Feb. 11 〜 Feb. 17 2019

”4 Topics to Catch Up This Week”
アマゾンHQ2、カパーニック、JPMコイン & オスカー賞取りレース、
今週の報道の側面と裏側



今週は木曜がヴァレンタインズ・デイ、そしてアメリカは月曜にプレジデンツ・デイを控えて週末から3連休となることから、 事前にソーシャル・メディア上で噂されていたのが「あまり社会に関心を払って欲しくないニュース」、 「報道のインパクトを小さくしたいニュース」が今週水曜〜金曜に発表されるはずということ。
その金曜には政府のシャットダウンが回避され、替わりにトランプ大統領がナショナル・エマージェンシーを発令。 議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁の建設費を獲得する動きに出たけれど、これについては事前に見込まれていたことで、 カリフォルニア州を始めとする幾つもの州が既にトランプ政権に対して予定通り 訴訟を起こす動きを始めている状況。
それよりもニューヨークを中心に大報道になっていたのが、アマゾン・ドットコムが2つ目の本社(HQ2 )のロケーションとしてヴァージニア州クリスタル・シティと共に選んだ ニューヨークのロングアイランド・シティへの進出をキャンセルしたというニュース。 これについてはアマゾン傘下のワシントン・ポストが先週末に報じて以来、噂が高まっていたものの正式に発表されたのは今週水曜日。
アマゾンに対して30億ドルの税金免除を与えて誘致に積極的に動いたデブラジオNY市長、およびクォモNY州知事は、当然のことながらこの突然のキャンセルに 怒りを露わにしていたけれど、逆にそれを受けて勝利宣言をしていたのは地元のロングアイランド・シティ、およびクイーンズの住人や、この地区選出の アレクザンドリア・オカジオ・コルテス下院議員ら。
これを聞いてパニックに陥ったのが、アマゾンHQ2が雇用する2万5000人の従業員のニーズと経済効果を見込んで現在ロングアイラインド・シティに建設中の 15のコンドミニアムに先行投資をした人々で、実際に昨年11月にアマゾンHQ2の誘致が決定した途端に10%値上がりしたと言われるのがロングアイラインド・シティの不動産。 アマゾン社内にも誘致発表前に 既にロングアイラインド・シティの不動産を購入して大きな利ざやを稼ごうとしていたエグゼクティブ が居ることで批判を浴びていたけれど、 不動産は有価証券とは違ってインサイダー取引にはならないので、同様の手段は企業トップによる確実な不動産投資として長きに渡って行われてきたこと。
この報道を受けて不動産ブローカーには「売買契約を解約したい」という先行投資をした人々からのリクエストが殺到しているとのことで、 まるでアマゾン誘致が売買契約の前提事項に盛り込まれていたかのような騒ぎが伝えられるのだった。




アマゾン自体はキャンセルの理由を「地元民やその政治家がアマゾン誘致に対して極めてネガティブであること」と説明していたけれど、 ロングアイランド・シティ自体は 2008年のファイナンシャル・クライシス以降、マンハッタンの住人が流れ込んだのをきっかけに徐々に開発が始まり、 過去3年はブルックリンより急速に再開発が進んだエリア。すなわちアマゾン誘致などしなくても どんどん自力で開発が進んでいるエリアで、それは同様にHQ2のロケーションとして 選ばれたクリスタル・シティとは大きく異なる点。
そのため地元民は2万5000人もの雇用が一気に増えることにより、既にガタガタの地下鉄システムがさらに危機的状況に陥ることや、 物価やレントの高騰を危惧する一方で、自分達が苦しい生活をしながら税金を払っているのに、 世界最大の小売業であるアマゾンに対しては多額の税金免除する市&州政府に腹を立てていたのだった。 そのアマゾンは2018年にも11億ドルもの利益を上げながら、2017年に引き続いて2年連続で法人税を支払わずに済むことが今週報じられたばかり。
でも地元民にとって最大の反対理由は、これだけ大規模な企業誘致をする際には 通常 地元民に その経済インパクトのデータを提示して意見を聞いた上で 地元民と一緒に誘致に取り組むべきところを、 ただでさえ人気のないデブラジオNY市長とクォモNY州知事が 不動産デベロッパーとだけ結託して勝手に誘致に動いたためで、 もちろんその背後でお金が動いているのも地元市民の反対意見を煽っている理由。 デブラジオNY市長は「アマゾンが自分達と話し合う事も無く、一方的にキャンセルした」と腹を立てていたけれど、市長と話したところで アマゾンが問題視する市民感情が解決する訳ではないことを理解しているという点では アマゾンは賢い企業と言えるのだった。
ロングアイランド・シティの小さなレストランやコーヒーショップのオーナーの中には、アマゾンHQ2のキャンセルに失望の声が聞かれていたけれど、 実際には彼らのようなビジネスはアマゾン進出によって潰される側。 というのはアマゾンほどの規模の本社がオープンした場合、その中に設置されるのが大規模なカフェテリア。2000年代のニューヨークにグーグルの大規模なオフィスがオープンした直後に 最も話題になったのも スシからメキシカン、中華、ドーナツ・バーガーのようなカルト・メニューまでが味わえる至れり尽くせりのカフェテリア。 要するにわざわざ社外にランチに出掛けたり、コーヒーを買いに行く社員は殆ど居ない訳で、 逆に上がったレントが払えず撤退に追い込まれるのがシナリオ。 地元の小規模のビジネスにとっては、アマゾンより小規模の企業が複数ロングアイランド・シティにオフィスを構える方が遥かに潤うと言えるのだった。




