June 10 〜 June 16 2019

”Millenials Pay to Learn Adulting”
ミレニアル世代がお金を払ってまで
アダルティングを学ぶアメリカ社会の背景



今週アメリカで報じられたのが、2007年から2017年の10年間に 18歳から34歳のいわゆるミレニアル世代のドラッグ絡みの死者数が108%、アルコール関連の死者数が69%、自殺が35% 増加したというショッキングなデータ。 2017年にこれらが原因で死亡したミレニアルの数は約3万6000人に上っているとのこと。
そのミレニアル世代と言えば 洗剤のパックを口に入れたり、 運転中の車から飛び降りて 再び運転席に戻る様子をビデオに収めるなど、俗に”チャレンジ”と呼ばれる愚行を ソーシャル・メディアにアップしたり、危険を顧みずに高所でセルフィーを撮影して転落死するなど、 若さを通り越した ”ラディカルな幼稚さ”が話題になるジェネレーション。 既に最も年長のミレニアル世代は37歳に達していると言われるけれど、彼らが年齢相応に振舞うことを意味するスラングで、 半ばジョークとして生まれたのが”アダルティング”という言葉。
今やジョージア工科大学では”アダルティング”が立派なクラスになり、全米各地、およびオンラインにも”アダルティング・クラス”が登場。 そこで大人になるための常識を学ぶことがトレンディングになっているのがミレニアル世代。 当たり前のことを それを知っていて当然の年齢に達した若者に教える”アダルティング・クラス”も、 当初は”アダルティング”という言葉同様にジョークのように捉えられていたけれど、 こんなクラスがトレンディングになることはアメリカ社会の深刻な問題を意味するのだった。




YouTube上には、アメリカの高校生が「アメリカ国旗の星の数は?」と尋ねられて「51」、「52」と答えたり、 「アメリカと国境をシェアする国は?」という質問に「サウス・アメリカ」、「アメリカの副大統領は?」と尋ねられて 当時副大統領、ジョー・バイデンの替わりに「ビン・ラディン」と回答する様子、 そうかと思えば世界7大陸の中にロシアを挙げるなど、基礎知識の欠落を露呈するビデオがアップされているけれど、 それと同時に若い世代全般に欠落しているのが、実生活に関わる様々な常識や基本的知識。
例えば以下は2019年に入ってから行われた 若い世代のお金に関する知識調査のためのごく基本的な4問のクイズ。 18〜24歳の大学生810人中、全問正解者は僅か11%、3問正解者は28%。 にも関わらず10人中6人がアンケート調査で「自分はお金の扱いに長けている」と回答しているのだった。

Q1 普通預金口座に100ドルがあり、年利2%の場合、それが5年後にはいくらになるでしょう?
a) 102ドル以上  b) 102ドル c) 102ドル未満

Q2 以下のうちクレジットカードの利息を最も多く支払うことになるのは?
a) 毎月ミニマム・ペイメントを支払う
b) 毎月請求額の全額を支払う
c) ミニマム・ペイメント、もしくはそれ以下をランダムに支払う
d) 上記全てが同じ利息を支払う

Q3 以下のローン返済のうち、最も利息の支払い額が少ないのは?
a) ローンを10年で返済する
b) ローンを20年で返済する
c) どちらも利息の支払い額は同じ

Q4 “interest capitalization(元価)” の意味は?
a) 高額ローンに課せられる利子
b) ローンの残高への利子の追加
c) ローンの支払いを延期したときに請求される利子

この全問正解率は20代前半の大学卒業者になると24%にアップするものの、これもあまりに頼りない数字。 前回のファイナンシャル・クライシスを招いたサブプライムローンの中には、本来住宅を購入するだけの経済力が無い人々が ほぼ騙されるようにして住宅ローンを組んだケースも多数含まれており、 お金に関する知識の無さが 貧富の差に大きく影響していることが指摘されているのだった。
(問題の正解は、Q1がa、Q2がb、Q3がa、Q4がb)




実生活に関わる知識や常識が欠落したミレニアルを大人に導くためのアダルティング・クラスの軸になるのは主に以下のようなサブジェクト。

  1. マネー・マネージメント (貯蓄、401K、利息の計算、ローンの組み方等)
  2. タイム・マネージメント (仕事、睡眠、社交などの1日の時間のバランス配分や効率的な時間の使い方)
  3. 食材購入と基本的な料理のテクニック(賞味期限のチェックや、生鮮食料品の選び方、保存法等)
  4. 洗濯や裁縫など、ベーシックな家事のやり方
  5. タイヤ交換を含むベーシックな車のメンテナンスや 車購入の基礎知識
  6. アパート探しやアパート・レンタルの基礎知識
  7. 仕事や職探しの際の手紙やEメールの書き方
  8. テーブル・マナーやドレスコードを含むビジネスと社交のエチケット

