Oct. 24 〜 Oct. 30 2022

Canceling Kanye, Pickleball Big Break, ETC."
キャンセリング・カニエの背景、ピックル・ボール空前のブレーク、ETC.


今週火曜日、10月25日にはイギリスで今年3人目となるリシ・スーナク首相が誕生。初のマイノリティ、42歳という若さが話題になっていたけれど、 その経歴はオックスフォード大学、スタンフォード大学MBA、その後ゴールドマン・サックスというアメリカのエリートのようなもの。 政治・経済問題山積の中、候補に挙がっていたペニー・モーダント、ボリス・ジョンソン元首相があっさり身を引いたことが、現時点で首相となることが貧乏くじになり得る印象を与えていたのもまた事実。
そして木曜には遂にイーロン・マスクによるツイッター買収が成立。 その直後にCEO、CFOを含む4人のトップ・エグゼクティブが解雇されたけれど、ニュースが報じられた途端にツイッター上に増えたのが、人種差別を含むヘイト&暴力的ツイート。 これまでツイッターと言えば保守右派には目の敵にされながらも、ヘイト・スピーチやディスインフォメーション(意図的な誤情報)を取り締まってきたソーシャル・メディア。 しかしフリースピーチを掲げてマスクが同社を買収しただけに、トランプ元大統領を始めとする アカウント永久停止処分を受けた過激な保守右派を再び迎え入れるという見方も有力。 これを受けて戦々恐々としているのがヘイト・ツイートの横に自社広告が掲載されるかもしれない広告主達で、 既にGMが テスラCEOがオーナーということも手伝ってか、ツイッターへの広告掲載をストップする意向を発表。 このまま過激なツイートが野放しにされた場合、ツイッターの85%以上の収入を担う広告主がどんどん離れて行くことが見込まれるのだった。



キャンセリング・カニエのドライヴィング・フォース


先週のこのコラムにも書いた通り、ユダヤ人差別発言が問題視されて先週末の時点でインスタグラムとツイッターでアカウントを停止処分にされ、J.P.モルガン・チェースに取引停止を言い渡され、 バレンシアガとギャップにパートナーシップを解除され、そのバレンシアガを訴えようと雇った弁護士にまでキャンセルされていたのがカニエ・ウエスト。
そして週明け月曜には遂にカニエのブランドYeezyで多額の利益を上げていたアディダスが契約の即時打ち切りを発表したけれど、カニエが白人至上主義をプロモートする「White Lives Matter」のスウェットを着用し、 反ユダヤ発言を繰り返しても静観の姿勢を崩さなかったのがアディダス。しかしその間に株価は23%下落。ソーシャル・メディア上でもボイコットが呼びかけられたことから やむを得ずドル箱ビジネスをギブアップした印象であったけれど、アディダスの本国ドイツではオンラインで反ユダヤ主義的な発言をした場合、起訴される可能性もあり、カニエとのパートナーシップは極めてリスキー。 加えてアディダスは創業者のアディ・ダスラーが元ナチスのメンバーであったこともあり、冗談でも反ユダヤを打ち出す訳には行かない企業。
第二次大戦後のドイツではナチスのメンバーの多くが処罰を受けることも無く そのビジネスを継続しており、例えばヒューゴ・ボスもナチスのアクティブ・メンバーであり、ナチスのユニフォームを手掛けていたファッション・デザイナー。 創業者がナチス関連のビジネスは、今もそのイメージ問題がついて回る傾向にあるのだった。
今週のカニエのキャンセルはアディダスに止まらず、彼のエージェンシーであるCAAもカニエとのビジネスを打ち切り、プロダクション スタジオ MRCがカニエのドキュメンタリー制作中止を発表。 小売りチェーンのフットロッカー、T.J.マックスもYeezyの商品取り扱い終了を表明。マダム・タッソー蝋人形館もカニエの人形を撤去。 ヴォーグ誌のアナ・ウィンター、トークショー・ホストのスティーブン・コーベルもカニエ・ウエストとの関りを断つと宣言。
またカニエ・ウエストはロサンジェルスでドンダ・アカデミーという教育施設を経営しており、バレンシアガのスウェットをユニフォームに子供1人当たり1万5000ドルの年間授業料をチャージしていたけれど、 そのアカデミーからは教員の辞職が相次いで、今週には校長から親達に「プログラムを継続するだけの教員が居なくなった」という通達がされたばかり。 更にカニエはドンダ・スポーツというスポーツ・エージェンシーも経営していたものの、契約プレーヤーであるボストン・セルティックスのジェイレン・ブラウン、ロサンジェルス・ラムズのアーロン・ドナルドが 共に契約打ち切りを表明。ルブロン・ジェームスがプロデューサーを務めるHBOのトークショー「The Shop」、ポッドキャストの「ドリンク・チャンプス」が共に カニエを出演禁止にしたことを発表。 エクササイズ・マシンのペロトンもカニエの楽曲をプレイリストから削除し、Def Jamレコードもカニエとの契約切れと共に彼とのビジネスを終了。 スポティファイは彼の楽曲の除去を拒否したものの、アップル・ミュージックはカニエの一部のプレイリストを削除しているのだった。

