今週のアメリカは、10月1日から突入した政府のシャットダウンのニュースが大きく報じられていたけれど、アメリカ政府が予算失効で閉鎖になったのは第一期トランプ政権下の2018年以来のこと。
これによって自由の女神があるリバティ・アイランドを含む国立公園や連邦施設が全てクローズし、約75万人の連邦職員が一時帰休となり、1日あたり約4億ドルの費用がかかる一方で、約200万人の政府職員の給与、年金や貧困層へのフードスタンプの支給、高齢者医療保険、低所得者医療保険の支払いもストップ。政府関連のお金の動きがストップしたけれど、無給でも働かなければならないのが 空港管理局職員や航空管制官で、前回のシャットダウンの際には、病欠が相次いだことが伝えられていたのだった。
長引けば、上場申請をする企業は遅延する可能性があり、労働統計局は最新の雇用統計を含むデータの収集と公表を行わないと発表していたのだった。
今週からメジャーリーグ・ベースボールは、ワールドシリーズ出場を賭けたポストシーズンに突入。そしてドジャースの大谷選手が、
3年連続でユニフォーム売り上げ1位を記録したことが報じられたけれど、これはデレク・ジーター、アーロン・ジャッジ、ムーキー・ベッツに次いで史上4人目の快挙。
アメリカでは、大谷選手の地名度がドジャース入団によって格段にアップしたので、エンジェルス時代の大谷選手のジャージー(英語ではユニフォームではなく、ジャージー)がそんなに売れていたことに驚くリアクションもあったのだった。
アメリカの視点では、大谷選手の存在感は、MLBがダラダラした試合時間を短縮するピッチクロック導入やベースのサイズ拡大で盗塁を増やす等の、
ルール改正によって試合視聴率、観客動員数を巻き返してきたタイミングとシンクロして盛り上がってきたきた印象で、特に暫し野球離れしていたファンの再獲得、
「野球なんてベビーブーマー世代のスポーツ」と思いこんでいた若い世代のファン獲得にも一役買ったベースボール復活の立役者。
人々が大谷選手に関心を寄せるきっかけは、言うまでもなく リトルリーグでしか実現しない二刀流をMLBでやってのけることだけれど、
実際にプレーやマナー、それらから感じられる人柄を見て、対戦チームのファンさえもが大谷選手に惚れ込んでしまうのは日本で大きく報じられている通り。
先シーズンも、今シーズンも、「ドジャースみたいな金持ち球団は鼻持ちならないけれど、大谷は応援する」という他球団ファンを増やし続けた結果、
今やアメリカの野球ファンの誰もが認めるのが、大谷選手がMLB史上最高のプレーヤー、もしくは歴代のその肩書に匹敵する存在であること、そして彼が野球だけに集中し、野球をこよなく愛すプレーヤーだということ。
大谷選手の打席やピッチングに注がれる注目度、エキサイトメントは投打共にスターラインナップのドジャースの中でも群を抜いているけれど、
同時に大谷選手がフィールドで見せるのが対戦チームのファンのサインにも応じ、対戦チームのプレーヤーや監督、審判、ボールボーイに対しても気遣う姿。
それを偽善やポーズではなく、いとも自然に行って、人々を魅了してしまう様子に アメリカ人が感じ始めているのが、
今の分断されたアメリカとは正反対の”ユニティ”、すなわち融合をもたらすパワー。
それは対戦相手への ”レスペクト”で、それこそが今のアメリカ政治に最も欠けていることは、今週の政府閉鎖で国民が痛感しているのだった。
そんな大谷選手のキャラクターにアメリカ人が見出すのは ”球界のスーパースター” よりも、”ロールモデル”、すなわち人生のお手本、目標として仰ぐ存在。
アメリカでは、ジョー・モンタナ、マイケル・ジョーダン等、過去にもスポーツ界のスーパースターがロールモデルとして敬愛された歴史があるけれど、
SNSが世の中に出現してからというもの、スポーツ界に限らず、様々な分野のヒーロー的存在が、失言で炎上したり、エゴを剥き出しにしたり、成金的私生活を見せびらかすなど、