何故ミレニアル世代が基本的な家事の知識が欠落しているかと言えば、アメリカには家庭科という授業が無いため。
8つ目のテーブル・マナー&エチケットについては、社会に出てクライアントとのディナーやフォーマル・イベントで恥をかかないために、 ナイフ&フォーク、ワイングラスの正しい持ち方、フィンガーボールの使い方に始まって、 それ以外の社交&ビジネス・マナーを教えるクラスがニューヨークに複数存在。 これに参加しているのは社会に出て間もない20代のプロフェッショナルズで、 お値段はフォーマル・レストランでの3コースのランチ代を含めた1日のクラスが課税前で750ドル。 プライベート・セッションになると100ページのマニュアル、プロフェッショナル・メイクオーバーを含めたフィーが課税前で2500ドル。
とは言ってもテーブル・マナーの場合、どの程度のフォーマル度からスマートフォンをテーブルの上に置くのを控えるべきか? フォーマルなディナーの最中に電話を受けるために中座したり、短いテキスト・メッセージを送るのは適切かについては、 社会のスタンダードが確立されていないだけに、インストラクターさえも「ケース・バイ・ケース」的なアドバイスしか出来ないとのこと。 「ケース・バイ・ケース」というのは、状況に応じて常識的に判断することを意味するけれど、 ミレニアル世代の場合 その常識が備わっていないことも多く、 常識ばかりは1回のクラスで身につくものではないのだった。




一部の社会学者はミレニアル世代の母親の70%が何等かの仕事をしていて、子供に基本的な教育をする時間が無かったことが アダルティング・クラスが必要な理由に挙げており、 親達が「これらは学校で学ぶもの」と考える一方で、 学校側は「親がこれらを子供に教えるもの」というスタンスでいることが指摘されているのだった。 また2015年の段階で18〜34歳のアメリカ人の34%が親元で暮らしており、この数字は2000年と比べると8%の上昇。 そうなってしまうのは多額の学費ローンを抱えて、なかなか給与の良い仕事に就けないためで、 親達が成人した子供に対して子育ての続きをやっているのも子供がアダルト化しない原因の1つ。
さらにミレニアルはソーシャル・メディアやスマートフォン、クラウド、アプリ、その他のテクノロジーの扱いにおいては 親より飲み込みが早く、長けているとあって、子供の頃から大人たちにこれらの使い方を教える立場にあったユニークな世代。 あっという間にテクノロジーを自在に使いこなす子供達に感服する親達ほど、 自分の子供に常識や基本的知識が欠落している状況に気付かないという。
アダルティング・クラスをお金を支払ってまで受けているのは ミドルクラス以上の家庭に育っているミレニアルが多く、その中には幼い頃から習い事やスポーツに時間の大半を費やしたせいで、 基本知識を学ぶ機会が無いまま大人になってしまったケースも少なくないのが実情。その親達は 子供の教育には十分なお金と労力を注いできたという意識が強く、 自分の子供に基本知識が無かったとしても、それを「自分が教育を怠ったため」とは決して考えず、 むしろ「この世代はそういうもの」という社会風潮として捉える傾向が圧倒的。
加えてミレニアル世代は、ソーシャル・メディアやスマートフォンの普及のせいで、たとえ家に居ても家族とのコミュニケート時間が少ない世代。 その結果、親が趣味にすることを子供が学ぶ機会も以前の世代より少なく、それを通じて人生の指針を親から学ぶ機会もないことが指摘されるのだった。

いずれにしてもアダルティングは、「自分の行動に責任が持てる一人前の大人になる」ことではなく、 「大人として機能できる人間になる」、すなわち大人がやっていることを出来る人間になるというハードルの低い行為。 彼らにとっては、料理をしたり、1日8時間を働いたり、請求書を支払ったりという社会人の誰もがごく日常的に行っていることがアダルティング。 面倒なことは全てアプリで解決してきたミレニアル世代にとっては、ごくごく当たり前のことをこなすのも 特に労力を伴う場合は大変なタスク。
1980年代にも「大人になりたくない」と考える当時の若い世代が ”ピーターパン症候群” と呼ばれていたけれど、 大人になることが何たるかを理解して 「大人になりたくない」と考えていたミレニアルの親世代に比べると、 ミレニアルは大人になることが何たるかも分かっていないと思しき状況。 その証拠に、ミレニアル世代にとっての「大人」の定義は 「自分の子供を持つこと」。すなわち”大人=親”。 この世代は結婚願望が低く、「子供は欲しくない」という意見がほぼ半分を占めることを思うと、 たとえ大人の行動を学んだところで ミレニアルが大人としての自覚がないまま一生を過ごしたとしても決して不思議ではないのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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