広範囲のビジネスを行い、それらでことごとくキャンセルされたカニエ・ウエストであるけれど、これほどまでに足並みが揃った背景にあると言われるのが、 スーパーエージェントの異名を取るエンデヴァーの共同CEO、アリ・エマニュエル(写真上右)がファイナンシャル・タイムスに寄稿した意見記事。 彼はHBOのドラマ「アントラージュ」のメイン・キャラクター、アリ・ゴールドのモデルになった人物で、 兄は現在日本大使で、元シカゴ市長、オバマ政権で首席補佐官だったラーム・エマニュエル。 自らもユダヤ人であるアリ・エマニュエルによる「カニエ・ウエストのこれ以上の反ユダヤ発言を許すべきでない」という意見記事は、「カニエをサポートするということは自分を敵に回すということ」 という強烈なメッセージになって芸能、ビジネス、メディア界に轟いたのが今週のドミノ倒しのようなカニエ・キャンセルの背景。
カニエ自身もそれを熟知していたようで、木曜にインスタグラムのアカウント停止処分が終了した直後には アリ・エマニュエルに向けて 「Love Speech」というタイトルで、 「自分は1日にして20億ドルを失った、でもまだ生きている、自分も 神も 未だ君を愛している」という内容のメッセージをポストしていたのだった。

フォーブス誌が個人資産20億ドルと見積もったカニエであるけれど、その資産の75%を担っていたのがアディダスとの複数年契約。 そのためアディダスが契約を即時打ち切りにした段階で失ったのがビリオネアのステータス。 彼の音楽から得た資産は意外に少なく9000万ドルで、これはギャップとバレンシアガとの1年分の契約金より少ない金額。 現時点で手元に残っている最も大きな資産と言われるのは元妻、キム・カーダシアンのボディ・ウェア・ブランド、SKIMへの投資で、企業価値32億ドルのSKIMの株式の 5%、1億6000ドル相当を彼が所有しているとのこと。 大金持ちほど多額の借金をしているのはカニエも同様で、住宅ローン、前払金などを含め、その負債総額は約1億ドルと言われるのだった。
トランプ前大統領と並んで「謝罪」という言葉を知らないと言われるカニエであるけれど、さすがにここまでキャンセルされたことで 軟化させてきたのがその態度。しかしメディアでは彼が2018年に発表したアルバムのタイトルを「ヒットラー」にしようとしていたこと等、 その反ユダヤ思想の根深さが連日のように報じられていたのが今週。
ちなみにカニエ・ウエストは2007年、ハリケーン・カトリーナ直後の寄付集めのチャリティ番組に出演し、「George Bush doesn't care about black people」と当時のジョージ・ブッシュ大統領を全米ネットで批判したのに始まり、 「奴隷制は黒人層が自ら選んだ選択」と語る等、数多くの問題発言を繰り返してきた存在。 しかし彼がバイポーラー(双極性障害)であることをオープンにしていたのに加え、その才能を認める意見も多く、これまでは物議は醸してもキャンセルされることは無かった存在。
でも今回は、 世の中にWOKEカルチャーが行き渡る中、中間選挙前でアメリカ国民が通常よりポリティカルになっているタイミングで、 メディアの中枢部を握るユダヤ系を敵に回したとあって、カニエ・キャンセルが山火事のように広がっていったと言えるのだった。





