Feb. 25 〜 Mar. 4 2019

”Weight Watchers is So Yesteryear”
株価大暴落のウェイト・ウォッチャーズより
ミレニアル世代がトライするダイエットとは?



今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、トランプ大統領の元弁護士、マイケル・コーヘンが下院の諮問委員会で行った証言で、 オープニング・ステートメントで大統領を「詐欺師、レイシスト、いかさま」と語った彼について 「嘘つき」呼ばわりをしてその証言の信憑性を損ねようとしていたのがトランプ大統領と与党共和党側。 しかしながら コーヘンが 現在FBIの捜査対象になっているトランプ氏とロシアの癒着疑惑については 「認識していない」と証言したことから その部分は「真実」と評価しており、 「嘘つきの証言でも自分達に都合が良いことは真実」 というトランプ政権にありがちな理不尽さを露呈していたのだった。




今週ビジネスの世界で話題になっていたのは、アメリカ最大のダイエット企業、 ウェイト・ウオッチャーズの株価が水曜に29.57ドルから19.42ドルへと大暴落したニュース。 これは発表された業績がウォールストリートの予測を大きく下回ったためで、この日だけで 63億円の個人資産を失ったと指摘されたのがその大株主のオプラ・ウィンフリー。
トークショーホスト時代から 様々なダイエットに取り組んではそのブームを生み出してきたオプラ・ウィンフリーは、 数年前にウェイト・ウオッチャーズの最新システムを自らトライして体重を減らしたことから スポークスパーソン兼大株主になったのはアメリカでは誰もが知る事実。 そのオプラが「大好きなパンを食べながら痩せた」と語りながらCMに登場したお陰で、 2015年には4ドルだった株価が 2018年6月には100ドル台をつける上昇ぶりを見せていたのだった。

ウェイト・ウォッチャーズ自体は、TV版の「セックス・アンド・ザ・シティ」の中でシンシア・ニクソン扮するミランダが出産後の減量を行うシーンが登場するなど、 ポイント制のカロリーシステムと、ユーザーがミーティングに参加したり、コンサルテーションを受けるサポートシステムで知られるダイエット。 ショッピング・モール内や路面に店舗を構え、スーパーでは ロー・カロリーのスウィーツや、ポイント(=カロリー)が計算し易い食事のパッケージも販売される大企業であるけれど、 突如の売り上げ低下の原因として指摘されていたのは ミレニアル世代の利用者が極めて少ないこと。 事実、ミレニアル世代にとってウェイト・ウォッチャーズは親の世代のダイエット。 その親の世代は 年々、痩せるためよりも 病気を治したり、健康で長生きするための 医師が薦める 医学的根拠のあるダイエットをするようになっており、 ウェイト・ウォッチャーズは急激にユーザーを失いつつあるビジネスになっているのだった。




