Co-ops in NYC Are Time Bomb...
2万5000人のミドルクラス ニューヨーカーが家を失う危機!?
ある日家賃が合法的に450%アップ!? 土地借地物件が抱えるレント時限爆弾

Published on 7/29/2025


ニューヨークで7月半ばから物議を醸しているのがマンハッタン・ミッドタウン、6番街&57丁目のコーナーに位置するカーネギー・ハウスのレントが450%アップするというニュース。
マンハッタンの57丁目と言えば、数年前からビリオネア・ロウと呼ばれ、超高層の超高額コンドミニアムが幾つも建設され、今も再開発が続くエリア。 その一等地に位置するカーネギー・ハウスは、1962年に賃貸住宅として建設され、1978年からCo-op/コープと呼ばれる共同所有物件になった古いビルディング。 コープとは、建物を所有する 法人/協同組合 の株式を購入することで居住権を得る不動産で、購入者は株主であり、建物の共同所有者という位置づけ。
 第二次世界大戦後、住宅需要が急増したニューヨーク市では、新築住宅の建設を困難にしていたのが土地価格の急騰。 そこで当時開発業者が進めたのが、地主から借りた土地にコープ住宅を建設するプラン。 これによって購入者にとっては物件価格が下がるメリットがあり、地主は毎月コープから土地賃貸料を受け取ることが出来るので、 ミドルクラスが住宅オーナーになるハードルが下がり、地主は生涯収入が保証されるということで、当時はWin Winのコンセプトと考えられていたのだった。



大手開発業者やプライベート・エクイティが土地を買収


ところが時代の流れに伴い このモデルの重大な欠陥が露呈してくることになる。
殆どの土地リース契約では、地主が土地価値の変動に基づいて賃料を増額できる条件が設けられており、事前に合意したリース満了時に、 借地料の再交渉を行い、適正な土地価格に見合った賃貸料修正が行えるよう配慮されていたのだった。 通常の土地のリース期間は50年、もしくは99年。しかしその長い年月の間にニューヨーク、特にマンハッタンの地価が「急騰」という言葉でも表現できないほどの値上がりを見せたのは容易に想像できるところ。 そして地価が高騰するにつれて、地主たちは土地所有権、及びリース契約を 大手開発業者やプライベート・エクイティ会社に売却するようになり、 これらの業者はリース更新のタイミングで、遥かに高額な土地賃貸料を請求するようになったのだった。
カーネギーハウスも2014年にその土地が、かつての地主から大手デベロッパーに2億6100万ドルで 買い取られており、デベロッパーが手ぐすね引いて待っていたのが 土地賃貸契約の満期。 それを迎えたのは2025年3月のことで、賃料の大幅値上げを要求したデベロッパーとコープの交渉は当然決裂。 法律に基づいて仲裁手続きが開始された結果、独立仲裁委員会が下したのは、カーネギーハウスの年間土地賃貸料を それまでの436万ドルから 約2400万ドルへ、約600%引き上げる判決。 これは地価高騰に基づいた正当な判断ではあるものの、この値上げが施行されれば 多くの住民が支払い不可能となることから、建物は債務不履行に追い込まれ、住人達は住宅資産、すなわちコープ全体を失う可能性が出て来るのだった。



物件の売却を試みようとしても…


カーネギーハウス・コープ理事会長は、「住民は家賃が上がることは予想していたが、これほど上がるとは思っていなかった」と語り、 値上げが実施された場合、これまで月額で約5000ドルの土地賃貸料を支払っていた世帯は その額が約1万3000ドルに跳ね上がるとのこと。 小さな物件でも月々3700ドルの支払いが9000ドルへの値上げ。
カーネギーハウスの住人は1980年代、1990年代に今より遥かに安価でコープを手に入れた人々が多く、そうした人々は既にリタイアして年金生活。 賃貸料が払えない場合、物件の売却を迫られるけれど、カーネギーハウスは築63年、しかもコープはコンドミニアムより価格が20%前後安いとあって、現在2ベッドルームのアパートが20~30万ドルというのが相場。 しかも銀行は、先行きが分からないカーネギーハウスの物件購入には 住宅ローンを組まなくなっているので、売却は極めて難しい状況。 運良く売れた場合でも、今やアメリカの平均的住宅価格は50万ドル。NYは85万ドルで、新居をNYで購入するのは 手持ちの資産を切り崩さない限りは不可能と言えるのだった。

ニューヨークでは2万5000人以上が カーネギーハウス同様の土地借地建物内のコープ・アパートを所有しており、 殆どのコープが、もうすぐ契約満期を迎えるか、更新期限に達している状況。 土地借地交渉に携わる弁護士は「コープは住宅事情の時限爆弾だ」と語り、コープを所有するニューヨーカーが住宅資産を失う危機を警告しているのだった。



値上げの本当の目的は…


ここで浮上するのは「月々1万ドルの土地賃貸料を払う住人など居るのか?」という疑問。 払える住人が居なければ、地主には賃貸料が入らない訳だけれど、かつての地主から土地を買い取った大手デベロッパーやプライベート・エクイティが狙っているのはまさにその状況。 すなわち土地賃貸料支払不可能により 住人全員を追い出して、全く新しい高層物件を建設すること。
たとえば、再開発ブームにのってカーネギー・ハウスから2ブロック北に建設された ”220セントラル・パーク・サウス” のペントハウスは、2019年に2億4000万ドルで売却され、 コンドミニアムの米国最高額を記録したけれど、この金額は 2014年に大手デベロッパーが支払ったカーネギーハウスの土地代2億6100万ドルとさほど変わらないもの。 要するに新しいラグジュアリー・コンドミニアムを建設すれば、ペントハウス1軒が売れただけでほぼ回収できてしまうのが土地代。 全ユニットが完売すれば、デベロッパーが得るのは巨額の利益。 しかもカーネギーハウスの6番街&57丁目のコーナーという立地は、セントラル・パーク、カーネギー・ホール、アマンNY、バーグドルフグッドマン、ティファニー、ルイ・ヴィトンが徒歩五分圏内で ラグジュアリー・コンドを建てれば売れる文句なしの一等地。
カーネギーハウスほど立地が良くないコープの場合でも、50年以上が経過すればニューヨークの土地代が大幅に上がっているのは当然のこと。 今後コープに暮らすミドルクラス、アッパー・ミドルクラスが、深刻なレント上昇に直面することが見込まれるのだった。


Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行

Q&Adv, Yoko Akiyama, 秋山曜子, キャッチ・オブ・ザ・ウィーク Yoko Akiyama テスラ・ダイナー

★ 書籍出版のお知らせ ★





当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2024.

PAGE TOP