Feb. 17 〜 Feb. 23 2020

”Eco-friendly Human Compost Burials”
死後は灰になるより土に返りたい!?
エコフレンドリー、墓要らずのヒューマン・コンポスト埋葬



今週のアメリカでは2月18日火曜日にトランプ大統領が合計11人のホワイトカラー・クライムの犯罪者に対して、 恩赦と減刑を連発したニュース、そしてその翌日水曜に行われた民主党予備選挙のディベートのニュースに最も報道時間が割かれていたけれど、 前者はジャンクボンドの生みの親であるマイケル・ミルキン、オバマ大統領就任後に空席になった 上院議員ポストの任命権を利用して利益を得ようとした元イリノイ州知事のロッド・ブラゴジェヴィッチ、 サンフランシスコ・フォーティーナイナーズの元オーナーで贈賄の罪を認めたエディー・デバルトロ・ジュニア等、その顔ぶれは有名どころが多いと同時に、 トランプ氏、およびトランプ政権と少なからず関わる人々。
歴代の大統領は任期終了時に恩赦や減刑を行ってきたのに対して、トランプ氏は任期中に既に何度も恩赦を連発しており、 大統領の長年のアドバイザーで今週3年の刑期が言い渡されたロジャー・ストーンに対しても、上告で無罪にならない場合には 大統領が恩赦をするという見方が有力。 また2016年の大統領選挙の際に ロシアによるハッキングで入手されたヒラリー・クリントンに不利なEメールをウィキリークで公開したジュリアン・アサンジュも、 トランプ氏による恩赦がほのめかされたと報道される状況。
さらに週半ばには今年11月の大統領選挙でも ロシアがトランプ氏再選のためにソーシャル・メディアを通じた画策をしていることが報じられ、 民主党候補者ではバーニー・サンダース上院議員が ここへ来てロシアの後押しを受けて大きく支持率を伸ばしたことが情報委員会から警告されたばかり。 その民主党予備選挙のディベートは、元ニューヨーク市長でビリオネアのマイケル・ブルームバーグが初参加し 6人の候補者で行われたけれど、 多くの視聴者がTVドラマ、「ゲーム・オブ・スローンズ」に例えるほどに 激しい舌戦が繰り広げられ、 候補者がお互いのバックグラウンドや健康保険プランについて事実上 叩き合う様子を展開。 どの候補も決め手には欠いていたものの、ディベートとしてのエンターテイメント性の高さはメディアも視聴者も認めていたのだった。




話は替わって2021年2月からワシントン州でスタートするのが ヒューマン・コンポスト埋葬サービス。 これを行うのは ”Recompose / リコンポーズ” とネーミングされた葬儀社。
火葬が一般的な日本とは異なり、アメリカではキリスト教徒を中心に棺桶に入れた遺体を埋葬するケースが非常に多いけれど、 既に行われた ボランティア6人の遺体をリコンポーズによって葬るパイロット・プログラムでは、 埋葬、火葬と比較して 大気中に放出される炭素の量を 1トン以上減らせるエコ・フレンドリーぶりが明らかになっているのだった。 実際に リコンポーズ実用化へのピッチがここへ来て急速に進んだ理由は「環境問題対策に迫られたため」とも言われるもの。
コンポストとは堆肥(たいひ)のことで、日本語のウィキピディアによれば「易分解性有機物が微生物によって完全に分解された肥料」。 早い話が 落ち葉や雑草、動物の糞などを腐熟させた肥料で、アメリカ郊外の家庭ではコンポスターと呼ばれる容器に生ごみを入れて作った 堆肥を家庭菜園やガーデニングに利用するのが常。 そのセオリーを人間の遺体に持ち込んで、微生物によって分解させることにより人間を土、それも非常に肥えた土に返すというのが ヒューマン・コンポスト。
そもそも人間という生き物自体も 食べた物の分解が体内の微生物によって行われ、微生物の存在無くしては 消化吸収活動が出来ないことは周知の事実。そんな微生物にとって人間の遺体は格好の餌となるようで、微生物が遺体の分解に要するのは約30日間。 30日後には一部の骨は残るものの、その段階からは人為的に骨が砕かれて 遺体が完全に土と化すのが この新しい葬り方。 実用化を待たずして、早くも1万5000人が 「死後にそのサービスを利用したい」と 関心を寄せていることが伝えられるのだった。




リコンポーズの詳細のプロセスは上の図の通りで、遺体はミイラのようにガーゼに包まれた状態でウッドチップを敷き詰めた ”ゆりかご” に収められ、 それが気温55度のリコンポーズ・マシンの中で30日間安置にされる という至ってシンプルなもの。この55度という高温のお陰で、 遺体に残った毒素、薬物などが分解除去され、30日後には約1.5立方メートルのダークでピュア、そして肥えた土に変わるのだった。
上記の通り、その土は家族の家のガーデニングや家庭菜園に利用ができる他、 環境保全団体による森林エリア拡大プロジェクト等にも寄付が可能。 それによって失われた命が生命力を秘めた土に姿を変えて新しい命の成長に貢献することから、 自然界に再生のエンドレス・サイクルを生み出せるというのがそのコンセプト。
すなわち墓場の必要が無くなるのがリコンポーズで、環境問題以外でも リコンポーズが支持を集めているのは お墓を持たなくて良いこと。 「自分が死んだ後は お墓に葬られたくない」、「お墓は要らない」という現代人は多く、そうした人々は家族や伴侶についても同様の考えを持っているのが通常。 なので罪悪感無しにトラディションを破って それが実践できるリコンポーズは、「お墓は不必要」と考える人々にも大きくアピールしているのだった。




さらにミレニアル以降の世代は無神論者が増えているとあって、葬儀に宗教が介入しないというのも リコンポーズが支持を拡大する大きな理由。
リコンポーズにおける葬儀では「灰や骨になるのではなく、生前の毒素が取り除かれたピュアな土になって 新しい命の中で生き続ける」というセオリーを反映して、 緑に囲まれ 自然光が降り注ぐ美しくモダンな空間で、遺族や友人たちが ゆりかごに収められた遺体をウッドチップで少しずつ 覆っていくプロセスがセレモニアルに行われ、その後ゆりかごが リコンポーズのマシンに入れられるというプロセス。 葬儀所にはドルビーサウンド・システムやビデオ・スクリーンなどの設備が整っているので、故人が選んだ音楽、好んだ音楽や その映像を取り入れたクリエイティブな葬儀が「新しい命のためのセレモニー」として行えるように配慮されているのだった 。
ふと考えると昨今のアメリカでは ミレニアル世代を中心に ウェディング・セレモニーにも宗教色を持ち込まない傾向が強くなっており、 葬儀が同様になったとしても全く不思議ではないもの。 したがってリコンポーズは環境問題対策であると同時に、お墓、宗教という現代人にとって意味が希薄になりつつあるものに縛られない死後を 土に返るという形で選ぶフルパッケージを提供するコンセプト。
そのサービスの価格は不明であるものの、死ぬ側にとっても、死後の手続きをする側にとっても、 様々な負担や体裁だけのプロセス、およびその出費を大きく削減できることは確実と言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。


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