セレブ・インヴェスター続出、大ブレークのピックルボール


ピックルボールは1960年代にワシントン州で誕生したテニスとピンポンの中間のようなスポーツ。長きに渡ってシニア層のための健康維持のためのアクティビティと見なされてきたもの。 ピックルボールの現在のメガ・ブームのお膳立てをしたのはパンデミックで、ソーシャル・ディスタンシングを守りながら 簡単に出来るスポーツとしてブレーク。 2021年には新たに500万人がプレーを始めており、2030年までには全米の4000万人がプレーをすると見込まれる最速で拡大中のスポーツ。
既にメジャーリーグ・ピックルボールも誕生しており、そのチームのインヴェスターには LAレイカーズのルブロン・ジェームス、NFLタンパベイ・バッキャナーズのトム・ブレイディ、元テニスプロのキム・クライシュテルスらが名を連ね、 NBAブルックリン・ネッツのケヴィン・デュランもパートナーとチームを買い取る意向を示しているのだった。
さらに3大ネットワークの1つであるCBSでは、11月からセレブリティのピックルボール・トーナメント番組「ピックルド」の放映をスタートすることになっているけれど、 実際にセレブリティの間でも大人気なのがピックルボール。 「フレンズ」のマシュー・ペリー、アマンダ・ピート、ジョージ&アマル・クルーニー、レオナルド・ディカプリオ等数多くのセレブリティがプレーをしていることで知られ、更に多いのが元アスリートの愛好家。 水泳のマイケル・フェルプス、元テニス・プロのアンドレ・アガシ、アンディ・ロディック、サイクリストのランス・アームストロング等、数えきれないアスリート達がプレーをしており、 その人気ぶりはメガリッチの間でも然り。ビル・ゲイツから、前述のエンデヴァーCEO、アリ・エマニュエルらが、エクササイズを兼ねてピックルボールを楽しんでいるとのこと。 リッチ・ピープルの間での大ブレークを受けてハンプトン・インドア・テニスクラブは、テニス・コートを潰して新たにピックルボール用のコートを設置したほど。

そのことからも分かる通り、ピックルボールの人気に完全に押され気味なのがテニス。 ロジャー・フェデラー、セリーナ・ウィリアムスといったこれまでのテニス人気を引っ張ったスーパースターが引退する年齢に入ったこともあるけれど、テニスはエリート選手の養成に費用が掛かる上に、一般人の趣味やエクササイズとしては 体力的に厳しいスポーツとあってテニス人口はどんどん減少中。 加えてコート内でのプレーヤー数は2人か4人。バスケット・ボールであれば、ほぼ同じ面積で10人がプレーできることから、パブリック・コートの建設がどんどん減っているスポーツ。
一方のピックルボールはコートが小さく、大き目のプラスティック・ボールを打ち合うだけの見様見真似で出来るスポーツで、60歳でも30歳に勝てる点はゴルフ同様。 費用も掛からず、どのレベルでもそれなりに楽しめるとあって、どんどん愛好者を増やしているのだった。
やはりラケット・スポーツ経験者は圧倒的にアドバンテージがあることから、前述のように元テニス・プレーヤーの転向組が多いのはプロの世界もアマチュアの世界も同様。
既にクライシュテルス、アガシ、ロディック等の元テニス・プロがピックルボールに転向しているだけに、今後ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダル、セリーナ・ウィリアムスといった顔ぶれがピックルボールの世界に参入することがあれば、 いよいよテニス人口が減って行くだろう見る声が多いのだった。



