今週のアメリカのメディアで大きく時間が割かれていたのがローマ法王死去と、その葬儀関連の報道。
最期を迎える直前にヴァンス副大統領と面会した法王は、トランプ政権の移民政策を批判したと伝えられる中、
今週日本のアメリカ大使館が通達したのが、米国VISA申請者全員に過去5年間で使用したSNSプラットフォームとそのアカウント名の提示を義務付ける新ルール。
俗に言う”裏アカウント”等、提出を怠ったアカウントが後から見つかった場合には、申請が通らないとのことで、審査基準は不明。
その一方で、今週もさらに深まったのがトランプ政権と バーバード大学を含む全米の大学との亀裂。政権側が大学運営改革を進めるため、
100億ドル規模の助成金の打ち切りを進める中、注目されているのが各大学側の独自の資金調達力。
プリンストン大学は3億2000万ドルの債券を発行。ノース・ウェスタン大学は5億ドル、ハーバード大学は7億5000万ドルの債券を調達。イェール大学は数十億ドル規模のプライベート・エクイティ投資売却を進めているとのことで、
アメリカの大学が、単なる教育機関ではなく、スポーツ・プログラムから研究機関に至るまで、複合大企業のように経営されていることを改めて感じさせたけれど、
実際にバスケットボール等、億ドル単位の収益を上げるカレッジ・スポーツ・チームは、今後プロリーグ同様にプライベート・エクイティ・ファンドによる資金投入が見込まれる存在。
トランプ政権の管理体制に立ち向かうハーバード大学は、民主党支持者、及びリベラル派の間でその株が上昇中で、
卒業生の間では母校サポートの意思表示として、ハーバードのスウェットを着用するブームが先週から起こっているのだった。
今週火曜日には、トランプ氏が中国に課した145%の関税が大幅に下がる可能性を示唆した一方で、
利下げを渋る連銀パウウェル議長を解雇しない意志を表明(連邦法では大統領に解雇権限はナシ)。これを好感して株式市場が大きく値を上げたけれど、
トランプ氏がそれを語る数時間前に、大手金融トップとのプライベートな会合でこの内容を明かし、インサイダー取引に繋がる情報漏洩をしたのがスコット・ベッセン財務長官。
4月9日に関税が90日延期され、株価が記録的に上昇した際にも、共和党のMAGA下院議員、マージョリー・テイラー・グリーンが、
アップル、エヌビディア等、その後暴騰した複数の株を2万1000ドル~$31万5000ドル分で買って大儲けしたことで、インサイダー取引疑惑が物議をかもしたばかり。
トランプ関税のどっちつかずのポリシーによって市場が乱高下するのは、トレーダーにとっては大儲けのチャンス。
しかし国内の中小企業にとっては存亡の危機を意味する厳しい状況なのだった。
中国で靴を製造し、アマゾンを含むアメリカ国内で卸売りをする中規模ブランドは、約100万ドル分の商品が中国から出荷予定だったとのことで、
以前それに掛かった関税は約6万ドル。ところが新関税率の影響で今やその額は151万ドル。そのため商品を受け取ることが出来ず、たとえ借金をして受け取っても、
消費者が買い控えをする今、関税を上乗せした価格では商品が売れないのはほぼ確実。多くのメーカーが同様の状態に陥っているため、
既に中国からの輸入コンテナの量は40%以上減少。5月以降は更に減少することから、価格上昇より深刻になるのが商品不足。
やがてパンデミック時と同様に「陳列棚に商品が無い」状況を迎え、その頃には企業による大量解雇が見込まれるのだった。
トランプ関税で打撃を受けているのは農家も同様。中国が先週、アメリカからの25億ドル相当の牛肉輸入契約を破棄したことから、米国の300の食肉業者が失ったのが中国への輸出ライセンス。
この影響が多大なのはテキサス、ネブラスカ、カンサス、オクラホマ、サウス・ダコタといった選挙でトランプ氏が圧勝したレッド・ステーツ。特にダメージが深刻なのは、
不法移民の労働者が去って以来、経営が回らず 倒産が相次ぐネブラスカ州の牛肉業者で、ネブラスカは州ごと倒産の危機に瀕する財政難。
一方の中国は、オーストラリアからの輸入牛肉を40%増やす代替措置により、市場には殆ど影響が出ていないのだった。
アメリカ国内ではその牛肉を含む食材価格がどんどん上がっているけれど、それに拍車を掛けそうなのが このところのドル安傾向。