そもそもミレニアルは親達とは異なりダイエットにお金を払わない世代。 なのでダイエット本を買って読むこともなければ、パッケージ化されたダイエット食の購入もせず、 また地道なカロリー計算といった手間がかかることも嫌い。 長期的なプランよりも、即効性のあるダイエットを好む分、 たとえ苦しくても”チャレンジ”と称してエンターテイメント性があるダイエットをトライしたがる世代。 加えてダイエットの成果をソーシャル・メディアにポストするために頑張る傾向が顕著なのだった。
そんなミレニアル世代のダイエット・トレンドをクリエイトしているのは、もっぱらYouTuberで 現在トレンディングになってきているのが ”スネーク・ダイエット”。 これは1日1食ダイエットで、ヘビが1日に1回しか食べないと言われるのがそのネーミングの由来。 1日1食のペースにするために まず行うのが2日程度の断食で、 ウェイトを大きく落としたい人は断食の後に1日1食を2日ほど行ってから、食欲が戻る前に再び断食をするというサイクルを 目標体重になるまで続けるという かなりタフなプログラム。 断食中はアップルサイダー・ヴィネガー、ベーキング・ソーダ、レモン、ヒマラヤン・ピンクソルト等をミックスした”スネーク・ジュース” のみを飲むことになっているけれど、 これをスタートしたのはパーソナル・トレーナーでもある写真上右のYouTuber。 早い話がこのダイエットを広めることで彼には膨大な広告費が転がり込むけれど、 同様のことは トレンディング・ダイエットをトライしては そのプロセスや成果を自分のインスタグラム・アカウントにポストしたり、 そのテスティモニアル・ビデオで 広告費を稼ぐインフルエンサー達も同様。
そのため画像にフェイクが多いのがこの類のダイエットで、例えば写真下左側はビフォア&アフターが良く見ると明らかに違う人物。 体重がこれだけ減っても同じビキニを着ているのも不自然だけれど、アメリカ人ならシャワーを浴びる時も外さない マリッジ・バンドをビフォアは外していて、アフターは付けているというのも同様に不自然。 またどんなに 体重を落としても絶対に形が変わらない鼻や耳、足の甲のシェイプも異なっているのだった。
写真右は同じ人物で 実際にウェイトを落とした形跡が見られるものの、ビフォアの写真を更に太って見せるためにまず足首でカット。 加えてビフォアの写真は全身のサイズがアフターより9%大きいので、その腕や脚が実際以上に太く見えるように演出されているのだった。
かつてビフォア&アフターのフェイクフォトの常套手段と言えば、沢山食べた後にお腹を張り出して姿勢を悪くしながらビフォアを撮影し、 アフターの写真は朝の空腹時にスプレー・タンで日焼けした肌で撮影するというものだったけれど、それよりは手が込んできたのが昨今。 でもフォトショップによる修正は目を光らせる人が多い上に、バレると批判を浴びるので さほど行われない傾向にあるのだった。






スネーク・ダイエットに関して言えば、さらに厳しいドライ・バージョンというものがあって、 これは歯磨きからシャワーに至るまでの一切の水とのコンタクトを絶って断食をするという 危険なほどハード・コアなダイエット。 これをトライしたパーソナル・トレーナーは、それによってウェイトを大きく落としただけでなく、厄介な性病をも治癒したとYouTubeのビデオで語っているけれど、 それを呆れて観ている私のような人間が沢山いるので、それがYouTuberの収入になっていくのは言うまでもないこと。 見方を変えれば、かなり斬新なことをしなければ視聴者が獲得出来ないことから、ダイエットがどんどんハードコアになっていく傾向にあるのだった。
その一方でミレニアル世代が 喜んでお金を払うものの1つが自分のDNA鑑定。 それに着眼してDNA鑑定の結果から適切なダイエットをアドバイスするビジネス(写真上右)も登場していて、約500ドルを支払うと 50ページの鑑定結果と 食事&エクササイズのアドバイスがレポートで届き、1時間のスカイプ・セッションが受けられるというのがそのサービス。
でもテスティモ二アルをチェックしてみると、砂糖と炭水化物を控えた野菜中心のダイエット、1週間に140〜200分のエクササイズ等、 あまりに誰にでも当てはまるアドバイスが多く、「これなら、わざわざDNA鑑定をしなくても」というのが正直なところ。 もちろん世の中にはどうやってダイエットをしたら良いか分からない人や、何等かのきっかけやモチベーションがないとダイエットに取り組めない人も多いので、 そういう人ならトライする価値があるかと思われるのがこのプログラムなのだった。

私もかつてはダイエットを趣味にして あらゆるタイプをトライしてきたけれど、 体重を減らした後、やがて元に戻ってしまうというのは 傍で見ているほどは愚かな行為ではないというのが私の経験から言えること。 それによって自分の体調を管理する習慣や、食べ物と身体のリアクションに留意する習慣がつくのに加えて、新しいダイエットに取り組むというのは 生活のリズムを変えるのには極めて有効な手段。 痩せて成果上がれば気分も良くなるし、自分にも自信がつくので、 さほどお金が掛からず、健康を損ねない ダイエットであれば トライし続ける価値があると思うのだった。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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