June 8 〜 June 15 2020
トランプ大統領が目の敵にするCHAZとは?
今週木曜に発表されたデータによれば、 先週1週間に新たに失業保険を申請したアメリカ人の数は150万人。
過去12週間連続で失業者が150万人を超えているけれど、誰もが首を傾げたのが先週発表された5月の米国雇用統計。
それによれば250万の仕事が生み出された結果、失業率が4月の14.7%から13.3%に低下する歴史的な好数字を記録。
しかしながらこれは労働省が一時解雇の人々をカウントし損ねるミスを犯した結果で、実際の失業率は16.3%。
しかもその統計に含まれているのは、 コロナウィルスによるシャットダウン解除で 最も業務再開が後回しになっている
歯科医が 新たな雇用の10%を生み出したという信じ難いデータ。
そのためこの雇用統計が「意図的なミスと操作された数値によるもの」という指摘がインターネット上に溢れていたけれど、
メインストリーム・メディアは労働省がウェブサイトでその間違いを認めてからも、訂正報道はせず誤った数値を報じ続けていたのだった。
また今週木曜には2月から3月にかけての暴落からのカムバックを見せていたNYダウが 久々に1861ポイント下落していたけれど、
アメリカでは年収7万5000万ドル未満の人々が 政府の助成金を受け取り始めた頃から
グーグルで過去最高の検索数を記録していたのが「How To Buy Stocks」。
それが示すように これまで株式を購入したことが無かったアマチュア投資家が、ダウのカムバックに触発されて株を買い始めていると言われるのが現在。
国税局がこれまでに支給した助成金総額は1億5900万ドル。現在は個人に対する2度目の助成金支給が検討されている段階で、
市場に素人の資金が大量に流れ込むことはベテラン投資家や機関投資家にとっては大儲けのチャンスを意味すること。
そのため経済専門家は アメリカ史上最大の株の上げ幅がことごとくリセッションやディプレッション期間中に記録されていることを指摘しながら、
株式の知識とある程度の経済的ゆとりがない人々にとっては、現在の相場が非常にリスキーであることを警告しているのだった。
さて今週月曜にアメリカで一番最後にロックダウンが解除されたのがニューヨーク市。
引き続き連日ブラック・ライブス・マター(以下BLM)の抗議デモが行われているものの、
略奪や器物損壊等の違法行為が一段落したことから、シャネルを始めとする一流店が徐々にウィンドウを覆っていたボードを外し、買い物客によるピックアップのビジネスをスタート。
テキサス、フロリダ、アリゾナを含む14の州では過去1週間にコロナウィルスの患者数が25%以上増加しているものの、
NYではテストを受けたうちの1%のみが新たな感染者で、抗議デモでソーシャル・ディスタンシングが無視されていても
とりあえず感染が収まりつつある状況。
その今週、アメリカでターボの勢いが掛かっていたのがBLMの抗議活動の様々な分野への波及。
抗議活動が全米の400都市に拡大した先週の段階で、ありとあらゆる大手企業がBLMのサポートを打ち出し、
各地でロバート・リー将軍を含む南軍の英雄像が撤去されていたけれど、
今週になって撤去、破壊されていたのが 現代のアメリカ史で「侵略者」、「奴隷制を持ち込んだ」と批判されるクリストファー・コロンブス像。
また南軍英雄の名前が付いた10の米軍基地の改名、及び米国議会ビル内の11の南軍英雄像の撤去も実現に向けて大きく前進。
白人保守派のスポーツとして知られるNASCARも レース会場における南軍旗ディスプレー禁止を発表。
しかしそのNASCARは、南軍旗、KKKやナチスのメモラビリア・グッズの販売で多額の利益を上げている
ガンブローカー・ドットコムが 大手スポンサーであることについては口を閉ざしたまま。
そのため南軍旗禁止はBLMのサポートよりも、ここ数年のTV視聴率低下を危惧したビジネス・デシジョンという見方も有力なのだった。
メディアの世界では これまで職場で人種差別を行ってきた編集者やエグゼクティブ、リアリティTVスター等が
辞任や解雇に追い込まれており、その中に含まれていたのがメーガン・マークルの親友としてカナダのTV局で自らの番組を持っていた
ジェシカ・マローニー。さらには警官をフォローするリアリティTVで過去30年以上続いた 「Cops / コップス」のキャンセルが決定。
同番組は警官を美化し、黒人層を犯罪者扱いする視点で編集された悪名高きプログラムとして知られてきた存在なのだった。
その一方で 今週にはハーパーズ・バザール誌で157年の歴史上、初の黒人編集長が誕生。
リアリティTV「バチェラー」が25シーズン目にして初めて黒人男性を「バチェラー」にキャストし、
バンドエイドが有色人種バージョンの生産を発表。
小売りの世界では、ビューティー・ショップのセフォラが、現在呼び掛けられている
「総在庫の15%以上を黒人層が経営するメーカーの商品にする」というプレッジに大手チェーンとして初めて参加を表明しているのだった。
ウォルマート、ターゲットは今週に入って黒人層が購入するヘアケア・グッズやコスメティック、アクセサリーを
防犯ケースに入れたり、特別な防犯タグをつけてきた方針を改めると発表。
さらに全米の様々なブティックの販売員がソーシャル・メディアでシェアしていたのが、
黒人客をコードネームで呼び、店内で盗みを働かないようにマークしていた人種差別の実態。
それがスタートしたのはアンセロポロジーのスタッフによるポストで、同チェーンのアメリカ、及びカナダの店舗では
黒人客を ”Nick / ニック” と呼んで、店に入った途端にフォローするのがルーティーン。そのアンセロポロジーは6月1日にBLMを
