Sep. 2 〜 Sep. 8 2019
環境問題で物議を醸しながらも
セレブとメガリッチの利用で拡大するプライベートジェット・ビジネス
今週末のニューヨークではファッション・ウィークがスタートし、テニスのUSオープンがファイナルを迎えていたけれど、
欧米のメディアが大きく報じたのが土曜日に行われたUSオープン、セリーナ・ウィリアムス(37歳) VS. ビアンカ・アンドレスク(19歳)の女子決勝観戦のために、
イギリス王室ダッチス・オブ・サセックスことメーガン・マークルがコマーシャル・フライトでニューヨーク入りしたニュース。
2017年のロイヤル・ウェディングにセリーナが出席していたこともあり、メーガンとセリーナが友人同士であることは良く知られるけれど、
欧米メディアがメーガンのNY入りを報じるに当たって ”コマーシャル・フライト”を強調したのは、
彼女とハリー王子がこの夏のヴァケーションで 11日間に4回プライベート・ジェットでフライトし、大顰蹙を買っていたため。
そのうちの2回はエルトン・ジョンが所有する南仏のリゾートハウスで休暇を過ごすためのもので、
それについてはエルトン・ジョンがソーシャル・メディアを通じて、フライト代を自分が支払ったとして夫妻を擁護するコメントをしていたのだった。
しかしながら人々が腹を立てていたのは 国民の税金がプライベート・ジェットに使われていると思ったことではなく、
ハリー王子&メーガン夫妻が環境問題改善のアクティビストとして振舞っておきながら、
1人当たりの二酸化炭素排出量がコマーシャル・フライトの10〜20倍のプライベート・ジェットを利用するという矛盾と偽善に対してのこと。
ハリー王子&メーガン夫妻のインスタグラム・アカウント、”サセックス・ロイヤル”には 「Stop Flying Private! (プライベートジェットで飛ぶのを止めろ!)」という
書き込みが容赦なしに行われており、これまでロイヤル・ファミリーの中では最も人気が高かったハリー王子の評判が
このプライベートジェット騒ぎで下降線を辿り始めているのだった。
ハリー王子がプライベート・ジェットの使用で顰蹙を買ったのは8月のヴァケーションがこの夏で2度目のこと。
1度目は7月末にイタリアのシシリー島の高級リゾートで行わたグーグル・キャンプで環境問題についてのスピーチを行うために、
グーグルがチャーターしたプライベート・ジェットでロンドンから往復した際。
グーグル・キャンプはセレブリティと政財界のVIPを集めて毎年グーグルが主催する3日間のイベントで、
今年のテーマは気象変動との闘い。
にも関わらずゲスト達が114機のプライベート・ジェットで現地入りしており、その多くはカリフォルニアからのフライト。
ハリー王子によるロンドン〜シシリー間の片道のプライベート・ジェット飛行による環境ダメージだけでも190本の樹木を植えてやっと補えるものであることを考えると、
グーグル・キャンプなど行わない方が よほど環境問題改善に繋がるのは言うまでもないこと。
そのためハリー王子だけでなく、グーグル、そしてキャンプに参加したセレブリティに対しても「偽善者」と批判する声が
ソーシャル・メディア上で猛然と高まっていたのだった。
今週火曜日、9月3日にはオランダのアムステルダムでハリー王子とオンライン・トラベル・ヴェンチャーのパートナーシップ発表の
プレゼンテーションが行われたけれど、その場にはプライベートではなく、コマーシャル・フライトでやってきたのがハリー王子。
しかしプレスからプライベート・ジェットの使用について尋ねられて「自分の家族の安全を確保するために必要」と語ったことから、またしてもソーシャル・メディアが大炎上。
さらにハリー王子がその席で「生涯の99%はコマーシャル・フライトを利用してきた」とコメントしたことについても、
実際にはメーガン・マークルと結婚して以来、60%がプライベート・ジェットを利用した旅行であったことが指摘される有り様。
加えて昨今ハリー王子&メーガン夫妻との不仲が伝えられるウィリアム王子&キャサリン妃が、
8月半ばに3人の子供を連れてコマーシャル・フライトでバケーションに出掛けたことも
ウィリアム王子夫妻にとってのPR勝利、ハリー王子のイメージダウンに繋がっているのだった。
ハリー王子同様のバックラッシュは、環境問題に熱心なセレブリティには起こりがちなことで、
