Sep. 9 〜 Sep. 15 2019
セレブがビリオネアを目指して本腰を入れるヴェンチャー
今週はニューヨークでファッション・ウィークが行われていたことから、数多くのセレブリティやモデルがNY入りしていたけれど、
ファッション・ウィークで近年顕著なのが、トランスジェンダーを含むマイノリティ&プラスサイズ・モデルをどんどん起用するようになってきたこと。
それと同時に顕著なのが、かつてならデザイナーに招待され、フィーを支払われてその作品を着用して
フロント・ローに座っていただけのセレブリティがどんどんシリアスなビジネスでファッション・ウィークに絡んできていること。
セレブリティがクロージング・ラインを含む様々なプロダクトを手掛けるのは今に始まったことではないけれど、
以前は自分の名前を企業に使わせて、商品開発に意見を反映させるだけのライセンシングが圧倒的。
契約金と売上の微々たるパーセンテージをロイヤルティとして受け取るだけのリスク・フリーのビジネスとして行われていたのだった。
それに代わって現在セレブリティがこぞって行っているのは本人が出資して、経営パートナーになるシリアスなビジネス。
そのトレンドの先駆けとなったのは、ドクター・ドレが手掛けたヘッドフォンのビーツ。
中国での生産コストが小売価格の3〜5%程度と言われるビーツのヘッドフォンは彼のネームヴァリューと、
セレブ・マーケティングで築き上げたブランド・プレステージのお陰で、300ドル前後のお値段でも大人気の商品。
そのビーツをアップルが30億ドルで買収したのは2015年のことで、
それによって個人資産約8億ドルのデミ・ビリオネアとなったのがドクター・ドレなのだった。
同様に2015年に自己資金を投じてコスメティック・ライン、”Kylie / カイリー”をスタートした
カイリー・ジェナは、2019年3月に史上最年少のセルフメイド・ビリオネアとなっており、2018年の彼女の年収1億7000万ドルの殆どが
コスメティックの売り上げによるもの。
一方、2016年にトップショップとのパートナーシップでアパレル・ライン、アイヴィー・パークをスタートしたビヨンセは、
トップショップから自分のビジネスのシェアを買い取り、 新たなパートナー、アディダスと組んで、
カニエ・ウエストの ”Yeezy / イージー” 同様のアップスケールなストリート・ウェア&スニーカー・ラインを展開する予定。
そのカニエ・ウエストは、2015年には日本円にして約55億円の負債を抱えていたことを自ら告白しているけれど、
イージーのブランドを所有し、その契約を2014年にナイキからアディダスに切り替えた彼は、売上の15%を受け取り、マーケティング費用が支払われるという
好条件を獲得。これはスニーカーの金字塔ブランドで年間30億ドルを稼ぎ出す”エア・ジョーダン”のブランドをナイキが所有し、
肝心のマイケル・ジョーダンは売り上げの5%をロイヤルティとして受け取るだけという条件と比較すると各段に効率の良い儲けを約束するもの。
それが功を奏してカニエ・ウエストは2018年度には約1億5000万ドルの収入をイージーの売り上げから得ているのだった。
さらには昨年度1億8500万ドルを稼ぎ出してセレブリティ長者番付のトップになったテイラー・スウィフトも、
ニュー・アルバム「Lover」の8月末のリリースと共に、ステラ・マッカートニーとチームアップした
アパレル・ラインを発売。NYにはそのポップアップもオープンしているのだった。
そんな中、今週にはカイリー・ジェナのハーフ・シスター、キム・カダーシアンが新たに手掛けたボディ・ウェアのライン、
”SKIM / スキム” がオンラインで発売されて僅か10分間にほぼ全アイテムが完売。
キムが約2億円を稼ぎ出したことが伝えられたけれど、
彼女もかつてはライセンスでプロダクトを展開する一方で、
もっぱらそのソーシャル・メディアの広告パワーを他人のプロダクトのために使っては、広告費を稼いできた存在。
でもカイリーが大儲けしているのに刺激を受けたのか、2017年に自らのコスメティック・ライン、KKWビューティーをスタートさせた時点から、
自己出資のビジネスに切り替えており、今週発売されNYファッション・ウィーク期間中にプロモーショナル・イベントが行われたスキムも
同様に自己出資のビジネス。
ファッション・ウィーク期間中には先週土曜日のUSオープン決勝で敗れたセリーナ・ウィリアムスも自らのアパレル・ラインのランウェイ・ショーを行っていたけれど、
セリーナのラインもキム・カダーシアンのスキムも、共に肥満〜超肥満にまで対応する幅広いサイズ展開。
アメリカでマジョリティを占めるカーヴィーな体系の女性は、そもそもトップ・デザイナーの製品とは縁が無かったこともあり、
そんな女性にアピールするのはトム・フォードやマイケル・コースといった名前よりも、自分達同様にカーヴィーなボディを持ちながら
メガ・サクセスを収めているセリーナ・ウィリアムスやキム・カダーシアンといった存在。
彼女らの方が自分達のボディに合ったスタイルを理解していると考えていることも明らかになっているのだった。
今回のファッション・ウィークの期間中に見られたセレブ絡みのショーで数多くのパブリシティを獲得していたブランドの1つは
トミー・ヒルフィガーとゼンダイアのコラボレーション、トミーxゼンダイア・コレクション。
2シーズン前までモデルのジジ・ハディドと同様のコラボをしていたトミー・ヒルフィガーがゼンダイアと組んだ2度目のコレクションが今回で、
ハーレムのアポロ・シアターを会場にジジ&ベラ・ハディドを含む多くのセレブリティ・ゲストを迎えて行われたのがそのランウェイ・ショー。
