Aug 10 〜 Aug 16 2020

”Can Biden-Harris Beat Trump?"
バイデン&ハリスはトランプに勝てるか?


アメリカは木曜に先週の新たな失業者数、金曜に7月の小売成績の統計が発表されたけれど、 それによればアメリカの新たな失業者数はパンデミックがスタートして21週間目にして初めて100万人を下回る約96万人。 小売店の売上は5,360億ドルで先月よりも1.2%アップ。これはほぼパンデミック前のレベルに等しい数字。 しかしながら伸び率は5月の18.2%増、6月の8.4%増に比べて低下してきており、7月末を最後に 失業者手当の毎週600ドルの上乗せ金支給がストップしていることから、その影響が8月の成績に表れるのが懸念されている状況。
その8月と言えばアメリカでは9月からの新学年のスタートを控えて、子供たちのアパレルや文房具を含む教材等の購入が増える”バック・トゥ・スクール”商戦で知られているけれど、 今年はその学校がオンラインになるか、インパーソン・クラスになるかが未だ分からない学区域が多い状況。 その影響と経済不安も手伝って、今年は親達が”バック・トゥ・スクール” セールでの購入額を例年より減らす意向を明らかにしているのだった。



NYCレンタル・アパート空室数が過去最高、しかし…


ニューヨークはコロナウィルスの感染テストを受けた人々のうち陽性が1%を切る状況が7日連続となり、 感染が確実に収まりつつある状況。それを受けて週明けの月曜からはボーリング場が、そして8月24日からはメトロポリタン美術館、自然史博物館を含むインドア・カルチャー施設が 従来よりキャパシティを減らして営業を再開する見込み。
そんな中今週報じられたのが、NY市の借り手がつかないレンタル・アパート軒数が7月の段階で過去最多の1万3117の物件となり、 昨年同月の5912軒から122%の上昇を見せたというニュース。 ここまでレンタル物件が余っているので、NY市の家賃の平均額も2019年7月の3,521ドルから3,167ドルに下落したことが伝えられるのだった。
とは言っても今も平均的な2ベッドルームのアパートのレントは4,620ドル、ワンルームのストゥディオで2,668ドルで、2010年以来初めての 値下がりとは言えまだまだ高額。 特にマンハッタンは値下がり後でも平均的なレントは約4,060ドル。加えてニューヨークはステートタックス(州税)も高額なので、 自宅勤務になったり、仕事を解雇された人々が州外に出ていくのは容易に納得できる状況。
そのNYで最も多くの失業者を出しているのは やはりレストラン業界で、かつての就業者の60%が現在失業中。 その中には失業手当が受け取れない不法移民も多く、 現在ホームレスになりつつあるのがこれらの人々。 ベテラン・シェフ、トム・コリッキオはつい最近メディアで「レストラン経営は不法移民の労働力無くして成り立たない」とコメントしていたけれど、 低賃金でハードワークをこなし、レストラン経営を陰で支えていた労働者がパンデミックで何の保証もなくストリートに放り出される一方で、 レストランを経営するシェフは億万長者でハンプトンでヴァケーション中というのがこの業界のアンフェアな仕組みになっているのだった。



マイノリティ女性初の副大統領候補、カマラ・ハリス


さて今週メディアで最大のニュースになっていたのが民主党大統領候補、ジョー・バイデンが英語で「ランニング・メイト」と表現される 副大統領候補にカリフォルニア州上院議員、カマラ・ハリス(55歳)を指名したこと。
これによってカマラ・ハリスはアメリカ史上3人目の女性副大統領候補であると同時に、史上初のマイノリティ副大統領候補になっているけれど、 彼女の父親はジャマイカ出身、スタンフォード大学の経済学教授であったドナルド・ハリス。 母親はインドからの移民で、UCLAバークレーを卒業後、がん研究のリサーチャーを務める傍ら、 市民権運動家として活動してきたシャイアマラ・ゴパラン・ハリス。夫妻は1971年に離婚し、以来カマラと 妹で弁護士、MSNBCの政治アナリストでもあるマヤ・ハリスは 母親によって育てられてきたのだった。

