今週アメリカで大きく報道されたのがハーバード大学が、トランプ政権から突き付けられた「政権意向に沿った大学経営をしない限り、政府助成金を打ち切る」通達を拒否したニュース。
トランプ政権は同様の通達をコロンビア大学等、60の大学に行っており、政権が介入する経営方針は、指導カリキュラム、人事、入学選考基準、研究サブジェクト等、多岐に渡るもの。
しかしアメリカで最も権威が高く、最も経済力を持つハーバードは 22億円の政府助成金差し止めの脅しには動じず、「これはハーバードだけの問題ではなく、
アメリカの高等教育の未来を左右する重大な問題」として訴訟を起こす構え。
現役学生、及びオバマ元大統領を含む卒業生は圧倒的に大学の姿勢を支持しているけれど、トランプ政権はハーバードから税金免除ステータスを剥奪すると更なる脅しをかけているところ。
もし税金免除が剥奪されると、2024年だけで約12億ドルの寄付をキャッシュで集めたバーバードはその所得税を支払うことになり、寄付した側は寄附金の税金控除が得られないとあって
大打撃を受けるのは必至なのだった。
しかし脅しに屈した場合、学内での言論の自由、表現の自由が制限され、今やトランプ政権に絶大な影響力を持つキリスト教右派の科学否定のポリシーに従って、
医療からテクノロジーまで、これまでアメリカがリードしてきた様々な分野の最先端研究がダメージを受けるのは確実視されるところ。
既にハーバード医学部では、がんを含む様々な病気の研究、及び臨床テストに影響が出始めており、同様のことはジョンズ・ホプキンズ大学でも指摘されているのだった。
ところが土曜日になって報じられたのが、トランプ政権が突如、「ハーバードにに対する経営介入のレターは本来送付されるべきでなかったドラフトだった」と立場を翻したニュース。
レターにはトランプ政権から3人の役人が直筆でサインしており、その拒否に対して免税ステータス剥奪を持ち出していたにも関わらず、政権側は
「内容からフェイクだと判断できず、事態を荒立てた責任はハーバード側にある」として、正式な謝罪を要求。
しかしその後、トランプ政権はハーバードが事態を荒立てたことのみにフォーカスして、更に10億ドルの助成金差し止めを打ち出す全面対決姿勢。
メディア、ソーシャル・メディアを混乱させていたのだった。
今週話題となったのが、4月15日火曜日にエルメスがLVMHを抜いて、世界最大のラグジュアリー・ブランドになったニュース。
前日月曜に2025年第1四半期業績を発表したLVMHは、売り上げが予想を下回り、株価が7%下落。時価総額が2441億ユーロとなり、
時価総額2481億ユーロのエルメスに抜かれる結果となったのだった。
ルイ・ヴィトンは、アメリカでの売上が前年比3%減、アジアでは11%下落。しかし唯一好調なのが日本。
深刻なのはファッションとレザー・グッズの売り上げが前年比で5%ダウンしたこと、加えて世の中のアルコール離れを反映して、リカー部門も9%売り上げを落としていたのだった。
他のラグジュアリー・ブランドが苦戦する中、毎年売上アップさせてきたエルメスは、LVMHがルイ・ヴィトン、ディオール、セリーヌ、ドン・ぺリニヨン、タグ・ホイヤーといった複数ブランドで達成している時価総額を、
1ブランドで抜いており、今年からはバーキン、ケリーだけでなく、商品全般が値上げ。しかも人気商品は希少性を保つために生産数を抑えており、にもかかわらず売上が伸びるのは、
顧客達がインテリアやアパレル等、希少性に影響しない在庫を多数買い取らない限りは、バーキンやケリーを買わせてもらえないシステムのお陰。昨今では売れ残りグッズを買い込んでも、順番が回ってこないとも言われるほど。
ところが昨今、中国の生産業者がSNS上で暴露し始めたのが、3万8000ドルのバーキンの生産原価が僅か1400ドルであるという内情。
今やメイド・イン・フランス、メイド・イン・イタリー製品の90%以上が中国で生産され、仕上げだけがラベルの生産国で行われているのは公然の秘密を通り越して、もはや常識。
昨年にはディオールの3000~5000ドルのブックトートの生産原価が65ドルであることが中国の生産工場からバレてしまったけれど、
