Apr. 8 〜 Apr. 14 2019

”Apple Card, a Trap Or a Savior”
発表と同時に賛否両論のアップル・カード、
その存在を脅かす意外なダークホース



今週のアメリカのメインストリーム・メディアに必ず登場していたのが、私がこのコラムを書いている4月14日にプレミアとなった 「ゲーム・オブ・スローンズ」最終シーズンに関連する報道。スタートから10年目にして8シーズン目に当たる最終シーズンは 全6エピソードで、1エピソード当たりの製作費が映画並みの高バジェット。TV&映画史上最長の 戦闘シーンが巨費を投じて撮影されたことが伝えられて ファンの期待を煽っているけれど それと同時に憶測を呼んでいるのが 既に2000人以上のキャラクターが死去した同番組の結末で、果たして誰が生き残って、誰がスローンズ(王座)に座るか。
ストーリーに関して番組制作元のHBOと守秘義務の契約を結んでいるキャスト・メンバーによれば「結末に行き着くまでにもサプライズの連続」で、 「ファンの全員がハッピーになることはなくても、満足するエンディングを迎える」とのことなのだった。




その一方で先週発表されて、もっぱらビジネス関連のメディアのみが関心を払っていたのがアップル社が今年末にデビューさせるクレジット・カード、 その名も”アップル・カード”。これはアメリカン・エクスプレスのセンチュリオン・カード同様にタイタニアム製で、 カード番号が記載されていないところが如何にもアップルらしいカード。 代わりにカード番号はアイフォンの中で厳重なセキュリティで保存されているので、 アイフォン・ユーザーでなければ使えないのがこのカード。
YouTubeのビデオ・ティーザーで 「Credit card created by Apple, not a bank(銀行ではなくアップルが作ったカード), So it's simple, transparent and private (だからシンプルで、 明瞭かつ、プライベート)」と謳う割には、 カードの裏にはパートナーであるゴールドマン・サックスの名前がしっかり入っていて、 支払いプロセスもマスターカードを通じて行われるので、要するに普通のクレジット・カード。
アメリカ人がクレジット・カードを選ぶ際に最も重視するキャッシュバックについては、アップル・ストアでの購入で3%、アップルペイを受け付けるストアでの購入で2%、それら以外では1%。 とは言ってもアップル・ストアで買い物をする機会と同じくらいに少ないのが、アップルペイで支払えるストアの数。なのでキャッシュバックは事実上 1%で、これはさほど魅力的ではない数値。 でも他のカード会社のようにキャッシュバックが月ごとに纏めて払われるのではなく、毎日のようにカードアカウントにポストされるので、 100ドルを使えば、その日のうちに1ドルのキャッシュバックが得られる仕組み。
またカードが使われた記録が店名、金額、日時だけでなく、ロケーションでも表示されるので、不明な出費を直ぐにトラック出来る上に、 週ごと、月ごと、カテゴリーごとの出費がアイフォンのアプリを通じて簡単に、そして一目で分かることから、 これによって防げると言われるのがユーザーのオーバー・スペンディング。 更に毎月のカードの支払額を決める際に、支払いのペースに応じた利息の計算を行う機能があるため、 利息の実態をユーザーがはっきり掌握することによって、早期返済を促す効果も期待されているのだった。




とは言っても企業がVISAやマスターと組んで 自社カードを発行するのは決して珍しいことではなく、 アップルはむしろかなり後発。 アップル・カードが画期的と言えるのは 本来ならばアップルペイで実現しているはずだったアイフォンをウォレットとして使う キャッシュレス化に一歩近づいたのに加えて、家計簿機能を加えることによって ユーザーが出費をアップル・カード中心で行い、その管理をアイフォンで行うという シンプルなライフスタイルを提案しているところ。
実際にアップル・カード&アイフォンだけで公共料金の支払いからショッピングまで、全ての出費を記録&管理できるのは極めて簡単かつシンプル。 なので そもそもアップルが好きで、アップル製品に囲まれて生きている人々にとっては、さほど抵抗なく移行できると思われるのが アップル・カード&アイフォン中心の消費生活。 でもそれを行えば、「全ての出費の記録を保持するために一生アイフォンを使い続けることになる」というのがIT専門家の警告であり、アップル社の意図するところ。
アイフォン・ユーザーの方が、アンドロイド・ユーザーよりも可処分所得が多いだけに、 そのロイヤル・カストマーが お金を使う度に アップル社が新しいヒット製品を生み出すことなく、多額の収入を継続的に得られるのがアップル・カード。 さらにカード使用のデータを通じて、ユーザーの消費、購入、出費のパターンや経済状態を的確に把握できるのも アップル社にとっては大きなメリットをもたらすのだった。

