Nov. 4 〜 Nov. 10 2019
ピーター・ルーガー0星評価で火が点いた、
ニューヨークのオーバーレーテッド・レストラン論争
今週のアメリカではトランプ大統領の弾劾を巡って、これまでその捜査を行う民主党が非公開で行ってきた関係者の証言、
全2000ページ以上がメディアに公開され、大統領の個人弁護士で元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニがウクライナ疑惑に深く関わっていること、
その目的がウクライナ資源会社を巡る膨大な利権と絡むシナリオが浮彫りになってきたところ。
その一方で本来プロテクトされなければならないホイッスルブローワーのIDを明かした
無名の極右メディアの記事をツイートしたことで大顰蹙を買ったのが大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア。
今週彼が著書のプロモーションのために出演したトークショーでは
「ホイッスルブローワーのID守秘義務は一般市民である自分とは無関係」と主張する彼と 番組ホスト達が
怒鳴り合いの論争を繰り広げる一幕が見られていたけれど、
フェイスブック、YouTubeといったソーシャル・メディアはホイッスルブローワーの名前を含むコンテンツを全て除去する意向を週末に示しているのだった。
さて先週ニューヨーカーの間で大きな話題になっていたのが老舗ステーキハウス、ピーター・ルーガーに対してNYタイムズのレストラン・クリティック、ピート・ウェルズがゼロ星評価を
下したこと。NYタイムズのレビューがこれほどまでに大きなバズを巻き起こしたのは久しぶりのことで、ツイッター上では
このゼロ星評価を大歓迎するニューヨーカーや同店でピート・ウェルズと同様の経験をした旅行者のリアクションで溢れていたのだった。
でもさすがにピーター・ルーガーとあって、メディアがオーナーに弁明する機会を与えていたのは他店のゼロ星評価とは異なるところ。
中にはピーター・ルーガー支持派、否定派双方の意見を掲載しているメディアもあったのだった。でも支持派でさえ批判していたのが
ピート・ウェルズが 「運転免許更新所より酷い」と批判した そのサービス。(ちなみにアメリカでは運転免許更新所はサービスというものが存在しないことで知られる悪名高きオフィス)。
私にとってはピーター・ルーガーは長年に渡って好きなステーキ・ハウスで、友人が酷評しても とりあえずは”ステーキハウスのレジェンド” と弁護に回っていた側。
でも多くのグルメ・レストランがピーター・ルーガーよりも肉の質が良いステーキをサーヴィングするようになって久しいのが今のニューヨーク。
なので「割高のステーキとお決まりのサイドディッシュを わざわざブルックリンまで出掛けて、予約しているのに待たされてまで
味わうだけの価値が無くなってきている」と思い始めていたけれど、3週間ほど前にピーター・ルーガーに出掛けた際にサーヴィングされたのが
ヴィタミンCが全て破壊されたような真っ黒なクリーム・オブ・スピ二ッチ、焦げている割にはベシャっとしたジャーマン・ポテト、
そしてレアをオーダーしたのに表面が真っ黒なポーターハウス。
「こんな物を食べていたらガンになる」と真剣に思った直後に出たのがピート・ウェルズのレビュー。
これだけシンプルな料理を出しているのに質や味が安定しないこと、高めの値段の割にはクレジット・カードの支払いが未だに出来ないなど、
ピーター・ルーガーが老舗のステータスにあぐらを掻いた経営をしているのは紛れもない事実だと思うのだった。
ピーター・ルーガーのゼロ星以来、ニューヨークのメディア&ニューヨーカーの間で火が点いたのが”NYのオーバーレーテッド(過大評価)・レストラン論争”。
NYポストのフード・クリティックは写真上左のプラザ・ホテルのハイティー、ハーレムのセレブ御用達イタリアン・レストラン Raos / レイオス、
同じくハーレムのソウルフード・レストラン Silvias / シルヴィアズ(写真上右) をその中に挙げていたけれど、プラザのハイティーは児童書のキャラクターで
プラザ・ホテルに住む設定のエロアーズに憧れる少女のバースデーに人気なスポット。写真のフィンガー・サンドウィッチを見ただけで、
如何に酷いフードをサーヴィングしているかが窺い知れるけれど、子供とプラザ・ホテルの滞在客相手ならば問題無いのがこの手抜きぶり。