個人的に驚いたのは、いつも纏め買いしていたコーヒー豆の価格が過去1ヵ月ほどで1.5倍になったこと。食材価格高騰は州ごとにかなり格差があるものの、
NYの高騰ぶりは過去数十年で最大とのこと。
全米規模で言えるのは、アメリカ人が支払うチップの額が減少傾向にあること。今では「チップが必要な店には行かない」、「チップは最小限」が
ニューノーマル。「チップ収入には課税はしない」というトランプ氏の選挙前の公約が果たされる気配が無いことから、この傾向は
収入をチップに頼る業種にも致命的なダメージをもたらす気配。
関税政策への批判が高まった今週、トランプ氏は「既に200カ国と貿易協定を結んだ」と発言しながら、具体的な国名を尋ねられて
「それは明かせない」とお茶を濁す状態。 アメリカの物流の生命線である中国については、
シー・ジン・ピン首席と電話をし、事務レベルの協議が進んでいることを強調。しかし中国政府は「今の関税率を解消するまで、交渉のテーブルにはつかない」という姿勢を貫いており、
「トランプ政権とは一切のコミュニケーションを取っていない」、「勝手に虚偽の発表をしないでほしい」と厳しくやり返されていたのだった。
トランプ政権による厳しい移民政策が、旅行者にも向けられた結果、2024年には観光収入を900億ドル失うと見込まれるのがアメリカ。
特に関税問題に加えて、アメリカの51番目の州になるよう脅しを掛けられたカナダは、国を挙げてアメリカ旅行を減らし、アメリカ製品をボイコット、
アメリカ企業を政府コントラクターから排除する等、多岐に渡る反米運動が起こっている真最中。
今週には、カナダとの国境付近のアメリカの町で、その経済状態が大きく悪化している問題が報じられていたのだった。
カナダは人口の90%がアメリカとの国境から100マイル以内のエリアに住んでおり、ワシントン、ニューヨーク、ミシガンなどカナダと国境をシェアする州は
カナダ人にとって生活圏。このエリアに住むアメリカ人は、カナダとの二重国籍が非常に多く、そのレストラン、小売店、サービス業を支えているのはもっぱらカナダ人。
ところがトランプ政権誕生後の反米運動以降、カナダ人客が殆ど寄り付かなくなり、多くのビジネスがカナダ人常連客から受け取ったのが
「君の店は好きだけれど、もう行けない。See you in 4 years(”4年後=トランプ政権が終わったら会いましょう”という意味)」といった内容のEメール。
そのせいで経営難に陥るビジネスは多く、もし閉店が相次いだ場合は 旅行者を引き寄せるアトラクションが無くなるとあって、町の衰退と過疎化が進むことさえ見込まれるのだった。
カナダ人の反米運動はフロリダ州にも波及しており、それはカナダ人が同州に所有していたセカンド・ホームのコンドミニアムをどんどん売却する事態。
売却の理由は反米感情だけでなく、フロリダ州は毎年ハリケーンの被害が大きいことから、住宅保険が過去2年で2倍に跳ね上がっている状況。
さらには2021年に老朽したマイアミのコンドミニアムが突如崩落(写真上右)して以来、
州法で安全基準評価と、築30年以上のビルへの修理が義務付けられ、その修理代をコンド・オーナーが負担しなければならないのも売却の大きな要因。
フロリダには全米のコンドミニアムの20%が集中しており、そのうちの半数は築30年以上。そしてその多くが安全基準のブラックリストに載っていることから、
購入希望者は、金融機関からのローンが受け難い状況。
そのためパンデミック以降、もてはやされたフロリダのコンドミニアムの価格は、マイアミの一部エリアを除いては、下落が止まらないのが現在。
そんな物件を我先に売却しようというのはカナダ人でなくても考えることなのだった。
一部の熱心なMAGA以外は、これまで極めて友好的だった隣国カナダに対する現在のアメリカの姿勢を批判する傾向は顕著で、そうした人々が指摘するのは
カナダとアメリカが既に感情レベルで拗れてしまったということ。 昨今カナダを旅行したアメリカ人が、行く先々で経験しているのが カナダ市民からの抗議。
「カナダはアメリカのために不必要な戦争(アフガニスタン)まで 一緒に戦ったのに…」といった愚痴に加えて、非常に多いのが「最初のトランプ政権ではトランプに腹を立てていたけれど、
