Dec. 31 2018 〜 Jan. 6 2019
2019年のアメリカで見込まれる出来事&それによって世の中がどう変わるか?
例年より遥かに温暖な気候で新年を迎えたニューヨーク。その気温と雨のせいでタイムズスクエアの
カウントダウンのボールドロップが霧に包まれて全く見えず、混迷する時代の幕開けを感じさせていたけれど、
その2019年第一週目のアメリカで大きく報じられていたのはまだまだ続く政府のシャットダウンと
乱高下する株価のニュース。
特に市場にショックを与えたのは 1月2日のアップル社による2019年第1四半期の売り上げ見込みの下方修正。
これによって同社の企業価値は一時730億ドル目減りしたけれど、CEO ティム・クックの株主へのレターで説明されていた
中国におけるアイフォンの売り上げ不振は 既にアメリカ国内では顕著なこと。
ニューヨーク・タイムズ紙も「今のアイフォンで事足りているのに、どうして800ドルも払ってアップデートしなければならないのか?」
というアイフォン・ユーザーのコメントを掲載していたけれど、テクノロジーに出費を厭わないミレニアル世代でさえ
「未だにアイフォンが出る度に買い替えているの?」という会話が聞かれる有り様。
しかもそのミレニアルはアイフォンよりもサムスンのギャラクシーの方がクールだと思う世代でもあるのだった。
アメリカでは年が明けるということは新たな法律の施行がスタートするということで、
ニューヨークではリサイクルが出来ないプラスティック・フォーム容器(写真上左)の使用が禁止となり、
男子トイレにも子供のおむつを替えるテーブルを設ける法律等が新たに施行されているのだった。
また税制も変わることになっていて、2019年から認められなくなるのが離婚による扶養控除。
このため2018年末には駆け込み離婚が多く、通常ならば12月は休業状態の離婚弁護士が
年末のヴァケーションをキャンセルしてまで手続きに追われていたけれど、これが影響するのはもっぱらミドルクラス。
というのも世の中のトップ1%が離婚の際に支払うのは億円単位の慰謝料兼手切れ金で、扶養料というのは
ミドルクラス以下が離婚相手の生活のサポートのために支払うもの。
これまでなら別れる伴侶に多めに扶養料を支払っても、その額が丸ごと減税対象となるので 支払う側にはさほど金銭的な重荷にはならなかったけれど、
その減税措置がなくなれば 政府の税収が増える分、当然目減りするのが扶養料。
この新たな税制では典型的なミドルクラスの離婚の場合、日本円にして月額10万円前後の扶養料が目減りすると言われ、
それによってバケーションや高額レストランでの外食等のちょっとした贅沢が出来なくなることは
ミドルクラスにとってかなりのダメージになることが見込まれるのだった。
それ以外にもジョブ・エデュケーション(仕事関連の教育やトレーニング)を含む
雇用主が負担しない仕事のエクスペンスの控除が認められなくなるけれど、
これは更なるAI導入のお膳立て措置と言われるもの。
というのも2018年に労働者組合の反対無しにAIを導入した企業の多くは
「能力のある労働者が見つからないための人手不足を補うため」をその理由に挙げており、
ただでさえトランプ政権がジョブ・トレーニングの予算を激減させる中、自分で支払うジョブ・トレーニングの費用が税金から戻らない場合、
益々一般労働者がスキルアップのチャンスを得られないのは目に見えていること。その結果、AI導入に拍車が掛かる環境を生み出す訳で、
やがて企業が経営不振に陥れば真っ先に人間の労働者が解雇され、AIだけが働き続けるというシナリオになるのだった。
それ以外に2019年に見込まれるのは 更に多くの州におけるレクリエーショナル・マリファナの合法化。
ニューヨークでもその合法化を進めるため 「マリファナによる税収を
老朽化したサブウェイのアップグレードに充てる」という恰好のスローガンが謳われ、その合法化は時間の問題。
私の友人には「マリファナが合法化されたらUberやリフト等のカー・シェアリングは利用しない」という人がいるけれど、実際にマリファナが合法化された州で