レイオスは写真上で2017年に交際していたセリーナ・ゴメスとウィーケンドが店から出てきた様子をスナップされているように、
一晩に複数のセレブリティが来店することが全く珍しくない一見様お断りレストラン。
そのため同店名物のトマト・ソースやドレッシングが製品化されてスーパーで販売されていて、数年前にはラスヴェガスにも出店。
NY店に出掛けるためには常連を通じて予約を入れるしかないけれど、やっとの思いで出掛けたニューヨーカーが往々にして失望するのが同店。
私も何年か前に同店内でレオナルド・ディカプリオを眺めながら、「どうしてこの店がそんなに特別なのだろう?」と思いながら食事をした1人なのだった。
シルヴィアズについては 私がニューヨークに来たばかりの1990年代にアポロ・シアターでのコンサートの前にディナーをしたことがあるけれど、
この時の食事と、同じく1990年代前半に出掛けたロシアン・ティールームのディナーの味の悪さは
あまりにセンセーショナルで、20年以上が経過した今も脳裏にしっかり刻み込まれているのだった。
それ以外にNYポストのクリティックが批判していたのは、マディソン・スクエア・パークの名物ホットドッグ・ヴェンダー、”ダーティー・ウォーター・ドッグ”。
NYは独立記念日に行われるネイサンズのホットドッグの早食い競争が名物行事であるものの、そのネイサンズも含めたホットドッグの不味さが評判の街。
アメリカのベスト・ホットドッグが食べられるのは文句なしにシカゴであることはニューヨーカーも認める事実。
同じくストリート・フードで誰もがお金を払って後悔するのはニューヨークのプレッツェル。パサパサで、どんなに空腹でも食べるのを止めてしまう不味さで知られているのだった。
写真上左から2番目と中央はNYの人気ストリート・ヴェンダーとして世界中で知られるハラル・ガイズであるけれど、
スタッフが同じ黄色いシャツを着て、同じような料理をサーブするヴェンダーは近隣に2つ存在していて、
特に旅行者はどこがオリジナルか分からず行列しているケースもあるのだった。そのうちの1つはニューヨーカーの間ではオリジナルより味の評価が高いけれど、
ハラル・ガイズも一時のブームが落ち着いてきたとあって 「普通に美味しいけれど、行列するほどではない」という声が聞かれるのが現在。
前述のレイオス同様にラスヴェガスに進出を果たしており、ヴェガスなら行列などせずに店内で座って同じフードが味わえるのだった。
でもフードコートが増えてからのNYでは 優秀なストリート・ヴェンダー以外は生き残れない時代に突入しており、
フードヴェンダーのベストを決めるヴェンディ・アワードも今年を最後に終了しているのだった。
更にNYポストのクリティックが過大評価レストランに挙げていたのは写真上、右から2番目のフローズン・ホットチョコレートが名物のセレンディピティ3。
ここもセレブリティが多いスポットで、長さ30pのホットドッグや 1000ドルのチョコレート・サンデー等でパブリシティを獲得しているけれど、
料理の味が決して美味しいとは言えないのは私も同感。フローズン・ホットチョコレートは粉っぽいと思ったことが印象が残っているのだった。
それ以外にインターネット上で過大評価レストランとしてニューヨーカーが挙げているのは、小籠包で有名なチャイナタウンのジョーズ・シャンハイ。
私自身、生涯で最も不味い小籠包を食べたのが同店で、地元のチャイニーズは「高い、不味い」を理由に決して出掛けない店。
アメリカは過去3年ほどの間、英語で”スープ・ダンプリング”と称される小籠包のブームで、ニューヨークでも
ダンプリングが美味しい店が増えているけれど、未だにジョーズ・シャンハイが混み合うのはやはり有名店であるからと言えるのだった。
さてニューヨークはホットドッグは不味くてもピザは美味しい街。そのニューヨークでオーバーレーテッドと言われるピザ店の筆頭は
レイズ・ピザ。とは言ってもレイズと名が付くピザ店はニューヨークに幾つもあるだけでなく、そのうちの複数が”オリジナル” と謳っているけれど
オリジナルであっても無くても、レイズ・ピザである限りは避けるべきというのがピザ好きのニューヨーカーからのアドバイス。
ベーグル好きのニューヨーカーがオーバーレーテッドと腹を立てるのは写真上、左から2番目のセイデルズで、ここはつい先日スーパーモデルの
ベラ・ハディドがバースデー・ランチをしたスポット。ソーホーというロケーションもあってセレブが時折訪れるけれど、
ベーグルをウリにしている割にはベーグルが不味いと評判。私も同店の粘りや ほのかな甘みがない無機質なベーグルは全く評価しない立場。
