Vol.5 Dec. 9 2025
America Loves Costoco!
”私が1991年にコストコに惚れ込んだ理由…”


前回、このコラムでエリート・モデル・エージェンシーについて書いた際、撮影に起用したモデルの名前を思い出そうとして、かつてエディターをしていた業界誌のバックナンバーを探っているうちに、 自分の記事ながら 思わず読みふけってしまったのが、コストコに代表されるウェアハウス・クラブの記事。
ウェアハウス・クラブは一般消費者でもクラブ・メンバーになって 大量買いをすれば、ほぼ卸売り価格で商品が購入出来るので ホールセール(卸売り)・クラブとも呼ばれていて、 アメリカで1980年初頭に誕生して以来 急成長を遂げた業態。 ウェアハウスというネーミング通り、倉庫をそのまま店舗にして、仕入れコストを省くため ティーバックならリプトン、ティッシュペーパーならクリネックスと、誰もが知るブランドのみの品揃え。
私がウェアハウス・クラブの記事を書いた1991年のアメリカは、不況の真っ最中。 そのためディスカウント業態が売り上げを伸ばしており、その特集記事の一環として取り上げたのがウェアハウス・クラブ。 当時の業界1位はウォルマート傘下の ”サムズ”、2位はウェアハウス・クラブのコンセプトを最初にスタートした ”プライス・クラブ”、 後発のコストコは3位であったけれど、その時点で 最も勢いが感じられたのがコストコなのだった。


共同設立者、ジム・シネガルの魅力


当時コストコが他のウェアハウス・クラブよりも優っていたのは、全店舗にベーカリーを含む充実した生鮮食料品コーナーを擁していた点。 業界1位のサムズがウォルマートの資金力に物を言わせて 新規店舗を増やすことで売り上げを伸ばしていたのに対して、コストコは確実に各店舗の売り上げを伸ばしていたのだった。
今では日本を含む世界14カ国に出店し、NYにもロングアイランド・シティやブロンクスにも店舗を構えるコストコであるけれど、 1991年の段階ではコストコだけでなく、ウェアハウス・クラブといえばウエストコーストや南部が中心の出店。 インターネット普及前で、グーグル検索も存在しなかった当時、記事を書くために何をしていたかと言えば、ウエアハウス業界トップ5の本社にプレス・リリースをリクエストして、 情報不足をプレス担当者とのインタビューで補うという地道で、非常に時間が掛かる作業。
最も勢いがあるコストコのプレス・インタビューは不可欠と考えた私は、必死で担当者へのコンタクトを試みたけれど、 何度電話を掛けても不在や会議中が続いて、ようやくアレンジしてもらった電話インタビューの時間は朝の8時半。 指定された通りに電話をしてみると 担当者は会議が長引いているとのこと。約10分後にコールバックがもらえたけれど、 オペレーターに「ジム・シネガルがあなたとお話します」と言われてギョッとしてしまったのだった。 というのもジム・シネガルはコストコの共同設立者であり、当時のCEO。 電話に出て来た彼は「Yoko! こんなに何度も電話してくれるなんて、僕らはもう友達だね」と、 信じられないくらいにエネルギッシュでフレンドリー。 用意しておいた質問にテキパキ答えてくれた彼とは少しだけ世間話をして、インタビューの所要時間は約20分。
ジム・シネガルはウェアハウス・クラブの先駆者であるプライス・クラブのエグゼクティブから独立して パートナーとコストコを設立し、2011年までCEOを務めた人物。現在89歳で、もちろんビリオネア。 今もビジネス・メディアのインタビュー等に頻繁に登場し、頭のキレは健在なのだった。



人道的アプローチのビジネス


コストコは当時から商品のセレクションに定評があり、私が記事を書いた時点ではウェアハウス・クラブの中で初めて自社クレジット・カードを導入するなど、ビジネス戦略でも 他チェーンより一歩先を行っていた存在。 プレス担当者とのインタビューをリクエストしたのに CEOが出て来たことで、当時のコストコには広報部が無かったことに後から気付いたけれど、 更に気付いたのが 私がNY時間の8時半に電話をした時、シアトルに居たジム・シネガルは午前4時半に終わるはずのミーティングをしていたということ。 「あんな人がCEOだったら、この会社は伸びるだろうなぁ」と心から感じた私は、以来コストコで買い物はしなくても、そのビジネスをフォローし続けてきたのだった。

電話で話しただけで ポジティブなエネルギーで魅了してしまうジム・シネガルは、ビジネスにおいても積極的に人道的アプローチをすることで知られてきた人物。 彼のポリシーは今もコストコに脈々と生きていて、現在 コストコ従業員の平均時給は31ドル。 福利厚生も行き届いていることから、従業員の定着率が群を抜いて高く、アメリカとカナダでは1年以上勤務した従業員の定着率は約93%。 現在コストコは全世界で31万6,000人を雇用し、メンバーシップ保有者も全世界で1億3000万人を超えているけれど、ここまで大きくなった今も 業界誌では「Why we love Costoco so much」といった 企業体質や経営姿勢への賞賛記事が頻繁に見られているのだった。
そのコストコは先週、トランプ関税で被った損失の賠償責任を求めて トランプ政権を相手取って訴訟を起こし、大報道になったばかり。 トランプ関税を払わされた多くの企業が、商品価格を値上げして、関税を消費者に負担させているのに対して、 コストコは利益を削って価格を保つ努力をしており、本来なら米国議会が定めるべき関税率を 勝手に定めたトランプ関税が違法と見なされた場合、 コストコに賠償金を受け取る権利があるのは明らか。 同様の訴訟は、レブロンやバイクのKawasakiも起こしているけれど、SNSでアメリカ国民から 猛烈支援のリアクションが溢れたのがコストコで、 同社の人道的ビジネスを熟知している人々にとっては、コストコこそがアメリカを代表する企業。
私がコストコについて1つ残念に思っているのは、何故コストコの将来を確信した段階で同社の株を買わなかったのかということ。 コストコの株価は1985年にナスダックに上場されて以来、1万9000%アップしているのだった。

Yoko Akiyama



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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