話は変わって 今週前半に報じられたのがアリーナ・フットボール・リーグが 元NFLのコリン・カパーニックのリクルートを試みたところ、 その契約に約22億円を請求され、「アリーナ・フットボールが払えなければ、NFLが払うべき」と言われたというニュース。 そして木曜にはそのコリン・カパーニックが「国歌斉唱中に行った黒人層差別抗議活動が原因で、NFLのオーナーが結託して自分を雇わないようにしている」 としてNFLを相手取って起こしていた訴訟で和解が成立したことが報じられており、 守秘協約が結ばれているので インサイダーの推定ではあるものの、カパーニックに対して支払われる和解金は66〜88億円。 カパーニック本人はその守秘義務のためか、弁護士の声明文を自らのソーシャル・メディアにポストしただけという味気ないファンへの報告で、 日曜には彼が次シーズンにキャロライナ・パンサーズか、ニューイングランド・ペイトリオッツでプレーをする可能性がスポーツメディアで報じられていたのだった。
とは言ってもパンサーズにはカム・ニュートン、ペイトリオッツにはトム・ブレイディというスター・クォーターバックが居るので、 実現した場合でもバックアップ・ポジションということになりそうだけれど、 これによって釈然としない思いをしているのは彼をサポートしてきた人々。 というのは和解金が一体何のために支払われたのか、すなわちNFLが非を認めたのかが不明で、それに守秘義務が絡むということは 事実上、コリン・カパーニックが 口止め料を受け取って、彼が選手生命を犠牲にしてまで抗議をしてきた 黒人層に対する警察の過剰暴力や差別の撤廃よりも 再びNFLでプレーをするチャンスを選んだということ。
彼が 抗議活動を始めた段階よりもアメリカの人種差別は悪化している一方で、カパーニックが招いたのがプロ・スポーツにおける抗議活動が 処分対象となるという新しいスタンダード。実際にカレッジ・プレーヤーの間では「プロ契約を望むなら政治的意見など持つな」と言われる状況で、 カパーニックが 66〜88億円というNFLにとって極めて微々たる金額で引き下がったことによって、 「スポーツの舞台における ”言論と表現の自由”がアスリートから奪われた」 と見る声は少なくないのだった。

その一方でオスカーを来週日曜に控えてアカデミー・オブ・モーション・ピクチャー&サイエンスが今週木曜に発表したのが 「シネマトグラフィ、フィルム・エディティング、メイクアップ&ヘア、ライブアクション・フィルムショートの4部門の受賞者発表をCM放映中に行う」 という先週の決定を取り消すというニュース。これについてはマーティン・スコセシ、クウェンティン・タランティーノ、スパイク・リーいったアカデミーの重鎮メンバーが こぞって反対したのがその理由と伝えられ、そもそも今年も4時間の放映が予定されるオスカーにそれら4部門の受賞者発表が盛り込めないというのは最初からおかしな話。
でも今週ハリウッドでそれ以上に話題になっていたのが、今年の賞取りレースのためハリウッドの各スタジオが例年に無い大金を投じているというニュース。 それほど有力候補が無いのが今年で、「ブラック・パンサー」や「グリーン・ブック」は日本円にして20〜30億円を賞取りレースのために支払っているとのこと。 でもブラッドリー・クーパー監督、レディ・ガガ主演の「ア・スター・イズ・ボーン」についてはワーナー・ブラザースがそこまでの出費をしておらず、「それが授賞式シーズンの結果に表れている」というのが ハリウッド・インサイダーが今週 ヴァラエティ誌に語ったコメント。
中でも大盤振る舞いをしているのがネットフリックスで、オスカーでも作品賞にノミネートされた ネットフリックスの「Roma / ローマ」は今年の授賞式シーズンに 大健闘している作品。 「ローマ」の製作費は約17億円であるものの、ネットフリックスがアワード関連キャンペーンに費やしたバジェットは約28億円。 加えてネットフリックスはその担当者としてリサ・タバックを雇っており、 彼女は過去にハーヴィー・ワインスティンに雇われて「イングリッシュ・ペイシェント」、「シェイクスピア・イン・ラヴ」、「シカゴ」、「ザ・キングス・スピーチ」、「ジ・アーティスト」等を 作品賞に導いた功績があるハリウッドの”オスカー・ゲッター”。
ネットフリックスがそんな事が出来るのは ハリウッドのどのスタジオよりも豊富な資金力があるためだけれど、問題は昔ながらのアカデミーのメンバーの間では 新参者で勢力拡大中のネットフリックスを嫌う人々が多いこと。 特にアカデミー賞は TVで公開されてから劇場公開された作品を選考対象から外してきた歴史があるだけに、 「ネットフリックスの映画はエミー賞の対象にはなっても、オスカーの対象にするべきではない」という意見が聞かれているという。
そんなアンチ・ネットフリック派の有力者の1人がスティーブン・スピルバーグ監督で、 特に彼にとって面白くないのは ネットフリックスのためにリサ・タバックが動いていること。 それもそのはずで スピルバーグ監督のサクセスフルなキャリアにおける最大の屈辱と言われるのが 彼の代表作の1本「セイヴィング・プライベート・ライアン」が ”アワード・キャンペーンの失敗でオスカーを逃した” ことで、代わりに1999年のオスカー作品賞を受賞したのがリサ・タバックが裏で動いた「シェイクスピア・イン・ラヴ」。 それだけにスピルバーグ監督は「ネットフリックスがリサ・タバックを雇ったからといって、オスカーにノミネートされるべきという意味では無い」とまで 露骨にコメント。
しかしながら、ハリウッドのどのスタジオよりも急ピッチで多数の製作を手掛けるネットフリックスでは アカデミーのメンバーが俳優だけでなく、技術面からもそのプロダクションでどんどん仕事をするようになっていて、 今後はその勢力図が変わって行く気配。 カパーニックにしてもオスカーにしても、「やはり最後はお金が物を言う」という印象を与えるニュースになっているのだった。




