティーン自身もモサドのバックアップ無しでは、膨大な世界要人とのネットワークは築けなかったと言われる中、エプスティーンのセックス・トラフィッキングに絡んだVIPリストをフル活用して、
世界の政財界の要人を操って来たと言われるのがモサド。
その一方でアメリカ国内では、トランプ氏が戦争を始めたのは「エプスティーン・ファイルから国民の関心を逸らすため」という見方が依然強く、今回のイラク攻撃の作戦名「Operation Epic Fury(壮大な怒りの作戦)」も
SNS上では「Operation Epstein Fury(エプスティーンの怒り作戦)」と書き換えられる有り様。
トランプ氏は1970年代にKGBのハニートラップにも引っ掛かっており、当時KGBに所属したプーチン大統領にも頭が上がらないと言われるけれど、
世の中では大きな勢力に弱味を握られた利用価値のある人物ほど出世するのが常。
日本の政治家もハニートラップに掛かり易いと言われる中、欧米ではその弱味を握られた実力者同士が、共通のリスクというギルドで結ばれた協力体制を担ってきた様子が
改めて指摘されているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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