ドナテラ辞任、プラダに売却!? ヴェルサーチはどうなる?
Published on 3/20/2025

3月13日に発表されたのが1997年に兄、ジャンニ・ヴェルサーチ亡き後からブランドを引き継ぎ、最高クリエイティブ責任者としてブランドを支えて来たドナテラ・ヴェルサーチ(69歳)がポジションを退くニュース。
1978年にミラノでブランドを立ち上げたジャンニ・ヴェルサーチは、1997年7月15日にマイアミ邸を出たところで、彼にかつて冷たくあしらわれた男娼、アンドリュー・クナナンの銃弾に倒れ、
その数週間後、8月31日に死去したダイアナ妃と共に、世界に衝撃を与えた存在。
90年代のファッション界を盛り上げたスーパーモデル・ブームに乗って、錚々たる顔ぶれのモデル達に
カラフル、ゴージャス、シャープで、個性的なボディコン・ファッションを纏わせたヴェルサーチのランウェイ・ショーや広告は、
当時カルチャー現象を巻き起こし、ヴェルサーチの独得の世界観とスタイルを世の中に知らせしめたのは周知の事実。
そのジャンニからブランドを引き継いだドナテラは、彼の右腕として活躍し、ヴェルサーチ・ジーンズやヴェルサスといったセカンダリー・ラインを自ら手掛けていたとあって、
ジャンニのテイストを忠実に受け継ぎ、近年ではそのコレクションでジャンニ時代のデザインの復刻版を展開していたのだった。

生き残りのための売却で掛かった圧力

長きに渡って家族経営を続けたヴェルサーチであるものの、ラグジュアリー・ブランドがどんどんLVMHやグッチを傘下に収めるカーリング社の傘下に入り、
経営が統合化される波を受けて、2018年に18億ユーロ(19億ドル)で応じたのがカプリ・ホールディングスによる買収。ヴェルサーチ家は売却額のうち、1億5000万ユーロをカプリ株で受け取ったのだった。
カプリ・ホールディングスはマイケル・コースを世界的ブランドに育て上げたアメリカの実業家のジョン・アイドルが経営する企業で、彼が抱いていたのは LVMHやカーリング社のような
ファッション・コングロマリットを築く野望。同社は他にもジミー・チューを傘下に収めているのだった。
彼がヴェルサーチを買収したのは、当時ブランドの知名度の割に売り上げが落ち込んでいたためで、
クリエイティブ面のテコ入れで売り上げが2倍以上に伸ばせると投資家に語っていたのだった。
ジョン・アイドルは、ヴェエルサーチのスタイルが個性的過ぎて、あえて市場を狭めているとして、
よりトーンダウンした、マーケッタビリティのある高額ファッションへの以降をドナテラに迫り続け、
ヴェルサーチのトレードマークであるメドゥーサをフィーチャーしたメダル・デザインのロゴを、ルイヴィトンの「LV」、マイケル・コースの「MK」のような
モノグラムにするよう提案するなど、ドナテラとは衝突を続けており、
ミラノのヴェルサーチのアトリエでは、ジョン・アイドルのことを、垢抜けないアメリカン・テイストを押し付ける
「カウボーイ・オーナー」と呼んで軽蔑していたという。
セレブ相手の高額ビジネス

売り上げが芳しくないものの、ヴェルサーチのネーム・ヴァリューが一向に衰えない最大の理由は、セレブリティにレッドカーペット・ファッションを提供したり、
セレブリティを広告やランウェイにキャストし、メディアンお注目を集め続けたためで、特に毎年5月にメトロポリタン美術館で行われるVOGUE誌協賛のMETガラでは、
高額ドレスをセレブリティに提供し続けているのは周知の事実。特に2000年のグラミー賞でジェニファー・ロペスが着用したグリーンのドレスは、グーグルのイメージ検索が誕生するきっかけを作ったセンセーションで、
2019年には復刻版を着用したジェニファーがランウェイ・ショーのトリを飾っており、ウィキペディアのページが存在する数少ないドレス。その2年前、2017年にはナオミ・キャンベル、クラウディア・シファー、シンディ・クロフォード、
カーラ・ブルーに―、ヘレーナ・クリステンセンの5人のスーパーモデルをショーのエンディングに登場させるなど、
話題提供のツボを押さえた戦略が光っていたのがヴェルサーチ。
しかしそのコストは膨大。
その一方でセレブリティ以外でヴェルサーチを着用するのは、成金男性インフルエンサー&娼婦紛いのイメージで売る女性インフルエンサー、
垢抜けないけれどお金だけはあるスポーツ選手というイメージが定着。決してセールスに繋がるマーケティングではなく、
しかも時代は、”クワイエット・ラグジュアリー”時代を迎えたことで、ヴェルサーチのようなブランドや派手さをひけらかすファッションは、更に苦戦を強いられることになったのだった。
新デザイナーとプラダによる買収の噂

2024年春に大きく報じられたのが、コーチ、スチュワート・ワイズマン、ケイト・スペードを傘下に収めるタペストリー社がカプリ・ホールディングスを吸収合併するニュース。
タペストリー社は、ジェネレーションZの間でコーチが大きく売り上げを伸ばしたことから、業績が好調。一方のカプリ・ホールディングスは、
メイン・ビジネスのマイケル・コースを含め傘下ブランドが売り上げを落としていた状況。
しかしこの買収が「競争が無くなることで、消費者の利益を損ねる」と裁判所によってブロックされ、タペストリーが吸収合併から手を引いたところ、
投資家はこれを好感してタペストリーの株価は上昇。
逆に「ビジネスのお荷物」と見なされたカプリ・ホールディングスは貧乏くじを引いた形になり、それによって勢いがついたのがヴェルサーチのビジネス・テコ入れ。
ドナテラは、事実上その企業圧力に押されて、カプリ・ホールディングスのブランド・アンバサダーというポジションに退いたけれど、
4月1日から後任デザイナーに就任するのは、プラダ・グループ傘下のミュウ・ミュウのデザイン・ディレクターを務めていたダリオ・ヴィターレ。
ちなみに、ラグジュアリー・ブランドが売り上げを落とす中、エルメスと並んでプラダは売り上げを維持しており、
中でもミュウ・ミュウは”独り勝ち”と言える売り上げの伸びを見せたブランド。
しかも若い世代によって売り上げを伸ばしているだけに、理想的なビジネスで、
そこから引き抜いたダリオ・ヴィターレは言うまでも無くヴェルサーチとは全く異なるテイスト(写真上右側4枚)。
通常なら首を傾げる人選ながらも、これが意味を成しているのは、現在カプリ・ホールディングスはヴェルサーチ売却を望んでおり、
その買い手としてプラダが名乗りを挙げていること。しかもプラダは、カプリ・ホールディングス傘下で売り上げ激減が著しい
ジミー・チューにまで興味を示してくれている有難いバイヤー。
この2ブランドを売却すれば、カプリ・ホールディングスは経営が好転するとあって、是が非でもプラダに買い取って欲しいのが現時点。
ファッション業界でも、ヴェルサーチがプラダ傘下でどんなブランドに生まれ変わったとしても、
売り上げ重視のアメリカ人経営者に仕切られるよりも、同じイタリアのプラダの経営下に置かれる方が良いだろうという声が多く聞かれているのだった。


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