Jan. 7 〜 Jan. 13 2019
欧米社会に見る 信頼できない銀行の実態
今週のアメリカで最大の報道になっていたのは土曜日の時点でアメリカ史上最長となった政府のシャットダウンのニュース。
1月10日の給料日を迎えても政府職員の給与が支払われなかったことで 住宅ローン、自動車ローン、学費ローン等を抱える職員が
Uberのドライバーや非常勤の学校教師の登録をして何とかキャッシュを得ようとする様子が伝えられる中、一向に妥協の気配を見せないのが
メキシコとの国境の壁の建設費を何としても予算案に組み込もうとするトランプ大統領。
シャットダウンの影響は給与が支払われない80万人の政府職員だけでなく、その制服のクリーニングを担当する業者や、
政府機関近隣のレストランなど政府職員が出勤するからこそ成り立っているビジネスにも及んでおり、その経済的ダメージは
シャットダウン後の20日間で12億ドル。
ワシントンDCでUberのドライバーとして生計を立てている男性によれば、通常1週間の収入が1700ドルであるのに対して、
政府がシャットダウンされてからは1週間の収入が僅か550ドルで、「これではレントも払えない」とのこと。
リカーの醸造をする業者は、醸造されたリカーの認可をする政府職員が働いていないことで、在庫を抱えたまま生産コストの借金を支払う羽目になっており、
「まさか政府のシャットダウンが自分のビジネスに影響するとは思わなかった」とボヤく有り様。
また政府の職員であればシャットダウンさえ終われば
棚上げになっていた給与が支払われるけれど、彼らの勤務に伴うランチや移動で収入を得ていたビジネスにとっては
その損失が戻ることはないのだった。
これが長引けば長引くほどそのダメージが様々な経済局面に広がる一方で、懸念されるのがこれがトランプ政権最後のシャットダウンではないということ。
そのため別の仕事を探す職員が増えるのもさることながら、同様の状況に備えて人々が出費を控えるようになる結果、
景気に悪影響を及ぼすことが見込まれるのだった。
そんなアメリカ政府のシャットダウンより長く続いているのが、フランスのイエロー・ヴェスト・ムーブメント。
11月にスタートしたこの抗議活動は、当初燃料費の増税に反対するものであったけれど、それがマクロン大統領辞任と
減税にシフトした後、現在はカリフォルニアの州法をモデルにした重要な法案を国民投票で決めるという
立法システムの導入も求めるものに変わってきたところ。
その中でフランス国民が遅ればせながら痛感し始めたのが大手銀行を中心とした金融業界が政府を動かしているという世の中の仕組み。
その例として頻繁にフランス人が挙げるのが、マクロン大統領が2017年の大統領選挙の際に800万ユーロの選挙資金の融資を
名前さえ公開せずに銀行から得ていたということで、フランス国民にとってマクロン大統領はそんな金融業界の操り人形であり、手先に過ぎないと見なされているのだった。
それと同時に世界的に一般の国民が目覚め始めているのが、庶民がどんなに働いても豊かになれない一方で、
富がどんどん世の中のトップ1%に流れていく世の中の仕組み。その要因の1つが下の図のフラクショナル・リザーブ・バンキング。
これは世界中の銀行で行われているシステムで、上の図のように銀行が預金をどんどん
運用して、実際には存在しないお金をローンとして貸し出しては利息や手数料、返済が遅れればそのペナルティを請求するというもの。
一般市民がこれをやれば立派な詐欺行為であるけれど、銀行が行う場合はコンピューターに数字を打ち込むだけの合法行為。
預金者が自分の財産だと思っているのはコンピューターの画面や明細書に書き込まれた数字だけ。
このシステムを法律で守ることによって共存共栄の関係にあるのが政治の世界で、準備金の割合さえ保てば入ってくるお金をローンに替えて
金融業界がどんどん儲けられるのがこのシステム。
銀行のシステムが比較的民主的だった時代には、銀行の儲けが預金者に利息という形で僅かながらも分配されてきたけれど、
何年も続いたゼロ金利で預金者に利息が払われなかったにも関わらず、銀行が発行するクレジット・カードで庶民が買い物をすれば10%以上の利息が付いていたのがアメリカ。
もちろんその間、大企業や大富豪はゼロ金利でタダの借金をしてはそれぞれ企業買収や自社株の買戻し、不動産やアートへの投資をして
多額の富を築いてきた訳で、貧富の差がここへきて大きく開いたのはそれが原因。
そんなシステムに着眼して、今週の土曜日(1月12日)にイエロー・ヴェスト・ムーブメントがフランス市民に働きかけたのが銀行から預金を一斉に引き出す”バンクラン”。
バンクランについては先週のこのコラムにも書いたけれど、通常は金融システムが破綻した際や
銀行が潰れそうな場合にそれを危惧した預金者が銀行に殺到してキャッシュを引き出すことを意味するもの。これが意図的に行われるのは恐らく歴史上初めての試み。
フランスの銀行は今や準備金のキャッシュと ローンを含む運用金の割合が1対30にまで広がっており、そんな状況で