カマラ・ハリスは2003年にサンフランシスコの地方検事に選ばれ、2010年にはマイノリティ女性として初めてカリフォルニアの司法長官に就任。2016年には カリフォルニア州で女性として3人目、黒人女性としては2人目、サウス・アジアンとして始めて上院議員に選出され、人種と性別のバリアを切り開きながらキャリアアップしてきた存在。 しかし木曜にはトランプ政権の法律アドバイザーがカマラ・ハリスが生まれた1964年には彼女の両親がまだ市民権を獲得していなかったことを理由に、彼女に副大統領の資格がないとツイート。 その説の出所はニューズウィーク誌に掲載された右寄りの法律教授ジョン・C・イーストマンの論説で、それによれば 合衆国憲法14条第2項で「”ナチュラル・ボーン・シチズン”のみが副大統領、及び大統領になり得る」と定められていることから、「市民権を得ていない移民の子供は”ナチュラル・ボーン・シチズン”に該当しない」というもの。
もちろんこの論説は「アメリカで生まれであれば アメリカ国民である」という連邦最高裁の判断とは相反する勝手な解釈で、 ニューズウィーク誌はその掲載を週末に謝罪。しかし現時点でこの論説を評価するコメントをしているのがトランプ大統領。 そのためトランプ氏が「オバマ大統領がアメリカ生まれではないので、大統領の就任資格がない」と主張し続けたBirther(出生)問題を、今回の選挙では カマラ・ハリスをターゲットに蒸し返すと予測されるのが現在。でも同じBirther問題でも 今回はオバマ氏1人の話ではないだけに 市民権を得た移民とその子供の世代からの票を失うリスクを伴うのだった。



カマラ・ハリスで勝てるとすれば…


前回 2016年のヒラリー・クリントンVS.トランプ氏の大統領選挙の際には「アメリカ史上最も不人気の候補の対決」と言われ、「どちらも支持したくない」」という国民が多かったけれど、 今回の選挙でも聞かれているのが「投票したい候補者が居ない」と嘆く声。 一部に熱烈な支持者が居るトランプ氏に対して、バイデン支持者は特にバイデン氏を熱心に支持しているというよりもトランプ再選を何としても阻みたい人々。 要するに今回の選挙はトランプ VS.バイデンではなく、トランプ VS.アンチ・トランプ派の対決。
今週には前回の選挙同様、ロシアがトランプ大統領再選のための選挙介入を行っている一方で、中国とイランはバイデン氏選出を支持している動向が伝えられていたけれど、 もしカマラ・ハリスの存在がバイデン勝利に貢献出来るとすれば、それはこれまで政界のレーダーに全く引っかからなかったアジア系アメリカ人の票を獲得した場合。 前回の選挙でトランプ勝利の番狂わせを招いたのが 過去何年も投票せず、世論調査の対象にもならなかった低所得者層であるけれど、 今回の選挙で その存在になりうるのが これまで他人種に比べて投票率が極めて低く、政界が無視し続けてきたアジア系有権者層。
そのアジア系アメリカ人は近年最も増加率が著しいマイノリティ人種で、有権者数は毎年10万人以上ペースで増加。 アジア系で唯一 トランプ陣営が積極的に支持獲得に動いてきたのが、最も富裕層が多く、数的にもマジョリティを占めるインド系移民。 昨年にはインドのモディ首相を招いたイベントをトランプ大統領がテキサスのスタジアムで行っていたほど。

アメリカには ”ブラウン”という人種カテゴリーが存在するけれど、これは”Desi/デシ”とも呼ばれるインド、パキスタン、バングラデシュ等のサウス・アジア系の人々。 もしカマラ・ハリス効果が表れるとすれば、そのブラウン層を中心としたアジア人有権者の支持を獲得した場合で、 加えて3800万人と言われるマイノリティ人種の女性有権者層も決して侮れない ”Xファクター”。 さらにコロナウィルスの問題をきっかけに アジア系移民が差別や暴力の対象になるケースが激増したこと、トランプ氏がコロナウィルスを「チャイナ・ウィルス」と呼び続けていること等も、 今回の選挙でアジア系有権者がアンチ・トランプ票を投じるきっかけになり得ると指摘されるのだった。
2016年の選挙ではメキシコ系移民に対する敵対意識及びメキシコとの国境における壁の建設を謳って勝利したトランプ氏であるけれど、 今回は「過剰に移民問題にフォーカスすると命取りになると」いう声は与党共和党内でも聞かれる意見。 それより「民主党が勝利すると企業への規制が増え、増税が待っている」というビジネス寄りの路線の方が従来の共和党支持者にアピールすると言われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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