Feb. 24 〜 Mar. 1 2020
コロナウィルス、感染率を上回る早さのアメリカ社会へのインパクト
今週のアメリカの報道は ハーヴィー・ワインスティンの有罪判決などのニュースもあったものの、終わってみればコロナウィルス一色。
特にカリフォルニア州とワシントン州で感染地への旅行、旅行帰国者とは全く無関係の
感染者が出たこと、そして土曜日にはワシントン州シアトルの感染者(50歳男性) がアメリカ国内の初のコロナウィルス死者になったことがショッキングに報道されていたのだった。
その感染経路について今週ホイッスルブローワーが明らかにしたのが、日本のダイヤモンド・プリンセスから戻り米軍基地で隔離された人々の対応を
プロテクション・ギアをつけず、感染病患者の取り扱いトレーニングを受けていないスタッフが行っていたこと。
そのため帰国者とは異なり 自由に街中に出掛けられる基地のスタッフが保菌者となって感染を広めた説が浮上しているけれど、政府や基地関係者はこれを否定。
死者が出たシアトルの高齢者施設では入所者とスタッフ、約50人にコロナウィルスと思しき症状が確認されているのだった
一方、今週訪れたインドでの記者会見で「アメリカのコロナウィルスの対応は万全」と語ったのがトランプ大統領。しかし同じ日に疾病予防センターのトップが
「コロナウィルス感染拡大は時間の問題」と矛盾した発表を行ったことから、
急遽設けられたのが医療経験ゼロのマイク・ペンス副大統領が率いる政府コロナウィルス対策本部。
今後は全ての専門家に対してペンス副大統領の許可を得ないコメントの発表を禁止する措置が打ち出されているのだった。
しかしペンス氏はインディアナ州知事時代に
HIV対策を軽視してエイズ感染拡大を招いた過去があるのに加え、「喫煙と肺がんは無関係」と 医師や科学者とは異なる見解を打ち出すことで知られる存在。
そのペンス氏率いる対策本部は15人のメンバーのうち医療関係者は僅か2人。なぜかスティーブン・ムニューチン財務長官が含まれており、
経済対策目的と思しきものになっているのだった。
金曜には遊説先でコロナウィルスについて「弾劾裁判同様の民主党の陰謀」と語ったトランプ氏であるけれど、
同様のコメントは 陰謀説で知られるラジオ・ホスト、ラッシュ・リンボー、大統領の長男 ドナルド・トランプ・ジュニア、ホワイトハウス補佐官代行のミック・マルヴェニーも
語っており、「コロナウィルスはただのインフルエンザで、トランプ大統領を陥れるための民主党や中国の画策」
というのがその主張なのだった。
今週は世界各国で株価が大暴落したのは周知の事実であるけれど、
NYダウは今週の5日の取引日で12%価格を下げており、これは2008年の前回のファイナンシャル・クライシス以来の下げ幅。
ダウとS&P500を合わせると失われた企業株価は3兆ドルで、全世界の市場が失った総額は6兆ドル。
当然の事ながら損失が最も大きかったのは世界の大富豪たち。
ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、LVMHグループ会長のベルナール・アルノーがそれぞれ100億ドルを失っており、
それに次いで損失が大きかったのが世界の長者番付で現在25位につけているイロン・マスクの90億ドル、
次いでウォーレン・バフェットの88億ドル。
世界で最も裕福なトップ500の損失総額は444億ドルと言われ、「貧富の差が僅かに狭まった」という皮肉さえ聞かれたのが今週。
こんな状況でも上がるであろうと市場関係者が注目する株は、世界的に家から出から出たがらない人々が増えることを受けて
ネットフリックス。昨年末にネットフリックスを追随するストリーミング・サービスとしてデビューしたディズニー・プラスは、
ここへ来て大人用コンテンツ不足で伸び悩みが伝えられ、5月から人気番組『フレンズ』のリユニオン・スペシャルをエクスクルーシブ・コンテンツにデビューする
HBO Maxを相手に苦戦が予測されているのだった。
いずれにしても今週の株式市場の危機的状況を受けて連銀のジェローム・パウエル会長は
「アメリカ経済は引き続き堅調」としながら「必要とあれば、連銀は”ツール”を使用して対応する」と語っているけれど、
このツールとはもちろん公定歩合の引き下げ。
しかしながら、現在のレートは1.5〜1.75%と既に低いレベルで、2008年のファイナンシャル・クライシスの段階の4.25%と比べると、
景気刺激策にも後が無いという印象。
一部ではコロナウィルス・クライシスでアメリカがマイナス金利時代を迎えるという憶測も高まっているのだった。
今週には写真上のようにケイト・ハドソン、グウィネス・パルトローといったセレブリティがインスタグラム上で、マスク姿のセルフィーをアップしていたけれど
週末までに全米で不足が報じられるようになったのがマスク。
そのトリガーになったのは月曜の上院公聴会で、保険局の役員が「コロナウィルス感染が広がった場合に十分なマスクを確保していない」と証言したため。
現在政府がストックしているのは3000万ユニットのマスク、グラス、プロテクション・スーツ。しかし感染が広まった場合に必要とされるのはその10倍の3億ユニット。
それを受けて一般の人々がマスクの購入に走ったと言われるけれど、実際には業者による買い占め、
流通のストップ、受注キャンセルの波が広がり、こうした状況にありがちなパニック買いを煽る一方で、
とんでもない利益を乗せた価格のマスクがアマゾン・ドット・コムを始めとするウェブサイトに登場。