しかもベーグルに挟む具をハイティーのようなレイヤー・トレーで持ってくるだけで、ベーグルとは思えない値段になるのも同店がニューヨーカーに嫌われる要因。
ニューヨークのベーグル好きがテイクアウトではなく、座ってベーグルを味わう際のチョイスは圧倒的にローワーイーストサイドのラス&ドーターズなのだった。
更にニューヨーカー間でオーバーレーテッドの呼び声が高いメキシカン・レストランはミートパッキングやソーホー等に店舗を構える
ドス・カミノス。長寿レストランではあるものの ドス・カミノスは未だニューヨーカーがメキシカン・フードに馴染みがなかった2000年代にオープンしたとあって、
質の高い本格的なメキシカンが増えてきた今のニューヨークでは「値段が高くて邪道」と見なされる存在。
また写真上一番右、デヴィッド・チャンのモモフク・ヌードル・バーも私が2000年代に最初に同店のラーメンを食べた時には
「日本のラーメンに対する侮辱」とさえ思ったけれど、ラーメン通が増えて久しいアメリカ人の間でもオーバーレーテッドと言われるレストラン。
私はデヴィッド・チャンのレストランの中ではモモフク・コーやモモフク・サム・バーは評価するけれど、
もし英語が話せる日本人のやり手シェフが2000年代前半に資金力のあるバッカーをつけてNYに進出していたとしたら、
彼のモモフク・エンパイアが今のサイズにはならなかったのでは?とも思うのだった。
ニューヨークに5軒あるミシュランの3つ星レストランにしても
ニューヨーカーが諸手を上げて絶賛するのはイレブン・マディソン・パークとル・ベルナダンの2軒だけ。
残り3軒は料理、値段、サービスのどれかで批判が聞かれるけれど、その批判が好みの範囲内ならばオーバーレーテッドとは言えないもの。
オーバーレーテッドと見なされるのは 行く価値が無いにも関わらず
「一度は行くべき」と言われるレストランや、「当たり外れが無い」と言われながら外ればかりのレストラン、もしくは
何処で食べても大差無いレベルの料理を 老舗や一流店の名の下に高額、もしくは酷いサーヴィス、時にその両方でサーヴィングする店。
往々にしてそれらのレストランを集めて紹介しているのがガイドブック。
旅行用ウェブサイトにしても、ニューヨーカーが決して寄り付かないミッドタウンのイタリアン・レストラン、カーマインが
トリップ・アドバイザーの人気ランキングの全米第2位に入っているので、こんな結果を見ていると旅行中は味覚が狂うとしか思えないのだった。
その他にもタバーン・オン・ザ・グリーン、マグノリア・ベーカリー等、ニューヨーカーが酷評する店が評価されているのが
ガイドブックや旅行用ウェブサイト。
したがってニューヨークで値段に見合った美味しい食事をしたい場合は、旅行ガイドや旅行用ウェブサイトを参考にするべきではないけれど、
それ以外の目安としてはラスヴェガス等の他都市にブランチアウトしているレストランには
オーバーレーテッドなものが多いということ。前述のレイオス、ハラル・ガイズに加えて、ドス・カミノス、ジョーズ・シャンハイ、カーマインは全てヴェガスにブランチアウトしているレストラン。
大手企業の経営で、最初から拡張を目的にスタートしたレストランは別として、ランドマーク的なワン&オンリーで人気を集めたレストランの場合、
他都市にブランチアウトすると途端に実力が低下するのが悲しいシナリオなのだった。
ピーター・ルーガーも2020年に日本進出が決まっているけれど、その前に日本に進出したピーター・ルーガー出身者による
2軒のステーキハウスは、ニューヨークでは もはや一流ステーキ店として名前さえ上がらない存在。
今や外食回数が多いニューヨーカーさえ外食回数が減っているご時世なので、レストランは著名シェフの店でもその生残りに凌ぎを削っている状況。
なのでガイドブックに載っているというだけで連日旅行者がやって来るようなレストランに比べると、ニューヨーカーをターゲットにするレストランの方が料理もサービスも優秀で、
お値段もリーズナブル。ニューヨーカーはローカル・レストラン情報には極めて敏感なので、優秀店には眺めているだけで楽めるような
生粋のニューヨーカーがこぞってやって来るのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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