Oct. 10 〜 Oct. 16 2022
ノーベル経済学賞の悪夢、ツイート・ゴーストライター、JPモルガンがカニエ口座閉鎖へ、ETC.
今週木曜、10月13日には9月のCPIこと消費者物価指数が発表されたけれど、
今回の発表が通常よりも遥かに注目を浴びていたのは、11月の中間選挙まで3週間を切るタイミングでのインフレ指標であったため。
結果的にはインフレ率は前年同月比8.2%アップで着実かつ、予想を上回るスピードでインフレが進んでいる数値。
その発表直前から株式市場ではダウ先物が下がり始め、発表直後は大暴落状態であったものの、
その後はダウ、ナスダック、S&P500だけでなく、クリプトカレンシーの市場までもが爆上げ状態となり、ダウの終値は前日を828ポイント上回る上げ幅。
この日は取引時間内に約1500ポイントのスウィングを見せる異常事態で、専門家さえもが解説に困っていたほど。
インフレの影響で消費者の買え控え傾向は顕著で、今週アマゾンが48時間に渡って行った今年2度目のプライム・デイも伝えられるのはその芳しくない売上。
アマゾンは詳細の発表を避けていたものの、Eコマース・データ会社の調べによれば 7月に行われたプライム・デイに比べて売上は24%ダウンして57億ドル。
客単価も30%ダウンして46.68ドル。玩具、ベイビーグッズ、書籍を除く全てのカテゴリーで売上減少が見られたことがレポートされているのだった。
No More Prize
今週木曜に報じられたのがシンガーのブルーノ・マーズが、彼のグループ、シルク・ソニックを2023年のグラミー賞の選考対象から外して欲しいという意向を表明したニュース。
ウィークエンド等もグラミー賞の不鮮明な授賞基準を嫌って同様の意向を示したことがあるけれど、以前に比べて視聴率と共に賞のプレステージや権威がどんどん下がっているのが
グラミー賞、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞等、ありとあらゆるアワード。
そしてノーベル賞もその例外でないことを立証したのが、今週発表された経済学部門でベン・バーナンキ元連邦準備制度理事長が受賞したこと。
ベン・バーナンキと言えば、アラン・グリーンスパンの後任として連銀議長に就任し、リーマン・ショックこと前回のファイナンシャル・クライシスの際に
お金を印刷しては大手を救済するベイルアウト・カルチャーを生み出した人物。「デフレさえ防げば景気は持続する」、「経済を維持するために意図的にインフレにするのが連銀の仕事」というのが彼の持論で、
彼の語録には上左のビジュアルに見られるように、「米国政府は、印刷機 (今日では電子的に同等の機能)というテクノロジーを持っており、これにより必要なだけの米ドルを無料で発行できる。」、
「景気刺激のためには必要とあらばヘリコプターからお金をばら撒くことも辞さない」とある通りのインフレ論者。
彼の連銀議長就任以降、フェデラル・リザーブ・バンクの負債総額は 8000億ドルから9兆ドルにまで膨れ上がっており、現在の世界的インフレのお膳立てをしたと言われるのがベン・バーナンキ。
経済専門家の中には「バーナンキはお金(Money)と通貨(Currency)の違いが分かっていない」と批判する人も多いけれど、
世界中の庶民が物価高で苦しむ中、その彼に対してノーベル経済学賞が与えられることに 経済メディアが首を傾げたり、「Sick Joke!」と冷ややかな批判を展開していたのが今週。
ちなみにノーベル経済学の過去の受賞者には、1990年代後半に「インターネットは10年後の世の中にファックス・マシン程度のインパクトしかもたらさないだろう」と予言した経済学者
ポール・クルグマンも含まれており、今回のベン・バーナンキの受賞でその選考委員会への信頼は完全に失墜したとも言われるのだった。
一方 賞ではないものの、先週NYで殆ど注目を浴びることなく発表されたのがミシュラン2022年度版NYレストラン・ガイドのスター・レストラン。
それによれば今年3ツ星を獲得したのは シェフズ・テーブル・アット・ブルックリン・フェア、イレブン・マディソン・パーク、ル・ベルナダン、マサ、パー・セの5軒で、昨年と全く同じ顔ぶれ。
業界関係者にとってサプライズだったのは 昨年からヴェジタリアン・メニューに転向し、その料理がNYタイムズで酷評されて人気が低下した
イレブン・マディソン・パークが3つ星をキープしていたことで、「本当にあの料理(写真上右)を食べて評価したのか?」という疑心暗鬼の声が聞かれたほど。
2つ星レストランは13軒、1つ星レストランは55軒で、合計73軒がミシュラン・スターを獲得しており、パンデミック以降、
NYのレストランの質の低下が指摘される中、星付きレストランは昨年より5軒増えているのだった。
引き続きミシュランの評価が甘いと言われるのはフレンチと日本食で、昨今では高額のコース料理を出すヌーベル・コリアンの評価もうなぎ上り。
逆に実力が正当に評価されていないと言われるのが、今時の若い世代に大人気のヴェトナム、タイ、インド、モダン・チャイニーズ、マレーシアといったエスニック系のレストラン。