そのお金と言えば、2月16日土曜日午後からダウンしたのが J.P.モルガン・チェースのウェブサイトとモービル・システム。 ツイッター上では#Chasedown がトレンディングになっていたけれど、同様のことは全米第4位のコンシューマー・バンク、 ウェル・ファーゴでも今年に入って2回起こっていること。 でもそれよりショッキングなのは全米最大の銀行のシステムがダウンしていたニュースが メインストリーム・メディアでは全く報じられなかったことで、私自身がこれを知ったのはヨーロッパのYouTuberのチャンネルを観ていた日曜朝のこと。
ウェル・ファーゴのシステム・ダウンについては 過去にもいろいろ問題があったバンクなので さほど驚かなくても、 J.P.モルガン・チェースはもっとしっかりしたイメージがあるだけに、巷で噂される「2月中に金融界で何か大きな出来事が起こる」という説が本当なのでは? という考えが頭をかすめた人も居たようなのだった。 実際のところ、ウェル・ファーゴが2度目のシステム・ダウンに見舞われ ATMが使えなかった2月7日以降、理由はどうあれ ウェル・ファーゴから 徐々に預金を引き出している利用者は多いようで、ソーシャル・メディア上ではBank Run/バンク・ラン(危ない銀行から利用者がこぞって預金を引き出すこと)が 密かに起こり始めているとも言われている状況なのだった。
その#Chasedownがトレンディングになる3日前の水曜日には、2017年に「ビットコインは詐欺だ」と発言したことで知られる J.P.モルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモンが 同社がクリエイトした送金目的のクリプトカレンシー、JPMコインをプレスに発表。 このコインは一般の人々とは無縁のコインで、多額の支払いを行う企業間の取引を迅速かつ 低コストで行うことを目的としたもの。 ビットコインのように相場に応じて価値が動くのではなく、1JPM=1ドルで米ドルと同価値の いわゆる”ステイブル・コイン”。 昨今では中国、イラン、ロシア等が これまでの貿易通貨だったドルから離れているのに加えて、 これまで国際送金手段として用いられてきたSWITシステムが時代遅れになってきたので、 そんなドル離れ、SWIFT離れに対応したと思しきもの。 フェイスブック等、フォーチュン500企業の80%以上をクライアントに擁するJ.P.モルガン・チェースであるだけに、 実用化後はすぐに大きな展開が見込まれるのだった。
このJPMコインの登場がプラスに働くと言われるのはビットコインで、逆にマイナスに働くと言われるのがかつてのリップル、現在のXRP。 というのもリップル(XRP)は 金融機関と結びついてその送金を安いコストで迅速に行うことを目的に誕生したコインであるため。 同じ用途であれば 自分達が使っている銀行と直結したJPMコインと、アメリカ国内で3つの訴訟を抱えているXRPのどちらを信頼して利用するかと言えば 文句なしに前者。
このためXRPの関係者が発表直後にJPMコインをバッシングするコメントをしているけれど、 ビットコインとクリプトカレンシーについては、詳細の記事のリクエストを何件か頂いているので また別の機会に書くことにします。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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