まず増えるのが交通事故。コロラド州のように交通渋滞が無い州でさえその状況で、今後マリファナが合法化された州でさらに事故が増えた場合、
セルフドライビング・カー普及を後押しする要因になり得るのだった。
また2019年に大きく増えると見込まれるのはキャッシュレス・ビジネス。2018年にはシェイク・シャックで知られるレストランター
ダニー・メイヤー傘下のカフェを始めとする多くのビジネス、それも従来ならキャッシュが当たり前の少額払いのコーヒーショップや
軽食店がどんどんキャッシュレスになったけれど、これがさらに広がるのが2019年。
釣銭の用意や「レジを締める」という作業が無く、店にキャッシュが無ければ犯罪の対象にもならないとあって、
小さなビジネスほどキャッシュレスになっているけれど、その普及で既に痛手を被っているのは低所得者層。クレジット・カードや
アップル・ペイ等の支払い手段を持たないこの層は キャッシュレスの世界では生き残って行けないのだった。
また2019年にトライアル・ベースでどんどん増えていくと見込まれているのが週休3日制。
既にこれを実践した企業では、従来の週休2日制を3日制に変えても生産効率が下がらず、従業員がハッピーになったという
好データが得られており、「今後職場を移りたい」と考える人々にしても
給与や健康保険等の待遇と同様に最優先に考慮するのが労働時間。
エリート層のハードワークがステータス・シンボルだった時代は終わり、今では低所得者ほど仕事を2つも3つもこなして
休み無しに働く時代。学校教師がUber のドライバーをして夜遅くまで働いたり、
ウォルマートの従業員が アマゾン・ドットコムの配達のパートタイムをしている様子が伝えられるご時世に、
ある程度の収入がある層が 求めているのは時間。
実際に裕福な人々ほど物よりも時間にお金を払っているのがその消費動向で、
時間のゆとりが 経済的なゆとりを示すのが今の時代なのだった。
多くの人々がそのゆとりの時間を何に使うかと言えば、健康の維持のための休息や
家族や友人と過ごすこと、趣味を楽しむことで、これは言ってみれば人間の当たり前の生活、人間らしい生活でもあるのだった。
とは言っても2019年には そんなゆとりある生活が出来る人々が
どんどん限られていくと言われていて、2018年末の段階で発表されていたのが2019年の大幅解雇。
GMがサンクスギヴィング前に1万5000人のレイオフを発表したのに始まって、ネーション・ワイドが1万1000人の解雇、
スターバックスでさえシアトルの本社の350人の解雇を発表。
そのスターバックスは例年パフォーマンスの悪いストアを50軒ほどクローズしているけれど、2019年にはそれが3倍の150店舗になる見込みで、
当然のことながらそこに務めるパートタイム・ワーカーが職を失うことになるのだった。
レイオフはバズフィード、ハフィントンポスト、ESPN、ニューヨーク・タイムズといった多くのメディアでも既に2018年中から行われており、
金融でもヘッジファンドのBalyasnyアセット・マネージメントが 40億ドルの損失を受けて
12月に20%の従業員解雇を発表したばかり。Balyasnyは2017年には大きな利益を計上して
アグレッシブに拡大すると同時に多額のサラリーで知られた存在。
2019年はそんなヘッジファンドにとって試練の年になると言われるのだった。
アンケート調査によれば、次の金融クライシスが2019年に起こると回答するアメリカ人は約70%、
2020年に起こると回答した人々は82%と言われるけれど、2019年に誰もが注意深く見守ることになるのが3月29日のブレグジット・デイ。
その前後から金融危機が始まると予測する専門家も居れば、ブレグジットとアメリカが抱える膨大な負債を受けて
金融政策が更に大きく緩和されるとの声も多く、そこで2018年から話題になってきたのが”ベイルイン”。
2008年のファイナンシャル・クライシス(日本で言うリーマン・ショック)の際には、当時のヘンリー・ポルソン財務長官によって