しかしミシュラン・スターが今時ビジネスの助けにはならないのは周知の事実で、昨年の2つ星レストラン 14軒のうち、ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション、ブルックリンのブランカ、イチムラ・アット・ウチュウ(寿司店)が
いずれも閉店している状況。今年はステーキの老舗で 2019年にNYタイムズにゼロ星評価で叩かれたピーター・ルーガーが、遂にミシュランでも星無しに降格したけれど、同店は旅行者や根強いファンに支えられているので、
ミシュラン・スターが無くてもビジネスへの影響は皆無と言われる存在。
「ミシュラン・スターの数ではレストランの力量は判断できない」と言われて久しいけれど、今では旅行者でさえミシュラン・ガイドではレストランを選ばない時代なだけに、
「誰のために 何の目的で 毎年歪んだ視点のレビューを発表するのか?」とミシュラン・ガイドの存在そのものに否定的な意見が聞かれるようになっているのだった。
VCツイートのゴーストライター、年収数千万円の背景
今週私が個人的に最も興味深いと思って読んでいた記事がシリコン・ヴァレーのヴェンチャー・キャピタリスト(以下VC)のツイートをゴーストライティングしている人物のストーリー。
セレブリティやフォロワーが多いインフルエンサーにはソーシャル・メディア・ポストのためのチームが存在しているのは全く珍しくないことで、
今やソーシャル・メディアを通じたイメージ構築はお金を掛けて行う時代。
それはVCも同様のようで、ツイートのためのゴーストライターを6〜7人抱えているケースは全く珍しくないようで、そのゴーストライターは高評価になると100万ドルを超える年収を上げているケースもあるのだった。
何故VCのイメージがそんなに大切なのかと言えば、20年前であればVCが動かしていたお金は1プロジェクト当たり100〜300万ドル程度。
年間に2000〜3000万ドル程度であったけれど、現在ではその資金規模がビリオン、すなわち10億ドル単位になり、VC間での競争が激化しているとのこと。
加えてピーター・ティールやマーク・アンドリーセンなど、誰もが名前を知るセレブ・ステータスを獲得するVCが存在するようになったこともあるけれど、
最大の要因になっているのは、若いアントレプレナー達が自分の企業に投資をするかもしれないVCについてリサーチする際、過去の投資歴と共にチェックするのがソーシャル・メディア。
若きアントレプレナー達は ソーシャル・メディアで その人間性に共感するVCに 「自分の会社の取締役会のメンバーになって欲しい」という気持ちを抱くようで、
特にツイートはVCにとって重要な個人広告&マーケティング手段になっているのだった。
では何故 VCのツイートだけを執筆するゴーストライターが、セレブリティやインフルエンサーのソーシャル・メディア・チーム全体のギャラ以上を1人で稼ぎ出せるかと言えば。
VCの方が多額のバジェットを持っているのは言うまでもないけれど、VCのゴーストライターは政治、テクノロジー、法律など幅広い知識に加えて、ユーモアのセンスに長けていないと務まらないため。
またVCのツイートは、イメージ等のビジュアルを含めないストレートな文章が最も効果的と言われ、280字ワード以内で読み易く、分かり易く、簡潔なメッセージに纏めるには文章のセンスが要求される訳で、
そんな全てを兼ね備えたライターが安く雇えないのはVC側も十分承知しているのだった。
ゴーストライターは別に本業があって、副業で営んでいる人が多いようで、ゴーストライティングに掛かる時間は1週間に5時間前後。シリコン・ヴァレーで知られるVCのゴーストライターになれば、その1ヵ月20時間勤務で稼げる年収は
約20万ドル。
ツイート内容は 真面目な社会的、政治的、経済絡みのメッセージが40%、残りの60%はフォロワーを引き付けておくためのネタで、ユーモアのセンスをアピールするのはもっぱら後者。
でも人間性の評価を高めるのは 世の中の理不尽な出来事や、様々な問題に対して人々がスカッとするような意見やシャープで皮肉交じりのジョークをポストすること。
ゴーストライター達が書いたツイートは 先ずはVC直属のエディターのところに送付され、内容のチェックを経てからタイムリーにポストされるので、
不要に物議を醸すツイートは無いものの、メッセージを広く拡散させるために あえて若干リスキーなツイートをポストするケースも少なくないようなのだった。
そもそも大統領を含む政治家にファクト・チェックを兼ねたスピーチ・ライターが居るのは当たり前。また2021年の授賞式シーズンには、当時助演男優賞を総なめにしていたブラッド・ピットが
毎回気の利いたユーモアを交えたスピーチをし過ぎたために、彼が受賞スピーチのライターを雇っていたことがハリウッド関係者の間でバレてしまったけれど、
地位や知名度が上がれば上がるほど、他人がリサーチをして執筆した文章やメッセージを自分の意見や考えとして語っているのが現代社会。
VCのゴーストライターによれば 「Everything is propaganda」 なのだそうで、ごく普通に自分の意見として語っているように聞こえる内容でも、
それを執筆しているゴーストライターが居て、その内容を自分の言葉として語るのが政治家、セレブリティ、インフルエンサーの役割。
