Aug 24 〜 Aug 30 2020
パンデミックのリアリティ、”K シェイプ・リカバリー”
今週のアメリカでは月曜から開催されていた共和党全国党大会が一番の報道になるかと思いきや、
最も報道時間が割かれていたのはテキサス&ルイジアナ州を襲ったカテゴリー4の歴史的な大型ハリケーンのニュースと、
先週日曜にウィスコンシン州ケノシャで起こった黒人男性、ジェイコブ・ブレイク(29歳)に対する発砲事件。
ジェイコブ・ブレイクの事件はドメスティック・ヴァイオレンスの通報を受けて現地を訪れた警官が彼と口論になり、
警官を無視して車に乗り込もうとした彼に対して背中から7発の銃弾を浴びせたというもの。ジェイコブ・ブレイクは命は取り留めたものの下半身不随状態で、
その直後からケノシャはもちろん、全米各地で再び盛り上がったのがブラック・ライブス・マターの抗議活動。
これを受けてNBAではプレーヤーとコーチがプレイオフを中断。それにWNBA、テニス、MLB、MLS(メジャーリーグ・サッカー)が追随したことから、スポーツ界最大の
抗議ムーブメントに発展。NBAに関してはその後リーグとの話し合いで、NBAのホーム・アリーナを11月の選挙の投票所に使用する等、
人種不平等、投票妨害などにリーグが積極的にアクションを起こすことを条件に土曜日からプレイオフが再開されているのだった。
インフレ&貧富の格差拡大容認!?
さて、今週木曜に行われたのが米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長のスピーチ。
私が知る限り連銀議長のスピーチがアメリカの一般国民の間でこれほどまでに関心を集めたことはなかったと言えるほど
誰もが注目していたのが今回のスピーチ。
その理由はもちろんFRBの今後のポリシーが少なからず9月からの相場展開に影響を与えるためで、
今や投資はミドルクラス以上のアメリカ国民にとって最も重要な収入源。
スピーチの内容は 例によって「エコノミーは健全」と謳ってから、これまで2%に抑えてきたインフレをそれ以上にするというもので、
俗にヘリコプター・マネーと表現される金融緩和ポリシー継続が謳われたことから、株式、ゴールド、ビットコインの市場は一様に好感のリアクションを見せていたのだった。
しかし経済が好転に向かう訳ではないのは明らかで、今週多くの経済専門家が持ち出してきたのが上のグラフ。
ブルーのラインはヴェロシティ・オブ・マネー(貨幣流通速度)を示し、この値が高ければ高いほど経済活動が活発で、人々がお金を遣い、稼いでいるということ。
赤いラインは市場に投入されているお金の量で、縦のグレーラインがリセッションの期間。
見ての通り前回のファイナンシャル・クライシスのベイルアウト以降、どんどん市場に資金が投入されているにも関わらず
減り続けているのが貨幣流通速度。パンデミックがスタートしてからは”天と地”という表現が相応しいグラフ展開であるけれど、
これは天と地ほどに貧富の差が開いていることを如実に示すデータ。
ちなみにジェローム・パウエルは歴代の連銀議長とは異なりエコノミストではなく、プライベート・エクイティ・ファンドがそのバックグラウンド。
投資対象の価値をアップさせ、貧富の差を開く現在の金融のシナリオにマッチした人選と言われるのだった。
一括りの経済分析時代の終焉?
今週も株式市場は順調に値を上げてダウは ”Corona Dump / コロナ・ダンプ” と呼ばれるパンデミック直後の下げから完全に復活。プラスに転じているけれど、
それを報じるニュースに変化が表れてきたのが昨今で、「株価は経済の実態を反映する訳ではありません。
今も失業者が多く、助成金が必要な人々が多い状況には変わりありません」といった注釈がケーブル・ニュースなどで聞かれるようになりつつあるのが現在。
かつては”Vシェイプ・リカバリー” が見込まれていたアメリカ経済であるけれど、それがボトム期間が長い ”Uシェイプ” に変わったのがロックダウン半ばのこと。
そして再びコロナウィルスが猛威を振るい始めた段階では それが”Lシェイプ・リカバリー”に変わってきたけれど、
現在言われ始めたのは”Kシェイプ・リカバリー” 説。
これは上の図が説明する通りパンデミックが恩恵をもたらした側と、パンデミックが大きなダメージをもたらした側の状況がKシェイプで表現されたもので、
果たして下半分にとってこれが”リカバリー”と呼べるかは定かでない状況。
確実に言えるのは、従来のようにアメリカ経済全体を一括りにして好況、不況、回復を語れないほど貧富の差が開き、
それが経済のシステマティックな構造になっているということで、それを認める、もしくは容認するのが ”Kシェイプ・リカバリー”説なのだった。
キャッシュレス社会で更に広がる貧富の差
私の友人はマイアミで不動産エージェントをしているけれど、彼女によればパンデミック以降の売上が凄まじいのがマイアミのダウンタウンのモダンなコンドミニアム。
これは低金利の影響もさることながら ドル離れの現象で、遂にFRBがインフレ容認を打ち出したことから 今後益々ドルのバイイング・パワーが衰えていくのは確実。
一方銀行側は以前よりも頭金の額を増やし、審査を厳しくするなどして 住宅ローンに慎重姿勢を見せており、
昨今増えているのが「本当に住宅ローンを支払います」という誓約書にサインさせるケース。これは失業やペイカットでローンが払えなくなった人々を保護するための
政府の立ち退き要求禁止令が 新規購入者に利用されるのを防ぐ対策なのだった。
その一方で、地方銀行の中にはキャッシュの預金に決して安くない手数料をチャージするところが出てきたとのことで、
パンデミックで弾みがついたキャッシュレス社会への移行は急ピッチで進んでいる状況。
キャッシュレス社会はマイナス金利政策のナヴィゲーションがし易くなるのに加えて、UBI(ユニヴァ―サル・ベーシック・インカム)支給コストを
大幅に減らす手段と言われ、これらはどちらも益々貧富の差が大きく開くシナリオなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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