Sep 14 〜 Sep 20 2020
NY 死んではいないものの… & 今週の3つのゲーム・チェンジャー
今週木曜に発表されたアメリカの先週の新たな失業者数は前週より僅かに下がって86万人。
ロックダウンが始まった当初の半分以下になったものの、アメリカはパンミック以前は1930年代の大恐慌時代も含めて 歴史上一度も失業者数が70万人を超えたことが無かったことを思えば、
回復は感じられてもまだまだ深刻な失業率。
それを象徴するかのようにパンデミック以降、リタイアメント・セイヴィング(年金積立)をストップした、もしくはそれを食い潰して生活しているアメリカの成人は10人中3人。
オンライン・ビジネス・レビューで知られるYelpが水曜に発表したエコノミック・アヴェレージ・レポートによれば、
8月31日の時点で全米でクローズしたビジネスの数は16万3735件で7月末から23%上昇。
そのうちの60%に当たる9万7966件が一時的な休業ではなく、パーマネント・クロージャーであることが報告されているのだった。
NY is not dead, but far from recovery
8月半ばに 長年NYに暮らした作家兼、ヘッジファンド・マネージャーの
ジェームス・アルチュシャーがオンラインで発信したのが 「New York City is dead forever」というエッセー。
「これまでどんな状況に見舞われてもカムバックしてきたNYであるけれど、今度ばかりは死んだ」というのがその内容で、以来メディアから死人扱いされてきたのがNY。
フェイスブック上にはNYを離れたがるニューヨーカーが情報交換をするグループが誕生し、3日間に1万人のメンバーを獲得。
実際にパンデミック以降、NYを離れたニューヨーカーの数は40万人と言われ、世田谷区のサイズのマンハッタンのレンタル・アパートの空物件数は7月末の段階で6万7300件。
レントは10%下落し、引っ越し業者は多忙過ぎて依頼を断る状況が続いているのだった。
ウィルス感染者が6月から減り続けてきたにも関わらず、NY脱出組の増加に歯止めが掛からない理由は
市の予算不足でゴミの回収が遅れ、ストリートにホームレスが増えたことに加えて、これまでNYで少なかった銃犯罪が増えて それが大きく報じられることから、実際以上に治安が悪化したイメージが高まっているため。
私自身もパンデミック以降のNYは 9・11のテロの時よりも酷い状況と思って見ているけれど、
今週半ばに私が州外に住む2人の友達から受け取ったのが「I heard that NYC is much better now」といったテキスト。
その理由の1つは9月14日にデブラジオ市長を迎えてテープカットが行われたワン・ヴァンダービルト・アベニューのオープニングが全米で大きく報じられたため。
ヴァンダービルト・アベニューを隔ててグランドセントラル駅の向かいにある地上77階建ての同ビルは現在マンハッタンで2番目の高層ビル。
既にTDバンク、カーライル・グループなどで70%のリースが埋まっており、ここで働く人々によってグランドセントラル駅のトラフィックが増えることを見越した駅内のアクセスの改善、パブリック・パークの建設を含めた33億ドルのメガ・プロジェクト。
さらにはJ.P.モーガンチェイス、ゴールドマン・サックス、ブラック・ロックといった金融大手が社員をオフィス勤務に戻す方向で動いているニュースも
NYがパンデミックから巻き返すゲームチェンジャーのように報じられていたのだった。
しかしながらハンプトンズに脱出したメガリッチ層は、通常ならば9月のレイバーデイの休日が終わればマンハッタンに戻るところが
ハンプトンズに居座ったまま。そのため例年秋以降下落するハンプトンズのハウス・レンタルの価格は今年は史上最高になる見込み。
クォモ州知事が 「政府からの資金援助が得られない場合は、富裕層の増税に踏み切る」と発言していることもあり、「益々NYを離れる富裕層が増える」との声も聞かれるのが現在。
とは言っても本当の大金持ちであればアメリカ国内に複数の家を所有し、これまでも税金申告は所得税やキャピタルゲイン税の無いテキサスやフロリダで行っているもの。
アメリカでは何処に家があっても運転免許証が発行されている州で税金を支払うことが出来るのだった。
NYのリカバリーについては、金融の従業員の多くがオフィスに戻ったとしても まだまだ程遠いのが実情。前述のYelpのリサーチによれば、NYでパーマネント・クロージャーになったビジネスは約7100件で、
経営再開の目途が立たず一時休業している店舗は4100件。今週には大手ジムのNYスポーツ・クラブが倒産を申請したばかり。
私はNYのような街はどんな状況からでもカムバックすると信じて疑わない立場であるけれど、