今はトランプを再選したアメリカ人に腹を立てている」という声。
要するに「1度目は仕方ないとして、何故2度も同じ間違いを犯したのか」という怒りやフラストレーションをアメリカ人に抱いており、
「トランプ政権が終わったとしても、アメリカはまた同じことをして 一番の友好国&隣国を裏切る」という意識がすっかり根付いているのだった。
そのため政権が変わったとしても、カナダとの関係は「かつては仲が良かった友人」という、普通の知り合いよりもぎこちない間柄になるとの見解が多く、
「日頃怒らない人を怒らせると怖い」という状況は、個人レベルでも、国民感情でも同じである様子を垣間見せているのだった。
このところ毎週末行われてきたトランプ政権、及びイーロン・マスクに対する抗議デモは、先週の段階で参加者数が100万人を超え、
初めてメインストリート・メディアが報じる規模に到達。
これに対してイーロン・マスクは、抗議活動者達がジョージ・ソロスを始めとする左翼ビリオネアに雇われたフェイクと主張し続けているけれど、
そうは行かない世論調査でも、 昨今支持率を落としているトランプ政権よりも、急速に支持率を悪化させているのがマスク。
今週にはテスラの2025年第1四半期成績が発表され、利益が前年比で71%ダウン、売り上げが前年比20%減という悲惨な数字を受けて、経営危機を意味する”Code Red”というワードが
メディアの見出しに多数登場。これを受けて、イーロン・マスクは5月以降、DOGE(政府効率化省)の仕事を週1~2日に減らすと宣言しているのだった。
マスクは、4月初旬に行われたウィスコンシン州最高裁判所判事の選挙で、2000万ドルの自費を投じたMAGA候補応援で大敗を喫して以来、トランプ政権内でも立場と影響力が低下しており、
今週にはスコット・ベッセン財務長官との壮絶な怒鳴り合いが報じられた一方で、マスクの発言の異常性から 彼の薬物検査を求める声がホワイトハウス関係者から上がっているのが昨今。
ちなみにマスクは子供時代の自閉症、現在もアスペルガー症候群を認め、治療目的でケタミンの使用をオープンにしており、薬物検査は本人も冗談交じりで必要性を訴えているのだった。
さらに今週報じられたのが、DOGEの若いスタッフの不可解な行動。DOGEが政府効率化の大義名分を謳って、各政府機関が管理する国民のセンシティブな個人情報をコピーしては
別サーバーに移しているのは以前から指摘されているけれど、今週内部告発者が証言したのが、DOGEスタッフが例によって政府ファイルに理由もなくアクセスし、全情報をコピーした直後、
DOGEスタッフがクリエイトしたIDとパスワードを使って ロシアのIPアドレスから不審なアクセスがあり、同様に米国民の個人情報を全てダウンロードしていった事実。
告発者がメディアの取材を受けて自宅に戻ると、玄関の扉にはその日に撮影されたと思しき彼の写真と詳細な個人情報が貼り付けあったことも後に報じられているのだった。
それとは別に、どんなに失態を繰り返してもトランプ氏が擁護し続ける、元FOXニュースのキャスター、ピート・へグセス国防長官を、
トランプ氏が初めて怒鳴ったのが先週、米軍が中国を攻撃した場合の戦略レビューの会合を、へグセスがマスクを交えて行ったと報告を受けた際。
これによってトランプ氏の目からも、マスクが中国政府と近過ぎる関係に映っていることが明らかになっているのだった。
ワシントン界隈では、マスクがDOGEに関わる時間を減らす宣言をしたのは、テスラを立て直すためではなく、「政府が持つ国民の詳細情報を既に手に入れたため」と
いう説が聞かれるけれど、トランプ氏の大統領選勝利のために2億7000万ドル以上を投じたマスクは、「まだまだその元を取ったとは思っていない」という声が多いのが現時点。
それでも毎週末、全米各地のテスラ・ディーラーシップ前で行われてきたデモは、確実にマスクを追い詰め、
テスラ業績を悪化させるのに役立ったと言われ、政治家よりもビジネスマンの方が世論の反発に弱い側面を感じさせていたのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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