トミー・ヒルフィガーの場合、自らのブランド・パワーではさほどミレニアル世代へのアピールを持たないことから、
若い世代のスタイル・アイコンとチームアップして、ブランドの若返りを図っているのが実情。ジジ・ハディドとのコラボが
トミー・ヒルフィガーの従来のスタイルの域を出なかったのに対して、ゼンダイアとのコラボは明らかに彼女のテイストの方が強く打ち出されているという点で
ブランド・イメージの刷新には役立っているのだった。
でも今週のファッション・ウィークで最も話題を集めたのは、今回で2度目となるサヴェージュxフェンティのランウェイ・ショー。
サヴェージュxフェンティは、リアーナのラストネームをブランド名にした”フェンティ” のランジェリー・ラインで、
”フェンティ”は目下リアーナがファッション&ビューティーのエンパイアを築きつつある総合ブランド。
サヴェージュxフェンティのショーでもマイノリティ人種&ありとあらゆるボディ・タイプのモデルが起用され、
エンターテイメント性の高いポジティブなボディ・イメージがアピールされたショーが高く評価されていたのだった。
フェンティは2014年にプーマとのリミテッド・コラボレーションのフットウェアを手掛けたのからスタートし、
2017年にはコスメティック・ブランドのフェンティ・ビューティーを発売。
ファンデーションが40色、コンシーラーが50色というカラー・ラインナップで全ての人種の肌色に対応することを謳って登場したこのラインは、
僅か1年で売上が5億ドルに達しているのだった。
さらに2019年5月には、フェンティが新たに手掛けるハイエンドのクロージング・ラインにLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が3000万ドルの投資を発表しており、
LVMHがマイノリティ女性の経営するブランドと契約を交わしたのはこれが初めてのこと。
リアーナもこれらのファッション&ビューティー・ヴェンチャーで2年以内にはビリオネアの仲間入りを果たすと言われるのだった。
今週、海を越えたイギリスのロンドンでは英国王室ダッチス・オブ・サセックスこと、メーガン・マークルが
チャリティ・クロージング・ライン、”スマート・セット(写真上)” を発表しているけれど、
メーガンが2018年に着用したアイテムは価格やブランドに関わらず、全て完売したことが報じられており、
今や世界で最も影響力のあるファッション・アイコンと言われるのが彼女。
そのメーガンが発表したのは「女性達が自信を持ってジョブ・インタビューに臨めるアウトフィット」をコンセプトに、
デザイナーのミーシャ・ノヌーとのコラボでクリエイトしたしたカプセル・コレクション。
お値段は全て100〜160ドル程度の手頃なもので、スタイルは至ってシンプル。
このスタイルを評価するかしないかは別として、メーガン人気とチャリティというコンセプトで完売必至と言われるのがこのライン。
発売前の段階でトート・バッグが完売しており、プレセールされたアイテムは既にEベイで3倍の価格で販売されているのだった。
ちなみにメーガン&ハリー王子夫妻のチャリティ基金、サセックス・ロイヤル・ファンデーションが正式にローンチされるのは2020年。
でも先週ハリー王子がトラベル・ビジネスとのパートナーシップを発表する等、既に夫妻は様々なヴェンチャーに動き出しており、
ロイヤル・ファミリーのマーケティング・パワーとノンプロフィット・ステータスで、今後2人が個人資産を大きく増やせるのは当然のシナリオなのだった。
セレブリティ・ブランドの強みの1つは、個人のニーズとは無関係に再販目的で買い占める人々のお陰で、
プロダクトが直ぐに完売し、それがニュースになって人々の更なる購買欲を煽ること。
特にその傾向が顕著なのがスニーカー市場で、俗に”スニーカーヘッド” と呼ばれる人々が、
自分のコレクションを増やすためだけでなく、目先の収入と長期的な投資目的で購入するのが
セレブやセレブ・アスリートが手掛けるリミテッド・エディション・スニーカー。
しかしながらブランドによってはそのブームが永遠に続く訳ではないのも事実で、それを立証する存在になりつつあるのが
前述のカニエ・ウエストのイージー。
かつてのイージーは新スタイルのスニーカーが発売される度に10分程度で完売するほど、スニーカーヘッドが夢中で買い漁っていたブランド。
ところがカニエ・ウエストが熱心なトランプ支持者であるというブランドのイメージダウンに加えて、更なる利益を上げようとして
2018年から完売したスタイルのスニーカーの再リリースを行ったことから、「突如”Easy/イージー”に手に入るようになった」という
ダジャレが飛び交うようになったのがイージー。
それを受けてあっという間にブランド・ハイプが去ってしまい、2019年に入ってから大幅に下落したのが再販市場でのイージーの価格。
そうなると 完売のリミテッド・エディションのスニーカーを履くことでエゴを満たし、その買い占めと再販で利益を得てきたスニーカーヘッドの
購買欲が冷めきってしまうのは当然のこと。
更に今週末にイージーがインスタグラム上で公開した未発売の新モデルYeezy Foam Runnner/イージー・フォーム・ランナー(写真上右)が
「クロックス並みにアグリー」とインターネット上で酷評されたこともあり、
2018年半ばまで聞かれていた「イージーが2年以内にカニエ・ウエストをビリオネアにする」という予測が、
ここへ来て崩れそうな気配を見せているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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