サポートするメッセージをソーシャル・メディアにポストしていた存在。
それ以外にも Zaraは黒人客を”スペシャル・オーダー”、ヴェルサーチは”D410” というコードネームで呼んでいたそうで、
モスキーノのブティックでは セレブでもなく、高額なジュエリーや衣類を身に着けていない黒人客を ”セリーナ” と呼んで、
スタッフが店内でマークするだけでなく、 車のナンバー・プレートを撮影していたことから、昨年人種差別の訴訟が起こっていたという。
ファッション・ブランドのリフォーメーションは社内の黒人スタッフに対する人種差別が問題視され、オーナーが謝罪。
セリーヌも白人スタイリストでない限りは黒人セレブには製品を貸し出さない姿勢が暴露されていたけれど、
表向きにはインスタグラムでBLMをサポートし 1万7000のLikeを獲得していたのだった。
そんな社会全体のシステマティックなレイシズムの実態がどんどん明るみに出てきた今週に報じられたのが、
ベストセラー・ブックのトップ10が人種差別に関する書籍で占められているというニュース。
これは「自分の人種感が間違っている、もしくは古過ぎるのでは?」と危惧した白人層が買い漁った結果で、
実際にランクインしているのは 「How to be an Antiracist / ハウ・トゥ・ビー・アン・アンチレイシスト」、「Me and White Surpremacy / ミー・アンド・ホワイト・シュプレマシー(白人至上主義)」等、
白人層に対して人種差別の実態や問題を説いている書物。
これらの購入者の中に少なくないと言われるのが、ジョージ・フロイドの問題を語っている際に 自分の子供達にレイシストだと批判された親達なのだった。
現在トップ0.1%のメガ・リッチや政府関係者が危惧し始めたと言われるのが、BLMの運動が今後どう展開していくかについて。
というのはBLMのシステマティックなレイシズムへの抗議が、
徐々に社会の弱者と強者の格差が 能力やハードワークとは無関係にシステマティックに開くようにデザインされた現代社会に対する抗議に発展する兆しを見せてきたため。
その兆しの1つとして捉えられているのがシアトルで今週からスタートしたCHAZ / チャズ(Capitol Hill Autonomous Zone / キャピトル・ヒル自治区)。
CHAZ誕生の経緯は、5月末にシアトルでBLMの抗議活動が始まった際に 警察の武力行使がエスカレートしたことから、
シアトル大学法学部を含む複数の団体が訴訟を起こし、警察は30日間 武力行使を控えると約束。
しかし程なく警察が抗議デモ参加者に向かって再び催涙ガスを使用。そのクラッシュ・ポイントとなっていたのが東警察署周辺エリア。
6月8日に抗議活動者達がこのエリアでの平和的デモを求めたことから、警官全員が東警察署から撤退。
そこに活動者達が大挙して流れ込み、それで満足して終わるかと思いきや、
そのエリア周辺にバリケードを築いて 外部と隔離された自治区を形成したのがCHAZ。
現地のムードは前回のファイナンシャル・クライシスの際にウォール・ストリートに居座った”オキュパイ・ウォールストリート” と大学のキャンパスをミックスしたようなもの。
メディカル・サプライから食糧、水などが全て無料で配られ、警察無しで平和が保たれている様子がアピールされて、
人種差別や社会問題についてのディスカッションが頻繁に行われているのが現地の様子。
人種差別撤廃や警察のリフォームはもちろんのこと、アマゾンに対する課税なども訴えられているけれど、
FOXニュース、NYポストのような右寄りメディアの報道では、現地の活動者の1人である ラッパーのラズ・シモーンがWarlord / ワーロードになって
映画「Mad Max」のアナーキーな世界を繰り広げていることになっているのだった。
トランプ大統領は「シアトルが何もしないのなら自分がCHAZを軍隊で弾圧する」と宣言。テネシー州ナッシュヴィルやノース・キャロライナのアッシュヴィルに出現したCHAZに対しては、
トランプ氏からの圧力を受けた共和党政治家が警察に取り締まりを命じているのだった。
それ以外の州で高まっているのは”Defund the Police / ディファンド・ザ・ポリス” のムーブメントで、警察に対する市や州の予算を減らすと同時に
警察の役割を縮小するのがそのコンセプト。ニューヨーク市警察の年間予算はWHO(世界保健機関)よりも多い60億ドル。
ジョージ・フロイドを死に追いやったミネアポリスの警官、デレク・ショーヴィンは事件前にも17回に渡って過剰暴力のクレームを受けていた悪徳警官でありながら、
殺人で有罪になっても 彼の19年の勤続に対して支払われる退職金は1億円以上。
BLMムーブメントの高まりを受けて多くの人々が腹を立てているのが 教育や福祉の予算がカットされ、市民の税金が警察の軍隊並みの武装や悪徳警官の給与に費やされている実態。
そのミネアポリスでは今週、町の議員によって警察解散が満場一致で可決され、今後はコミュニティに根差したセキュリティ・サービスが再構築されることが決定。
それを一足先に2014年に実現していたニューヨークのお隣、ニュージャージー州のカムデンでは警察からコミュニティ警備に代わって以来、犯罪件数が大きく減少。
児童によるトラブル、精神病患者によるトラブルにはそれらの専門家が対処しており、
警官のように無闇に銃やテイザー(スタンガン)を使用することが無いことから、逮捕時のトラブルや死者数も激減していることが伝えられるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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