レオナルド・ディカプリオも自らのプライベート・ジェットの使用については「友人がチャーターした時にのみ便乗させてもらう」と弁明するような状況。
でもこの夏は、世界中のVIPにティーンエイジャーのセックス・スレーブを提供し、拘留中に自殺したビリオネア、
ジェフリー・エプスティーンが そのプライベート・ジェットでセックス・スレーブの少女達をVIP達にデリバリーしていたことから、彼のジェットについたニックネームが
”ロリータ・エクスプレス”。その乗客リストに名前が載っていただけで ビル・ゲイツ、ビル・クリントン、ナオミ・キャンベルといったセレブリティが
批判を浴びた一方で、つい最近には世界の酸素の20%を生み出すアマゾンのレインフォレストが人為的な火災で大打撃を受けたことから、
これまでになく一般の人々がプライベート・ジェットの使用に敏感になってきているのが現在。
そもそもアメリカ国民1人当たりの年間平均二酸化炭素排出量は、日本の2倍弱と言われる16.5トン。
これはニューヨーク〜ロンドン間のプライベート・ジェットによる往復フライト4回分と同等の量。
さらにはアメリア国内だけで4,211のプライベート・ジェット・エアポートがあり、これはヨーロッパ全体で2,145の空港しかないことを思えばかなりの数。
そのうち最も混み合うニューヨークのテターボロー空港だけでも、年間に2万8,000のチャーター便の離着陸が行われているのだった。
欧米のメディアでは近年、インスタグラムでその富と財力を見せびらかすミレニアル世代を 「リッチ・キッズ・オブ・インスタグラム」と呼ぶ傾向にあるけれど、
その「リッチ・キッズ・オブ・インスタグラム」のポストに必ずといって良いほど登場するのがプライベートジェットの機内でシャンパンをすすりながらリラックスする姿や
ジェットから颯爽と降り立つ姿。
実際にはその多くがプライベート・ジェット会社が空港に停めてあるジェットをフォトスタジオとして貸し出すサービスを利用したもので、
それがプライベート・ジェット会社の収入源の一部になっていると言われるけれど、
フェイクリッチ・インフルエンサーがそんなサービスを利用する理由は、
プライベートジェットでの旅行が本当のメガリッチのみに手が届くラグジュアリーであることを熟知しているため。
実際にプライベート・ジェットは、最低価格の機種でも約2億円。加えて維持費と人件費がかかるので、
ちょっとやそっとのマルチ・ミリオネア程度では手が届かない贅沢。
個人でプライベート・ジェットが所有出来るのはフォーブス誌が2019年の段階で
世界に2,153人と見積もるビリオネアと、その半分の5億ドル以上の個人資産を持つデミ・ビリオネアを加えた世界中の約1万人。
そんな限られたクライアント層なのでコーポレート・ジェットを含めた機体の売り上げは毎年ほぼ横這い状態。
それに対して2016年から2017年にかけて9.2%アップし、2018年、2019年にも同様の上昇が伝えられるのが
プライベート・ジェット・クラブを利用する人々。
すなわち自分ではジェットを所有せず、プライベート・ジェット・クラブにフライトをチャーターしている人々で、
料金は機種に応じた価格を利用時間に応じて支払うのが一般的なのだった。
例えば2018年の時点で、セスナのような比較的近距離を飛ぶ小型機の場合は1時間の利用料金が1,300〜3,000ドル。
NY郊外のハンプトンよりもロングアイランドの先端に近いモントークにマンハッタンから飛ぶ場合、その所要時間が40分で、お値段は3,000ドルというのが相場。
ミッドサイズ〜スーパー・ミッドサイズのジェットであれば1時間の使用料4,000〜8,000ドルで、
ロサンジェルスからワシントンDCまでの5時間半のフライトの場合、機種がリアージェットなら3万ドル。
もっとラグジュリアスな ガルフストリームG200で飛べば5万5,000ドル。
ラージサイズのヘビー・ジェットの使用料は1時間当たり 1万1,000〜2万2,000ドルで、
ニューヨークから上海への13.5時間のフライトを高額機種のガルフストリームG550で飛ぶと、乗客数は最高16人までで その価格は約19万ドル。
メガリッチほど ニューヨーク〜ロンドン間の6時間程度のフライトでもヘビー・ジェットをチャーターして贅沢なフライトを楽しむ一方で、
