July Week 4 2025
”Japanese First” is Discriminatory?
”日本人ファーストって、外国から見ると差別的なのでしょうか?”


日本は参院選前から「日本人ファースト」という言葉が物議を醸しています。 外国人留学生や難民申請を受けている外国人が授業料や助成金で優遇されているのに、 日本国民は給与が上がらず、物価高でどんどん生活が苦しくなっていて、更なる増税が取り沙汰される中で出て来たスローガンです。 外国人を優遇しすぎる政府にイライラしていた国民にとっては、当然過ぎて賛同しかないスローガンですが、「トランプ大統領のアメリカ・ファーストは国益を考えての主張だけれど、 日本人ファーストと言うと、外国人への差別だ」と反対する人もいます。
「日本人の国際的なイメージが悪くなるのでは?」という人もいて、先日、夏休みを利用して日本にやって来た友達のアメリカ人の夫は、 「日本人はフレンドリーだし礼儀正しいから、差別的な国民性だとは思わないけれど、ポリシーとして掲げられたら ちょっと排他的な印象はあるかも」と控えめにそれに賛同していました。 実際のところ、「日本人ファースト」ってアメリカとかからはどんな風に見られるのでしょうか。 散々国の制度を利用されている日本人が「日本人ファースト」を掲げるのって、やはりネガティブな印象を与えるのでしょうか。 秋山さんのご意見を伺いたくてメールしてしまいました。
お答え難いかもしれませんが、よろしくお願いします。

ー M ー


スローガンは文字面より背景 


Mさんのご質問、タイムリーな話題のようなので先に取り上げさせて頂くことにしました。
私もMさん同様、今の日本は外国人を優遇し過ぎているように感じますので、「日本人ファースト」というスローガンが出て来るのは 自然なことと思って見ています。 ですがその背景を知らない諸外国の人々が スローガンを排他的、差別的に感じたとしても不思議ではないと思います。

このご質問で私が思い出したのが、2020年、ジョージ・フロイトが警官に9分間首を押さえつけられて死去してから「Black Lives Matter」の運動が大きな盛り上がりを見せた時の事でした。 アメリカでは何年も前から警官による黒人層への過剰暴力や、過剰な取り締まりが問題視される中で起こったのがジョージ・フロイトの事件で、 「Black Lives Matter」のムーブメントは起こるべくして起こったものでしたが、そのカウンター・ムーブメントとして共和党キリスト教極右派が 盛り上げたのが「All Lives Matter / オール・ライブス・マター」でした。
当時このコーナーに、「黒人に対する警察暴力に抗議するBlack Lives Matterのデモは理解できますが、私は日本人としてアメリカ住んでいて、 コロナウィルスの問題でアジア人が暴力を受けていることもあり、All Lives Matterの運動を支持しようと思ったのですが、 友達にレイシストだと言われました。どうして”全ての人種の命が大切だ”というと人種差別になるのか意味が分かりません」 というご質問を頂きました。 実際に当時は 「All Lives Matter」を正しいスローガンだと思って発言した セレブリティやヒラリー・クリントンらが「Tone deaf(世情音痴)」としてバッシングを受けていました。
「All Lives Matter」というのは誰もが持ち合わせているべき常識で、言わば当たり前のことです。 にも関わらず黒人層をその例外として、時にその人権を否定するかのような過剰暴力を行使することに抗議し、公平な扱い、人権の尊重を求めたのが「Black Lives Matter」のムーブメントです。 ですがそれが 保守右派、白人至上主義団体によって 「黒人層が特別な扱いを望んでいる」という主張に捻じ曲げられ、 「黒人層だけでなくすべての命が平等に大切」という大義名分のスローガンとして掲げられたのが「All Lives Matter」でした。 「All Lives Matter」の背景にあるのは、 「Black Lives Matter」のムーブメントを食い止めることによる現状維持、すなわち従来通りに警察が黒人層を中心としたマイノリティを厳しく取り締まり、 白人優位の社会を保つ思想です。 その意図が明白であることから、「All Lives Matter」が人種差別のスローガンと見なされたのが当時でした。 そんな事情に疎い人々のために、「All Lives Can't Matter Until Black Lives Matter (黒人の命が重んじられるまで、全ての命が重んじられることはない)」 という説明的なスローガンも登場していました。

要するにその土地、国々で人々がムーブメントを起こすようなスローガンが登場するには、それに至るまでのバックストーリーがあるのです。 スローガンというものが短く、端的だからこそ浸透するという性質を考えれば、それを文字面だけで判断するべきではありませんし、 発信した側が意図していないことで それを責めるのは間違いです。 文字面で捉えての反発はカウンター勢力の言い分であって、正義や正論ではないのです。

今になって人々が理解し始めた Make America Great Again の意味

その意味で トランプ大統領が2016年の大統領選挙の際に掲げた「Make America Great Again」は、アメリカだけでなく、 世界の政治史上最も巧みにデザインされた 人種差別スローガンであることを ほぼ10年が経過した今、アメリカ国民がようやく悟り始めています。 トランプ氏がこれを語り始めた当初、民主党側は「何時アメリカがGreatじゃなくなった? アメリカは今もGreatだ」と反発していましたが、 これは全くお門違いの反論でした。
「Make America Great Again」は、南部中西部のレッドステーツの 真っ当な給与の仕事や学歴がない貧困層に対し、親の世代と同じように誰もが結婚し、世帯を持って、普通の暮らしをして、女性は子供を産んで、 移民が少なく、有色人種は自分達以下、ホモセクシャルもレズビアンも表向きには存在しない1950~1960年代のアメリカへの回帰、すなわち白人男性至上主義への回帰を謳ったものでした。 そのことはアメリカの過去65年間を振り返って女性、マイノリティ人種、LGBTQにとっては、現在が最も差別が少なく、経済的自由や人権が保障されている反面、 白人男性にとっては かつて認められていた権限、権力を譲歩し続けた65年間であったことからも理解できるかと思います。
このスローガンは 「アメリカの国内製造業復活」、「古き良きアメリカの復活」という隠れ蓑を纏ったまま、人工妊娠中絶違憲化、高等教育の弾圧、DEI(多様性、平等性、包括性)プログラム撤廃という形で、 キリスト教右派が理想とする世界観にアメリカを大きく引き戻しました。 これだけのステップバックを21世紀のアメリカという大国でやってのけるのは スゴイことですが、 見方を替えれば、日常生活の中で何気なく聞き流しているスローガンには 国を動かすパワーがあるということです。

最後に余談ですが、私が少し前にミッドタウンのオフィスビルのエレベーターに乗った時のこと。 白い文字が2行刺繍された真っ赤なベースボール・キャップを被った年配男性が乗っていたので、思わずその文字を凝視してしまったのですが、 これは私だけでなく、後から乗って来た人も皆同じリアクションでした。やがて そのうちの1人が「MAGAハットかと思った」と呟いた途端に エレベーターの中の全員が「私も!」、「よくもまぁNYのど真ん中でこんなのを被る奴が居るもんだと思ったら、違っていてホッとした」などと口々に言い始め、 帽子を被っていた当人も 「やっぱり皆そう思った? よく間違えられるんだよ」と、その場の全員で和んでしまい、最後には 「ニューヨーカーは皆 まともだって分かっているから こんな風に話せるけど、これがアラバマとかノースキャロライナだったら…」という意見に全員が賛同してエレベーターを降りました。
ブルー・ステーツにも、何か有効なカウンター・スローガンが必要であることを痛感したエピソードでした。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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