Honor Killing, Intimate Violence Against Women
21世紀の今も起こる、イスラム教の ”名誉殺人”
そのあり得ない実態と、米国でも罪が問えない理由とは?

Published on 8/7/2025


2024年10月に 全米にショックを与えたのが、見合い結婚を拒否した17歳の娘をイスラム教の両親が殺害しようとしたニュース。
このニュースは、一見ハイスクールの学生数人が1人に殴り掛かるという、暴力的な虐めのシーンを思わせるビデオと共に報じられたけれど、 実際には正しい行いをしていたのは 殴り掛かっていた学生達。 彼等は娘のクラスメートたちで、殴りつけていたのは娘の首を絞めていた父親。必死に父親を彼女から引き離そうとしていたのだった。
この事件がきっかけでアメリカを驚かせたのが、イスラム教の世界では 「家族の名誉を守る」ための ”名誉殺人” が今も当たり前のように行われているということなのだった。



放課後に待ち伏せた両親による殺人未遂


この事件で、逮捕されたのはイーフサン・アリ(44歳)と妻のザフラ・アリ。 2人は17歳でアメリカ育ちの娘、ファティマ・アリがアメリカ人男性と交際し、 自分達がアレンジした見合い結婚を拒否したことを「家族の恥辱」と見なしていたとのこと。
事件前夜、ファティマは自分の名前で予約されたイラク行きの片道航空券を偶然見つけ、 「イラクに連れていかれたら、無理やり結婚させられて、二度とアメリカには戻れない」と悟って、 母親の財布から100ドル札を盗み、最小限の荷物と共に家を出たとのこと。
それに気づいた両親は、放課後に学校傍のバス停付近で娘を待ち伏せ、襲い掛かって首を絞めており、ファティマが気を失ってからも 父親が20秒以上首を絞め続けた様子は現場を捉えたビデオにも捉えられていたのだった。
やがてそれに気付いたファティマのボーイフレンドを含むクラスメート達が、父親に殴り掛かってそれを阻止し、 通報で駆け付けた警察が両親を逮捕。 母親は娘の首を絞める夫を傍観していたという。



宗教的偏見が排除された、あまりに軽い処罰


ファティマは事件直後の警察の取り調べに対して、「見合い結婚を拒否し、非イスラム教徒の少年と交際したことを理由に、父親からは何度も殺すと脅されていた」と証言。 母親については、「多分自分を守るためにその場にいたのだろう」と語ったとのこと。
裁判で検察側は、父親による殺人未遂が、「家族の名誉を回復するための文化的動機に基づく計画的な行為であった」と主張したものの、 判事は、陪審員が不当な宗教的偏見を持つことを避けるために 「名誉殺人」という言葉を法廷で使うことを禁じただけでなく、何故か 見合い結婚、名誉殺人の脅迫、あるいは家族による虐待歴について議論することさえ禁じたという。 そのため検察側は、父親の殺害動機を裏付けることが極めて困難になり、「父親は、娘とボーイフレンドとの交際に反対し、逆上していたものの、 事件を捉えたビデオは 父親がファティマをクラスメートの暴力から救うために抱きしめていただけ。首を絞めていた訳ではない」という弁護側の主張を覆すことが出来なくなり、 娘が首を絞められる様子を容認していた母親についても、事件直後に混乱していたファティマの証言を利用し、 「娘を助けるために居合わせた」と主張。 検察側は目撃証言と現場ビデオで必死の反論を試みたものの、動機が示せない弱い主張に終始。
その結果、2025年8月初旬に下された母親への判決は、裁判所命令違反の有罪判ではあったものの、殺人未遂、暴行、不法監禁といったより重罪では全て無罪で、 判決後に直ぐ釈放。 父親のイーフサンは、暴行罪で最長14ヶ月、不法監禁罪でさらに12ヶ月の懲役刑に処せられる可能性があるとは言え、 刑期が短縮される見込みで、本来の殺人未遂より遥かに軽い刑罰に留まるのは確実。 ファティマは裁判では証言したものの、その後一切事件については公の場で発言しておらず、両親とは離れて暮らす保証は得たとは言え、 イスラム教の「名誉殺人」は、親等の当事者だけでなく、宗教コミュニティが中心に行われることも珍しくないことから、決して身の安全が確保された訳ではないのだった。



女性を男性の所有物と見なす根深い思考…


ファティマの両親に対する判決の2週間ほど前の2025年7月にはパキスタンで、自ら選んだ男性と結婚した18歳のシドラ・ビビが、地元長老会の指示で殺害されており、 シドラの父親、シドラの元夫を含む9人が逮捕。 パキスタンでは「家族の名誉を汚した」、「長老の命に背いた」という理由で、女性を殺害する「名誉殺人」が、 今も当たり前のように行われるだけでなく、その罪が問われるのは極めて稀なこと。
シドラは殺害された後、親族が遺体を埋めて痕跡隠しを行っており、検死結果によれば 殺害前に拷問を受けてから、枕を顔に押し当てられて窒息死に至ったとのこと。
この事件は、パキスタン国内だけでなく、海外メディアも報じるニュースになっており、パキスタンの独立系人権委員会の調べでは、 2023年には「名誉殺人」で226人の女性が、2024年には405人の女性が殺害されたというものの、 この類の事件は報告されない方が多いことから、実際の件数はそれより遥かに多いとのこと。 殺害にまで及ばなくても、女性蔑視に基づく暴力、性的虐待はパキスタン国内で2024年に3万2000件が報告されているのだった。
2025年1月には、米国生まれの15歳の娘がTikTokへの動画投稿を止めなかったことから父親に殺害され、 2025年5月には、若いカップルが家族の承認を得ずに結婚したために射殺されているけれど、その射殺を収めた動画がオンラインで共有されたのがきっかけで、 捜査が行われた結果、13人の容疑者が逮捕されているのだった。
こうした「名誉殺人」はインド、パキスタン、イラク等のイスラム教徒の間では、ごく普通のことで、その根底にあるのは女性を男性の所有物と見なす根深い思考。 「家族の名誉」という大義名分を掲げた殺人や暴力には、家族以外の男性友人達が加わっているケースが非常に多く、 知り合いの誰かが「女性にフラれた」、「女性が生意気な態度を取った」と 見なせば、複数の男性がその女性に対する暴力、性的虐待、最悪の場合殺害に加担し、その罪に問われない、罪の意識さえ抱かない状況がまかり通っているのだった。


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