多くの人々が一気にキャッシュを引き出せば 政府を操る金融機関を困らせることが出来るというのがそのコンセプト。
これが発表された途端にユーロが下落し、フランスの銀行の中には預金の引き出しを禁止するところや、写真下のように
ATMマシンの稼働をストップして預金の流出を抑える手立てが見られたけれど、バンクランが起こらなくても同様の措置は
預金引き出し金額に制限を設ける形で世界中の銀行で行われていること。
イエロー・ヴェスト・ムーブメントでは そんな銀行の対応を察知して、預金が引き出せない場合はデビット・カードによる買い物をすることによって
預金減らしをするように奨励。でも現時点でこの運動の障壁になっているのが 引き落としたキャッシュの行き場。
特定の銀行が潰れるという場合のバンクランであれば、他の銀行の口座にキャッシュを移すだけであるけれど、
金融システム全体からキャッシュを引き出すのがこの運動の目的。
今週末には パリのベーカリーの老朽化したガス管が爆発したニュースが大きく報じられ、自宅にキャッシュを置いておくリスクが国民に印象付けられたばかりなのだった。
そこでイエロー・ヴェスト・ムーブメントが広めようとしているのがビットコイン。
これまでフランスでビットコインが広まってこなかった理由と言われるのが フランス人が保守的でインターネットやテクノロジーを信頼していないことが指摘されており、
逆に彼らが信頼するのが毎日行きつけ店。そこで新たにパリでスタートするのが
タバコ店やキヨスクでのビットコインの販売。フランス人に行きつけの店で、信頼できる店主からビットコインを買ってもらうというのがこのコンセプトで、
市民が少しずつでもビットコインを所有するようになれば、自動的に金融システムからキャッシュがどんどん減っていくのだった。
イエロー・ヴェストは金融業界に打撃を与えるまでバンクランの抗議活動を定期的に続けると宣言していて、
フランス政府にとっては これは街中の抗議活動よりも遥かに大きな脅威になりかねないもの。
またこれが広まることはどの国にも脅威とあって、今週末の欧米メディアはパリのベーカリーの爆発騒ぎを大きく報じても、
バンクランについては全く報道を控えているのだった。
前述のようにフラクショナル・リザーブ・バンキングの仕組みが徐々に一般の人々に知られるようになってきたことで、
誰もが気に掛けるのが自分の利用する銀行がどの程度キャッシュを保有しているか?、
たとえ銀行が潰れなくても 金融破綻が起こった場合に果たして自分のキャッシュが引き出せるか?ということ。
以下のリンクのSteemitの投稿は 英語ではあるもののスクロールしていくと 2016年のアニュアル・レポートからの情報で
世界中の様々な銀行の準備高が記載されているのだった。
https://steemit.com/money/@theeconomictruth/is-your-bank-insolvent-bankrupt-will-you-get-your-money-in-a-crisis
それによれば、JPモーガン・チェイスは預金額に対する準備金の割合は僅か1.74%で、銀行が破綻した場合98.26%の預金が取り戻せない計算。
ゴールドマン・サックスは1.24%で 98.76%の預金が戻らない計算。シティ・バンクはそれよりマシの4.11%の準備金があったけれど、それでも預金額に比べれば微々たる金額。
次の金融破綻のトリガーになると噂されるドイツ銀行は意外にも預金に対するキャッシュの割合が他行より多く32.96%であったけれど、
2016年以降、経営が悪化しているのは周知の事実。
日本の銀行で唯一リストされていた三菱UFJもドイツ銀行とほぼ同等で、30.54%のキャッシュの保有率。
しかしながら、自分の銀行にある程度の準備金があったとしても、利用者が知らず知らずのうちに合意させられているのがバンクが閉鎖されるなどの破綻時における
準備高の行き先で、個人の利用者が一番後回しになるのは容易に想像がつくところ。
これは銀行の破綻のケースだけでなく、金融機関がクリエイトしたデリバティブ、すなわち金融派生商品が破綻した場合も同様なのだった。
銀行の預金が取り戻せるかどうか定かでないような状況で頼りになるものと言えば、ジュエリーやゴールド・コイン等の現物の財産。
とは言ってもそれを銀行のセイフティ・ボックスに預けるべきではないことを実感させたのが、昨年2018年8月に報じられたバンク・オブ・アメリカのエピソード。
同行のセイフティ・ボックスを16年前から利用し、そこに祖母のジュエリーや父親のゴールド・コインのコレクションを保管していた女性が、ある日ボックスにアクセスしようとしたところ
セイフティ・ボックス自体が消えていたというのがその恐ろしいストーリー。当然ながらバンク・オブ・アメリカにクレームした女性が言われたのが
「こちらでも理由はわかりません。お知らせありがとうございました。」という無機質な回答。
この悪夢を経験したのはバンク・オブ・アメリカに40年間勤務してリタイアした女性で、被害をメディアで訴えたところ