したがって今の世の中では 政治的、商業的意図が絡まない有名人の主張など存在しないとさえ言われるのだった。
その他、今週のキャッチアップ
★ カニエ・ウエストの口座閉鎖を言い渡したJ.P.モルガン・チェース
2週間前に終了したパリのファッション・ウィークで「ホワイト・ライブス・マター」というメッセージのトップを披露して「ブラック・ライブス・マター」のムーブメントを批判し、物議を醸したのがラッパーでありデザイナーでもあるカニエ・ウエスト。
その直後には ”go death con 3 on JEWISH PEOPLE” とアンチ・セメティック(反ユダヤ教)のメッセージをツイートしたことから、
インスタグラムとツイッターからアカウント停止処分を受けており、それに対してプレスからコメントを求められた際にも 再び反ユダヤ姿勢を見せたことから
彼の取引銀行である J.P.モルガン・チェースがカニエに対して通達したのが、彼のファッション・ブランド Yeezy、及びカニエ個人とのビジネス取引を終了する意向。
すなわちソーシャル・メディア・アカウントの停止に続いて、銀行口座閉鎖処分を言い渡されたのがカニエ。
この処分はJ.P.モルガン・チェース側が公に発表した訳ではなく、保守派コメンテーターであるキャンディス・オーウェンが チェースからカニエに送付されてきた通達状をソーシャル・メディアで公開したことから明らかになったニュース。
カニエは以前から チェースCEOのジェイミー・ダイモンが自分に紹介されないこと、
チェースが自分のビジネスを優遇しないこと等をソーシャル・メディアで批判し続けており、チェースの立場から見れば ハイメンテナンスで問題が多いクライアントを反ユダヤ発言をきっかけに厄介払いをしたという印象。
カニエに対しては別の金融機関に移行するための猶予として11月21日まで口座の維持を認めているけれど、
ポリティカリー・コレクトが行き渡っている昨今では 金融機関も重んじるのが社会的イメージ。そのため人種差別や元妻のキム・カーダシアンに対する執拗な嫌がらせなど 問題発言や奇行が多い
カニエのアカウントを引き受ける大手銀行が果たして簡単に見つかるかが見守られているのだった。
★ ウォールストリートの新アンチ・ストレス・トレンド
今年に入ってからストレスフルな状況が続いているウォールストリートのトレーダーの間で、今人気が急上昇しているのが ”ケタミン・クリニック”。ケタミンは1970年代に食品医薬品局によって認可された
クラス3ドラッグで、以来 帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に用いられてきたもの。それをカナダのメンタル・ウェルネス・クリニックが
精神障害や過剰なストレスの治療法として活用し始めたのが今年3月のこと。同じトリートメントは、数ヵ月前からがダウンタウンにあるサイキアトリー・センターにも導入され、
徐々に増え続けたのがウォールストリートのクライアント。その数が急増したのは株価が暴落を続けた9月のことで、今やトリートメントの40%がウォールストリートのクライアントに対して行われているとのこと。
ケタミン・トリートメントはリーガル・ドースのケタミンを 点滴によって40分前後を掛けて体内に送り込むというもので、その間は
精神を穏やかにするアロマセラピーとヘッドフォンからの音楽を聞きながら、リクライニング・チェアでリラックス出来るとあって眠ってしまう人も多いとのこと。
1回のトリートメントの料金は750ドルで、どうやってジャッジしているかは不明であるものの トリートメント後はストレスが50%以上軽減されると言われるのだった。
★ ネットフリックスの安価オプション
今週ネットフリックスがアナウンスしたのが、新たに加わる広告入りのオプションの内容。
”Basic With Ads”のネーミングで呼ばれる このオプションの月間サブスクリプション・フィーは6.99ドルで、
1時間番組に4〜5分の広告が入るとのこと。これはアメリカの1時間TV番組のコンテンツが37〜42分、残りの18〜23分が広告である状況を考慮すると、
遥かに少ないと言えるもの。
現在ネットフリックスの広告無しのベーシック・サブスクリプションは9.99ドル、複数のディバイスで視聴が可能なスタンダードが15.49ドル、
その上のプレミアムが19.99ドル。 ライバルのHBO/MAXは既に広告入りオプションをスタートしていて、こちらは年間料金で69.99ドル、広告無しの料金は年間104.99ドル。
12月8日から広告入りオプションをスタートするディズニー・プラスは 1ヵ月の料金が7.99となっており、コンテンツのラインナップを考慮すると
1時間4〜5分の広告を我慢すれば 1ヵ月6.99ドルでネットフリックスが視聴出来るのは競合よりも好条件。
そのため今年に入ってからサブスクライバーを減らし続けて来たネットフリックスであるものの、このオプションによって巻き返しを期待する声が高まっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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