その他、今週のキャッチアップ


★ パンデミック後のライフスタイルに社会が対応出来ない!?
アメリカではパンデミックとロックダウン中の在宅勤務がきっかけで、都市部から郊外、もしくは別の州に移住する人々が増えたのは周知の事実。 住む場所が変われば、人々のライフスタイルが変化するのは言うまでもないことで、それによって新しい問題が浮上してきているのがアメリカ。 先ず郊外を中心に起こるようになってきたのが昼間の渋滞。これまで渋滞と言えば朝晩の通勤時と決まっていたけれど、自宅勤務が増えて昼間に買い物やジムに出掛ける、 もしくはミーティングだけのためにオフィスに出向く人が増えた結果、昼間の渋滞に悩まされる地域が激増していることが伝えられるのだった。
更に郊外に移住した人々が増えた結果、近年高まっているのがアウトドア熱。 ハイキングやクライミングを自然の中で楽しめるエクササイズと捉える人々は多いけれど、トレーニングも無しに、装備もしっかり整えず、山の変わり易い天候や地形の特徴などの知識がない人々が 軽い気持ちでアウトドア・アクティビティに臨む結果、レスキュー隊が出動するオケージョンが急増。 中でもロッキー・マウンテン国立公園を含む12の国立公園があるコロラド州では年間に寄せられる捜索、救援要請は3000件を超え、それが急増したのがここ数年、それもパンデミック以降のこと。
アメリカの国立公園、自然公園ではレスキュー隊メンバーの99.9%がボランティア。そのボランティアはトレーニングも、用具も、現場に出向くガソリン代さえも自己負担で、年間で平均1500ドルを自費で賄いながらの活動。 中には5700平方キロメートルを僅か十数人で担当する地域もあり、多くのレスキュー・チームは財源が寄付で賄われているという不安定な状態。 ニュー・ハンプシャー州ではレスキューに掛かった費用全額を救出された本人に請求する制度が取られているけれど、コロラド州関係者によれば 「多額の救援費用がチャージされる」と考えると、 多くの人々はギリギリまで救けを求めない傾向にあり、そうなると救出作業がより困難になるだけでなく、助かる確率も低くなるとのこと。 そのためコロラド州では2023年から自家用車のレジスターの際に ”キープ・コロラド・ワイルド・パス”を 29ドルで自主的に購入するよう 州民に働きかけることによって 年間250万ドルのレスキュー予算を確保するとのこと。 コロラド州にとっては国立公園、自然公園は貴重な観光収入源であるだけに、アウトドアのリスクや周到な準備の必要性を 声を大にして呼び掛ける訳には行かないのもまた事実なのだった。

★ 米国この秋冬のトリプルデミック
アメリカのメディアで3週間ほど前から盛んに使われるようになってきたのがトリプルデミックという言葉。 これはCovid-19、インフルエンザ、そして乳幼児を中心にアメリカで感染が激増しているRSV(肺や気管の感染症を引き起こす呼吸器系のウィルス)という3つのウィルスの感染が起こすパンデミックという意味で、 現時点でインフルエンザについては 過去13年で最高の感染者数を記録。既に死者も出ている状況。
加えて連日のトップニュースになるほど深刻なのがRSVで、全米の病院の小児病棟が既に75%以上埋まっている状況で、一部の州では既にパンク状態。 Covid-19については、今も1日平均で367人の死者が出ているものの、オミクロン等に対応したアップデート・ヴァージョンの2度目のブースター・ショットを受けた国民の割合は僅か8.6%。 今週はバイデン大統領が取材陣の前で二度目のブースター・ショットの接種を行い、インフルエンザの予防接種と共に受けるようにと国民に働きかけたものの、 パンデミックにすっかり慣れてしまった国民の危機感は全く高まっていない状況。しかしヴァージニア州では既に病院の外にCovid-19とインフルエンザの救急患者受け入れ用のテントを設置しなければならないほどに感染が増えており、 パンデミック慣れのせいで この冬のトリプルデミックが悪化することが危惧されているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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