それを見た視聴者から寄せられたのが
「セイフティ・ボックスをバンク・オブ・アメリカに勝手に開けられ、中に入れておいたジュエリーが破損した状態でビニール袋に入って送り返されてきた」というストーリー。
別のケースでは、同様に勝手に送り返された内容品の中から日本円にして180万円相当のリングが紛失していたことがレポートされているのだった。
法律ではバンクがセイフティ・ボックスを利用者の許可なしに開けられるのは、裁判所の命令、警察の捜査、料金の滞納、
銀行自体がクローズする際、もしくは銀行側が利用者のIDの確認を求めた際にそれに応じなかったケース。
被害を申し出た利用者のケースはこのうちのどれにも該当しておらず、バンク・オブ・アメリカは
メディアが乗り出してきて世の中が騒ぎ出してから ようやく事態に対応したのだった。
実は私自身もバンク・オブ・アメリカに不信感を抱く経験をしたばかりで、
それは昨年10月に引っ越しをしたため バンク・オブ・アメリカのクレジット・カードに登録されている住所を変更した際のこと。
手続きはオンラインで行ったので翌月のステートメントは直ぐにそれが反映されたものの、
その次の月にはまた元の住所に戻ってしまうという不思議な事態が発生。
しかもその月から私の名前が「 Yoko N. Akiyama」という ミドル・イニシャル入りに代わっていて、
この名前は奇しくも私のカード番号が3年前に盗まれた際に、その犯人が私のIDを偽造してクレジット・カード・アカウントを
10回以上に渡って開こうとした際に使っていたもの。
そこでバンク・オブ・アメリカに電話で問い合わせて 何故私の住所が元に戻ってしまったのかと、何故ID偽造犯人がクリエイトした名前が
私の請求書に印刷されているのかを尋ねたところ、逆に尋ねられたのが 「他の国で別の名前を使っていなかったか?」を始めとする
まるで犯罪者扱いの質問に加えて、私のアメリカにおけるイミグレーション・ステータス、すなわちどのビザで何年滞在しているかということ。
その時は自分に非が無いないことを立証するためにきちんと答えたものの、
銀行のスタッフにホームランド・セキュリティのような質問をされたことで気分を害したのだった。
同様の質問で気分を害する合法移民は多いようで、
写真上左のツイートでは バンク・オブ・アメリカのクレジット・カード口座を閉めて、別のバンク・オブ・アメリカのカードにその残高を移そうとした際に
イミグレーション・ステータスを尋ねられたことが抗議されているのだった。
また2018年8月にはバンク・オブ・アメリカの行員に移民ステータスを尋ねられて答えなかった
イラン人の学生の口座が一方的に閉鎖されたという事態も起こっているけれど、これは「移民の国」であるはずのアメリカで合法の行為。
たとえアメリカ国籍であっても異国的な名前の場合、二重国籍についても尋ねられるそうで、
もしウソをつけばその記録が残るので後から問題が生じる可能性があるのだった。
私の名前が勝手に替えられていたことについての弁明はさらに凄まじいもので、
「バンク・オブ・アメリカは大手クレジット・ビューロー(個人のクレジット情報を管理する機関)に
登録されていたセキュリティ・チェックの依頼データから顧客情報を訂正する場合がある」というもの。
でも私は過去4年間 1つも新しいクレジット・カードを作っておらず、クレジット・ビューローに登録されていたセキュリティ・チェック依頼データは、
私のID偽造犯人が10以上のアカウントを開こうとして失敗した時のもの。しかもそれらはとっくに私のクレジット・スコアに影響する期限を過ぎているので、
今更考慮される方がおかしいと言える情報。要するにバンク・オブ・アメリカが私の個人情報を訂正したソースは偽造犯人がクリエイトした期限切れの偽データ。
私がバンク・オブ・アメリカとの取引があるのはクレジット・カードのみで 銀行口座は持っていないけれど
その時 あえてクレジット・カード・アカウントを閉めなかったのは、毎月のステートメントで自分の個人情報を見張っていないと
また何時自分の個人情報がバンク・オブ・アメリカのデータベースで書き替えられるか分からないと思ったためで、
口座を閉めれば自分のデータがバンク・オブ・アメリカから抹消される訳ではないのは現代社会では常識以前のこと。
バンク・オブ・アメリカはJ.P.モーガン・チェイスに次ぐアメリカで第二位のコンシューマー・バンクなので
どんなにソースがいい加減でもその情報は社会では大きな意味を成すのだった。
ちなみにアメリカ第三位のコンシューマー・バンク、ウェル・ファーゴは5300人のスタッフが340万人の顧客情報を使って
偽口座を開いてフィーを巻き上げていた銀行。
結局のところ「銀行が信頼できる」というのは社会によって植え付けられた既成概念以外の何物でもないのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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