Sep 21 〜 Sep 27 2020

”These Facts Show Trump Could Lose"
大統領選でトランプは負ける!? そのシナリオのファクト・チェック


今週木曜に発表されたアメリカの先週の新たな失業者数は前週より増加して87万人で、 議会がベイルアウトしない限りは10月には航空業界から大量のレイオフが見込まれるのが現状。 株価が乱高下した今週は金曜にダウ、S&P 500、ナスダックが全て値を上げてフィニッシュしたけれど、 これは遂に2.4兆ドルの新たな景気刺激策が10月2日に可決される目途が立ったと報じられたため。 9月に入ってからスランプに陥っていた株式、ゴールド、クリプトカレンシーの市場が待ち侘びていたのが 新たな刺激策による市場への資金投入で、これが無ければどの市場もガス欠状態なのだった。
その一方で、アメリカでも日本でも「大統領選挙まではトランプ政権が株価を保つはず」という意見は多いけれど、実際にはそうとは限らないことを立証しているのが以下のグラフ。 S&P500のデータをもとに9月は歴史的に市場が振るわない様子を示したのがこのグラフであるけれど、それは大統領選の年も同様。 特に選挙の年は10月に入ってもその不振が続く傾向にあることを示しており、選挙結果が出て 方向性が定まった11月に大きく挽回を見せているのだった。
一般的には共和党大統領任期中の方が株価がアップするという既成概念が根強く、 伝統的に選挙結果が出た翌日に株価がアップする傾向にあるのは共和党候補が勝利した場合。 しかしながらリセッションが共和党大統領の任期中に起こる傾向が強いとあって、 データ的には民主党大統領の任期中の方が株価は堅調に動いているのだった。





株価はもはや大統領選勝敗の指針にはならない?


アメリカの株価分析をしている人の間では、「任期中に株価が上昇している現職大統領は再選されるので、今年の大統領選挙はトランプの勝利」との声が聞かれるけれど、 実際にトランプ大統領の任期中に約60%アップしているのがダウ工業平均株価。 しかしながら今回の選挙は株価が経済の指針にはならない初めての選挙。上はFRB(連銀)のバランスシートを示したグラフであるけれど、 トランプ政権誕生後の歴史上あり得ないレベルの金融緩和策のせいで、アップルのようにキャッシュが有り余っている企業でさえ超低金利で借金をして自社株買いをしては その株価を吊り上げてきたのがトランプ政権下での 株式ブーム。その割には設備投資が行われて来なかったことから金融緩和で溢れたキャッシュは下には流れず、上にだけ流れていった結果が現在の貧富の格差。 すなわちどんなに株価が高くても それが自分たちにとっての好景気を意味する訳ではないことを庶民が感じているのが今回の選挙。

その一方でパンデミックの影響で2月以降のアメリカ失業率は史上最高レベル。下のグラフは1970年代からの失業率と大統領選の勝敗を示したもので、縦に入ったグレーのラインがリセッション。 赤い線が示しているのが共和党大統領の任期、青い線が示しているのが民主党大統領の任期。
これを見て分かるのがリセッション中、リセッション直後の失業率上昇局面では与野党が入れ替わるということ。 例外は1972年のリセッション直後、失業率ピークに再選されたニクソン大統領であるけれど、これは1971年のニクソン・ショックこと金本位制度離脱が功を奏した結果で、 これは経済の歴史上最も大きな出来事の1つ。 また2004年のブッシュ大統領再選時も、2001年のテックバルブ崩壊と共に 上昇した失業率が選挙戦中にピークをつけていた微妙なタイミング。 しかしこの時は9.11のテロ、その後始まったアフガニスタン戦争を受けてブッシュ政権への支持率が上昇しており やはり例外的な時期と言えるのだった。


リセッションや失業率のデータとは無関係に与野党が入れ替わったのが2000年のジョージ・W・ブッシュVS.アル・ゴア、そして2016年のドナルド・トランプVS.ヒラリー・クリントンの対決であったけれど、 どちらもポピュラー・ヴォート、すなわち選挙の行方を決める州ごとの選挙人の数ではなく、純粋な投票者数では民主党候補であるゴア元副大統領、ヒラリー・クリントンが 勝利していたので民主党支持者にとっては後味の悪い選挙。 これまでの選挙でポピュラー・ヴォートで勝利しながら、選挙に負けてきたのは全て民主党大統領候補で、 それほどまでに現在の選挙人のシステムは共和党候補者に有利にデザインされているのだった。
ここで浮上するのが、現在のパンデミックが9・11に匹敵する危機的状況であるので、トランプ氏が再選されるのでは? との予測。 事実、危機的問題が起これば通常はアップするのが大統領への支持率。 ところがトランプ氏はパンデミック中にスローな対応と、誤まった情報を語ることで 国民の不信感が高まり支持率を落とした珍しいケース。 それだけに失業率、リセッションのデータからはトランプ政権が4年で終わっても決して不思議ではないのだった。