人間性の稚拙さを露呈した結果、「強く、ピュア、誠実で、ユーモアのセンスがあり、その存在自体が子供達に夢や希望や正義、そして平和の大切さを示してくれるロールモデル」が存在していなかったのがアメリカ。
かつては大統領をロールモデルに挙げる国民が多かったアメリカであるけれど、今ではその大統領がアメリカの分裂、虚偽、身勝手の象徴となっている訳で、
そんな今のアメリカで日本人である大谷選手が、支持政党や思想とは無関係に 誰もが認める真のロールモデルのレベルに達しつつあるのだった。
1990年代以降、アメリカ最大のプロスポーツと言えば文句無しにNFL。今もその地位は不動であるけれど、近年最も政治色が強く反映されてきたのがNFL。
今年のスーパーボウルは、トランプ氏が歴代大統領として初めて試合を観戦。チャーリー・カーク暗殺直後には、複数のスタジアムで試合前に黙祷が捧げられ、それを拒んだチームが
MAGA勢力から批判され、アメリカ国民の半分を占める民主党リベラル派、及び単にスポーツだけを楽しみたいファンをウンザリさせることが多いのがNFL。
また先週末には、ゴルフの欧米対決、ライダース・カップがNY郊外で開催されたけれど、そこにも米国大統領として初めて姿を見せたトランプ氏の支持者がギャラリーとして押し寄せた結果、
欧州チーム、特にロリー・マキロイに対して、彼の妻に関するゴシップをネタに口汚い野次が集中。参加プレーヤーを呆れさせ、一般メディアも大報道する醜態となっていたのだった。
アメリカでは、トランプ氏の影響でゴルフがMAGAスポーツになって以来、ゴルファーの民度が低下したと言われて久しく、
勝利を収めた欧州チームは 試合後のセレブレーションで "Are you watching, Donald Trump?" というチャンティングを繰り広げてSNSに投稿。トランプ氏に当てつけていたのだった。
トランプ氏は9月のテニスのUSオープンの男子決勝にも大統領として初めて姿を見せ、観客のブーイングに報道規制が通達されたけれど、
今のアメリカはスポーツに政治やカルチャー・インフルーエンス、スポーツとは無関係な感情が入り込んで、観客間の喧嘩や小競り合いも頻発。
スポーツが敵を負かして、優越感を味わったり、憂さ晴らしをするためのイベントになりかけていたのだった。
そんな中で、大谷選手が出場する試合は、純粋にスポーツのエキサイトメントや野球本来の魅力が楽しめるとあって、親の世代に取っては、
自分の子供時代に親と一緒に野球観戦をした経験を思い起こさせると同時に、自分の子供を連れて行きたいイベント。実際アメリカでは
スポーツチームのファンダムは、親から子に受け継がれるケースが非常に多く、スポーツチームに関する家訓があるファミリーも少なくないほど。
そんなアメリカで、多くのスポーツファンが 「今一番エキサイティングなのはベースボール、特に大谷のプレー」とまで言い始めたのが現在なのだった。
大統領就任以来、メジャーなスポーツ・イベントにことごとく登場するトランプ氏なので、今年のワールドシリーズにも姿を見せるかは定かではないけれど、
今週報道され、多くの人々が耳を疑ったのが、2026年6月にMAGAスポーツの真骨頂と言えるUFC(アルティメット ファイティング チャンピオンシップ)の総合格闘技イベントが、ホワイト ハウスのサウス ローンで開催されるニュース。
トランプ氏はプロレス団体WWEの元CEO、リンダ・マクマホンを教育長官に任命し、自らも頻繁にリングサイドに姿を見せるほどの大の格闘技ファン。MAGA勢力が”歴史的”と歓喜するイベントに出場が見込まれるコナー・マクレガーは、ギャラとして1億円ドルを要求していることが伝えられているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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