バーキンの利益率はそれを遥かに上回っており、販売数を制限しても十分儲かる実態が明らかになっているのだった。
中国の生産工場に原価をバラされたのはバーキンだけでなく、グッチの1000ドルのベルトの原価は50ドル、ルル・レモンの100ドルのレギンスの原価は5ドル、一流のコスメティックやフレグランスも原価が5%前後であることが
SNS上で明かされており、何故中国の工場がこんな動きに出たかと言えば、一流ブランドがインフレ率を遥かに上回る値上げで利益をむさぼった結果、
特に過去2年間で、その高額が払えない、払いたくない5000万人がブランド離れを起こし、それが中国の生産業者にダメージを与えていたため。
その上、トランプ関税によって ラグジュアリー・セクターの売り上げが更に低迷すると見込まれることから、いっそ中国から直接世界の消費者に商品を売り込もうという
TEMUやSHIENと同等の動きが始まっているのだった。
既に中国の生産工場にはアフリカからのバイヤーがやって来て5000ユニットのバーキンをオーダーしたとのことで、
もしこれがニューノーマルになった場合、ただでさえ一流ブランドのステータスが失われ、意図的に操作されたれた希少性のからくりを
消費者が理解するようになった現在では、エルメスでさえ安心してはいられない状況。
そもそもエルメスは若い世代へのアピールが弱く、ミレニアル世代は、子育て、もしくは家を買おうとする年齢に差し掛かって、もはやエルメスなど買っていられ状況。
ジェンZはステータスよりもサステイナビリティや社会的正義、実用性を重んじる世代で、その消費パターンはコーチが近年売り上げを大きく盛り返したことにも現れているのだった。
その後に続くジェネレーションαは、お金の使い方が、上のどの世代よりも多様化していて、SNSで煽ろうと、セレブリティが持ち歩こうと、
高いブランド・バッグをこぞってステータス・シンボルと捉える傾向は希薄。
加えてウェイティング・リストに名前を載せて、何年も待たなければバッグが買えない状況は、ジェンαにとって非合理的かつ、
理解できないものになっているのだった。
先週正式に報じられたのが、プラダによるヴェルサーチ買収。ヴェルサーチの親会社で、マイケル・コース等を傘下に収めるカプリ・ホールディングスは、
2018年にヴェルサーチ家から同ブランドを18億3000万ユーロで買収。しかし赤字が続いたことで、30億ユーロでの売却を試みており、
過去数週間はプラダとの独占交渉に入っていたのだった。
3月には ジャンニ・ヴェルサーチの死後、ブランドを支えて来た妹のドナテラがデザイナーを辞任。後釜にプラダ傘下のミュウミュウのデザイナーが就任したことで、
「いよいよプラダによる買収間近?」との憶測が飛び交ったけれど、その段階で報じられた売却価格は当初の半分に近い約16億ドル。
カプリ・ホールディングスは業績不振であったことから、赤字を出してでもヴェルサーチ売却を望んでいたのだった。
ところが4月2日にトランプ氏が 包括的関税措置を発表し、中国に対しては100%超えの税率を提示。
カプリ・ホールディングスは、同社売上の70%を占めるマイケル・コースの生産拠点が中国であることから、株価が3分の1以上下落。
時価総額が15億ドルにまで減少してしまったのだった。
そのタイミングで 「新関税率による先行き不安」を理由に、更に2億ドル以上の値引きを迫ったのがプラダで、
買収を断る訳には行かないカプリから 約13億8000万ドルでヴェルサーチを買い取ることに成功したのだった。
加えて新関税措置の影響で米ドルが弱くなったことも、プラダにとっては有利に働いているようで、
プラダ側は予測より遥かに安価でヴェルサーチを買い取った計算。
とは言っても、ファッション業界では「時代背景を考慮すると、ヴェルサーチの再生は極めて難しい」という声は多く、
昨年、ラグジュアリー・ブランドの中で唯一売上が2倍以上に伸びたミュウミュウのデザイナーの手腕がどう発揮されるかが見守られるところ。
一方のカプリ・ホールディングスは、2017年に13億5000万ドルで買収した売り上げ不振のジミー・チュウについても買い手を探している最中。
この段階で赤字ブランドを売却して キャッシュ・フローを増やし、ビジネスを立て直そうとしているところ。