それまでの道のりには市の財政悪化、バス・地下鉄を運営をするMTAが抱える120億ドルの赤字、今年に入って激増するギャング絡みの犯罪、1930年代の大恐慌以来
最多レベルに達しているホームレス問題など、乗り越えなければならないハードルが多々あるのだった。
クリプトカレンシーのゲームチェンジャー
これまでアメリカでビットコインを始めとするクリプトカレンシーの課題になってきたのがマス・アダプション。すなわち一般に利用されるプラットフォーム作り。
そのゲームチェンジャーとなったのが今週、仮想通貨取引所の大手クラケンがクリプトカレンシーを扱うビジネスとして初めて銀行のステータスを獲得したニュース。
昨年からはJ.P.モーガンチェイスが、史上初のビットコム・ビリオネアになったウィンクルヴォス兄弟が経営するジェミニ、コインベースという2つの取引所に対して
同バンクを通じた金融サービスを認めていたけれど、クラケンはそれ自体が法律上で銀行と認められたことから、今後は
給与や請求書の支払い、投資、デビットカードの発行、年金積立などがキャッシュとの行き来無しにクリプトカレンシーで行えるようになるのだった。
この認可が行われたのは全米で最もクリプトフレンドリーと言われるワイオミング州で、現時点のサービス対象はワイオミング州内のみであるものの、
全米展開は時間の問題。
また同じく今週には全米各州の銀行規制のコーディネートを行う機関、CSBS(The Conference of State Bank Supervisors)が
クリプトカレンシーとフィンテック(Financial Technology)に対して州別ではなく統一規制を設けることで合意。
これによって複数の州でビジネスを行う仮想通貨取引所やフィンテック企業が、これまでのように州ごとの規制に振り回されることがなくなっており、
この2つのニュースはクリプトカレンシーの一般普及へ向けて これまでにない大きなステップと見られているのだった。
さらに今週にはナスダックに上場するマイクロストラテジー社がインフレーション・ヘッジとして既に8月に購入していた2億5000万ドル分のビットコインに加えて、更なる購入をSEC(証券取引委員会)に報告。
同社役員会もビットコインをマイクロストラテジーの主要準備資産として認可。そのニュースが報じられた途端に同社株価は9%アップしており、
クリプト市場で更に高まったのがビットコインのブルマーケットへの期待感。
一方 フランスではクリプトカレンシーのTezo/テゾが中央銀行のデジタル通貨トライアルに選ばれており、このトライアルを実施するのがフランスの大手銀行、
ソシエテ・ジェネラル。テゾが選ばれた理由はデジタル・ユーロのトライアルもテゾで行われているためと見られているのだった。
パンデミック下のビジネスのゲーム・チェンジャー?
今週、再び大きなパンデミックに見舞われた場合のゲームチェンジャーになり得る判決が下されたのがペンシルヴァニア州の高等裁判所。
「州政府がロックダウン命令によってビジネスをクローズし、25人以上の集会を禁止するのは合衆国憲法に違反する行為」という判決を下したのだった。
同様の裁判はNYのお隣、ニュージャージーを含む複数の州で起こっていることから、この判例が再びパンデミックに見舞われた際のゲームチェンジャーになると歓迎されていたのが今週。
しかしながらパンデミックに見舞われれば旅行が激減するので、旅行者への依存率が高いホテルやブロードウェイ・シアター等は、
たとえビジネスが続けられても売上が激減するのは避けられない状況。
また州政府はビジネスをシャットダウンすることは出来なくても、営業を続けるための規制を設ける力があることから、それを満たすことが高いハードルになって中小ビジネスが閉店に追い込まれる、
もしくは規制違反を摘発されて休業処分になるシナリオがあり得るのも事実。
前述のYelpのデータによればパンデミック中の影響を受けていないビジネスは弁護士や会計士の事務所、自動車修理、住宅の修理・建設関連で、
必要に迫られて利用するビジネス。
逆に影響が大きいのは衣料品店、ホームデコのショップ、ギフト・ショップに加えて圧倒的に飲食業。
すなわち人々の気分が消費に影響するビジネス。そのためパンデミック中にオープンしていても、人々が行きたいと思わなければ開店休業状態になってしまう訳で、
果たしてこの判決が本当にゲーム・チェンジャーになるかは定かではないのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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