疾病予防センターでは一般市民は未だマスク着用の必要が無いことを訴えて、本来マスクが必要な
医療関係者、清掃作業員、建設作業員などにマスクが行き渡るよう呼び掛けているのだった。
またアマゾン・ドット・コム上では根拠も無しにコロナウィルス治療や感染防止を謳った商品が溢れるようになり、
今週だけでアマゾンが誇大広告、不適切価格でリスティングを削除した商品数は何と100万アイテム。
CUBE New York でもお客様のリクエストを受けてマスクの取り扱いを始めたけれど、
アメリカ国内の業者は発注がキャンセルされたり、価格が吊り上がるなど 状況が二転三転するとんでもない状況。
逆に感染者数が減少し始めて、状況が沈静化に向かったと言われる中国や、マレーシアの業者の方が遥かに安定しており、
アップル社も中国の工場の営業再開を今週発表したところ。
アメリカのニュースでは数日前にビジネスが稼働し始めた中国の工場の様子を伝える現地レポートが放映されていたけれど、
レポーターが訪れた工場でフル稼働で生産されていたのは他でもない 白い不織布にグリーンのラインが入った医療用プロテクション・スーツ。
中国は稼働し始めても 世の中では感染がどんどん広まる様子を印象付けていたのだった。
ニューヨークに関しては700人が自主隔離状態にあるとのことで、これまでコロナウィルス感染テストを受けた8人は全員がネガティブと伝えられるのが現在。
未だ感染者が出ていないとあって、私が今週歩いていたアッパー・イーストサイドやミッドタウンでは、
街中は平常通りで、マスクをしている人も全く見かけない状況。(アップデート:3月1日日曜夜にイランから戻った30代の女性がNY州初の感染者として報じらています。)
そのニューヨークで 目下最も危惧されているのは旅行者の激減。既にブロードウェイのシアターは観客数が20%ほど減っているとのことで、
ホテルの宿泊客も然り。ニューヨークではこの春ミッドタウンにオープン予定のハードロック・ホテルを始め、ここ数年ホテル開発ブームが進んでおり、
2021年までにホテルの客室総数が 2010年時に比べて65%アップするというホテル・オープン・ラッシュ。
そんな新たに建設されたホテルにとって旅行者激減は売り上げ低下だけでなく、建設に掛かった借入金が返済できないリスクを意味するもの。
ウォールストリート・ジャーナル紙によれば既に11のホテルが不渡りを出す可能性のウォッチリストに入っているとのこと。
航空業界にしても2020年の現段階で300億ドルの損失を被っていることが伝えられているけれど、
今後さらに増えると見込まれるのがコロナウィルスの感染が広がる国へのフライト・キャンセル。
アメリカ政府は2月29日にそれまでの中国への旅行規制に加えて 新たに過去14日間にイランに滞在した外国人の入国禁止、
およびアメリカ人のイタリア、韓国への渡航禁止を発表したばかり。
既に冷めきっているニューヨークの高額不動産市場も、コロナウィルスのせいで海外からのバイヤーの需要が益々低下することが確実視されるのだった。
でもこれがハワイやテキサスなど感染者が出ている州になると、マスクだけでなく食糧を買い溜めする人々が増えているようで、
写真上左はハワイのコストコ入店を待つ人々。
オハイオ州では非常食のレトルトを買い貯めする人々が増えているとのことだけれど、感染者が出ている州では疾病予防センターが
万一自宅隔離、もしくは外出自粛が呼び掛けられたケースに備えて、ある程度の食糧備蓄を呼び掛けている状況。
その影響でカリフォルニアで今週末から始まったのが
食糧や水を含む生活必需品のパニック買い。日曜には感染がシカゴ、ロードアイランド州にも広まったことが伝えられることから、
これらの州でも同様の状況が見込まれるのだった。
当然のことながらコロナウィルスは11月の大統領選挙にインパクトを与えると見込まれるけれど、感染が広まった場合に
最も恩恵を受ける候補者と目されるのが元NY市長として危機管理と復興に実績があるマイケル・ブルームバーグ。
ブルームバーグ氏は、環境問題を含めサイエンスを信じないトランプ政権下で過去3年間に1600人の科学者が政府機関を辞めてしまったこと、
さらにトランプ氏が2年前に感染症のトップ・スペシャリストを解雇してしまい、政府に感染症対策の専門家がいないことをメディアで痛烈に批判。
そのブルームバーグ氏は3月3日に全米14州で同時に行われる民主党予備選、スーパー・チューズデーで初めて投票用紙に名前が記載され、
これまで約4億ドルを投じてきた選挙活動の成果が初めて問われることになるけれど、NY市長時代に行っていた「ストップ&フリスク」という
マイノリティ人種を対象にした警察捜査のせいで、特に黒人層からの指示が得られないことが伝えられるのだった。
最後に、2020年2月29日でCUBE New York はお陰様で設立20周年を迎えました。
長きに渡ってサイトを愛読して下さった皆様、特にショッピングでCUBE New Yorkを支えて下さっている皆様に
心からお礼申し上げます。またお祝いのメッセージを下さった皆様にもこの場を借りてお礼申し上げます。
会社の繁栄はお客様のご健康とご繁栄があってのものと考えておりますので、
今後も皆様のお役に立てるビジネス、長く皆様にご愛顧頂けるビジネスを心掛けて努力致します。引き続きよろしくお願い致します。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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