昨年11月にトランプ氏が大統領に再選された際には、トランプ政権の規制緩和を含むビジネスよりの政策と
それによって潤った富裕層によって、2025年に再び活気を取り戻すと予測されていたのがラグジュアリー市場。
しかしその楽観ムードをすっかりキャンセルしてしまったのが新関税率。
特にアメリカという巨大な市場は、アパレルの97%を輸入に頼っており、その大半は中国とヴェトナムからの輸入。
もし中国とヴェトナムに対する高額課税が継続した場合、リサイクル・ショップ、レンタル・アパレルのビジネスが潤うという予測も聞かれるのだった。
4月14日に行われたのが、アマゾンの宇宙開発会社、ブルー・オリジンによる女性オンリーの宇宙飛行。
メンバーはブルー・オリジン設立者 ジェフ・ベゾスと今年夏にイタリアで結婚する元芸能レポーターのローレン・サンチェス、シンガーのケイティ・ペリー、CBSニュース・キャスターのゲイル・キング、NASAのロケット科学者アイシャ・ボウ、
宇宙飛行士で生物宇宙学研究科学者のアマンダ・グエン、そして映画監督のケリアンヌ・フリンの6人。
彼女らを乗せたカプセルは、再利用可能ロケット、ニューシェパードによって 地上100kmまで打ち上げられ、宇宙への境界線と見なされるわれるカルマン・ラインを越えてから
ロケットから切り離され、その後ゆっくりと地球へと帰還するというもの。その落下プロセスで3~4分間の無重力状態を体験しながら、壮大な景色をが眺められるというのが、僅か11分間の”宇宙への旅”。
しかしいろいろな意味で物議をかもしたのがこの女性オンリーの宇宙旅行で、まず飛行前に公開された6人の写真が 過度にフォトショップされており、当日には6人全員にヘア&メークが付いて、
ローレン・サンチェスがオスカー・デ・ラ・レンタのデザイナー・チームのサポートを得ながらデザインしたというスペース・スーツは、超ボディコン。
ケイティ・ペリーは「宇宙に女性のグラマラスさを運んでいくべき」とコメントしたけれど、その姿勢が逆に女性達からは「茶番」、「みっともない」というバッシングの対象となったのだった。
さらにはこの宇宙飛行が ベゾスとの結婚を控えたタイミングで、ローレン・サンチェスの知名度と評判を高めるパブリシティ・スタントと捉える声は多く、
宇宙開発に真剣に携わり、宇宙飛行の経験が今後に役立つ人材を差し置いて、彼女らが選ばれたことにも不満の声が続出。
そうかと思えば、「地球上には、卵が高くて買えない人達が沢山居るのに、金持の宇宙観光に大金を投じるなんて」など、「今の世の中は宇宙開発どころの騒ぎではない」という声も多数寄せられたのがSNS上。
このネガティブ・リアクションは、6人とってはかなり意外だったようで、さらにSNSで見られたのが、カプセルが地上に落下した際に、彼女らが内側から扉を開ける様子がビデオに捉えられたことから
「本物のスペース・カプセルは外からしか扉が開かないはずだから、この宇宙飛行自体がフェイクだ」という説。
中には「どうして大気圏に突入する際の熱で、カプセルの塗料が剥げないのか?」といった声も聞かれたけれど、
ブルー・オリジンやヴァージン・ギャラクティックが一般人に数千万円で販売する宇宙旅行は、人々が思い描くような宇宙軌道に乗るレベルではなく、カプセルは内側と外側から開閉が可能。
ミッションがフェイクでないこと立証するプロセスで、逆に”宇宙旅行”が さほど大騒ぎするレベルではないことが明らかになったのは 皮肉な展開とも言えるのだった。
今回の飛行は ブルーオリジンがニューシェパード・ロケットを使用した11回目のミッションで、通算31回目の飛行。ブルー・オリジンにとっては初の女性クルーのみによる宇宙飛行ではあるけれど、
世界初の女性のみの宇宙飛行は 今から60年以上前の1963年のこと。当時のソビエト連邦が女性宇宙飛行士 ワレンティナ・テレシコワを単独で宇宙軌道に乗せる飛行を行っているのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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