”ベイルアウト(政府による金融機関の救済)”が行われたけれど、政府が救えないほど危機が深刻な場合に行われるのが
”ベイルイン”。これは「株主・債権者等が銀行の損失負担をすること」と説明されているけれど、一般庶民にとっては銀行預金の差し押さえや没収のこと。
その危機感を覚えた預金者が銀行からお金を下そうと殺到することを”バンクラン(Bank Run)”というけれど、
既に中国では小規模なバンクで2018年に起こっていたのがバンクラン。
でも今やお金の管理はインターネット上で行う時代であるため、2013年に起こったキプロスの10日間の預金封鎖の直後も
銀行に行列する人は意外に少なかったことが伝えられ、バンクランで長時間の行列が出来るのはもはや過去の話。
キプロスでは預金封鎖が起こってからというもの、銀行に預けたお金が自分の自由にならないことを実感した人々が
ビットコインに乗り換えたのは周知の事実。
そのビットコインの世界では、 1月3日のジェネシスブロック・デイ(ビットコインのブロックチェーンの最初のブロックが生まれた記念日)に
行われたのがプライベート・キーズ・デイのイベント。
これは自分の所有するビットコインが本当に取引所にあって、何時でも自分が引き出せるかをチェックするために
ビットコインのホドラー(ホルダー=所有者のクリプト用語)達が この日に一気にビットコインを取引所から自分のコールド・ウォレット(プライベート・ウォレット)に
移すというイベント。今や銀行が預金と資産の10倍を運用する時代であるだけに、
クリプトカレンシー(暗号通貨)の取引所がそれを行っていないかをチェックする目的もあったのがこの初の試みで、
言わば”バンクラン”をクリプトカレンシーで行ったのがこのイベント。今後も毎年ジェネシスブロック・デイに
同様の試みが行われることになっているのだった。
2018年のクリプトカレンシーは、2017年12月の2万ドルの最高値から打って変わってベア・マーケットであったため、
「ビットコインは直ぐに消えて無くなる」と唱えていた経済評論家を大喜びさせていたけれど、舞台裏ではクリプトカレンシーが
世の中に広まるエコシステムが着実に整っていたのが2018年。
2019年前半には NY証券取引所のオーナーであるICEが クリプトカレンシーの取引所、
”Bakkd(バックド)”を設立することになっており、このプロジェクトにはスターバックス、マイクロソフト社が加担しているけれど、
それ以外にナスダックもクリプトカレンシーの取引を2019年にスタートすることになっているのだった。
これに備えて2018年には 大手機関投資家がクリプトカレンシーを買い込んでおり、
その買い占めが行われていたのはもっぱらOTC(オーバー・ザ・カウンター)。OTCは大口の買い入れが行われる際に
自分の購入のせいで価格が上がるのを防ぐために利用されるシステムで、クリプトカレンシーの世界は
未だOTCの取引額が未公開。 例えば2018年の6月に誰もが知る大手銀行が 2億ドル分のビットコインを
OTCで購入したニュースは クリプトカレンシーのコミュニティでは有名なエピソードであるけれど、
そんな大口取引は一切市場価格に影響することはなかったのだった。
その一方で、世界最大手のスマートフォン・メーカー、サムスンが今後開発するギャラクシーに
クリプトカレンシーのコールド・ウォレット機能を搭載する準備を進めているとの噂があると同時に、
オハイオ州は全米に先駆けて2019年からビットコインによる税金の支払い受け付けており、早くもオーバーストック・ドットコムが
「ビットコインで法人税の支払いをする」と発表。
ミレニアル世代以降が銀行のシステムを信頼していないのに加えて、世の中がどんどんキャッシュレスに向かっているだけに
2019年に新たな展開を迎えると見込まれているのがクリプトカレンシーなのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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