さほどバジェットが無い”ローワークラス・マルチミリオネア” のためには、
プライベート・ジェット・クラブのメンバーとフライトをシェアする ”セミプライベート” のサービスも存在しているのだった。
2018年の段階でプライベート・ジェット・クラブの利用者数は 3万人程度と見積もられていて、
その数は環境問題への懸念とは正反対に、今後も増え続けることが見込まれているのだった。
ところでプライベート・ジェットの中にも機種によって格付けがあるのはもちろんのこと。
現時点でメガリッチの間で最もプレステージが高いと見なされるのはガルフストリームG650(写真上)。
プライベート・ジェットに乗り慣れた人々の間では「シックス・フィフティ」という数字だけで通じるこの機種は、
ニューヨークから上海までノンストップで飛べる超高級ジェット。
企業がこれを所有していれば よほど儲かっているか、さもなくばエグゼクティブ が
湯水のように企業バジェットを使っていることを意味すると言われるほどで、そのお値段は機種の名称に合わせてか6,500万ドル(約70億円)。
ガルフストリームの中で最も高額な機種で、11〜18人の搭乗が可能なのだった。
個人でG650 を所有しているセレブリティとして知られるのは、現在ハリウッドで最高ギャラを受け取る俳優、ドゥウェイン・ロック・ジョンソン。
プロサッカーのクリスティアーノ・ロナウドも2018年1月にG650を購入して話題になったけれど、彼の場合1時間7000ドルで貸し出す
ビジネスをしていることでも知られるのだった。
ガルフストリームは個人所有のジェットとして人気の高いブランドで、
NBAスーパースター、ルブロン・ジェームスが所有しているのはガルフストリームG280 (2,200万ドル=約24億円)。
同じくNBAスーパースターで、引退後にビリオネアになったマイケル・ジョーダンとタイガー・ウッズは、
共にガルフストリームで二番目に高額なG550(6100万ドル=約65億円)を所有。
一方、個人資産でほぼデミ・ビリオネアの仲間入りをしたと言われるデヴィッド・ベッカムは ボンバルディア・チャレンジャー350 (2,400万ドル=約27億円) を所有しており、
他にボンバルディアを所有するのは
ビリオネアのオプラ・ウィンフリー (ボンバルディア・グローバル・エクスプレスXRS、4,200万ドル=約45億円)、
ジェイZ & ビヨンセ (ボンバルディア・チャレンジャー 850リアージェット、4,000万ドル=約43億円)、ビル・ゲイツ、
セリーヌ・ディオン (共にボンバルディア BD-700 グローバル・エクスプレス、4,200万ドル=約45億円)。
その他、ジョン・トラヴォタ、ジム・キャリー、トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ監督といったハリウッド・セレブ、
フロイド・メイウェザー、マニー・パッキオ、UFCのコナー・マクレガー、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、マイク・タイソン、
F1ドライバーのルイス・ハミルトン等のスポーツ界のメガリッチ、テイラー・スウィフト、ジミー・バフェット等のミュージシャンが
個人でプライベート・ジェットを所有しているけれど、
最近ではプライベート・ジェット使用への風当たりが強くなってきたとあって、
セレブや著名人であればあるほど その所有や使用についてメディアやソーシャル・メディアでオープンにしない傾向が高まってきているのだった。
ちなみに世界最高額のプライベート・ジェットを所有しているのはサウジアラビアのアル=ワリード・ビン・タラール王子。
機種はエアバスA380スーパージャンボ・ジェットの特別仕様。エアフォース・ワンが民間機に見えると言われるほど
内装にも費用を掛けたジェットで、800人以上が搭乗出来る史上最大のジェット旅客機。
シンガポール・エアラインやエミレーツが採用しているのがこの機種で、
お値段も個人所有のプライベート・ジェットとは思えない5億ドル(約534億円) となっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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