アップル・カードの発表と同時に、アップル社はオプラ・ウィンフリー等数多くのセレブリティを起用したアップルTVのプロジェクトも明らかにしているけれど、 これはネットフリックスやアマゾン・スタジオに対抗するコンテンツ製作部門。 これらの新ビジネスは アイフォンの売り上げが落ちてきたアップル社が今後はハードウェアの売り上げよりも、コンテンツや金融による収入にシフトする方向性を 示唆しているけれど、長年のインベスターには歓迎されていないのが実情。その一方でアップル・カードのパートナーであるはずの ゴールドマン・サックスのアナリストはアップル・カードについてはかなり冷めたリアクションを見せているのだった。




今週にはフェイスブックが、自社のクリプトカレンシー開発のためにベンチャーキャピタルから10億ドルの投資を募っていることが報じられたけれど、 同社のように広告以外に売る商品が無く、その広告に規制が高まっている現在、 フェイスブックを通じた販売や送金に使える自社通貨を開発して、お金の流れから収入を得るのはアップル・カードよりも 一歩先を行く戦略。
同様のことは2週間前のこのコーナーでも書いた通り、JPモルガン・チェースやアマゾンも自社のクリプトカレンシーで行うことになっているけれど、 クレジットカードというものが普及して以来、人々がお金を使う度に 最も利益を上げてきたのがVISAカード。 VISAとマスターはその独占状態を利用して加盟店からフィーを過剰に請求したことから 集団訴訟が起こり、つい最近それが和解に達したばかり。 そんな高過ぎるフィーに抗議して 全米35州に2800店舗を擁するスーパー・チェーン、Kroger / クロガーが発表したのが、今年7月から同社の一部のストアでVISAカードの受付を ストップする方針。 これを受けて 「これまでVISAが最大シェアを握ってきた支払いやマネー・のトランズアクションのビジネスに 今後多くの企業が参入した場合に、 VISAの業績が悪化する」と予言する声が聞かれたけれど、負けていないのがVISA。
2週間前のこのコーナーでご紹介した欧米のクリプトカレンシー取引所の最大手、コインベースと組んで クリプトカレンシーで支払えるデビット・カードをまずイギリスでスタート。その後世界各国で展開する計画を今週末に発表しているのだった。 すなわち支払いの引き落としが銀行口座からキャッシュで行われるのではなく、コインベースのクリプトカレンシーのアカウントから行われるのがVISA/コインベース・カード。 VISAと言えば去年まではクリプトカレンシーやコインベースを敵視していた存在だけれど、これだから分からないのがビジネスの世界の行方。 このパートナーシップによって 「クリプトカレンシーが広まれば存亡の危機に陥ると見込まれたVISAの将来展望が変わった」とまで言われるのだった。
VISAカードが使えないストアが世の中に殆ど存在しないことを思うと、この展開によって既にクリプトカレンシーやゴールドに財産を移行し始めている人々にとっては 今後どんどん不必要になっていくと言われるのが銀行口座。 アメリカではかなり以前から年金の積み立てがゴールドで出来るし、昨今ではビットコインで税金が払える州も既に登場しているので、そうなれば将来 「VISAカードより先に無くなっても不思議ではない」と言われてしまうのが銀行口座なのだった。
結果的に何がどう転んだとしても、確実に儲けるのは世の中のお金の動きのプラットフォームを提供する機関や企業。 経済活動が営まれ、お金が動く限りは そのプラットフォームを握る存在が多額の利益を得ることになるのだった。

旅行中につき、向こう2週間のコラムお休みのお知らせ

4月3週目、4週目のこのコーナーは、旅行中につきお休みをさせて頂きます。CUBE New Yorkの他のコーナーの更新は通常通り行われます。 NY時間の5月5日に発信する5月第1週目から、このコラムを再開致します。引き続きよろしくお願い致します。 日本の読者の皆さんは、ゴールデン・ウィークを楽しんでくださいませ。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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