大統領選の最大の争点はヘルスケア


上左のグラフはバイデン陣営とトランプ陣営が集めた選挙資金のグラフであるけれど、これまで支持率ではバイデン氏がリードしていても、 トランプ氏が圧倒的に優勢だったのが資金集め。しかし8月からそれが逆転しただけでなく、トランプ陣営はトランプ氏が経営するホテルへの多額の支払い等、 不透明な多額の出費が多く、既に資金不足が報じられたのが2週間前のこと。
その一方で、2016年の選挙ではメキシコからの不法移民がアメリカ人から職を奪い、犯罪を犯し、ドラッグを密輸するとして、メキシコとの国境に壁を建設する 「Build The Wall!」のスローガンを掲げて勝利したのがトランプ氏。それと共にトランプ政権の最優先課題の1つであったのが、 オバマケアことアフォーダブル・ケア・アクトの撤廃。 しかし4年が経過しても代替の健康保険案が全く打ち出されておらず、特にパンデミックに突入してからは 国民にとって最も重要な選挙の争点になっているのがヘルスケア。
それもそのはずで高齢者以外で既往症を持つの米国成人の数は 全米に5400万人。加えて小児がんなど未成年の既往症も加えると全米の43%の世帯に最低1人の既往症患者が居る計算。 オバマケアが撤廃されれば、保険会社には既往症を持つ人々をカバーする必要がなくなるので、医療費が法外に高額なアメリカで これらの人々が経済的困窮、引いては医療費破産に追い込まれるのは時間の問題。
トランプ氏は今週に入って選挙対策として 大統領令で既往症カバーを暫定的に打ち出したものの、既にそれを法律で保障しているオバマケア撤廃を目指しているのがトランプ政権。 バイデン陣営は国民にとってヘルスケアが重要なポイントであることを悟って、それにフォーカスしたTV広告を集中的に放映しており、 トランプ氏がパンデミック中にマスクをしない支持者を集めたキャンペーン・ラリーを行うのとは正反対に、オバマケアがライフラインである全米の43%の世帯にメディアを通じてアピールしているのだった。



中立を決め込んだ前回勝利の立役者!? 大統領選3つ目のシナリオ


2008年にオバマ大統領誕生の立役者となったのがグーグル。グラスルーツ・ムーブメントに見せ掛けた若い世代へのアピールを含め、 グーグルがどれだけオバマ当選に貢献したかは、オバマ政権誕生後、毎週ホワイトハウスのミーティングにグーグル・エグゼクティブが参加していたことからも窺い知れること。
2016年のトランプ大統領誕生の際に同じ役割を担ったのがフェイスブックとその役員&大株主のピーター・ティール。 ペイパルの共同設立者でもあるビリオネア、ピーター・ティールは 前回の選挙の際にトランプ氏の勝利に賭けたシリコンヴァレー唯一のエグゼクティブ。 トランプ政権誕生後も政権入りしないままアドバイザーを務めたティールは ”シャドウ・プレジデント”とまで言われ、彼の情報分析会社で9月末にIPOが見込まれる Palantir/パランティールは、 国防省等 政府機関とのコントラクトで莫大な利益を上げているのだった。
パランティールは 前回の選挙でケンブリッジ・アナレティカによるフェイスブックを通じた有権者洗脳の手助けをした企業でもあり、フェイスブックにとってこの時の最大の広告主であったのが トランプ陣営及び、そのスーパーパック(支持者団体)。 CEOのマーク・ザッカーバーグも2016年の選挙前からトランプ寄りの姿勢を見せてはリベラル派が多い自社スタッフから批判を浴びてきており、 フェイスブックはトランプ政権誕生後には独占禁止法を逃れ、税制でも優遇されるなどの恩恵を受けているのだった。
しかしながら今回の選挙では 前回の立役者がどちらもトランプ陣営と距離を置く姿勢を見せ、特にトランプ氏に今回の選挙で全く献金をしていないピーター・ティールについては 「今回はトランプが負けると思っているから見捨てた」といった記事も見られる状況。
事実、ベンチャー・キャピタリストでもあるピーター・ティールにとって大統領選挙は政治というより投資。前回はそれが大きく当たったものの、シリコンヴァレーからは村八分にされるなど、 払った代償も少なくなかったと言われるのが彼。

いずれにしても今回の選挙ではパンデミックを受けて郵送の投票が激増することから、ほぼ確実視されるのが選挙日である11月3日を過ぎても結果が出ない状況。 その郵送投票のマジョリティは民主党支持者であることから、トランプ氏は春先から「郵送投票では不正票が混じる」と言い続ける一方で、 新たに任命した郵便局長にこの夏から郵送をスローダウンをさせるなど、既に郵送票の無効化に動いて久しいのだった。 さらに今週にはトランプ氏が「郵送票の正当性が立証されるまで、選挙で負けても平和的な政権移行をしない」と語っていることから、既に予測されているのが 2000年の選挙時のように 票の数え直しや裁判が続いて いつまで経っても選挙結果が出ない可能性。 それを受けて国防省からフェイスブックまでもが危惧し始めたのが、その間に大々的なCivil Unrest/暴動が起こり、最悪の場合Civil War/内戦状態にまで発展するシナリオ。
実際にトランプ政権保健福祉局のスポークスマン、マイケル・カプートは、9月16日のコメントで"When Donald Trump refuses to stand down at the inauguration, the shooting will begin (もしドナルド・トランプが大統領就任式で辞任を拒めば、撃ち合いが始まる)” と語り、トランプ支持者に ”銃を買い足すように” と呼び掛けたほど。 したがって今回の大統領選挙では、トランプ もしくはバイデンの勝利以外に起こり得るのが 「結果が出ない」という3つ目のシナリオ。
ちなみに合衆国憲法では、万一選挙から90日以内に結果が出ない場合には現職下院議長であるナンシー・ペロッシが大統領に就任することになるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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